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123.亡国の無敗戦隊

 接岸を目前にして、マティアスから受け取った携帯端末の音声が途絶えた。

 前もってこの端末には通信限界距離が存在している事を告げられていた為、エルミア達は特に何も言う事は無かった。

 強いてあげるなら、ここまで来れたのなら上陸まで持ってくれれば良かったのに、程度だ。

 桟橋に船に付けるエルミア。

 地図と位置情報的に、この場所がベイシェントである事は間違い無いだろう。


 目の前に在ったのは、人の住まう集落ではなく、廃墟であった。

 無事な建物が一つも無く、積み上がった瓦礫の山が、人の存在を否定している。


「――破壊痕が真新しいな。こりゃ廃墟になってから三日と経ってねえぜ?」


 抉れた地面の側でしゃがみ、神妙な面持ちで呟くグラッツ。

 普段は口の軽い三枚目、といった印象が強い男だが、今はその態度を封印し、一軍人としての在り方を遂行していた。


「それに……死体が、無い?」

「血痕もです。この場にはそもそも人が居なかった、という事なのでしょうか?」

「いや、そんなはずは無い。だったらこの生活痕の説明が付かないだろう」


 奇々怪々、謎の多いベイシェント。

 その状態に首を傾げつつも、一応の仮説を立てるハイネとシズ。

 しかし、その仮説を真っ向から否定するエルミア。


「何かありましたか? エルミアさん」

「少し離れた海岸で、無事なのを見付けて来た」


 この中で一番小さな体格をした、リリスというカード名の少女に尋ねられ、エルミアはその生活痕を提示する。


「干物だ。恐らくここの住人が、保存食として作って、乾燥を待っていたんだろう。誰かがここで生活をしてなければ、こんな代物が有る訳無い」

「確かにそうだな」

「じゃあやっぱり、ここでは誰かが暮らしてたって事?」


 リリスが小首を傾げた。


「つまり、こういう事か。このベイシェントで暮らしていた人達は、何モノかに襲撃され、姿を消した。死体も、血の一滴も流さずに」

「これだけの規模の襲撃ですよ? 負傷も死者も出さないなんて不可能です」


 ハイネが一旦の結論として提示した内容を、即座に否定するシズ。

 この村に残されている廃墟――元居住地は、それなりの数がある。

 精確な家屋数は分からないものの、残されている瓦礫の量から大雑把に推測しても、このベイシェントでは少なくとも100名以上は生活していたと予測される。

 そして当たり前の話だが、どんな人であろうと、突然襲われた時は抵抗位するものだ。

 突き飛ばすのか殴るのか、はたまた武器を手にして反撃するのか、何にしろ、多少は流血を伴う事態になるだろう。

 しかもそれだけの人数が襲われて、誰も殺されず、血を流さず、姿を眩ます?

 そんな事は普通、不可能だ。

 シズが否定するのも無理はない。


「ましてや、見て下さい。家もバラバラにされるような襲撃をされて、死者も負傷者も出てないなんて有り得ないでしょう」

「……人が、突然姿を消した。もしかして、この流れ着いていた船に乗っていた人も、この村に居た人達と同じようにして姿を消した、とか」

「ですが、この船は無傷でした。ここの家屋はここまで見事に粉砕されているのに、何故船は無傷なのでしょう?」


 間違いなく、このベイシェントで何かが起きたのだ。

 だが、何をどうしたらこういう状態になるのかが、サッパリ理解出来ない。

 ああでもないこうでもないと論じるハイネとシズの二人に対し。


「もしかしたら、人が居なくなった後にここが破壊された、とか?」


 逆転の発想をエルミアが提示した。


「ここが襲われて、家屋が破壊され、人が居なくなった。それが同時に進行したのではなくて、人が居なくなった後に、一旦間を置いてから家屋が破壊された……」

「確かにそれなら、死体や血痕が無いのも……いや、それでも駄目だ。結局100人近いであろう人々が一斉に、何の抵抗も出来ずに姿を眩ます事の説明にはならないな」

「そもそもその場合、何で家屋を破壊する必要があったのでしょうか?」

「そこまでは分からないが――」


 不思議な状況、皆が首を傾げている中。


「り、隊長(リーダー)! エルミアさん! こ、こっちに来て下さい!」


 一人会話に参加していなかった、エリーゼが緊迫した声を上げた!


「この瓦礫の下から、人の声が聞こえます!」

「! 生存者か!」



―――――――――――――――――――――――



 六人総がかりで、瓦礫の撤去を行う。

 瓦礫の撤去作業中、何度か声掛けを行うが、やはり掠れてはいるものの、人の声が聞こえており、幻聴ではないようだ。

 やがて床収納の部分が瓦礫の中から姿を現し、その扉を引き起こすと、中から人の姿が現した。


 そこに居たのは、二人の少年少女であった。

 背丈からして、おおよそ10歳かそこらだろう。

 目立った傷こそ無いものの、衰弱しており、このままでは命にも関わる。


 二人に水を与えるエルミア。

 昴の配下であるカード達は、昴が死なぬ限り、事実上不死身と言って良い。

 食事も睡眠も要らず、肉体が朽ち果てても再び蘇る。

 だがそれは、言うなれば昴というセーブポイントがあるからこそ。

 食わず眠らずに活動出来るのは、眠くなったり腹が減った際、そうなる前に巻き戻って(・・・・・)いるだけなのだ。

 記憶をそのまま引き継いで、肉体の情報をその都度リセットしている、と言うべきか。


 しかし、それが出来ない状態では、話は変わって来る。

 肉体を形成し、こうして姿を現している状態では、腹も減るし睡眠も必要になる。

 その為、エルミア達は水や食料を持ち運んでいた。

 先程分け与えた水は、その備蓄の一部である。


「良く頑張ったな、もう大丈夫だぞ」


 腰を下ろし、柔和な笑みを浮かべながら、二人をあやすエルミア。

 このまま二人の心が落ち着くまで、ゆっくりしたい所ではあるが――


 予兆を感じ取り、槍を構えるエルミア。

 それとほぼ同時に、伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)達も武器を構えた。


 小さな地鳴り。

 だがその振動は徐々に近付いており、やがてそれは姿を現した。

 鬱蒼と生い茂る木々を容易く圧し折り、黒い前腕が地面に爪痕を残す。

 それは、トカゲのような体躯をしていた。

 だが大きさはトカゲとは比較にもならず、象すら一口で丸呑みしてしまいそうな口に、鋼の如き光沢を放つ黒い鱗で全身覆われている。

 それは、この世界の人々にとって生きる災害であり、恐怖そのものであった。


「――邪神の欠片か!」


 戦うか。

 そう判断を下そうとしたエルミアだが、自らの足元に在る小さな命の存在へと意識が向いた。

 自分が戦うのは良い、だがこの状況で戦ったら、間違いなくこの子供二人は巻き込まれる。

 相手は、あの邪神の欠片だ。

 子供二人を庇いながら、戦えるような相手ではない。

 逃げるのが、最善か。



「――伏せろ!」



 その男の声を聞き、反射的にエルミアは二人を庇うような体勢で地面に伏せる!


 この場に居るのが、エルミアだけだったなら、逃げる事しか出来なかっただろう。

 だが今の状況、エルミアはそもそも逃げる必要も、戦う必要すら無かったのだ。


「総員! 支援体制!」


 ハイネというリーダーを中心とし、シズ、エリーゼ、グラッツ、リリスの四名が臨機応変に対応する。

 リーダーの命令を受け、待ってましたとばかりに、その効果起動トリガーを引く四人!



「「「「支援砲火(リンクバースト)!!!!」」」」



 ――そこから放たれる攻撃と効果こそが、僅か五名で万軍すら退けると呼ばれるに至った、亡国が生み出した、不戦の最終兵器!

 それこそが、カード達に称された謳い文句、呼び名である伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)

 欠員無し、文句無しの最大火力。


 ハイネの持つ、妙にメカメカしい槍の形状が、音を立てて変化していく。

 伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)達が有する武器は、ただの武器ではない。

 遠近両用、可変式、魔法と科学の両側面から技術の粋を集めて作られた、最先端技術の塊にして、超兵器。

 白と赤の交じり合った閃光が、槍の中で飽和し、周囲へと溢れ始める。


 ハイネの槍が、遠距離攻撃モード――完全に大砲の形へと変化し、その真火(しんか)が今――



「リミットブレイク・エクシードブラスト!!」



 ――放たれた。



 それは、光であった。

 言葉として正確に表すのであらば、真っ直ぐに伸びる、マナによって生み出された、魔法のレーザーとでも言うべき代物。

 そこから放たれた膨大な光と熱量は、周囲全てを白く染め上げていく。

 空が、雲が、大地が、海が。

 更には空をも突き破り、宇宙の闇すら切り裂き、ただの余波にしか過ぎないその閃光で、真っ白になった。

 放ったハイネすら、その発射時の反動を抑え込んだ結果大きく後退し、地面には両足によって削られた二本の線が残った。

 だが、残ったのはそれだけだ。

 ハイネの砲撃、その射線上にあったモノは何も無い。

 塵すら残さず蒸発し、蒸発したモノさえ、空を突き破り、遥か彼方まで消し飛んだからだ。

 もしこれが、空に向けてではなく、大地に向けて放たれていたならば――この世界の反対側まで貫通し、誇張抜きで世界を滅ぼす一撃となっていただろう。

 これだけの大破壊を発生させたにも関わらず――周囲を巻き込まない為に展開した、保護術式は発動しているのだ。

 保護して尚、溢れ出る余波。


 これ程までに桁違い(・・・)という表現がピッタリの破壊力は無いだろう。


「こ、これは……以前見たバエルとやらの魔法も凄まじかったが……それ以上だ……!?」


 先程居たはずの邪神の欠片の気配が、完全に消えた事を確認したエルミア。

 周囲をキョロキョロと見渡した後、この桁違いの破壊をもたらした男へと目を向ける。


「貴方達は一体、どれだけのパワーだと言うのだ……!? 見た目は私と然程変わらない感じなのに……」

「まあ、今はこうして五人全員揃ってるからなぁ……」


 さも何でもない、当然とばかりに頭を掻くハイネ。


隊長(マスター)の話だと、五人揃ってるならパワー192000らしいな」

「じゅうきゅっ……ま、まん……??」


 お口あんぐりのエルミア。

 そして実際に、桁違いなのだ。


 ハイネ自体は、自分フィールドに存在する伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)の数に応じてパワーを上昇する効果を持つ。

 自分自身も効果に含むので、素の数値と併せてハイネのパワーは12000である。

 グランエクバークを訪れる前の昴からすれば、これだけでも十分なハイパワーなのだが、ここまでインフレしたパワー値を出している最大の原因は、ハイネ以外の四名が持つ共通効果にある。



 ――他の伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)のパワーを()にする。



 言ってしまえばそれだけだが、その恐るべき効果をハイネ以外の全員が有している。

 12000×2×2×2×2=?

 この効果による倍々ゲームこそが、圧倒的インフレパワー値になった最大の原因である。

 だが、これだけお手軽に出せる超火力に、デメリットが付随していない訳が無い。

 当然の如く、ゲームバランス調整という名目で、プレイヤーダメージ0(・・・・・・・・・・)という、厳しいデメリットが課せられている。

 これだけの大火力を持っているのに、プレイヤーを直接攻撃してもダメージが入らないのだ。


 だがこのデメリットは、ユニット同士のバトルに影響を及ぼす物ではない。

 プレイヤーは死なないが、ユニットは関係無い。

 先程の邪神の欠片の有するパワーが一体いくつだったのかは不明だが、パワー192000というふざけた数値によって、一方的に圧殺されたのだけは確かだ。

 滅茶苦茶なパワーの数字に目を向けがちだが、この効果の肝はこういう事である。


 このターン、相手へ与えるダメージを放棄。

 代わりに、相手ユニットを絶対に戦闘破壊する。


 要は、攻撃を介するユニット除去効果として見れば良い。

 ここまでインフレしたパワーというのは、最早数字に意味は無いのだ。

 19万が53万になろうが100万になろうが、相手ライフにダメージが入らない以上、どれだけ数値が上がろうと結果は変わらないからだ。


 鎧袖一触。

 邪神の欠片など、恐れるに足らず。


 今、ここに在るは亡国の無敗戦隊、伝説の(レジェンダリー)魔法戦隊(マジックアーミー)なのだから。

ハイネ「私のパワーは192000です。これでフルパワーですが、隊長(マスター)ならもっと上げられると思います」

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