122.お届け物と偵察
ダンタリオン達が家探しならぬ船探しをした結果、無事船内から船舶登録証が発見出来たようだ。
それを確認した所、どうやらこの船はマーリンレナード船籍であり、ベイシェントという場所で使われていた船らしい。
「――あー、これベイシェントの船なんだー」
その地名に反応したのか、一人の女性が姿を現す。
背丈は俺より若干低く、そして女性としては結構長身な部類。
ルビーのような澄んだ赤い瞳に、小麦肌の健康的な美人。
服装は……布地の少な目なアラビア風衣装、と言うべきか。
想像してたジャラジャラとした首飾りの類等も付けておらず、単純に動き易そうな服装ではある。
何か、シャックスの隣に居たら凄く絵に成りそうな感じがする。
「そうらしいですよ。知ってる場所ですか?」
「私の故郷の隣だねー。懐かしいなぁー、子供の頃に良く遊びに連れて行って貰ったよ」
彼女の名は、サンドラという。
ここに建てたカードショップに初期から出入りしている一人であり、何となくだが地頭はかなり良いという印象がある。
ルールを教えればすぐに飲み込み、それ以降ミスする事は無いし、カードの具体的な使い方も一度言われただけで即理解出来ていた。
「所で、店長さんがカードショップ以外に居るのって珍しいね。どうしたの?」
「散歩中です。ずっと座ってると身体が鈍りますからね」
「店長さん、かなりヒョロいもんねー」
ケラケラと笑うサンドラ。
確かに男の中で比較するとヒョロいという自覚はある。
だが別にそこらの女性に負けるとかそういう程では……そんな比較してる時点でもう駄目か。
「そっか、懐かしいなぁ……もう一回位、見に行けないかなぁ……」
「……故郷に帰りたいとか、そういう事ですか?」
「んー、まあ、たまには故郷に帰りたくなる気持ちってあるじゃん? もう十年以上も帰って無いからねー、向こうで暮らしたいって気持ちは全然無いんだけどねー。ここ、滅茶苦茶便利だし快適だしさ」
サンドラと当たり障りのない会話をした後、一度自室へと戻る。
この船が一体どういう経緯でここに流れ着いたのかは未だに謎だが、船に不審な点が多過ぎるので、ロクでもない事情だというのは確かだ。
放置しても厄介な事になりそうな気配もする……これは、ただの勘だが。
なら、この船を元の場所に送り返すついでに、偵察でもしておこうという事で話が纏まった。
ロクな事になりそうに無いのなら、情報を探るなり事前にその芽を摘んでおくなり、出来る事はあるだろう。
偵察には、行きたいと言っていたエルミアと、一人で行かせるのもあれなので、伝説の魔法戦隊を追加で向かわせる事にした。
今の俺は寝床や食料には困って無いし、このメガフロートを近付けてカード達の活動可能範囲に収めてしまえば、そもそも俺が目的地に上陸する必要すらない。
50キロという活動エリアは、そういう事を可能にする距離だ。
俺という弱点を抱えているより、居ない方がカード達も自由に動けるだろうしな。
エルミアを含めて合計で7マナ、俺の自由が利くマナ数が一時的に3になるけど、カード達が戻ってくるのは一瞬で済むのだから、いざという事態には対処出来るし、今までと違って俺の住処を用意するのにマナを使用しなければならないという状況ではないので、まあ何とかなるだろう。
3マナあれば、ダンタリオンだって出て来れるしな。
それに、伝説の魔法戦隊ならば何か障害が出て来た所で、大抵の相手は蹴散らせるだろう。
あいつ等、とにかくアホらしい位の火力馬鹿だから、何かあったとしても、昔みたいに攻撃力不足に悩まされる事は無いしな。
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伝説の魔法戦隊 ハイネ。
伝説の魔法戦隊という、少数精鋭にして最高峰の軍事力を率いる、戦隊長。
そして、美男美女集団の一人。
男女問わず、非常に人気の高いテーマ群であり、カップリング厨が戦争を繰り広げる悲惨な戦場でもある。
取り敢えずあいつ等の頭上にだけは核を落としても許されると思うんだ、うん。
リア充爆発しろ。
……リア充って呼ぶにはバックストーリーちょっと過酷だったわ、スマン。
このハイネという男は、隊長格という設定を表現する為か、部下となるユニットを呼ぶ能力を有している。
この辺りは、同じく長という立場にあるバエルとも共通している所だ。
その為、ハイネもまたバエル同様、俺のマナ数上限を無視して他のユニットを呼び出す事が可能となっている。
そして、ハイネがバエルと違うのは、効果の起動条件である。
バエルは召喚成功時、即座にユニットを呼び出す。
だが、ハイネは1ターンに1度、フィールド上で効果を起動する事によりユニットを呼び出す。
バエルと違い、自らがフィールドを離れずとも、ターンさえ跨げば何度も効果を起動出来るのだ。
それが何を意味するかと言うと――
「こうして実体化した状態で顔を合わせるのは初めてだな。改めて名乗ろう、ハイネだ」
「シズと申します」
「え、エリーゼです……」
「グラッツだ、ヨロシク!」
「リリスだよっ」
時間を経れば複数体、ユニットを展開出来るという事だ。
1ターンが180秒である事が原因なのか、720秒で他の伝説の魔法戦隊の展開が終了していた。
若い男女が計5名、エルミアに対し名乗る。
気さくな青少年、冷静な女性、内向的な少女に、軽い雰囲気の三枚目、更には幼女まで。
そのどれもが毛色の違う、美男美女ばかり。
全員が軍服と思わしき、白を基調にして赤いラインの入った装束に身を包んでおり、五人が皆、形状の異なる武器と思わしき代物を有していた。
凄く絵になるのだが、実体はそのビジュアルに似つかわしくない、超絶脳筋テーマ。
とにかく、火力だけは他の追従を許さない。
俗称、馬火力テーマ。
カードゲームで良くあるよね、そういうテーマ。
『あーあー、テステス。聞こえるか?』
「音声良好です、団長」
操船方法はエルミアがある程度理解しているそうなので、操舵はエルミアに任せ、船はメガフロートを離れベイシェントへ向かう。
その航海に俺は同伴していないが、映像と音声は離れたメガフロートにも届いている。
何でも、マティアスがこの世界に衛星を打ち上げたらしい。
シレッととんでもねえ事してるな、そこまですんのかよ。
これにより、メガフロート及び衛星のどちらかと交信が可能な範囲ならば、電波通信で互いの状況を把握する事が可能になっている。
打ち上げた衛星は"まだ"一機らしいので、流石にこの星の裏側まで通信可能、という訳には行かないようだが。
……まだ?
『電波が届く範囲まではこのままにしておいてくれ。一応、何処まで送受信可能なのかのチェックも兼ねてるらしいからな』
「了解しました」
どうやら映像から確認出来る情報的に、マティアスが作った通信端末はシズが保持しているようだ。
海路は特に問題も発生せず、順調に進んでいる。
何か水棲の魔物とかが出て来ても、伝説の魔法戦隊なら大抵は撃退出来るだろうしな。
海路は船の移動速度もあり、少し時間が掛かるので途中で一度寝る。
そろそろ陸地に到着するという報告を受けて、寝床からのそのそと起き上がる。
「どうだシズ、見えるか?」
「少々お待ちを」
『おっ、見えた』
ハイネからの指示を受け、シズが携帯端末の拡大望遠機能を起動した事で、陸地の映像がぼんやりと見えて来た。
『……厄介事が確定したように思えるんだが、どう思う?』
「私もそう思います、団長」
俺と同じ映像を見て、淡々とシズが答える。
ズームしてるから画質が少々悪いが、何だか……建物の形をしているシルエットが無い気がする。
桟橋が見えるから、あそこが船着き場なのは間違い無さそうなんだが。
港なんだから、建物の一つや二つ、普通は近くにあるんじゃないのか?
そんな映像を数秒程見た直後――映像が途絶えた。
メガフロートの位置と衛星の位置でカバー出来ていない範囲に関しては、マティアスの能力をもってしても、技術的にも物理的にもどうしようも無いらしいので、この結果は最初から分かってはいた。
追加で衛星を打ち上げれば、衛星同士を中継させる事でより遠距離まで通信が可能になるらしいが、今打ち上げているのは一機のみなので、これが限界だとの事。
おい、何機打ち上げる気なんだよお前。
衛星はこの星の周囲を周回しているらしいので、衛星の位置が変わればまた交信が可能になる。
それまでは、カード達に任せてここでのんびりしよう。
まあ、チラリと見えた映像的にあんまりゆっくりは出来ない気もするけどな。




