120.在りし日の欠片~序
第六章開始です
――それは、過ぎ去った過去の情景。
今は失われた、在りし日の輝き。
その記憶は未だ、闇の奥底で、光を放ち続ける。
「あれ見たか? 次のパックで出るアスモデウスの情報」
「見た見た。七罪の新規だろ?」
昴が暮らす県内のとあるカードショップにて、テーブルを挟み、対面する形で談笑する男二人。
一人は昴であり、もう一人が誰なのかは不明だが、砕けた口調で会話している辺り、昴の知人なのだろう。
「あー、やっぱ七罪の新規って見る? まあ、俺も七罪の新規って認識だけど」
「72魔将の新規でもあるみたいだけどな。でも何で複合カテゴリなんだアレ?」
カードゲーマーからすれば、日常茶飯事とも言えるカード談義。
このコンボが強いだとか、奇抜なデッキ構築を語ったりだとか、色々種類はあるが、今回は新しく登場するカードに関しての話のようだ。
公式サイトに掲示されている、新パックのカードイラストを表示した携帯端末に視線を落とす二人。
「サイトの情報によると、七つの大罪とソロモンの悪魔のどっちにも元ネタとして存在するかららしいぞ、だから複数カテゴリなのは原作準拠って事だな」
「マジか。でもそのお蔭でどっちのサポートも使えるのはデカいな」
「デカいのは胸だけじゃないという事か……」
昴の視線が注がれた先は、新たに登場したカードのイラスト、随分と立派な山二つ、そのセンシティブな一部分であった。
「アスモデウス、エロいよな」
「このカードゲームの対象年齢、いくつだっけ……? R-18?」
「いいえ、10歳以上対象です。小学生でも遊べます」
「これは青少年の性癖歪めますわー」
ケラケラと笑う二人。
カードの性的なイラストに関する話はそこそこに、そんな事よりカードのスペックだと、カードの検証を始める昴達。
カードイラストが良いに越した事は無いが、昴達二人は、イラストよりも性能を重視する視点のようだ。
結局、カードの力を決めるのは数値と効果であって、イラストやフレーバーテキストなんてのはオマケである。
……この論に関しては、賛否が分かれる所ではあるが。
カードはまだ発売はされていないが、カードの効果や数値は既に公表されており、それを見てああだこうだと議論を始めるのは、全てのカードゲーマーに備わった習性と言って良いだろう。
「――七罪だから人の業のサーチに対応してるし、72魔将だから魔将統べし黄金の指輪でサーチ+コスト踏み倒し出来るな、サーチ対応枚数エグい」
「専用サーチ2種対応なのヤバ過ぎるだろ……実質12積み出来るじゃねえか、そこまでサーチ対応してたら余裕で引けるわ」
「しかもアイツ、ファーストユニットでも出て来るんだよな、4マナだから」
「化け物スペックじゃねえか」
「唯一の救いは、アイツ自身にはロクな攻撃性能が無い事だな。あんまり大量展開しなければ奪われて大惨事になり辛いし」
「インフレして大型大量展開出来るようになったから、それを殺すって意味もあるんだろうな」
「コスト踏み倒し前提なら青デッキでも普通にイケるぞアレ……効果が先攻で立てるタイプじゃなくて、後の先、返し技系だから虹マナで1テンポ遅れても支障無いし」
「ん? 何で青デッキなんだ? アイツ黒だぞ?」
「あのアスモデウス、レヴィアタンと並んだらガチでやべえんだよ……」
そして、その新規カードと既存のカードを組み合わせ、新たな戦略を見付け出す。
あらゆるカードゲーマーが通る道であり、昴もまた、例外ではない。
「アスモデウスがユニットの性別変更するから、種族さえ同じならレヴィアタンのぶっぱ効果起動出来るぞ……!」
「あー、これは種族統一デッキキラーですね間違いない」
「このコンボは『厄介カプ厨』コンボと呼ぶ事にしよう」
「勝手にTSさせて勝手にカップリングさせて勝手にブチ切れるとか厄介通り越してキチガイじゃねえか!」
「まあ、レヴィアタンは"嫉妬"の擬人化みたいな設定だからイカれた性格なのはまぁ……やむなし」
「つまり、アスモデウスは性欲の権g」
「それ以上いけない」
相手を制止する昴。
アスモデウスは、原典において"色欲"の大罪を司る。
つまり、そういう事である。
「……自分で名付けておいてアレだけど、厄介カプ厨コンボって名前が面白すぎるから発売したら組んで使うわ」
「こっちのターンに全体ぶっぱ効果はやめろ、普通に死ぬわ!」
「というか、最後の雑かつ豪快なコントロール奪取効果はなんだよマジで。コイツに "騾イ蛹悶Θ繝九ャ繝" 来たらどんな効果になるんだよ!? 原則、既存効果の発展形だろ!?」
「考えたくねえ……インフレが、インフレがヤバ過ぎるだろ……」
擦り切れたテープの如く、突如、言葉に雑音が混じった。
その言葉は、今の昴から失われしまった、導きの言葉。
これは、近くて遠い、過去の情景。
昴とカード達が見ていた、かつての輝き。
それは、練磨されし高潔なる光。
幾多の戦いと時を駆け抜け、数多の者達を高みへと引き上げ、至高の領域へと導き続けた。
絶対にして究極と呼べるその力は、夜空に浮かぶ星々の数程の戦場を、勝利の歓声で染め上げた。
かつては昴を含め、数多の者達が有していた、鮮烈なる輝き。
その光は、未だ戻らない。
文字化け部分に一体何が入るのかは、今後の話で判明するんじゃないですかね?
ちょっと短いので今日中にもう一話出します




