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117.将、再び~その2

 話を纏め、後日改めてメガフロートを訪れたレイヴンとテレジア。

 通常の相場よりも安めの価格という事もあり、マティアスが提案した金属の取引は特に何事も無く成立した模様。

 グランエクバークという国が、他の国と比べて金属を大量消費する国だというのも原因の一つだろうが、この取引の影にある勇者と繋ぎを付けたいというのも有るのだろう。


 このメガフロートをグランエクバークの港に付けるのは憚られるので、少し離れた沖合にて、横付けしたタンカーへと貨物を譲渡していく。

 そのビジュアルは、さながら密輸の類である。

 受け渡しているブツは真っ当な代物なので、ケチが付く訳では無いが、入手の経緯は違法でこそないものの、色々怪しい模様。

 増殖した金属を卸していると言っても、恐らく誰も信じないだろう。

 そもそも普通は、金属は増えないからだ。


「――まるで、都市の区画が一つ二つ丸ごと詰まっているような場所ですね」

「全くだな。これだけの余剰スペースと機能があれば、この場所で一生を過ごす事すら可能だろうな」


 レイヴンにとってはかれこれ、三度目となる来訪。

 そして毎度レイヴンに付き添っているテレジアもまた、これで三度目という事になる。

 貨物の積み下ろしが終わるまでは、全くやる事が無い。

 これだけ来れば流石にもう慣れたもので、許可があるという事もあり、勝手知ったる他人の家とばかりにメガフロート内を散策する。


「……私達が本来一番見るべき場所は、恐らく入室不可だろうがな」


 三度目ともなれば、色々な場所へ入るのにも遠慮が無くなる。

 レイヴンが思い浮かべた場所は、操舵室や機関室といった、船にとっては心臓部とも呼べる区画。

 だがレイヴンの想像通り、その部屋に入る為の扉はレイヴン達のリストバンドでは解錠出来ない設定になっており、当然ながら入れない。

 そもそもここで暮らしているヘンリエッタ達ですら、その辺りは許可が無ければ入れないようになっているので、来客者の立場であるレイヴンとテレジアが入れないのは当然と言えよう。


「それに、来る度に新しい場所や物が出来てますね」


 昴にとって不利益が生じるような物でなければ、好き放題作っていて良いという事もあり、マティアスがハッスルし続けた結果、どんどんメガフロート内に新造施設が増殖していった。

 食堂や浴場といった生活に必要な場所から、最近では印刷機やカードショップまで出来上がっている。

 こっそりと複製・増殖された戦闘機の金属をマティアスが入手してしまった事と、昴の趣味が合致した為である。


「……というか、何ですかここは?」

「宝石店か何かのように見えなくもないが……宝石は無いようだな」


 レイヴンとテレジアの目の前にあるのは、問題のカードショップである。

 店のすぐ側には電子端末が置いてあり、その端末にリストバンドをかざしている女性が一人。


「失礼。少し良いかな?」

「はい? えっと、どちら様ですか?」


 その女性――ヘンリエッタに声を掛けるレイヴン。

 唐突に(カード)が湧くのはこのメガフロートでは何時もの事なので、初対面の人物が現れた所で驚きはしないが、一応失礼にならないように応対するヘンリエッタ。


「私はレイヴンという者なのだが、それは一体何をしているのかね?」

「これですか? これはログインボーナスという物を貰っているんです」

「ログインボーナス……?」

Et(エト)というポイントがここで一日一回だけですけど貰えるんですよ。あと、ポイントの残数も確認出来ますよ」


 操作方法をヘンリエッタから聞き、その通りにかざしてみるレイヴン。


「これは――ホログラムか? それとも魔法か? どちらかは分からんが、かなり高度な技術なのは間違い無さそうだな……」


 目の前に浮かび上がったホログラムを見て、そう呟くレイヴン。


「そのEt(エト)というのは、もしかしてそこで使うのかな?」

「そうですよ。店長さんに言えば、ガラスケースの中にあるカードとかも売って貰えるみたいですよ? ちょっと高いですけどね」

「そうなのか、ありがとう。足を止めさせて悪かったな」


 ヘンリエッタに礼を述べ、一旦その場から離れるレイヴン。

 テレジアと情報共有をした後、別に取って食われる訳でもないのだから、折角なのでカードショップ内を覗いてみる事にしたようだ。


 店内にはガラスケース内のカードを眺めている者が一人、テーブルを挟んで対面し、カードを使って何やらしている者が四名。

 内の一人が先程会話していたヘンリエッタであり、それ以外にはカウンターに一人。

 カウンターに居る者だけ男であり、それ以外は全員女性である。


「貴方がここの店主だろうか? 少し良いかな?」

「いらっしゃいませ、どうかしましたか?」


 レイヴンはカウンターに居る人物――昴へと声を掛ける。

 そんなレイヴンに対し、ダンタリオン等から話は聞いているはずなので、レイヴンとは初対面ではないのだが、初対面の体を貫き、抑揚の無い声で応対する昴。


「以前来た時にはこのような場所は無かったから、少し気になって足を運んだのだが、ここは一体どういう店なんだ?」

「カードショップです。Etranger(エトランゼ)というカードゲームをする為に必要なカードがここに置いてあるんですよ」

「カードゲームというと、トランプのような物か?」

「性質としては近いですね。カードゲームは分類的にはボードゲームの一種ですからね」

「成程、では奥の女性達はそのカードとやらで遊んでいるという訳かな?」

「そうですね。ここは海のど真ん中ですから、やる事が少ないですし、娯楽としてはうってつけですからね」

「私もそれを買う事は出来るのかね?」

「ポイントがあれば大丈夫ですよ」

「なら、折角だから一つ貰おうかな」


 先程電子端末にて自分のリストバンドにもポイントが付与されているのを確認していた為、迷いなく購入に踏み切るレイヴン。

 昴はヘンリエッタ達にも教えた内容と同じ説明をし、五つあるデッキの内、一つを手に取った。


「……さて、これはどうやって遊べば良いのかな?」

「一応、中に基本的なルールについて記した説明書が入ってます。それを読んで、分かり辛いようなら彼女達に聞いてみるのも良いかもしれませんよ?」

「そうか、ありがとう。なら先ずは説明書を読んでみるとしようか」


 昴との会話を切り上げ、一旦カードショップから撤収するレイヴンとテレジア。


「……レイヴン少将、それをどうするお積りですか?」

「どうもしないさ。話を聞く分には、これは遊具の一種なのだろう?」


 開封し、中に入っている説明書に視線を走らせるレイヴン。


「……見た事も聞いた事も無い内容だな。恐らくだが、これも勇者が異世界から持ち込んだ遊戯の一つと考えて良さそうだ」

「そうなのですか?」

「勇者が新しい遊戯や物語を持ち込むのは、過去の例を見れば良くある事だからな」


 リバーシ、トランプ、チェス――それに限らず、地球に居た頃の知識を生かし、過去にこの世界に現れた勇者達は様々な遊びや物語をこの世界に持ち込んだ。

 それらの娯楽は何百年という時間を経て、大衆の文化として世界中に浸透し馴染んでいった。

 ヘンリエッタ達も少しずつ、昴が持ち込んだEtranger(エトランゼ)という娯楽に順応しつつあるが、比較的すんなり受け入れられたのは、元々この世界にトランプ等のボードゲームの概念があったからこそ、その派生形であるカードゲームも理解する事が出来たのだろう。

 もしこの世界に、トランプもチェスも無いような状態で、いきなりカードゲームという概念を持ち込んでいたとしたら、ここまであっさりとは浸透しなかっただろう。

 昴にとっては、過去の勇者様様というべきか。


「――成程、大体理解した」


 説明書をテレジアに手渡しながら、一息吐くレイヴン。


「……中々難しいように見えるのですが、もう理解出来たのですか?」

「既存のボードゲームの派生だと考えれば、そこまで難解ではないさ」


 レイヴンから受け取った説明書を同様に読み込むが、テレジアの方はそこまでサックリと理解は出来ない模様。

 単純なルールであるリバーシ等ならともかく、それらと比較して少々複雑なルールを有するカードゲームはそこまで即座に理解とは行かないだろう。

 それでも一通り読んだだけである程度理解出来た辺り、レイヴンの地頭の良さが伺える。


「カードという駒を用いて、敵の用意する障害を排除し、敵軍の将を討ち取る。それだけ聞けばチェスと大差無いが、チェスと違いカードには無数の種類がある。そのカードの持つ能力を生かして、如何に勝利へと辿り着くか。カードをいくらでも追加出来るという性質を考えれば……成程、確かに面白い娯楽ではあるな」

「そのカードというのが、これですか……」


 レイヴンがそれを手にしたのは、特に何か理由があった訳では無かった。

 本当に、ただの気まぐれ、たまたまでしかなかった。

 偶然、構築済みデッキ――大空への飛翔を選んだ。

 その選択が原因で、レイヴンは今の勇者が持つ力の正体へ一歩近付いた事に、彼はまだ気付いていなかった。


 部下からの報告で、積み荷の移送が終了した事を確認したレイヴン。

 その気付いていない事実(カード)を手中に収め、今はこの場を後にするのであった。

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