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115.お暇ならば如何でしょうか~その2

「――いくら何でも、それは止めた方が良いです」

「何でだ?」


 暇だという意見への回答として、カードショップを作ろうとした昴に対し、ダンタリオンから待ったが掛かる。


主人(マスター)のその力は、この世界で主人(マスター)の身を守る為に必要な物です。その力の秘密、法則をわざわざこちらから開示するなんて愚の骨頂です」


 ダンタリオンが苦言を呈するのも無理はない。

 何しろ、昴が提示しようとしているのは、Etranger(エトランゼ)というカードゲームそのもの。

 ルールも、カードも、実在する物と完全一致の代物だ。


「相手が知らない、という有利な材料を何の理由も無くこちらから捨てるなんて論外です」

「そうなんだろうけどな」


 人の口に、戸は立てられない。

 今はまだ、このメガフロートという区画内だけの話だろうが、遅かれ早かれ、そのルール、そのカード効果は、外へと漏れ出て行くだろう。

 昴が自らその法則を開示した時点で、それは避けられない事態だ。


「相手がルールを知らないのは、フェアじゃないだろ」


 だが昴は、フェアじゃない、そんな理由で自らの持つ利点を捨て去ろうとしていた。


「それにな、ルールがバレた所で……だからどうした、って話だ。そもそも、ゲームルールがバレてない現状の方がおかしいんだよ」


 カードゲームというのは、基本のルールを互いに理解した上でプレイしていくゲーム。

 だから、どちらか一方しかルールを知らないという状況は、本来有り得ない状態なのだ。


「この世界に敵が居て、その敵にこのカードゲームのルールがバレる、それが嫌なんだよな?」

「そうです」

「……逆に聞くけど、基本的なルールがバレただけで、俺が負けるってダンタリオンは考えてるのか?」


 本来、基本的なルールに関してはバレているのが普通なのだ。

 ターンの最初にデッキからドローするとか、自分のライフが尽きれば敗北だとか。

 そんな事は、カードゲーマーからすれば常識中の常識で、相手もそれを知っている前提で動いている。


「そうではなくて、わざわざ自分の有利を捨てるのが容認しかねると言っているのです」

「こんなもん、有利でも何でも無いよ。基本ルールがバレただけで、俺が負ける事は、絶対無い」


 断言する昴。


「戦う前からデッキバレとか、戦ってる最中に手札バレするのが不味いのは分かる。でも、基本ルールはそもそも相手だって知ってるのが前提なんだから、それがバレた所で何も変わらないだろ。それにな、有利を捨てると言うが、これは有利なんじゃなくて不当に得ている利を元に戻すだけなんだよ」

「不当だろうが何だろうが、命を守れる可能性が一つでもあるなら、手札として抱えておくのが常套手段だと思いますが?」


 普段は昴の意見をなるべく肯定するようにしているダンタリオンだが、今回ばかりはと食い下がる。

 だが、昴は全く引く気が無い。


「……それにな。単純に、誰かとEtranger(エトランゼ)したい」


 ポツリと、呟く昴。

 その言葉に宿った感情を、感じ取ってしまったダンタリオンの言葉が詰まる。

 昴の周りには、カード達が居る。

 だが、カード達以外には、もう誰も居ない。

 親も、兄弟も、友人も、皆、昴の側を離れていった。

 ただの一言、呟いたその言葉には、重苦しい程の孤独が満ちていた。


「――私は、反対しましたからね」


 承諾しかねるという態度こそ変えないが、これ以上この件に口を挟むのを止めるダンタリオン。

 孤独は、心を殺す。

 命を守る為に、心が死んでは意味が無い。

 それは、ダンタリオンにとっても回避したい事態。


 これで、昴の孤独が癒されるというのならば。

 この位の不利益は、甘んじて受ける必要がある、のかもしれない。



―――――――――――――――――――――――



 今後、少しずつこのEt(エト)というポイントは増えていくという事と、通常の金銭とは異なり、このポイントを使える場所はここしかないという事もあり、折角だからカードを買ってみようという意見が出始めた。

 だが、カードを買うと言っても、何でもかんでも買える訳ではない。

 持っているポイントには限りがあるのだから、取捨選択しつつ、考えて買わなければならない。

 だが考えるも何も、考える為の知識をヘンリエッタ達はそもそも持っていない。

 なので、昴が直々に手解きする。


「――最初は構築済みデッキを一つ選ぶのがオススメです。ですが、強制ではないのでただのオススメです。従わなかったからといって、ペナルティがあるという訳でもありません」


 失敗したと感じたのなら、改めて選択すれば良い。

 ポイントは少しずつ溜まるのだから、この失敗は、取り返しの付く失敗でしかないのだから。

 失敗するのもまた経験だし、そもそも昴のオススメを選ばなかったら必ず失敗なのかと問われれば、そうでもない。


「構築済みデッキ……うわ、1000エトもする……」

「あっ、もしかして最初から1000エト以上あるのって、そういう事?」

「コレを買えって意味?」


 構築済みデッキは、5つ存在していた。


 海や水に住む生物が好きなヒトにオススメ。『潮津波』デッキ!

 空を飛んでる生き物中心、空を飛んでる気分になれるかも?『大空への飛翔』デッキ!

 山や陸地で暮らしている獣が中心。『大地の咆哮』デッキ!

 機械と兵器で全てを押し潰せ!『機兵団襲来』デッキ!

 恐るべき化け物を従え、敵を蹂躙せよ!『冥門開きし者』デッキ!


 デッキは随時追加予定、お楽しみに。


 この5つが、ポップによってアピールされていた。

 尚、この構築済みデッキは元々昴の世界で販売されていた――訳ではない。

 これ等は昴が一から考えて構築したデッキである。

 そして、程々に手を抜いて構築したデッキでもある。

 構築済みデッキの内容は、わざと下位互換であったり、もっと良いカードがあるにも関わらず、あえて採用されているカードが多数存在している。

 カードプールを把握し切っている昴であらば、その気になればほぼ理想的なデッキ構築をする事が可能だというのに、だ。

 これは、もっと良いカードを自分で見つけて、それらと入れ替えていく。

 カードゲームにおける最大の醍醐味の一つである、自分でデッキを強くしていく。

 その楽しさを奪わない為である。


 そして、ブースターパックも販売している。

 このブースターパックも、内容は昴が考えたモノである。

 但し、レアリティは昴の判断で変更してある。

 余りにもレアリティと性能が釣り合っていないモノは、レアリティを落としたり上げたりしている。

 これはカードゲーム界隈でちょくちょく言及される、カスレアと呼ばれている物を無くす為である。


「店長さん的には、どのデッキがオススメなんですか?」


 健康的な小麦肌の女性が、カウンターに自重を預けながら昴に訊ねる。


「どのデッキも一長一短があるので、特別どれが強いというのは無いですね。フィーリングに任せて選んで問題無いと思いますよ」

「じゃあ、店長さんがどれか一つ選ぶとしたら、どれを選びますか?」

「俺はもう選びましたよ」

「そうなんですか? どれですか?」

「大空への飛翔を選びましたよ。選ぶ理由がありましたからね」


 翼鳥系ユニットを中心に据えて構築されたデッキ、大空への飛翔。

 昴はこのデッキを選択し、購入済みである。

 口にした通り、選ぶ"理由"が存在していたからだ。


「じゃあ私もそれにしようかなー?」

「選んだ"理由"を理解していないと、同じデッキを選ぶ意味は無いですよ」


 構築済みデッキも、ブースターパックの内容も、決めているのは昴である。

 全てのカードプールを把握している以上、どのデッキをどう作れば極みに至れるのか、それを全て理解している。

 昴としてはそういう知識も無くした方が楽しめたのだろうが、持っている知識を無くすという事は出来ない。

 それに、知っているのにしないという、手抜きも出来ない性分。

 昴は既に、自分の信じる最善手を最短最速で突き進んでいた。


「じゃあその理由っていうの、教えてー」

「自分で気付いて下さい。それがカードゲームの醍醐味ですので」

「ケチ」


 小麦肌の女性が口を尖らせる。

 その後、昴が薦めた構築済みデッキの中から、大空への飛翔を一つ手に取り、カウンターに置いた。

 何か考えがあるのか、無いのか、はたまた昴の真似をしているだけなのか。

 理由は不明だが、カウンターに置かれたのだから、何も言わずにポイントでの会計を済ませる昴。



 異世界エイルファート、初のカードゲーマーが生まれた瞬間であった。



わぁい! ○ケモンだぁ!(シュバッ)

その後、彼の行方を知る者は誰も居なかった……

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