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114.お暇ならば如何でしょうか~その1

 海上を漂い続けるメガフロート。

 現状昴は特にする事も無い為、マティアスを中心として、カード達が気の向くまま、このメガフロートに改造改築が続けられている。

 ガワだけ整えて見切り出発した為、残りの内部建造に関してはマティアスが納得いくまで好きにやらせる事になっているが、例えマティアスが常時出続けていたとしても、昴の消費マナ数は1である。

 その為、他のカード達にも自由に出現する余裕が存在している。

 

「――どうですか? ここでの生活には慣れましたか?」


 そんな余裕があり、差し迫ったものがある訳でも無い為、ガラハッドとジャンヌの二名は、ヘンリエッタの下を訪れていた。

 何か理由があるという訳でもなく、単純に顔見せの為だけである。


「凄いんですね、機械っていうのは」


 三人は吹き抜けのフロアを散策しつつ、時折徘徊する清掃用巡回ロボットを流し見ながらヘンリエッタはポツリを呟いた。


 機械による自動化が可能な個所は、徹底的に自動化が成されている為、単純作業においてヘンリエッタ達に出番は無い。

 なので彼女達がするべき事は自動化出来ていない場所の作業なのだが、それもあまり多くない。

 例えば食事ならば、食洗器があるので食器洗いという工程が不要。

 衣服の洗濯も、乾燥機付き洗濯機により干すという工程が不要。

 風呂掃除は自動化され、ヘンリエッタ達が過ごしていた生活環境を考えれば天地の差と言えよう。


「ただ、しいて言うなら……贅沢な話かもしれませんけど、手持無沙汰な時が多いですね」


 だが、仕事に割く時間が少なくて済むという事は、余暇の時間が増えるという事。

 それは本来歓迎すべき事なのだが、ここが周囲に何も無い海上だという事が問題点だ。

 周囲に何も無いのだから、何も新しい刺激が入ってこない。

 旅人が来る訳でもなく、行商人も居らず、生活には困らないが、逆に言えば生活に必要な物以外はここには何も無かった。


「暇、という訳ですね」

「えっと、まあ、そうですね。いえ、贅沢な話だとは思いますよ? こんな凄い場所に住まわせて頂いているのに」


 手をブンブンと振りながら、先の言葉を否定するヘンリエッタ。

 屋敷に囚われていた時所か、元々村で暮らしていた時の環境よりも遥かに改善された生活環境。

 これだけの環境を提示されているというのに、暇だと嘆くのは彼女の言う通り、贅沢な悩みなのかもしれない。


 その日は、ヘンリエッタが送っている日々に関しての雑談を交わしただけで、特に何事も無く終わった。



 ――そして、一週間後。

 メガフロート4層部分に、何かが出来ていた。

 壁面には巨大な液晶モニターが設置され、壁の向こうには沢山のガラスケースが陳列されており、カウンターと多数のテーブルと椅子が設置されている。

 よく見れば、ガラスケースの中には何やら無数の紙片が陳列されており、値札のようなものが貼られていた。

 何らかの店のようにも見える。


「――何ですか? ここ」

「一昨日見た時には何も無かったのに……」


 急遽集められたヘンリエッタ達から、困惑の声が上がる。


「……私はこういうの良く分からないから、主人(マスター)から受け取ったカンペをそのまま読み上げますね」


 そしてダンタリオンは、ヘンリエッタ達の前に立ち、手にした紙に視線を落とし、その文字を淡々と読み上げる。


「――暇だという意見を聞いたので、作ってみた。ここに来る事は強制ではないし、興味が湧かないなら二度と訪れなくても良い……それから、それとは別に、皆に電子リストバンドを配布します」


 ヘンリエッタ達9人に、何かの電子チップが埋め込まれたリストバンドが配布された。

 これはマティアスによって作られた物であり、現代日本でいう電子マネーや電子キーを兼ね備えた端末である。

 防水性であり、例え海で泳ごうが錆びたりもしない気密性も有している優れものなので、何なら年中付けていても良い程だ。


「――それらの機能とは別に、あそこにある店でだけ使える、特殊なポイントが既にそのリストバンドに付与してあります。使いたければご自由にどうぞ。今回貴女達を集めたのはあの店舗を紹介する為……ってのはオマケで、本命はそのリストバンドの配布です。今後、電子ロックされた扉の開閉に必要な鍵にもなりますから、紛失しないように気を付けて下さい」


 腕時計と同じような付け方を説明した後、とっとと居なくなるダンタリオン。

 妙に煌びやかな目の前の建造物を前に、どうしたものかと尻込みする女性達。

 そんな中、折角ここまで来たのだからと、目の前の店舗とやらに顔を覗かせるヘンリエッタ。

 店内を見渡せば、カウンターと思われる場所に、一人の男が居た。

 ヘンリエッタ達が誰も見た事が無い、初見の人物。

 だがそれは、見た事が無いのではなく、認識出来ていないだけ。

 今まで矢面に立ち続けたのは、彼ではないから、意識の外にあっただけである。


「あの、どちら様でしょうか?」

「……どうも。ここの店長の柏木 昴です」


 昴が、居た。


「店長さん、ですか? あの、ここは一体どういう店なんですか?」

「カードショップです」

「カードショップ……?」

「ここに乗っている方々から、暇だという意見が出て来たので、建造されました。要は、ただの娯楽施設です。ダンタリオンが来ても来なくても良いと言っていたのは、ここを利用せずとも生活は出来るからという意味ですね」

「中に入っても良いですか?」

「どうぞご自由に」


 ヘンリエッタは、店内に入って周囲を見渡す。

 先程遠目で見えたガラスケースの中には、芸術品の如き絵が描かれた、均一の大きさの紙片。

 その紙片が透明な袋に入れられ、その上には数字が掛かれたシールが貼ってある。


「……このEt(エト)っていうのは、何ですか?」

「この店だけで使えるポイントです。それをお支払い頂ければ、その中の商品はお渡ししますよ」


 先程ダンタリオンが言及していたポイントとは、これの事である。

 疑似電子通貨……というより、この店でしか使えない事を考えれば、電子マネーというよりポイントカード的な感じだろうか。


「このケースの中に入っているものは、一体何なのですか?」

Etranger(エトランゼ)というカードゲームで使われるカード、その一部です」



 ――ヘンリエッタ達から湧き出た、暇だという意見。

 それを耳にした昴は、暇潰し方法はと考えた結果、反射的に自らの愛するEtranger(エトランゼ)というカードゲームを提示する事にした。

 無論だが、ここに提示してあるカードは昴の持っているカードと同質の物ではない。

 精巧にコピーされた、カードゲーマー用語で言う代用(プロキシ)カードである。

 だが、カード達の持つ機械技術によって製造されたこの代用カードは、パッと見では本物と区別が付かない程に精巧に出来ていた。


「カードのイラストは綺麗だから、眺めるだけでも良いかもしれませんが、このゲームは二人で遊ぶものなので、ルールを覚えれば対戦も出来ますよ」

「ルール、ですか」

「取り敢えず、そこの端末にリストバンドを触れさせてくると良いですよ」


 昴が指し示した先をヘンリエッタが見ると、彼女の腰の高さ程度で輪切りにした電柱のような、飾りっ気の無い電子端末が存在していた。

 その上にヘンリエッタがリストバンドをかざすと、30Et(エト)、という数字がホログラムで表示された。


「何か、数字が浮き出て来たんですけど、これは?」

「ログインボーナスです」

「ログイン、ボーナス……とは?」

「一日一回、その端末にリストバンドをかざせばポイントが貰えるらしいですよ」


 それ以外にも、この端末を操作する事で溜まっているポイント残高等を確認出来るらしい。

 言われるがままに操作してみると、1530Et(エト)、という数字が浮かんだ。


「この数字が、このお店で使えるお金みたいな感じですか?」

「そうですね」

「普通のお金で買う事とかは出来ないんですか?」

「普通の金銭での取引は受け付けてないですね」


 ――それから、所詮は模造品。

 企業や開発スタッフが作ったカードという商品を、昴が勝手に販売するのはどうかと、昴自身が考えた為だ。

 なので、販売しない。

 このエトは、疑似通貨であり、現実のお金とは関係のないモノとした。


 ……現物のカードを持ち出し、それと現金を交換するという方法に関しては、防ぎようが無いので完璧ではないのだが。

 だが、それは昴本人がカードを販売している訳ではないので我関せず、という事なのだろう。


「――何だろう、まるで宝石店みたい」

「宝石の代わりに、このカードっていうのが置かれてるみたいだね」


 ヘンリエッタに続き、興味に引かれた人達が一人、また一人とカードショップへと足を踏み入れる。

 宝石店のようだ、という表現はあながち間違いでもない。

 何しろカードというのは、本当に希少なカードに関して言えば下手な宝石よりも高額になるモノもある。

 カード1枚で車が買える、家が建つ、という表現があるが……誇張抜きでそれが実現するカードもあるのだ。


「……ああ、ここに貼ってあるエトってのが金額って訳か」

「じゃあ、このエトってのはカードと交換出来る専用のポイントみたいなモノって事ね」


 別段難しい事をやっている訳ではないので、すぐに理解出来て当然ではあるが。

 各々、仕組みを理解して店内の散策を始めた。

具体的なカード名は言わないけど大会優勝者限定とか遥か昔の初版美品カードとかな。

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