111.V《ヴァンガード》.A《アサルト》.
エトランゼというカードゲームは、漫画化・アニメ化もされた人気コンテンツであった。
その中でもV.A.というテーマカテゴリは、エトランゼのアニメにおいて、主人公のライバルポジションであるジョージ・シラカワというキャラが使用したカード群である。
近未来的なビジュアルの人型戦闘兵器が、指揮官の支援を受け、多彩な兵装を駆使しながら戦場を駆けるという、男の子の心をガッシリ掴む感じでデザインされており、このキャラがアニメに登場する回は、カードゲームアニメを見てたはずなのにロボットアニメを見ていた、とか言われる程であった。
アニメテーマ+ライバルポジションという、非常に重要な立ち位置のキャラだけあり、主人公と同じ位にプッシュされたそのカードプールは、4積み必須クラスから正直微妙な物まで豊富潤沢選り取り見取り。
しかも"エヴォフォ"登場以降のテーマというだけあり、インフレに揉まれた結果、その挙動も強い。
アニメ中において主人公とライバルは何度か衝突し、その都度一進一退の名勝負を繰り広げた。
キャラもカードも根強い人気があり、特にラスボスとの最終決戦、主人公に後を託して散って逝くシーンは名場面の一つに良く上げられる位に熱いシーンだ。
主人公とライバルはアニメ中では常に互角だったのだが――現実だと、主人公テーマをボッコボコにして大会優勝者の使用デッキ名にはV.A.ばっかりが並んだのであった。
現実は非情である、どうしてこうなった。
もうちょっと頑張れよ主人公テーマ……
いや、どうしてそうなったかは分かってる。
爆発力だけはV.A.に勝ってたんだ。
そしてそれは、逆に言えば爆発力以外の全てがV.A.に負けてたって意味でもある。
大会って、一回勝てば終わりじゃないからな。
トーナメント式かスイスドロー式か、何にせよ優勝までの道中で何度も戦う必要がある。
安定しないデッキで大会を勝ち抜けるなんて、運任せが過ぎる。
運任せが最後まで生き残れるのは、運命力に愛されてるような奴だけだ。
アニメの中でならまだしも、現実じゃ確率という壁はそう簡単には崩せない。
生憎、"エヴォフォ"が欠損している為その絡みのカードは手元に無いが、それでもその動きは強くて速い。
負ければ死というこの状況でも、十分にその命を託すに値する。
さて、滅茶苦茶ぶん回した後だが、このターンはまだ終わりじゃない。
「俺の場にはV.A.ユニット、変わらず1体のみ。手札からV.A.フリジットソードをプレイコスト0でブレイズフォームに装備」
だって俺、ここまでの流れでまだ手札を全然使ってないんだから。
そしてV.A.というテーマは、滅多な事じゃ事故は起きない。
実際、今の俺の手札は事故とは無縁。
だからまだ、手札の数だけ俺には動きが残されている。
ブレイズフォームの手中に、一振りのロングソードが現れた。
ロングソードとは言うが、それはV.A.という巨大な体格との対比でそう表現されるだけで、実際の大きさ的には柄だけで大柄な人間の背丈よりも遥かに大きい。
青白い光を宿した、儚く美しく、それでいて冷たい刀身。
その刃はマナによって構成され、光学技術の粋を集めて製造された可変式の刀身であり、自在に消したり出現させたりさせる事が出来る。
「更に手札から装備呪文、V.A.スターライトジェネレーター、プレイコストを0にして発動」
ブレイズフォームの背面、人間で言う肩甲骨の辺りに、対となる光の翼が現れた。
それを装備したV.A.は、太陽からの逆光を受け、まるで機械仕掛けの天使が如きシルエットを映し出した。
星の輝きを纏いしその翼は、V.A.が文字通り飛躍する為の翼となる。
「手札から永続呪文、V.A.クイックイクイップを発動」
この盤面を更に盤石にする為の補助呪文を展開し。
「装備呪文、V.A.シューティングノヴァライフル、V.A.レイジングブラスターカノン、発動」
ブレイズフォームの双肩に、それぞれ形状の違う巨大な砲身が出現する。
可動式で向きを変える事も出来、それによって近接戦闘になった際に行動を邪魔する事は無い。
更にその砲塔から放たれる大規模破壊は、超遠距離攻撃を可能とし、あらゆる敵対勢力を撃破する。
「これで俺は、ターンエンドだ」
先攻じゃなかったら、攻撃出来たんだけどな。
仕方ない、これがルールですから。
何も出来ないなら、次のターンで終わるぞ。
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シーサーペントは、動かない。
否、動けないのだ。
その絶対的な存在感、威圧感。
今ここに在るは、機械仕掛けの死の天使。
自身のパワーを優に超える、絶望的な戦闘能力の差。
具体的に言うならば、パワー12000である。
奇跡が起きてもひっくり返らない、数字という絶対的な差。
何も出来ない、出来る訳が無い。
手を出せば返り討ちにあう姿が幻視出来、逃げ出せば背後から撃たれる光景が容易に想像出来てしまう。
自分達は、手を出してはいけない相手に手を出してしまったのだと、酷く悔いた。
もしこの魔物に涙腺という物が存在したなら、双眸から滝のような涙を流しただろう。
もしこの魔物に汗腺という物が存在したなら、迫る死の予感に冷や汗を流しただろう。
相手ターン、終了。
「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ。マナゾーンにカードをセット、疲弊させて虹マナ1を得る」
執行、開始。
「V.A.ブレイズフォームの効果発動、このカードをデッキに戻し、カタラクトフォームを召喚、更にカタラクトフォームの効果発動。このカードをデッキに戻し、俺はデッキからV.A.マルチプルフォームを召喚。カタラクトフォームの効果により、デッキから二枚目のV.A.エネルギーシールドを装備する」
回り始める運命。
その動きに淀みは無く、効率化された動きを淡々と繰り返していく。
何をすべきかを完全に暗記している為、プレイングミスを祈る事すら出来ない。
「マルチプルフォームの効果、虹マナ1と無色マナ2を使用し、デッキからV.A.キリングフィールドを手札に加える。更にマルチプルフォームの効果、このカードをデッキに戻し、ネイチャーフォームを召喚。そして、無色マナ2を得る」
シーサーペント達にそれを覆す術は無く。
「ネイチャーフォームの効果発動。デッキの上からカードを5枚めくり――V.A.オールレンジフルバーストを手札に加える。ネイチャーフォームの効果発動、このカードをデッキに戻し、ブレイズフォームを召喚する。そしてV.A.が召喚された事で、墓地からフリジットソード、スターライトジェネレーター、シューティングノヴァライフル、レイジングブラスターカノン、エネルギーシールド×2を手札に加える」
死の足音が、近付く。
ここでいう足音とは、昴が先程から行っている効果処理である。
「そして手札から呪文カード――フリジットソード、スターライトジェネレーター、シューティングノヴァライフル、レイジングブラスターカノン、エネルギーシールド×2、キリングフィールド、オールレンジフルバースト、一斉発動」
そして。
「……バトル」
破滅の引き金が、絞られた。
「オールレンジフルバーストの効果により、このターン、ブレイズフォームは相手フィールドのユニット全てに攻撃が可能となっている」
全 方 位 一 斉 掃 射 ! !
機械仕掛けの死の天使が、空へと羽ばたいた。
ブレイズフォームの砲門、一斉開放。
解き放たれた赫灼が、大気を揺るがす!
強烈な熱波が雲を吹き飛ばし、大海原の一部が一瞬で蒸発する!
大地すら容易く溶解させる程のエネルギー波が、その熱量の余波で周囲に暴力的な嵐を発生させる!
その無差別爆撃の如き射撃の豪雨は、その実、正確無比にシーサーペント達を撃ち抜いて行く!
だが、シーサーペントは一度だけ破壊を免れる効果がある。
これ程の大破壊の渦を超えて、それでも尚、命を長らえる。
生き長らえてしまう。
「スターライトジェネレーターの効果により、ブレイズフォームの攻撃回数+1だ。よって、ここで更に追撃を加える」
しかしそれでも、運命は変わらない。
一度耐えるというのであらば、二度でも三度でも殺してみせよう。
孤高の突撃兵は、絶対なる先導者となりて、勝利をもたらす!
名を体現するが如く、砲火によって切り拓いた空間を一直線に突っ切り、手にしたフリジットソードが、シーサーペントの一体を捉える。
その刀身は熱したナイフをバターに突き立てるが如く、傷口を凍結させながら容易く両断し――
「キリングフィールドの効果発動。このターン、V.A.が戦闘で相手ユニットを破壊した時、俺の場のV.A.以外の全てのユニットを破壊する」
更に剣閃が描いた軌跡が、まるで空間に傷跡を付けたが如く、破滅の胎動を予兆させる黒い亀裂を描いた。
その亀裂は徐々に広がり、ポッカリと空いた黒い穴へと変わっていき――
崩 滅 黒 力 場 ! !
超重圧壊。
周り全てを飲み込み、全てを押し潰し、圧縮し、見るも無残な姿に成り果てる!
それは例えるならば――地上に現れたブラックホール。
数値がどれだけ高かろうが、関係無い。
キリングフィールドに囚われたモノは、すべからく、一切合切、潰えて果てて、塵と化す。
後に残るは、ただ一つ。
孤高にして絶対なる先導者のみ。
「破壊耐性じゃなくて効果耐性位付けておくべきだったな」
インフレの歴史に名を刻んだ、V.A.というテーマの名は伊達では無い。
この世界の人々からすれば、邪神の欠片と比較しても遜色無い程の脅威が、雑魚扱い。
雑魚がどれだけ群れようと、V.A.は落ちない。
全てのカードゲームに言える事だが、カードゲームというのは常に運が絡む。
だがこのV.A.というデッキテーマは、理不尽な位に"安定"するデッキである。
相手からの妨害によって事故らされるという事はあっても、こっちが勝手にコケるという事はまず有り得ない。
カードゲームに付きものである"運ゲー"要素が極限まで切り捨てられた結果、常に一定の出力を発揮し続けるようになった。
例えどんなカードゲームであろうとも、常に安定した動きを提供するデッキというのは、その時点で強テーマ強デッキである。




