110.孤高の突撃兵、絶対なる先導者
先に書いてた話があるのだが、話の流れの都合上こっちを先に投下しますね。
というかこっちを先にしないと次で登場するカードがヤバ過ぎt
それは、良く晴れた日であった。
特に何の変哲もない、穏やかな一日。
今日も一日、何もない平和な日だったとさ。
――と、なるはずだったのだ。
何の前触れも無く、唐突に船体を襲う衝撃。
船内に響く、けたたましい警報音。
何が起きたのだと、甲板に上がってみれば――
「何だあれ? ドラゴン?」
西洋じゃなくて東洋系の、竜じゃなくて龍みたいなのが居た。
細長い、蛇のような体躯。
その身体にはまだら模様の鱗が規則正しく貼り付けられてあり、大きさを除けば蛇にも見える。
だが……このメガフロートが比較対象になるような大きさ、この船体を揺らせるような衝撃を起こせる体格を持っている奴が、ただの蛇な訳が無い。
今も尚、その身体をこの船体に衝突させ、このメガフロートを破壊、転覆させようとしている。
「いえ、アレは海竜ではなくて海蛇の魔物ですね」
だが龍であるという俺の推測を、ダンタリオンが即座に否定した。
あれ海蛇なのか、デカいな。
全体像を海中に隠している巨躯の持ち主が、その頭部を海面から覗かせた。
黒く丸い目がギョロリとこちらへと向けられ、開かれた口からは二本の白い牙が覗いており、あの牙一本が俺の背丈位ありそうだ。
先程考察した通り、その巨体はこのメガフロートが比較対象になっている時点で、10メートル20メートルというレベルではない。
そもそもこの海蛇の魔物の全長じゃなくて、幅の時点で10メートル20メートル位あるのだ。
地球上にそんな生物など存在しないし、比較するだけ無意味だし、例えようが無い。
しかも――おいおい、何匹居るんだこれ?
二つ三つ、四つ五つ――次々に海面から顔を覗かせる、無数の頭部。
これがヒュドラみたいなタイプじゃないなら、この頭部の数だけこの海蛇の魔物がここに居るという事なのだろう。
領海に入らないようにするという配慮はしていたが、それ以外は進行方向に指定はしておらず、適当に公海上を彷徨うように航海し続けたその結果、運悪く海生魔物の生息地帯に突っ込んでしまったらしい。
相手は魔物であり、突っ込んだ俺達が悪いのだが、詫びを入れて会話で穏便に済ませられるような相手ではない。
何だか申し訳ない気分ではあるが、撃退する他無いだろう。
俺一人ならともかく、この船には他の人達も乗ってる訳だからな。
沈められる訳には行かない。
さて、どうするか。
……完全殺戮細菌兵器-E.V.O.L.A.でまとめて始末するか?
いや、でもE.V.O.L.A.って基本的な所は細菌やウイルスと変わらないぞ?
大気中ならまだしも、海中だと流されて終わりじゃないか?
更に言うなら、こんな危険生命体を海に流すとか、放射性廃棄物の海洋放棄以上の厄ネタなんだが。
水生生物全滅するんじゃね?
なら、物理的に行くしかないだろ。
「海蛇風情が盟約主に楯突くとは滑稽だな! この世が直々に葬ってくれようぞ!」
唐突に現れて威勢良くイキるバエル。
このムワッとした潮風が嫌なのか、本体の猫が俺の服を伝ってよじ登り、服の中に潜り込もうとしてくるんだが。
服を貫通した爪が皮膚に刺さってちょっと痛い。
「まあ待てバエル、どうするかは賽の目に決めて貰おう」
六面体の、良くあるサイコロ。
それを宙へ投げると、重力に引かれて地面を転がった。
1~6で、どの目が出たかで使うデッキを決めよう。
出た目は――1。
あっ、そうですか……1、出ちゃうんですね。
いや、割り振ってんだから出る可能性があるのは分かってるつもりだったんだけど。
はい、分かりました。
それじゃあ使いまーす、出ちゃったんだから仕方ないな。
「バエル」
俺が名前を呼ぶと、口角を吊り上げ、獰猛な笑みを浮かべた。
バエルは顔がイケメンだから、どんな表情でも様になるなぁ。
「この度は採用を見送る事となりました、72魔将達のご健闘をお祈り致します」
「またそれか!?」
72魔将デッキは、6の目が出たら使うつもりだったので。
賽の目が1を使えって言ったから、こっちで行きます。
……まあ、これから使うデッキは72魔将如きじゃとても追い付けない領域のデッキテーマな訳だが。
さて、それじゃあやりますか。
「――交戦」
過去には世界大会覇者も使った、かつて世界一位の名を轟かせたデッキテーマ。
早さと破壊力の両立を成し遂げた、正真正銘の殺意の塊、使わせて貰おうか。
―――――――――――――――――――――――
デッキをシャッフル、初手を確認。
あっ、初手にユニット居るのは最悪の引きなんで勘弁して下さい。
マリガン確定、再度引き直す。
今度は手札にユニットは存在していなかった。
このデッキは初手にユニット居る方が確率的に低いデッキだし、居たら回転止まるからユニットは全部フィールドかデッキに存在する状態が望ましい。
その後、ファーストユニットが出るまでデッキトップをめくる。
――空を切り裂き、飛来する一つの機影。
音すら置き去りにするその速度で、俺の元へと急行する。
全長は20メートル弱、平時の重量は約20トン。
数字だけみれば鈍重としか思えない設定があるのだが、俺の目の前で見せ付けた動きからは全くそれを感じさせない。
飛来し、スラスターで完璧な姿勢制御を行う、まるでVTOL機みたいな挙動を見せる――近未来的なデザインの、人型戦闘兵器。
スラスターから排出される排気が、強烈な勢いで俺の髪と衣服をはためかせる。
「戦闘モード起動。目標捕捉、任務確認、敵性生物の駆逐または撃退。隊長、出撃許可を」
機械合成により生み出された、人工的な音声が俺に対し交戦の許可を求めた。
さて。
この異世界にての初陣だ。
出撃だ、V.A.!
「ファーストユニット確定、V.A.ネイチャーフォーム」
そして、盾を5枚セット。
これで準備完了だ。
「隊長より出撃許可承認――V.A.出撃」
平坦な音声を残し、残像すら発生させる程の速度で敵目掛け突撃するV.A.。
巨大ロボットは漢のロマンである。
まあコイツはロマンも何も無いド安定ガチテーマですけどね。
さて、相手はどんなステータスしてるのかな?
例えどんなスペックだろうが絶対に粉砕するし、V.A.で勝てないなら他のデッキでも無理臭いからお手上げだけどな。
名称:大海原の暴君 シーサーペント
分類:ユニット
プレイコスト:???
文明:青
性別:不明
種族:水棲
カテゴリ:
マナシンボル:?
パワー:5000
1:【永続】【効果】このユニットは自身のパワーより低い相手ユニットの効果では破壊されず、攻撃対象に出来ない
2:【起動】【条件】1ターンに1度
【効果】自身のパワー以下の相手ユニット1体を選択し、破壊する
3:【永続】【効果】このユニットは相手フィールドに存在する全てのユニットに攻撃出来る
4:【永続】【効果】このユニットは1ターンに1度だけ破壊されない
確認完了。
うーん……コイツ、邪神の欠片並みにヤバくないか?
それが、計7体……うへぇ。
こんな所に放り込まれたら普通に死ぬって。
そして効果に関しては……格下殺し、って印象がある。
どれだけ雑魚が群れようが全て蹴散らし、不測の事態も4の効果でカバー、みたいな感じだ。
奇遇だな。
どれだけ雑魚が群れようとも無意味、というのはこちらも同じだ。
孤高の突撃兵にして、絶対なる先導者。
その有り様、この世界でも見せ付けてやろうじゃないか。
マリガンの結果、手札も中々良い感じだ。
惜しむ理由も無い、最初からフルバーストだ!
「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ、メインステップ。マナゾーンにカードをセット」
このデッキを使うのも久し振りだな。
だが、基本的な動きを忘れる程、俺の腕は錆び付いてなんかいないぞ。
この手札なら、ファーストターンの悠長も許されるだろう。
初めに虹マナを用意して、後の動き易さを買う。
「俺の場にV.A.のユニットが1体のみ、よって呪文カード、V.A.コンバットレーション、プレイコストを0にして発動」
V.A.専用、ぶっ壊れマナブーストカード。
このカードの発動後は、V.A.カテゴリに属したカード以外のカード効果を発動出来ないし召喚も出来なくなるが。
「俺は虹マナ3を得る」
これで、開幕から布陣を展開出来る!
「V.A.ネイチャーフォームの効果発動。デッキの上からカードを5枚めくり、その中にカテゴリ:V.A.の呪文があった場合、1枚を選び手札に加える」
ネイチャーフォームが保有する固有効果は、デッキトップ依存の不確定サーチだ。
絶対に目当てが引ける訳でも無いし、運が悪ければ不発する事もあるものだが……
「俺はデッキからV.A.フリジットソードを手札に加える」
そんな事は滅多に起こらない。
このデッキはガチガチにV.A.カテゴリで固めてあるからな。
目当てが引けるかは別として、サーチ不発はまず起こらない。
「更にV.A.ネイチャーフォームの効果発動、このカードをデッキに戻し、デッキから新たなV.A.を呼び出す」
そしてV.A.のカテゴリに属するユニットは、一部を除き共通の効果を持っている。
それは、自身をデッキに戻し、デッキから新たなV.A.を召喚するというもの。
但し、この効果で同名ユニットを召喚する事は出来ないし、同名ユニットを1ターンに二度召喚する事も出来ない。
○○フォームという名前が付けられており、戦況に応じて機体のモードチェンジと武装の展開を行っていく――それが、V.A.というデッキのコンセプトだ。
カメレオンの如く、機体から発せられる光が変化する。
緑文明のネイチャーフォームが発する光は緑だったが、その色が青へと変化する。
文明の色に応じた光を発しているので、視覚的にもどの形態なのかを理解し易くなっている。
カードイラストだとそれに加えて武装もしているので、色以外にも見た目でかなり違いがあるのだが、残念ながら今は何も装備していない。
まあこれからの流れで色々武装を装備するので、イラスト通りに――ならねえな。
先攻だったから攻撃出来ないし、なら耐性付けるのが最優先だろ。
「V.A.カタラクトフォームを召喚、更にカタラクトフォームの効果発動。このカードをデッキに戻し、俺はデッキからV.A.マルチプルフォームを召喚」
同名は出せないが、別名のユニットであらば召喚直後にそのまま別のユニットに変換する事も出来る。
そして、各々のユニットが、この効果で次のユニットを召喚した際に、追加効果を発揮する。
「そしてカタラクトフォームの効果、この効果で召喚されたマルチプルフォームに、デッキからカテゴリ:V.A.の装備呪文を1枚装備する。俺は、デッキからV.A.エネルギーシールドをマルチプルフォームに装備」
カタラクトフォームの追加効果は、デッキからの装備。
ノーコストで装備するものであり、アルトリウスのデッキから剣カテゴリの装備を装備する効果と似ているっちゃ似ている。
ただ、この効果は必ずデッキから装備しなければならないので、手札や墓地に行ってしまった装備呪文に関しては干渉する事は出来ない。
だが、V.A.の装備呪文には共通効果があるんだよな。
そしてV.A.の呪文全てが、条件付きでプレイコスト踏み倒しが可能。
手札や墓地にあるというのは、V.A.において問題にならない。
「続けてV.A.マルチプルフォームの効果発動。虹マナ3を支払い、デッキからカテゴリ:V.A.の呪文を1枚手札に加える」
ファーストターンでコンバットレーションを発動出来ると、いきなりマルチプルフォームの効果を使えるのがデカい。
これで、デッキから呪文を手札に加えるサイクルを構築出来た。
「俺はデッキから永続呪文、V.A.グリッターフォースフィールドを手札に加える。そして俺の場にV.A.が1体のみの時、グリッターフォースフィールドはプレイコストを0にして発動出来る」
V.A.の呪文全てが持つ、共通のプレイコスト軽減効果。
それは、俺の場にV.A.のユニットが1体のみ存在するという条件だ。
ただ一機だけが、フィールドに君臨し、戦場を駆けるそれは――正に、一騎当千。
「更にV.A.マルチプルフォームの効果発動。このカードをデッキに戻し、新たなフォームチェンジを行う」
そして呼び出すのは、当然。
「V.A.ブレイズフォーム、降臨」
機体から発せられる光が、赤へと変わる。
V.A.における、エースアタッカー。
赤文明だけあり、攻撃的な効果を多数有する。
「そしてマルチプルフォームの効果で、俺は無色マナ2を得る」
更に追加マナゲット、と。
次のターンで虹マナを出せるようになるから、この無色マナ2と併せて丁度次のマルチプルフォームのコストが足りるんだよな。
やっぱ強いわこのムーブ。
「更にマルチプルフォームに装備され墓地へ送られたV.A.エネルギーシールドの効果発動。俺の場にV.A.が召喚された事で、墓地のエネルギーシールドを手札に戻す」
V.A.の装備呪文は、墓地に存在する状態で次のV.A.が召喚されると、手札に戻って来る効果を保有している。
その為、装備呪文は装備対象のユニットがフィールドを離れると破壊される、というルール上抱えているデメリットがまるで気にならない。
破壊されてもすぐに手札に戻って来て、プレイコストが0になるから再発動が容易だからだ。
「俺の場にはV.A.ユニット、変わらず1体のみ。よって、手札からV.A.エネルギーシールドをプレイコスト0でブレイズフォームに装備」
そして、V.A.の呪文が持つ共通軽減効果で、即座に再装備。
これで、パワー5000のブレイズフォーム!
更に攻撃時のみだが、パワーは8000まで上昇する!
駄目押しとばかりに、エネルギーシールドとグリッターフォースフィールドの効果により、1ターンに2度まで破壊を免れる!
ここまでの動きで消費した手札――コンバットレーションの1枚のみ!
しかもネイチャーフォームでフリジットソードをサーチしてる分を加味すれば、そもそも手札枚数が減っていない!
やっぱチートテーマだこいつ等!? 手札1枚でやっていい動きじゃねえぞこれ!
一騎当千、孤高の突撃兵にして絶対なる先導者!
それこそが、V.A.だ!
死ぬ気で掛かって来い。
その全てを踏み越えて、終わらせてやろう。
――って、シラカワさんがアニメで言ってた。
インフレテーマの挙動の強さ――舐めるなよ。
ガチテーマ、出撃。
何か凄くヤベー動きしてませんか……!?
続きは明日ね。




