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10.書架の魔女

 目の前に身を守る5枚の盾が展開される。


「――交戦(エンゲージ)


 世界が静止し、以前見た数字が俺の目の前に現れる。


「180秒。この思考時間の間に主人(マスター)の出来る最善手を。時間内でならマスターの質問にも答えます」


 ダンタリオンは簡潔に、必要な事項だけを俺に伝えてくる。

 時間制限があるから、余計な事を喋って時間を潰す訳にはいかない、という事だろう。


「――俺は、手札からマナゾーンにカードを1枚置く(セット)……この180秒の時間が過ぎてしまうとどうなる?」

主人(マスター)のターンが強制終了される。これがマスターに与えられた思考時間って事です」

「俺のライフが0になったらどうなる?」

「それが0になる時が、主人(マスター)の死ぬ時」


 成る程、そういう設定か。

 最初の戦いでの推測は大体当たっていたか。

 リッピやフェンリルとは違い、ダンタリオンはエルフだが人の形をしており、俺でも言葉が理解出来る。

 推測が確信に変わった。


「ダンタリオン、お前は今まで何処で何をしてたんだ?」

「……私は、やっと主人(マスター)の前に現れる事が出来た。今までは意識が途絶えていた。恐らく、私はずっと主人(マスター)の側に居たのだけど、意識も無く姿を現す事も出来なかった状態だと思われる」

「他のカードはどうなってるんだ? どうしてリッピとフェンリルだけ現れたんだ?」

「その疑問に答えるには情報が不足してます。何故私達だけが再び主人(マスター)の元へ参じる事が出来たのかは不明です」

「分かった。ターンエンドだ」


 質問を中断し、自分のターンを終える。

 どうせ1ターン目は大した動きは出来ない。

 故に自分の現状を踏み固める為に、ダンタリオンへの質問を重視した。

 しかしダンタリオンも全てを理解している訳ではなく、満点の回答が帰ってきた訳では無かった。

 ターン終了宣言をした直後、再び世界が動き出す。

 値踏みをするかのように睥睨(へいげい)していた獣の邪神の欠片が、その狂爪でダンタリオンを引き裂くべく攻撃を仕掛けてくる。


「書架の魔女 ダンタリオンの効果発動」


 デッキから排出された、1枚のカードを引き抜く。


「デッキから1枚ドローし、互いにそのカードを確認する。ドローしたカードが呪文カードだった時、相手ユニットの攻撃は無効になる」


 ルールに従い、相手にそのカードを提示する。


「――ドローしたカードはカウンター呪文、天罰の(パニッシュメント)(フレア)。呪文カードをドローしたので、そのユニットの攻撃は無効だ」


 カードには疲弊と活性という状態が存在する。

 攻撃時にユニットは疲弊し、マナゾーンのカードからマナを抽出する際にマナゾーンのカードは疲弊する。

 疲弊したカードは基本的に自分のリカバリーステップに活性状態へと戻る。

 疲弊状態のカードからはマナを抽出出来ず、ユニットは攻撃を行えないし防御にも参加出来ない。

 ダンタリオンの効果が成功した事で、攻撃は無効になった。

 しかし攻撃が無効にされたからといって、ユニットが疲弊しない訳ではない。

 攻撃宣言を行った以上、ユニットは疲弊する。

 このターンの攻撃を、完全に防いだのだ。


 狂爪はダンタリオンへと伸びるが、その爪はダンタリオンを引き裂く事は無い。

 ダンタリオンの目の前の空間が歪み、まるで霞でも切ったかのように空振り、大地を砕いた。

 デッキからカードが飛び出し、再び世界が静止する。


「俺のターン、ドロー」


 手持ち時間がリセットされ、再び180秒の猶予が生まれる。


「マナゾーンにカードを置く(セット)、マナゾーンのカード1枚を疲弊させ、虹マナ1を得る――そういえば、以前の戦いの時に邪神の欠片の情報みたいなのが頭に流れ込んできたんだが、あれはどうなってるんだ?」

「……恐らく、主人(マスター)が確認したいと思考を集中すれば見れると思われます」


 ダンタリオンに言われた通り、意識を目の前の邪神の欠片に向け、効果を確認したいと請う。

 すると以前のように、邪神の欠片の情報が頭へと流れ込んでくる。



 名称:邪神の欠片

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:黒

 種族:獣/悪魔

 性別:不明

 パワー:4000

 1:【永続】このユニットは効果では破壊されない。



 これが、今目の前に居る邪神の欠片とやらの能力。

 以前と違ってステータスが変わっている。見た目が違うし、別個体という訳か。

 このテキスト通りの能力だというならば対処手段は即座に分かるが、分かるのと実際に出来るかは別問題である。

 効果で破壊されないという事は、さっきダンタリオンの効果でドローした天罰の(パニッシュメント)フレアはこの相手には通用しない。

 まあ、カウンター呪文は手札から普通に使用する際にはコストが重いのでこれは余り関係無いが。

 しかし以前見た邪神の欠片と違い、戦闘破壊する事が可能になっている。

 だがパワーは4000もあり、以前見た個体よりも数値が上がっており、この4000という数字が厄介であった。

 今、俺の場に居るユニットはダンタリオンのみ。

 ダンタリオンのパワーは3000であり、目の前の邪神の欠片に数値で負けている。

 もし1000低ければ、ダンタリオンに相討ち覚悟で突撃させて討ち取れたので、この1000という差が絶対的な差として圧し掛かっている。

 何らかの方法でダンタリオンのパワーを少しでも上げられれば、最悪相討ち覚悟のバトルに持ち込めるのだが。

 今、俺の手札にユニットのパワーを増減させられるカードが無い。

 いや、正確には1枚あるのだが、装備する対象が存在していないので結局これも腐っている。


「もし、発動出来ないカードを発動しようとしたりしたらどうなるんだ?」

「そもそものプレイ自体が出来ないはず。それが、主人(マスター)の持つこのエトランゼという力のルールなはずです」


 ズルは駄目、正々堂々という訳か。

 まあ、そもそも嘘や誤魔化しなんかする気は無いのだが。それはカード達に対する侮辱にも繋がるからな。


「この戦いの最中、何でこんな風に時間が止まってるんだ?」

主人(マスター)の能力の一端なんだと思う。落ち着いて主人(マスター)の能力を検証する状況があればもっと分かるかもしれないけど、今はこの位しか分からない」

「この時間が止まっているのって、世界全体が止まってるのか?」

「そう。主人(マスター)の力によってこの世界全ての時が停止している」


 マジかよ。


「この時間が止まっている間に、俺がこの場から逃げたらどうなるんだ?」

「この効果には有効範囲があると思われます。主人(マスター)が戦場から離れれば、そもそも効力が失われると思います」


 時間を止められるのならそのまま逃げれば良い、という訳でも無いのか。

 効果範囲とやらが分からないが、今回は逃げる気は無いのでこれは追々か。


 ――それに、逃げたらエルミア姫が悲しむだろうしな。


 遠くに居る、こちらに向けて走り出している状態で停止しているエルミア姫に視線を向ける。

 この国の事を話している時のエルミア姫は、とても輝いて見えた。

 その笑顔から、本当にこの国を思い、この国の人々を愛しているのだと感じた。

 それはとても眩しくて、温かい感情が俺の心にも伝わってきた。

 そんなエルミア姫に、俺も何かしてやりたいと。そんな事を考えている。


「……エルミア姫を、助ける――か。俺自身は、何にもしてないのにな」


 俺はただ、エトランゼというカード達の力を借りているだけに過ぎない。

 俺自身に何か力がある訳でもなく、カード達がただ一言、俺に「嫌だ」と言えばそれだけでただの凡人に成り下がる。


「それは違う。主人(マスター)が居るから、私達はこうしてこの場に立つ事が出来る。主人(マスター)が居なければ、私達もまた無力なんです。それに、主人(マスター)と一緒に戦うのは、私としても本望です」

「……そうか。ありがとうな、ダンタリオン。俺はこれでターンエンドだ」


 生憎、俺の手札は1マナで動ける手札が無いか、条件を満たさないカードだけ。

 それ故に特に目立った行動もせず、ダンタリオンとの会話にばかり時間を割いたのだが、今の所はこれしか出来ない。


 再び、世界の時が動き出す。

 初撃が空振りに終わった邪神の欠片は、間髪入れずにダンタリオンへと攻撃を加えるべく、今度は突進して体当たりを加えてくる。


「ダンタリオンの効果発動」


 俺は再度、邪神の欠片の攻撃に対しダンタリオンの効果を起動する。


「ドローしたカードが呪文カードの時、その攻撃を無効にする」


 このダンタリオンの攻撃無効効果は、デッキトップの内容に依存する為、通常は余り期待出来ない効果である。

 呪文カードを引ければ良いのだが、デッキ内容が呪文ばかりという奇抜なデッキはほぼ存在しない。

 通常、デッキはユニットと呪文がバランス良く混ざり合って組まれているものであり、公式の謳う理想配分は大体半々の比率である。

 デッキ枚数60枚が仮に半々のバランスだったなら、確率通りであらば呪文の数は30枚。

 ダンタリオンの効果が成功する確率も半々の50%であり、過信するには不安の確率である。

 しかし、今回俺はダンタリオンのこの攻撃抑止効果に少し期待していた。

 以前といい、今回といい。俺の手札にはユニットカードが舞い込んでくる事がまるで無い。

 仮にデッキが半々比率だったとしたら、これだけデッキからドローしておきながら、ユニットが1枚も手札に来ない。

 そんな確率、最早天文学的な数値になってしまい、考慮するまでもない値だ。

 故に現実的な考えとして、今俺が使っているデッキは異常なまでにユニットの数が少ないと考えられる。

 つまり、デッキ比率が呪文カードに物凄く偏っている。

 となれば、ダンタリオンの攻撃無効効果の成功率が凄まじく跳ね上がっている事になる。

 攻撃を止められても、カード効果で除去されてしまう事には無力なので、通常であらばこれでもダンタリオンの効果には期待出来ないが、あの邪神の欠片は効果による除去を有していない。

 ならば、この効果だけで数ターンに渡り攻防を繰り広げる事も可能だ。確率的に見ても、現実的な値の範疇。


「――ッ」


 だから、安心してドローした。

 そして、引いてしまう。


「ドローしたカードは、幻影家政婦 インペリアルガード……ユニットカードだ」


 今まで影も形も見えなかった、唐突に現れたとしか思えないユニットカードをこの状況でドローしてしまう。


「――ゴッ……!」


 肺から空気が漏れたような、ダンタリオンの苦悶の声。

 ダンタリオンの効果が失敗し、彼女の身体に巨体の突進が突き刺さる。

 身体の形こそ留めたが、まるで電車に撥ねられたかのような勢いで突き飛ばされ、本棚へと叩き付けられるダンタリオン。

 以前のリッピのように粒子となって消えていく。

 パワーで負けているのだから、効果が失敗すればこうなるのは当然の結果であった。


「……俺のターン、ドロー」


 デッキからカードが飛び出し、反射的に引き抜く。

 再び時が止まり、俺のターンが訪れる。

 ここでドローしたカードは、大賢者 マーリン。

 これもまたユニットカードであり、以前は一度も見なかったカード。

 この戦いの最中、次々に新たなユニットカードが手元へと舞い込んで来る。

 デッキ内容が豹変したとしか思えない程に。


「マナゾーンにカードを置く(セット)、マナゾーンのカード3枚を疲弊させ、虹マナ2と白マナ1を得る」


 これで計、4マナ。

 これならば、少しは動ける。


「俺は手札から幻影家政婦 インペリアルガードを召喚」


 古き良き、典型的なブリティッシュメイドの装いの女性が俺の目の前へと召喚される。

 長い黒髪は邪魔にならないよう後ろでしっかりと束ねられており、伏せられた目からは自分自身が目立たないよう謙虚に勤めているように感じられる。

 このユニット自体では、あの邪神の欠片を倒す事は出来ない。

 それでも、時間は稼げる。


「――スバル殿! 今すぐ武器を取ってくる! それまで耐えててくれ!」


 エルミア姫の声が聞こえてくる。

 ここに来た時は、エルミア姫は丸腰であった。

 街中だし、図書館に行くだけなのだから武装の必要は無い以上、別に不思議な所は無い。


「……何故、貴女はこの状況で動けるのですか?」


 行動原理に不思議は無い。

 しかし、状況に不思議有り。

 つい今しがた召喚した、幻影家政婦 インペリアルガードから疑問の声が上がる。


「えっ……? あの、どうかしたのか?」

「……御主人様(マスター)の行動中、世界の時間は止まるはずなのですが……」

「あっ」


 インペリアルガードの疑問を理解する。

 何かがおかしい、その何かが分かる。


 ついさっきまで、俺のターン行動中。

 エルミア姫は駆け出している動作の途中で一時停止ボタンを押したかのように停止していた、それは確かだ。

 でも、何故か今は俺のターン中にも関わらず、エルミア姫は止まらずに動いている。

 自分に与えられた、ターン内思考時間も変わらず動いている。

 そして、邪神の欠片は動画を一時停止したかのように止まったまま。そこは何も変わっていない。


御主人様(マスター)。ダンタリオンからの情報を加味した上で、このエルミア姫という人物は御主人様(マスター)の戦いの効果範囲に入ったのではと、私は判断しますが如何でしょうか?」


 そういえば、ダンタリオンは俺のこのエトランゼによって効果を与えられる範囲がある、みたいな事をさっき言ってたな。

 エルミア姫が、俺の近くに来たから効果範囲に入った?

 でも、邪神の欠片はエルミア姫より近くにいるのに止まったまま。

 エルミア姫と邪神の欠片の違い。

 ……敵か、味方か?


「エルミア姫が、俺の味方として、ユニット判定でフィールドに居る……?」


 それを確かめる手段はある。


「……インペリアルガード。お前の効果をエルミア姫を対象に発動する事は可能か?」

「可能です」


 可能だという判断をインペリアルガードは下す。

 このユニットの効果はユニットが対象だ、それ以外は指定出来ない。

 だが発動出来るという事は、今エルミア姫がユニット扱いとして俺の盤面に存在している事の証左だ。

 エルミア姫の方向へ意識を向けると、今まで見えなかったはずのエルミア姫の、ユニットとしての数値や効果が頭の中に浮かび上がってくる。

 何故、なんてのは今はどうでもいい。

 この情報通りだとすると、何が出来る?


 ――邪神の欠片を、このターンで始末出来る。


「……いや、それはいくらなんでも無いな。止めておこう」


 それは、エルミア姫を俺のエトランゼという戦いに巻き込むという事。

 そんな事をせずとも、この戦いは勝てるはずだ。

 既にマナゾーンのカードが蓄積されてるし、勝手に現れている以上、俺のデッキにはフェンリルが居るはずだ。

 盾も全て生きてるし、ライフも初期値。

 適当に邪神の欠片の攻撃をいなしつつ、フェンリルを引けば、あいつの効果でこの邪神の欠片は始末出来る。


「どうかしたのかスバル殿? 何だか状況が理解出来ないが、もしかしてこの邪神の欠片に対して何か手立てがあるのか!?」

「……今すぐ邪神の欠片を倒せる手段があるってだけです」

「本当か!?」


 こんな事、口にするべきじゃないって事は理解してる。

 エルミア姫と、今まで行動してきて。彼女は邪神の欠片相手ならば、例え勝ち目が無くても突っ込んでいくだろう。

 良く言えば勇敢であり、悪く言えば猪突猛進とも言える。

 だから、こんな思わせ振りな事を言えば、エルミア姫は必ず食い付いて来る。

 そう理解していてそれを口にするのだ。言っている自分が嫌になる、反吐が出る。

 だけど、何故だろうか。自然と、その言葉が口に出てしまった。


「エルミア姫の力を借りられるなら、あの邪神の欠片をこのターンで倒せます」


 ユニットには文明という分類が存在し、その分類を含めて様々な大分類、小分類で区別されている。

 その分類が少し違う、召喚コストが少ない、パワーが高い、効果が優秀。

 そんな様々な分類によって、カードは個性を得ているのだ。

 文明というのはかなり大きな分類であり、文明を発動の条件として要求しているカードもまた、相当数存在する。

 ダンタリオンの文明は青、インペリアルガードの文明は黒。だが――



 名称:姫騎士 エルミア

 分類:ユニット

 プレイコスト:白○

 文明:白

 性別:女

 種族:人間

 カテゴリ:騎士/王族

 マナシンボル:白

 パワー:3000

 1:???

 2:???

 3:???



 エルミア姫の文明は、白。

 その文明の違いが、分水嶺。

 何故かユニット効果が見えない状態だが、ここは今回考慮に入れない。

 そもそも、効果無しのバニラユニットだったとしても勝てるのだから。

 この見えない効果が、自身に悪影響を及ぼすデメリット効果でさえなければ、勝てるのは確定している。


「なら、私にも協力させてくれ! 邪神の欠片を倒せるというのなら、例えこの身が倒れようとも本望だ!」


 強い――俺には無い、熱い炎を宿した目でこちらを見詰めるエルミア姫。

 こんなにも強い、熱い思いを無為にしたくないから。

 だから、俺は口にしてしまったのかもしれない。


「……なら、お願いしても良いですか?」

「無論だ!」


 目の前の邪神の欠片を倒す切り札――俺からすれば、些細な一枚を手札から発動する。


「手札から装備呪文、浄滅(じょうめつ)神槍(しんそう)を姫騎士 エルミアに装備」


 装備呪文。

 それは呪文カード内における分類の一つであり、ユニットを対象にして発動する呪文。

 名前の通り、ユニットに装備される呪文であり、そのユニットがフィールドに存在している限り、ユニットに付随し続けるカードだ。

 特例を除き、原則的にそのユニットがフィールドを離れるまで紐付けられ、ユニットが離れる時に一緒に破壊される。


「装備ユニットは白文明。第一の効果で、装備ユニットのパワーは+1000」


 装備するだけで、パワーをプラス1000。

 これで、邪神の欠片に並ぶ。


「装備ユニットは人間族。第二の効果で、装備ユニットのパワーは更に+1000」


 第二条件である人間族を満たし、姫騎士 エルミアのパワーが計2000アップ。

 これで、邪神の欠片のパワーを上回った。


「こ、この槍は――!?」


 装備呪文を発動した事で、エルミア姫の手に収まった槍。

 その槍を目にし、目を見開いた。


「凄い……! 持っただけで、力が腹の底から溢れて来るかのようだ……! これならば!」



「では、エルミア姫。この邪神の欠片を倒して頂きたいのですが、準備は良いですか?」

「わ、分かった! 任せてくれ!」


 使い勝手を確かめるように、手にした槍を軽く振り回した上で、エルミア姫は腰を落とし、構えを取る。

 ……エルミア姫に頼らずとも、この戦いは勝てるのに。何で、エルミア姫を戦いに巻き込んだか。

 敢えてその理由を探すのであらば……


 前の邪神の欠片、エルミア姫にとっての仲間の仇は、俺が倒してしまった。

 その弔い合戦、華を持たせてやりたい……そんな所、なのだろうか。


「――バトル」


 その声と同時に、再び世界が動き出す。

 邪神の欠片は、一番近くに居たエルミア姫に向かって、その強靭な顎門で身体を食い千切ろうと首を伸ばす。

 それを、一足飛びで宙へと逃れる。

 宙から、自らの体重を、落下の勢いに乗せる。


「第一、第二の効果が適用されており、装備ユニットが黒文明とバトルする時、第三の効果で、装備ユニットのパワーは更に+1000」


 ダメ押し。

 これでエルミア姫のパワーは6000。

 邪神の欠片のパワー4000を更に上回る。

 エルミア姫の、裂帛の怒声が上がる。手にした浄滅の神槍は輝きを増し、不浄を払う力を解き放つ。

 槍の鋭い閃きは流星の如く伸び、邪神の欠片の頭部へと突き刺さる。

 この一撃が致命傷となったか。

 邪神の欠片は、その体躯に溜め込んだ闇が弾けるかのように、無数の粒子を撒き散らし、虚空へと霧散していくのであった。

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