106.帰還は可能?
「そう言えば、もう元の世界に戻れるようになってたりしないのかな?」
それは、ふと湧いて出た疑問であった。
フィルヘイムでダンタリオンと話した、元の世界――地球へと戻る手段。
カード達の中には、次元干渉が可能な能力を有している者も存在する。
あの時と比べて、今では非常に沢山のカードが手元に戻ってきた。
その中には、追放ゾーンに干渉する、次元の狭間に逃げ込むといったカードなんかも多数存在している。
そいつ等の効果を利用すれば、俺はもう地球に戻れるのではないのか?
「その辺り、どうなんでしょうか?」
「……どうなんでしょうかね?」
首を傾げる異次元ツアーガイド。
問いを向けた彼女が正に、そのタイプの効果を持っているユニットなのだ。
自分を、他者を、追放ゾーンへと案内するツアーガイド。
以前の戦いでも、空間に生じた亀裂に身を投じ、何度もこの世界から消えていた。
あれこそ空間移動系の能力なのではないか?
「御客様の能力支配下では問題無く出来たんですけど、それ以外の状態でやった事無いから分からないですね」
――まあ、今の現状では責任を果たしたとは言い難いから、今すぐ戻るとは言わないが。
カード達が責任を取る場所を用意する、邪神の欠片を倒すというのが、俺の果たさねばならない責任だ。
それを放り出して、今すぐ帰るなんて選択肢は存在していない。
もしそれで、地球に帰る機会を永久に失したとしても、今は帰らない。
自分の都合でポイポイ放り投げて反故にするようなモノは、責任とは呼ばない。
だがしかし、今すぐは帰らないにしても、帰れるのかどうか、という点を確かめておく事には越したことはない。
「――あれ? ん……?」
ツアーガイドが首を傾げる。
何か、あんまり期待出来そうな雰囲気じゃない。
「どうだ?」
「うーん……駄目ですね、移動出来ないです」
そうか、駄目だったか。
帰れたとしても今は帰らないと決めてたから、そこまで落胆もしなかったが。
「何か、変な感じですね……出口を重たい岩で塞がれてるような、そんな感じです」
ツアーガイドによると、彼女自身の能力自体は発動しているらしい。
無効にされるといった、発動すら出来ていない状態ではないようで、能力自体は生きている。
だが入り口を用意出来ても、出口が発生せず、結果的に移動が出来ない状態……らしい。
何故そうなっているかという理由に関しての問いには、首を横に振った。
理由までは分からないらしい。
聞いてる感じだと、ツアーガイドの能力に問題があるというより、他の外的要因の方に問題がありそうだな。
出口を塞がれているような感じ、というツアーガイドの表現的にもそういった印象を受ける。
……物理的に塞がれてるとかなら、ディメンションドラグネーター辺りで無理矢理ぶち壊して抜けないかな?
まあ、アイツ所か七天竜がだーれも手元に戻って無いから、ただの空論でしかないが。
その後、マティアスからの提案でアサルトホライゾンの持つ次元移動能力と、その解析能力を利用して更に調査を進めた。
アサルトホライゾンも追放ゾーンに関わる能力を有しており、次元移動が可能な効果持ちなのだが、それでも移動は失敗に終わった。
そうか、アサルトホライゾンでも無理なのか……
そうなると、そもそも本当に戻れるのか? という疑問が浮かんでくる。
「――何かが蓋をしている、って感じがしますね……」
一通り、興味のままに調査を終えたマティアスがそう結論付ける。
ツアーガイド同様の表現であり、カード達の能力が原因ではなく、他の外的要因で移動が出来なくなっている、というのが回答のようだ。
その蓋とやらが無くなれば、今すぐにでも地球に戻る事は可能、らしい。
「……そもそも、旦那様だけじゃなくて他にもこの世界に現れた勇者とやらが居たのだろう? そいつ等は最終的にどうなったのだ?」
「図書館に置いてある本の情報だと、最終的に勇者は邪神の欠片を滅ぼし、何処へと姿を消した……って表現で終わってるけど、勇者とやらの雄姿や戦歴にしか興味無い大衆向けの話としてはそれで良いんだろうけど、勇者のその後を知りたい私達からすれば不親切極まりない書き方だよね」
「エルミア、お前は何か知らないのか? フィルヘイムという国は、先代勇者とやらの力で興されたのだろう? 何か、王家だけに伝わる秘密とかは無いのか?」
「そ、そうは言ってもだな……私が知っているのも、広く知られている勇者の英雄譚程度の内容でしかないぞ?」
アルトリウスとダンタリオンの追求を受けたエルミアだが、彼女達が納得するに足る情報はエルミアも持っていなかった。
エルミアの暮らしていた、聖騎士国 フィルヘイムという国は、ヤマトという男が興した国だという。
その勇者ヤマトという人物は【グランガイア・オンライン】なる、MMORPGというジャンルのゲーム内での現象を実際に起こす事が出来たらしく、その力を使って邪神の欠片と激闘を繰り広げたらしい。
その男が遺していった装備が多数フィルヘイムにはあるらしく、その大部分はエルミアを含む、フィルヘイム王家に代々受け継がれていった。
「――勇者ヤマトが最終的にどうなったかというのも、良く分かっていない。かなり昔の話だし、最終的に邪神の欠片を束ねる諸悪の根源である"魔王"を討って姿をくらませた、という伝記が残ってる位だが……」
「結局それも、書籍に残ってる何人もの勇者達の結末と同じ、って訳ね」
勇者ヤマトが現れたのは、かなり昔の話らしい。
その男は勇者としては三番目に現れた勇者らしく、その頃はまだ文献を長期に渡って維持出来るような環境が完全に整ってはおらず、幾度も邪神の欠片との戦いによる戦禍で失われてきたようだ。
口伝や又聞きなんかで情報が受け継がれてはいたようだが、その影響で結構な情報が抜け落ちたのだろう。
今でこそ、何人もの勇者が遺した置き土産の力によって、各国の首都に限ればかなり平和であり、邪神の欠片が現れても深刻な被害を及ぼす前に退治出来ている。
昔はそこまでの戦闘能力が無かったから、情報を書き記した書物なんかもちょくちょく邪神の欠片との戦いで失われてしまった――という所か?
地球にある国だって、三百年位昔にもなれば内乱や戦争によって崩壊したりして、貴重な文献が無くなってしまう事は珍しくない。
この世界でも、そうなってしまったのだろう。
尚、歴代の勇者は七人居たらしく、俺は八人目だとの事。
「"魔王"ねぇ……そいつを倒せば元の世界に戻れる、って事なのかな?」
「邪神の欠片は、その"魔王"が生み出しているという説もある。なら、邪神の欠片を追って行けば、いずれその"魔王"にも辿り着けるかもしれないな」
「……私としては、この世界に来る直前に聞いたあの声の方が気になるな。案外、あの声の正体が諸悪の根源だったりするんじゃないか?」
……アルトリウス達は議論を重ねているが、それも推測の類。
結局、今回分かった事は二つだけだ。
一つ、地球に戻る事は出来ない、少なくとも今は。
二つ、戻れない原因はカード達という内的要因ではなく外的要因、この世界に何らかの原因がある。
この二点だ。
戻れないというのなら、仕方ない。
今まで通り、俺達は現状維持の方針で動く事にするだけだ。
歴代勇者は皆、何らかのゲームの現象を実際に起こせる能力を有している。
エルミアの国はMMORPGの系列だった模様。




