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104.新たなる船出

 ――交渉に関しては、ダンタリオンに一任していたので、俺はそれを横目で見ていただけなのだが。

 啖呵と脅しで威勢良く相手を張り倒していたように見える。

 あれで本当に争いの火種消せてるのだろうか? 油注いでるようにしか思えなかったけど。

 後三日で出て行くと公言し、そして実際その通り、マティアスは俺の頼みを成し遂げてくれた。


 俺達は今、ドリュアーヌス島ではなく、洋上に居る。

 既に島は水平線の向こう側へと消え、潮風と陽光を全身で受けていた。

 大海原を掻き分け、グランエクバークの地から離れ、公海を目指して進んでいるが、その速度は然程早くない。

 と、思う……周囲に海と雲しか無いから、速度がイマイチ分からない。


 ……いや、こんな物が高速で進めたら恐ろしいにも程があるけどさ。

 何か、俺の予想してた船と全然違う物が出来てるんですけど!


「――主任(マスター)の世界にも存在する技術ですけど、今回作ったのはメガフロートという物ですね。これが船なのかと言われると少し疑問があるのですが、一応自力で航行する事が出来るので、船としての体裁は整えられているとは思いますよ。これから先、ある程度人や物が増えたとしても、抱えて置ける程度のスペースは確保出来てるはずです」

「……旦那様(マスター)が寝泊まりする場所にしては随分とこぢんまりとした代物だが……まあ、この程度が及第点だろうな」

「可能ならもっと大きくしたかったんですけどねぇ……流石にこれ以上は重量過多ですね」


 アルトリウスさん? これでこぢんまりは感覚バグってますよ?

 そしてマティアスお前、可能なら更にデカくする気だったのか。


「所で主任(マスター)。このメガフロートのスペック聞きたくないですか? 聞きたいですよね?」


 マティアスが自分の作ったこの船の解説を凄くしたそうで、鼻息が荒かったのでその説明に付き合う事にした。

 自分の話したい事を一方的に話してる時だけは饒舌なんだよな、普段は挙動不審なレベルでビクビクしてるのに。



 マティアスが作ったメガフロートという代物は、俺も名前位は聞いた事がある。

 人工の浮島、位の知識しか無いが。


 縦3キロ、横2キロの長方形体であり、全5層から成る巨大構造物。

 合計面積は30キロにもなる巨大な敷地……いや、海上だから敷地という表現は不適切か?

 大型百貨店が海に浮かんでる位のとんでもない規模の代物だ。

 ここまで大きくする必要、あったの?

 こんだけデカいのに、何でもっと大きくしたかったって感想なの?

 最大速度は30ノット程出るらしい……ノットって、時速何キロなんだろう?

 そして、エネルギー消費量の都合上長時間は不可能だが、一時的な飛行も可能となっているらしい。

 ……これが飛ぶって、マジかよ。

 浮島ってそういう意味じゃねえぞ、フロートは空中に浮くって意味じゃないからな? それはフロートじゃなくてフライって言うんだ。

 第1層、メガフロートの最上部は巨大な滑走路となっており、ここで航空機の離着陸が可能となっている。

 第2層以降の下の階層が、俺達が寝泊まりする居住スペースとなっており、拡張性を持たせる為にある程度の広さを確保してある。

 今後はここで俺達は暮らす訳だが――


「まあ、時間が無かったので内装はまだないそうです。……ま、待って下さい! じょ、冗談ですって! ぼ、暴力反対!?」


 マティアスは逃げ出した! しかし捕縛されてしまった!

 身体能力クソザコの技術者ではアルトリウスの足には勝てなかったようだ。

 ダンタリオンが急かした為、間に合わせる為に主要な機能だけを最優先で作り、居住スペースのような、洋上でも作業可能な部位に関しては未完成のまま出港する事となった。

 内装、各種部屋に関してはこれから製造を開始するらしい。

 また、俺が必要だと思った物に関しては最優先で建造してくれるとの事。


 ダンタリオンがグランエクバークのお偉いさんを恫喝して、こっちに余計な手出しをしないようにさせたし、ドリュアーヌス島からも既に離れているので、不法占拠状態も解消されており、グランエクバークで起きた諸々の騒動に関しては、一応は一件落着した、と考えて良いだろう。

 ネーブル村を発端に始まり、次々に発生した事件も、これでようやく終わりを迎えられた。

 屋敷に囚われていた、女性達の処遇をどうするかという問題がまだ残ってはいるが――もう、火急の事態は存在しない。

 こちらに関しては、ゆっくりと解決していけば良いだろう。

 海上に出てしまえば、彼女達の故郷の近くまで移動して、送り届ける事も出来るようになっただろうからな。


 また、これ程の巨大な構造物を動かせる動力とは一体何なんだと思ったが――動力源は、超時空戦艦 アサルトホライゾンに内蔵されていたIEコアなる代物を使っているらしい。


「……そういえば、IEコアとかいうやつでマティアスがめっちゃテンションが上がってたのは見たけど、IEコアって何なの?」


 それをマティアスに質問した所、とんでもねえ回答が返って来た。

 IEコアの正式名称は――インフィニットエネルギーコア、らしい。

 インフィニットって、おい。

 そのコアを中心にして、このメガフロートを建造した為、その特性もアサルトホライゾンの要素が強く出ている。

 インフィニットエネルギーコアを使用している為、利用可能なエネルギーは実質無限。

 その為、何処かに寄港せずとも、船体が無事な限り、永久に海原を航行し続ける事が可能となっている。

 船体が壊れたら流石に修理する必要がある――かと思いきや、コアさえ無事なら修理も必要無いらしい。

 何故かと聞いた所、このメガフロートはアサルトホライゾンの特徴が強く表れている。

 多少船体が壊れた所で、0時になると同時にインフィニットエネルギーコアの作用により、船体が"巻き戻る"らしい。


 ――超時空戦艦 アサルトホライゾンの第一効果には、自身にカウンターを乗せる効果がある。

 そしてそのカウンターの数まで、破壊を免れる。

 てっきりあの効果は船体が破壊されても修理してるんだろうなとか、エネルギーバリア的なものの残数なんだろうな、と思っていたんだが……アレ、修理じゃなくて時間を巻き戻してたの!?

 驚愕の新事実過ぎるんだが。

 単身で宇宙へ飛んで行ける宇宙戦艦というだけで超技術過ぎるのに、時間巻き戻しとか、お前どんだけハイスペックなの?

 実際に使うとあの効果、ワンテンポ遅れて微妙に使い辛いのに。

 天罰の(パニッシュメント)(フレア)とかにぶっ飛ばされるアサルトホライゾンはもう見たくないです。


 船体が巻き戻るという特性上、このメガフロートには一切の修理が必要無い。

 潮風や波による浸食も含めて、24時間毎に毎日新品同様の状態にまで巻き戻るからだ。

 外的要因で何処かに故障が発生したとしても、それも24時間で元通り。

 俺が生きてる間位は持ってくれれば良いな、程度の頑丈さを求めていたのだが、これマティアスが言ってる通りだと永久に沈まないよね?

 船を超越した、何か得体の知れない物をこの世界に生み出してしまったのかもしれない。



 洋上に出てから、一日が経過した。

 まだこのメガフロートは未完成の為、海の上でもマティアスは忙しなく動き回っている。

 一日で成したとは思えない程の部屋数と設備が出来上がってるんだけど。

 そんな突貫工事で大丈夫か? 多分大丈夫なんだろうなぁ……

 例え身体能力が他のカード達と比較してゴミクズ同然でも、技術者という枠組み内で動いている分にはマティアスは有能だからな。

 突貫工事でヘマなんていうしょうもないミスはしないだろう。

 それと理由は不明だが、先の戦い以降、俺の使用出来るマナ数が10にまで増えた為、マティアスの気が済むまでこのメガフロートの開発をやらせる事にした。

 マティアスは所詮、1マナだからな。

 常に出しっ放しにしていても、まだ9マナの範囲でカード達が自由に動ける。

 島を出る前に、積み込める資材をありったけ詰め込んで来たらしいので、その開発資材が尽きるまでは補充も必要無い。

 内装が無い状態も、その内解消されるだろう。


「――それで、これからどうしますか旦那様(マスター)?」

「まず最初にしなきゃいけない事は、あの女性達の処遇を決める事だな」


 メガフロートの最上層、陽の光と潮風が吹き抜ける、今は何も無い空間をアルトリウスと共に、のんびりと歩く。


「帰りたいのか、それとも帰りたくとも帰る場所が無いのか。帰るのならば帰る場所で暮らすにあたって先立つ物を用意する必要があるし、帰る場所が無いのなら、ここに定住したって良い」


 そこまでやって、ようやく責任を取ったという事になるのだろう。


「――主人(マスター)、計測終わったよ」


 潮風で帽子を飛ばされないように頭を抑えながら、ダンタリオンが本に腰掛けた状態でふわふわと飛んで来た。


「どうだった?」

「リッピに飛んで貰ったんだけど、マーリンレナードの辺りまで飛べちゃったみたい。ざっくりだけど、大体約50キロ位まで行動限界距離が広がってるね」


 マナ数が増えると、カード達が出られる上限が増えるのもあるが、俺を中心としてカード達が移動出来る範囲も広がる。

 今、カード達が俺から離れられる距離が――50キロ。


「もうここまで来ると、わざわざ主人(マスター)に足労願う必要すら無さそうだね。この船で目的地近くまで移動してしまえば、別に主人(マスター)が船から降りなくても、普通に上陸して邪神の欠片を探せそうだよ」


 ダンタリオンの言う通り、ここまで距離が増えるとカード達の移動に合わせて俺が動く必要がほとんど無い。

 洋上に居たまま、カード達が好きに動いて、様々な国に上陸する事も出来る。


「なら、平行して邪神の欠片捜索も出来そうだな」


 女性達の処遇を決める事と、もう一つ、俺が果たさねばならない責任。

 それが、エルミアが願った邪神の欠片の討伐だ。

 神出鬼没で、一度現れては人々に消えない傷跡を残していく――生きる災害。

 これに関しては、手掛かりがまるで存在しない。

 手掛かりが無いのだから、やれる事と言えば闇雲に足を使って探す、位だ。

 まあ、こっちに関しては地道にやるさ。

 そして捜索には、カード達の力を借りる。

 見付からなくて空振りでも良い。

 それはそれで、カード達に自由を与えられるからな。


「なんにせよ、これでやっと、急ぎの用事が無くなった訳だ。久々に、ゆっくりと出来そうだな」


 時間に追われる事が無い、人々の命も掛かっていない。

 この異世界、エイルファートに迷い込んでから、久々に訪れた静かな時間。


「それなら、久し振りに二人きりの時間を満喫出来そうですね」

「は? 何言ってんのコイツ?」

「悪いが旦那様(マスター)は私が先約済みだ、本が潮風でふやけない内にとっとと帰るんだな」


 ……訂正。

 静かな時間は、当分来なさそうだ。



 カード達が引き起こす、賑やかな時間。

 その喧騒が、晴れ渡った洋上に響き渡るのであった。




第四章~黄昏の大帝国~、完!


火急の事態が全て片付いたので、第五章は日常回となります。

(日常回だが戦闘が無いとは言って無い)

一話で終わるような短い話が多くなると思いますが、代わりに今まで程は待たせないと思います。

チマチマと書いて行きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い。五章も期待してます。 [一言] この主人公は別口の邪神やらなんやら召喚できそう。
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