101.敗北
一体、何が起きた――!?
正体不明の不審人物を捉え、交戦を開始。
当初は兵器の火力と物量で圧倒しており、何らかの魔法の発動を感知したものの、その魔法の破壊にも成功。
相手はただ逃げ惑うのみであり、反撃する素振りすら無く、抱いていた懸念は杞憂だった。
このまま何事も無く、終わりを迎えるのだと思っていた。
だが、あの浮島のような物が出現してから、状況が急激に変化した。
今まで届いていたはずの爆撃が、砲撃が、空間に波紋を立てるのみで、その先に届かなくなった。
恐らく、あれも魔法による所業なのだろうが――あれ程の大破壊を易々と受け止めるような魔法が、この世に存在するのか?
更には、あの――機械仕掛けの恐竜のような存在。
我が軍にも二足歩行型の陸戦兵器が存在するが、その亜種のようなものなのだろう。
奴が放った青い閃光が、この艦隊以外の全てを飲み込んでしまった。
そして――
「――ジルコニアとの通信、途絶!」
「リゼット、シャーロットからの応答、ありません!」
この、惨状だ。
旗艦――第三皇子が搭乗していた、空母からの応答が無い。
呼び掛けに対して沈黙が帰って来るばかりであり、兵達にも動揺の様子が見て取れる。
あの光は、船自体にダメージを与えてはいないように見える。
だがアレは――私達に対する攻撃だったのだろう。
そうでなければ急に戦闘機が次々に墜落し、目視確認出来る距離で通信不良になるなど、有り得ない。
あの浮島がある限り、こちらの攻撃は一切届かない。
あの機械竜の口に光が灯る時、私達は――
「レイヴン少将! 御指示を!」
だからといって、一体私に何が出来る――!?
援軍を要請するか……?
馬鹿な、そんなもの間に合う訳が無い。
そもそも、第三皇子が功を横取りされぬよう、他の皇子達の手勢が横槍を入れようにも、絶対に間に合わないタイミングで仕掛けたのだ。
それはそっくりそのまま、救援が絶望的である事を示している。
逃げるか? そもそも逃げ切れるのか?
こちらに向けられている脅威は、光線だ。
そんなモノ、こんなのろまな船速で逃げ切れる訳が無い。
ならば、戦うのか?
あれだけの戦力で行った総攻撃で倒し切れなかった相手を、この残り僅かの戦力で倒せるのか?
今までの戦いで、実は相手が疲弊していて、あと一押しで勝てる……そんな可能性。
――とてもそうは、思えない。
確証はない、私の勘でしかないが。
あちらにはまだまだ余力が残っているように感じられてならない。
ここで突っ込むのは、自殺行為のように思える。
部下達に死ねと言っているようなモノだ。
私達は、軍人だ。
それが上からの命令であらば、必死の命でも従わねばならない。
だが今、この場における最高責任者は――
「――――降伏、しよう」
「少将閣下!?」
「見ただろう、今の光景を。旗艦からの返答は無い、他の船も、先程の閃光を浴びてから不気味なまでに静まり返っている。そもそも、あれだけの打撃を叩き込んで倒せなかった相手を、この僅か三隻で倒せると思うのか?」
兵達からの返答は、無い。
私だけでなく、他の兵達も今の異常な状況、窮地を感じているのだろう。
「貴官らに責任は無い。これから行う事は、全て私の独断であり、責任は全て私が負う。私からの命令が無い限り、これからは一発たりとも撃つ事を禁ずる」
厳命した後、マイクを手に取る。
来た時に発生していた暴風雨の中では届かなかっただろうが、快晴の今であらば、拡声器で相手にも声が届くはずだ。
『――こちら、グランエクバーク第四艦隊所属、レイヴン・マックハイヤー少将だ。我々は投降する、戦闘を中止して欲しい』
降伏の意を、相手側に示す。
返答は、無い。
不気味な程に静まり返った船内。
島全部を更地にする程に、やりたい放題攻撃しておきながら、降伏するという言い分は流石に通らないか?
だが、だからといって戦ったならば敗北は必至。
もう既に、勝敗の天秤は完全にあちら側に傾いたのだ。
これ以上の戦闘は、無駄死にと同意義だ。
だが、相手からの攻撃が何時までも来ない。
相手がその気ならば、もうとっくに攻撃されていてもおかしくないのだが。
降伏宣言が嘘で、不意打ちをしてくるのではと、疑っているのか?
だが、疑っているという事は、悩んでいるという事でもある。
敵の言い分を聞く気はないと断じるような相手ならば、悩む必要も無いし、即座に攻撃されてそれで終わりだ。
そうなっていないという事は――交渉の余地がある、という事か?
状況に、変化が訪れる。
巨大な浮島と機械竜が、そこで映像を停止したかのようにプッツリと、姿を消した。
直後、こちらに向けて飛来する、小さな影。
その影は真っ直ぐにこちらに向けて飛来し、恐らく甲板に着地したのだろう。
一分か二分、経った頃だろうか?
「――最高責任者は何処?」
操舵室に姿を現した、本を抱えた一人の少女。
黒皮のブーツでカツカツと床を叩きながら、黒いとんがり帽子を取る事なく、挨拶もせず、ただただ要件のみを突き付けてくる。
一部の兵が銃を抜いて突き付けたが、銃を降ろすように厳命する。
そして、銃を突き付けられたにも関わらず、全く意に介さない少女。
体格だけ見れば、私含めてここにいる誰であろうとも、サシで取り押さえられそうな程に華奢な姿。
だが先程、この船まで単身飛んで来たのはこの少女なのだろう。
魔法の使い手を、見た目だけで侮るような間抜けはこの船に存在していない。
「君が、あの島を占拠していた――新たな勇者、という事で良いか?」
「私は、最高責任者は誰だと聞いているの。さっさと答えて」
一方的な言い分。
こちらの質問に答える気は無し、か。
「……最高責任者は、空母ジルコニアに乗船中のアレハンドロ・グラン・エクバーク第三皇子だが――通信途絶の為、現状は私が代行して指揮を取っている」
「あっ、そう。主人がこの船団以外は駆逐したって言ってたし、貴方が最高責任者で間違い無いよ」
――駆逐した。
そう、あっさりと少女は言ってのけた。
やはり、先程の青い光は攻撃だったのだ。
船体にダメージがあるようには見えないのに、駆逐――つまり撃破したという事は、船では無く、搭乗員自体に直接作用する攻撃という事か?
そして目の前の少女は、それを成した人物の手の者という事になる。
「取り敢えず、生き残ってる船は全員船着き場に接岸して。その後は、私達の指示に従って貰うわ」
「分かった」
「少将閣下! 流石にそれは――」
「良いんだ、テレジア大尉」
口を挟んで来たテレジアを黙らせる。
要らぬ混乱を起こす必要無し、それに責任は全て私が取るから、忠言も諫言も必要無い。
「ただ、これだけは聞いてくれ。私は、部下の命を預かる責任者の立場だ。先程投降を提案したのも、これ以上兵達から犠牲を出さない為だ。だから、部下達の命と待遇を保証して欲しい、それが叶わぬのであらば、投降する意味が無い」
「……それは、私の独断では了承致し兼ねる内容ね。だけど元々、主人は向かってくるなら潰すけど、逃げるなら追わない、っていう方針だったからね。余計な事をしなければ、問答無用で皆殺し、なんて事態にだけはならないと思うよ」
「そうか。配慮痛み入る」
「感謝も恐縮も必要無いよ。逃げるなら追う気は無かったけど、用事が出来たから貴方達に働いて貰おうって話になっただけだからね」
「用事……一体、どんな用事だ?」
「別に警戒する必要は無いよ。貴方達だって、出来ればしたいだろうからね」
少女は操舵室にある、数少ない座席に腰を下ろしつつ。
「――身内の遺体回収、したいでしょ?」
真顔でそう、口にした。




