100.これが"カードゲーマー"の大戦隊 -2-
さて、裁きの天剣が失敗した以上、3枚目の裁きの天剣を使う意味は無くなったな。
どうせ耐性で防がれて終わりだし、戦闘機は何の効果も無いトークンだ、いくら増えても太古の超魔導都市は抜けない。
「ならば、黒マナ1と虹マナ1を使用し、手札から2枚目の戦力の逐次投入を発動。疲弊させ、デッキからユニット1体を召喚する」
揺らぐ空間。
再び現れる、巨影。
「――超時空戦艦 アサルトホライゾンを召喚」
されど虚栄。
戦闘能力は無く、このままでは戦えない。
「俺はこれで、ターンエンドだ」
再び相手にターンを渡すが、最早相手の攻撃の一切が届かない。
今までの焼き直し。
太古の超魔導都市:カウンター数 3→15
カウンターがたっぷりと溜められ、それだけで相手の攻撃は終了してしまう。
攻撃するだけ無駄所か不利益でしか無いんだが……それに相手は気付いて無いんだろうな。
「俺のターン、ドロー。リカバリーステップ――」
そしてこれが、2回目のリカバリーステップ。
「ここで、ツアーガイドによって追放されていた最終兵機神 リアクター・ドラゴンがフィールドに帰還する」
走る空間の亀裂。
その隙間から、土埃を立てながら一歩、また一歩、異形が姿を現した。
シルエットだけ見れば、腕の無いティラノサウルスのような姿。
だが実像は、そんなモノとは到底かけ離れていた。
常に響く、不気味な重低音。
全身の至る所に配置された排気口からは常に熱気が放出され、全身が陽炎で歪んで見えた。
動く金属の塊、そしてその動力は――原子力。
その巨体は目の前に存在する戦艦と比較してもなんら遜色無く、これが地上で歩くというのだから、恐るべき科学力と言う他無い。
「最終兵機神 リアクター・ドラゴンの強制効果発動。その後にツアーガイドも帰還し、メインステップ。リアクター・ドラゴンの効果発動」
太古の超魔導都市が盾ならば、リアクター・ドラゴンは剣。
今まではずっと防御側だったが――これでやっと、俺も攻撃出来る。
3:【起動】【コスト】このユニットを疲弊させる
【効果】相手フィールドのユニット1体を選択し、そのパワーを5000ダウンさせる
「自身を疲弊させる事で、相手ユニット1体のパワーを5000ダウンさせる」
目標、旗艦空母 ジルコニア!
さっきから何度も戦闘機発進させて、目障りだからな。
増援を呼ぶ奴を真っ先に潰すのは、アドバンテージを考えるカードゲーマーからすれば当然の判断だ。
だからこそお前だって、俺の戦力の逐次投入を破壊してきたんだろう?
出すユニット自体は腑抜けにされるが、アレもまた延々と増援をデッキから呼び続けるカードだからな。
なら、されても文句は言えまい。
リアクター・ドラゴンの両脚が、大きく開く。
その両足から巨大な杭が伸び、大地に向けて打ち込まれた!
反動を抑え込む為の、対ショック姿勢という訳だ。
巨大な顎門が開かれ、口元から光が溢れ出し――
「核滅の――放射殲滅波」
効果名を、宣言する。
大気が、震えた。
青白い光が迸る。
ただそれだけで、それこそがリアクター・ドラゴンの攻撃であった。
存在するだけで、周囲に放射線を振り撒き続ける、生物にとって余りにも許容し難い兵器。
それこそが、最終兵機神 リアクター・ドラゴンだ。
……というより、最終兵機神のリアクターシリーズ全てがそうだ。
リアクターという言葉の意味が、"核"を意味するからな。
こいつ等全員、核動力で動いてるんだ。
核動力で動き――核兵器として、脅威を振り撒く。
放たれた青白い光は、空母を飲み込み――それ以降、動く事は無かった。
あの青白い光は、即死級の放射線だ。
船には搭乗員が乗っている――いや、もう今は"乗っていた"か。
そんなモノを浴びて、中の人がタダで済む訳が無い。
姿形を保っていても、あの空母はもう、動く事は無い。
「これで、お前のパワーは"0"だ。リアクター・ドラゴンの第2効果、パワーが0になったユニットは破壊される」
2:【永続】【効果】フィールドに存在するパワーが0のユニットは破壊される
カード効果上では、あの船はどれもこれも限定的な破壊耐性を有しているが――リアクター・ドラゴンの前では、限定破壊耐性は、意味を成さない。
リゼット級護衛艦は機械族ユニットを破壊する効果の発動を無効にする、という効果を有しているが……これも、無意味。
何故かと言うと、リアクター・ドラゴンの第2効果は"発動"していないからだ。
エトランゼというカードゲームにおいて、永続効果というのは、発動する効果ではない。
場に出た時点で勝手に適用され、離れた時点で即座に消える。
発動を無効も何も、発動していないのなら無効にしようが無いという訳だ。
更に、永続効果というのは場に存在する限り常に適用され続ける。
パワーが0になった事で、あの空母は常に破壊効果を受け続ける状態になってしまった。
簡単に言うならば、「死ぬまで破壊し続ける」状態になったのだ。
一回二回耐えた所で、千回でも一万回でも破壊効果を与え続けるので、耐える事は不可能。
これを耐えられるのは限定耐性ではなく、そもそもカード効果では破壊されないという永続的な耐性でなければならない。
まあ、大抵の破壊する効果というのは発動を伴うから、普通なら相手は阻害出来たんだろう。
だが、リアクター・ドラゴンのこの効果はかなり毛色の違う、風変わりな破壊方法。
エトランゼのカード全てを見ても、特殊な破壊方法に分類されるタイプだ。
永続効果分類で破壊するというのは、非常にレア、と言って良い。
そしてレアな破壊方法だからこそ、防ぐのも難しい。
まあだからこそ、このデッキに投入した訳なんだが。
「そして手札を1枚捨てて、リアクター・ドラゴンの効果発動」
4:【起動】【コスト】手札を1枚捨てる
【効果】このユニットを回復する
第2効果を発動したリアクター・ドラゴンは、疲弊する。
だが手札を捨てれば、回復する。
さっきからまるで手札を使ってないし、太古の超魔導都市の効果で大量ドローも済んでいる。
さあ、ばら撒くぞ――死の閃光を。
「核滅の――放射殲滅波」
青い死の光が、海上へ、空中へ、何度も何度も乱射される。
浴びる度に船が沈黙し、戦闘機が海中へ、島へ墜落していく。
残るは、ガブリエル級砲撃艦のみ。
コイツだけは、このままリアクター・ドラゴンの効果で倒すとは行かない。
何故ならば、この戦艦だけはカード効果の対象に出来ないという面倒な耐性を持っているからだ。
だが、倒せない訳ではない。
イメージとしては、アルトリウスをカード効果で始末するやり方と同じ手法だ。
「なら、こっちで潰すだけだ。ツアーガイドの効果発動、超時空戦艦 アサルトホライゾンを追放する」
まだ、大丈夫。
このターンだけならば、ツアーガイドがリアクター・ドラゴンの強制効果に巻き込まれる心配は無い。
「太古の超魔導都市の効果発動。カウンターを10個取り除き、虹マナ10を得て……ターンエンド、だな」
手札を捨てれば、リアクター・ドラゴンを回復出来る。
そうすれば、リアクター・ドラゴンでガブリエル級砲撃艦に攻撃を仕掛けられる。
だが、念の為手札を保持しておく事にした。
これで終わり、とも限らないしな。
今の所、この盤面を崩す手段を相手が持っているようには思えない。
だが増援を呼ばれたら、どうなるかは分からないし、相手が増援を呼ばないとも言い切れない。
次のターンが来れば勝手に回復するのに、その為に防御札を減らしたくないし、更に言うなら、増援を呼ばれるならさっさと呼んで欲しいまである。
これで戦いに勝利したとして、その後増援が来たらその場合、また一から盤面を構築し直す必要がある。
そんな事になるなら、出来ればこの整った布陣でそのまま相手したい。
例え盾は0、ライフが1000という危機的状況だとしても、だ。
それを加味しても、既に太古の超魔導都市が召喚済みという状況は魅力的だからな。
コイツの制圧性能はかなり信用出来る。
対象を指定しない破壊効果は直撃するんだが、それもカウンターを取り除けば破壊を免れる。
そしてこれだけカウンターを乗せた後ならばまず、沈まない。
それに、太古の超魔導都市の大量ドローのお蔭もあり、今の手札の質もかなり高い。
同等規模の軍が再び増援として現れたとしても、圧倒出来る程度には整っている。
というか大量のマナも抱えてるから、何ならもう手札からカウンター呪文を連発出来る程だ。
絶対守護障壁も2枚手札に保持してるしな。
例え何らかの方法で太古の超魔導都市を始末されたとしても、再度立て直しが可能な手札になっている。
何ならそれに加えて超時空戦艦 アサルトホライゾンなら――
『――こちら、グランエクバーク第四艦隊所属、レイヴン・マックハイヤー少将だ。我々は投降する、戦闘を中止して欲しい』
思考を中断させられる。
拡声器から降伏の意を示す、男の声が発せられた。
100!




