98."逐次投入ガイド"
相手にターンを明け渡す。
再び空母から艦載機が発射された。
戦闘機トークンが更に増え――合計、7体。
その総攻撃力は、既に俺が3回以上死ぬ数値になっている。
対応を間違えれば、死ぬ。
対応を間違えなくても、手札が足りなければやはり――死ぬ。
――この世界に来てから、一番敗北を近くに感じる。
もしかしたら……ここで、死ぬかもしれないな。
それならそれで――観念するまでだ。
迫り来る、大艦隊。
この攻撃を凌げなければ、それで終わりだ。
1ターン目は絶対守護障壁に頼れたが、盾に残弾が無い以上、もうそこには頼れない。
この2ターン目こそが、勝敗を分かつ分水嶺!
そして相手方の攻撃――バトルステップが始まった。
直後。
「呪文カード、突風発動。ユニット1体を選択し、前衛または後衛に移動させる。シャーロット級巡洋艦(1)を後衛へ移動させる」
手札の一枚を、叩き付ける!
艦隊の一つを、前衛から後衛へと移動させる。
カード名通りに、吹き抜ける突風!
その突風が敵艦隊の一部に衝突し、大きく揺さぶりながら、ゆっくりと勢いを増しつつ遠方へと押し流していく。
船では有り得ない速度で海上を移動させられ、それは止まった。
エトランゼの基本ルールとして、ユニットが攻撃する時は、前衛に存在する必要がある。
それを無視して攻撃してくる効果なんかも、千差万別の効果が存在するカードの中ならばあったりもするのだが……目の前に広がる大艦隊には、それが無い。
後衛に下げた所で、プレイヤーは1ターンに1度だけだが、ユニットの前衛後衛の位置を変える事が出来る。
なので適当にこの突風を使った所で、相手はまた後衛から前衛に戻せば良いだけの話なので、そういう使い方では突風に意味は無い。
だが使うタイミングを考えれば、突風は非常に強力な防御手段に成り得る。
それは、バトルステップに使用する事だ。
エトランゼにおけるステップの移行は、ドロー→リカバリー→メイン→バトル→エンド、という順番になっている。
そして次のステップに進んだら原則、前のステップに戻る事は不可能。
更に、ユニットを前衛後衛に移動させるという行為は、カード効果以外ではメインステップでしか出来ない。
ならば後ろに引っ込めれば、一時的に攻撃を止めた事と同意義になる。
止めるべきは、連続攻撃能力持ち! まず、一回!
立て続けに迫る、戦闘機。
その機銃と爆装が、ツアーガイドに向けて放たれる!
「デッキの上からカードを5枚墓地へ送り、呪文カード、鉄壁の瓦礫を発動。その攻撃は、ツアーガイドで受け止める」
「へ?」
鉄壁の瓦礫は、自分のユニットが戦闘を行う時に発動出来るカード。
その戦闘で自分のユニットは戦闘破壊されなくなる、ユニットを守る為の防御カードだ。
ツアーガイドのパワーは目の前の戦艦、どれか一つにでも余裕で負けている数値だ。
バトルをすれば必敗であり、それ故の防御カードという訳だ。
ツアーガイドの目の前に、無数の瓦礫の山が出現し――即座に爆風によって吹き飛ばされた。
「ぎえええぇぇぇ! 死ぬ! 死んじゃうって御客様あああぁぁぁ!!?」
「大丈夫、コレでは死なない」
何か悲鳴が聞こえたが、気にしない。
盾を全損していた場合、パワーで負けていた分の数値をダメージとして受ける事になるが――首の皮一枚だが、まだ盾が1枚残っている。
先程、5分の4の確率――盾を1枚必ず残さねばならなかった理由は、この超過ダメージを絶対に回避したかったからだ。
お蔭で、このバトルによるダメージは回避出来た。
これで、二回!
「青マナ1、黒マナ1を使用して呪文カード、魔術師の閃きを発動」
更に迫り来る追撃。
まだ地面を転がったまま、立ち上がれていないツアーガイドに容赦無く降り注ぐ散弾、爆炎。
その一撃は、運で防ぐ!
「デッキの上から呪文カードが出るまでめくり、このカードの効果はめくった呪文カードと同じ効果となる。適用出来ない呪文だった場合は適用せず、めくったそれ以外のカードはそのままデッキに戻し、シャッフルする」
尚、この効果で適用出来るのは"呪文"に限定されている。
永続呪文と、カウンター呪文は適用範囲外となっており、これらが出た場合はスルーとなる。
ツアーガイドがバトルするタイミングでこれを発動する事で、鉄壁の瓦礫がめくれた場合でも適用可能になる。
そして――
「めくれたのは呪文カード、怨霊の盾だ。自分のユニット1体を選択し、そのユニットはこのターン、1度だけ破壊されない」
こちらでも、構わない。
怨霊の盾の効果が適用され、ツアーガイドの死は一旦先送りとなった。
このカードにはコストとして墓地のユニット1体を追放するというものがあるのだが、魔術師の閃きは効果だけを適用する為、コストは無視するという特徴が存在している。
なので今回の場合だと、墓地のユニットを追放する必要は無いという事だ。
人魂のような尾を引く青白い炎が、ツアーガイドの周囲を無数に飛び交う。
何か、苦痛に喘ぐ人の声のような音が聞こえるけど、気にしない。
再びツアーガイドが、吹き飛んだ。
ボロ雑巾か何かのように地面に半分埋没し、ピクリとも動かないし何も声を発しない。
でも、これだけの爆発に巻き込まれたにも関わらず、身体の何処かが欠けているとかそういう事は無く、ちゃんと五体満足だ。
一度だけ、破壊されない。
だから一度だけは、死なないという事だ。
これで、三回目!
「ツアーガイドの効果発動。自身を追放する」
もうこれで、自分フィールドにユニットを要求する防御手段は無くなった。
お疲れ、ツアーガイド。
後は追放ゾーンに退避しててくれ。
動かないツアーガイド。
俺に対して特に何も言う事無く、ツアーガイドの真下に発生した空間の亀裂に落下する形で姿を消した。
……何か、落下する時サムズアップしながら沈んでいったな。
案外余裕あるみたいだな、肉盾にすれば良かった。
これで俺を守るユニットは、居なくなった。
在るのはただ一つ、己の身のみ。
「黒マナ1を使用し、手札から呪文カード、ハーフシャッターを発動。このターン、自分が受けるダメージは半分になる」
1マナで使える遅延系カード、ハーフシャッター。
効果は書かれている通り、ダメージ半減だ。
しかし、1ターンに使える回数は1度のみと制限されており、これを複数枚使用して更にダメージを半減、という事は出来ない。
だがこれで、疑似的に自分のライフを倍にする事が出来る。
そして、ここまで。
残りの攻撃は――全て、俺への直撃弾だ。
「その攻撃は、ライフで受ける」
空から押し潰すかのような、爆熱が降り注ぐ!
更に駄目押しとばかりに、巨大な砲弾が俺の身体を穿ち、抉り取る!
俺のライフを削り取り、熱線が俺の身体を焼いた。
あのガブリエル級砲撃艦のパワーは7000、それがハーフシャッターによって半減され、一撃3500のダメージになる。
攻撃回数追加もあり、それが、2回。
10000→6500
6500→3000
くそっ、何てダメージだ。
プレイヤー直撃だったらあのガブリエル級砲撃艦1体だけで、俺なんか即死してるぞ。
事前にダンタリオンに痛覚を消して貰ってるから、痛みで気絶とかいうオチにはなってないが……
更に迫る、戦闘機トークンによる機銃掃射と爆弾による爆撃!
一回、二回、三回、俺のライフを抉り取っていく。
3000→1000
残りのライフは、1000。
だがまだ戦闘機トークン1体、リゼット級護衛艦と、旗艦空母 ジルコニアの攻撃が残っている。
一番低いリゼット級護衛艦のパワーですら、元々の2000から引き上げられて3000。
ハーフシャッターでダメージが半分になっても、これを受けたら終わりという訳だ。
リゼット級護衛艦からの攻撃が飛来する。
その攻撃、最後の盾で受け止める!
これで、俺の盾は0。
ライフは、1000。
迫る、戦闘機。
その攻撃を防ぐ最後の盾は、使い切った。
「――自分のライフ以上のダメージを受ける時、このカードのプレイコストを0に出来る。呪文カード、リバースペインを発動。このダメージは回復になる」
ダメージを回復に変換する、遅延系カードの一つを叩き付ける!
ダメージではなく回復するという事は、一度攻撃を無効にするだけでなく、次の攻撃を再びライフで受け止められるようになったという事!
1000→3000
これで、七回目!
そして、旗艦空母 ジルコニアから放たれた直撃弾!
3000→1000
相手ターン、その最後の攻撃が、終了した。
戦場のような光景――というより、そこは戦場そのものだった。
世界最大の軍事大国が誇る戦力は、誇張抜きで国を滅ぼせる程の力。
それが本気を出したのなら、そこは戦場になって当然だ。
「――凌ぎ切った、か」
死の一歩手前。
されど、まだ崖っぷちギリギリで踏み止まっている。
デッキからカードが排出され、大きく息を吐く。
それは、俺のターン到来を告げる福音。
「俺のターン、ドロー……リカバリーステップ、ツアーガイドを自身の効果でフィールドに戻し――」
自力で戦闘する手段皆無のツアーガイドと、延命手段だけでどうやって戦うのか?
それは心配に及ばない。
首の皮一枚でもいい。
戦力の逐次投入を引けているのであらば、どれだけボロボロになろうとも、3ターン目に辿り着ければ――
「これで、ツアーガイドの"2ターン目"だ」
――3ターン目以降を迎えたならば、相手は戦慄するだろうさ。
このデッキと戦う時は、相手の3ターン目までに決着を付けろ。
何しろ、基本的にプレイヤーは無防備なのだ。
攻撃は、ほぼ素通りだ。
速攻命。
それが経験者の鉄則であった。
だが相手は、俺を速攻で仕留め切れなかった。
「流石に、あの数とパワーはキツいわ……今までで一番ヤバかったぞ……だが、時間は稼ぎ切った」
盾は0、ライフは1000と風前の灯。
手札も盾も投げ捨てて、己のライフもギリギリまで削られながらも、それでも、成し遂げた。
―――――――――――――――――――――――
"逐次投入ガイド"というデッキがある。
このデッキは、理想的な動きをしたとしても、1ターン目と2ターン目はほぼ無抵抗に等しいままターンエンドするデッキである。
故に何も知らぬ初見の相手は「何だそのデッキは?」と困惑する。
ましてや、カード効果をロクに知りもしないこの世界の人々であらば、猶更だ。
そしてこのデッキ選択をした事で、相手は勘違いをしてしまう。
――勇者を追い詰めている、勇者に有効打を与えられている!
やはり自分達は強い!
そう、考えてしまった。
もしこれが、V.A.のように最初から圧倒し続けるタイプのデッキであったならば、相手はここまで踏み込まず、一度撤退していたかもしれない。
だが、こちらが押している、優勢だからこそ――退くタイミングを見失った。
その優勢は、仮初、まやかしの類だと言うのに。
昴は、残りの手札、盾、ライフをありったけ使い、懸命に延命をしている。
それは相手からすれば、逃げ惑い必死に命を繋ごうとしているようにしか見えないだろう。
事実、昴は今、必死に逃げていた。
何処へ?
そんな事は決まっている。
"3ターン目"に向けて、逃げているのだ。
逃げるべき先は"場所"ではなく"時"。
昴は、時間を稼いでいた。
この逐次投入ガイドというデッキは、その構築が恐ろしく極端になるデッキだ。
何しろ、異次元ツアーガイド以外、召喚コスト5以下のユニットが"入っていない"のだから。
エトランゼでは、ゲーム開始前にデッキの上からランダムに、召喚コスト5以下のユニットをフィールドに出す。
ではコスト6以上がめくれた時はどうなるかというと、スルーするのだ。
最初に出すのはコスト5以下である必要があるので、こういう構築であらば、必ずファーストユニットはツアーガイドで確定する。
このデッキを使用した時、デッキから出てくるファーストユニットがツアーガイドだと昴が完全に確信していたのは、こういうカラクリである。
カードゲームというのは運が絡むから、ファーストユニットが何になるかはやってみるまで分からない。
だが、こういう構築であらば、運も何も無い。
出て来れるのがツアーガイドしか居ないのだから、ファーストユニットは100%の確率でツアーガイドであり、そこに紛れも揺らぎも存在しない。
エトランゼのルールを利用した、特化構築デッキの一種。
それが"逐次投入ガイド"なのだ。
召喚コスト5以下のユニットは、ツアーガイドのみ。
呪文は、戦力の逐次投入とそれにアクセスする為のカードと、アクセス先のユニット。
それ以外のカードは、全てが延命のみを考えた防御カードのみ。
ただただ、カードを揃えつつ、3ターン目に向けて逃げ続ける事に特化した構築。
そして、その3ターン目という条件は、たった今達成された。
では、3ターン目を迎えてしまうと、どうなってしまうのか。
「このリカバリーステップ、太古の超魔導都市はフィールドに舞い戻る。これで、逐次投入のデメリットはリセットだ、逐次投入との関係は切れたからな」
大抵の場合、太古の超魔導都市を始めとする、超大型制圧ユニットが出て来て、詰む。
それが、戦力の逐次投入と異次元ツアーガイドの2枚が健在で在り続ける限り、毎ターン出現する。
エトランゼに限らず、大抵のカードゲームに言える事だが、フィールドに存在するカードに何らかの効果が与えられていた場合、フィールドを離れた時点で一旦その効果はリセットされる。
太古の超魔導都市が異次元ツアーガイドの効果で追放された時点で、フィールドから離れ、戦力の逐次投入が与えていたデメリットが帳消しにされたのだ。
戦力の逐次投入が離れた時、破壊されるという効果も、呼び出したユニットの効果が無効になるという効果も。
――雲海を押し破り、現れる。
先程までの朧な姿ではない。
明確な形で現れたそれは、天を覆い隠し、大地に影差す、巨大な浮遊大陸。
島一つを丸ごと持ち上げ、巨大な都市兼兵器として作り替えられた、超魔導都市。
島の外周には三重の魔法円環がホログラムのように展開されており、この術式により浮遊し、魔法防御壁を展開し、各種都市機能を稼働させている。
高度に発展した技術力を象徴するかのような、機能美を突き詰めた都市群は芸術としての点数も高い。
美と武の調和、魔法と科学の融合により生まれた、遥か昔に存在した、ロストテクノロジーの粋を集めた古代文明都市。
名称:太古の超魔導都市
分類:ユニット
プレイコスト:青青青青青青青青
文明:青
種族:機械
カテゴリ:建造物
マナシンボル:虹
パワー:1000
1:【速攻】【条件】ユニットの攻撃宣言時
【効果】その攻撃を無効にし、このユニットにカウンターを1つ乗せる
2:【速攻】【条件】自分フィールドのカードを対象にする効果が発動した時
【効果】その効果を無効にし、このユニットにカウンターを1つ乗せる
3:【永続】【条件】このユニットが破壊される時
【効果】代わりにこのカードに乗っているカウンターを1つ取り除く
4:【起動】【コスト】このユニットのカウンターを1つ取り除く
【効果】デッキから1枚ドローする
5:【起動】【コスト】このユニットのカウンターを1つ取り除く
【効果】自分のマナプールに虹マナ1を加える
6:【起動】【コスト】このユニットのカウンターを1つ取り除く
【効果】相手フィールド・手札・マナゾーンのカードから1枚を選択し、デッキに戻す
7:【起動】【コスト】このユニットのカウンターを1つ取り除く
【効果】自分・相手の墓地からカード1枚を選択し、デッキの一番上に置く
これこそが、太古の超魔導都市。
超重量級ユニットだからこそ許される、ぶっ壊れ効果満載、このデッキにおける最終兵器!
「つまりこの太古の超魔導都市は、効果を無効にされていない――完全なる状態で、フィールドに存在出来るって事だ」
"逐次投入ガイド"というデッキのコンセプト。
それは、デッキから直接ユニットを選び、どんな巨大ユニットであろうと召喚コストを「2ターン待つ」に書き換えて召喚するというモノ。
「マナゾーンにカードをセット、疲弊させて青マナ2と黒マナ1を得る――太古の超魔導都市がこのデッキの、正真正銘の最終防衛ライン。コイツを潰せるか否かが、そっくりそのままこの戦いの勝敗だ。まだ、これを超える術がそっちに残ってるか?」
1マナだろうが5マナだろうが10マナだろうが、関係ない。
全てのユニットの召喚条件が、2ターン待つに置換される。
それが、毎ターン、連打される。
3ターン目からは、大進撃開始である。
ツアーガイド「b」デデンデンデデン!
ツアーガイドがボッシュートされました。
超広域干渉系最上級ユニット、降臨。
これを突破する手段は、かなり少ない(無い訳ではない)。




