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96.勇者の遺産

「うわあああぁぁぁぁ! 施設が! 施設が壊れるううぅぅぅ!? 何とかして下さいよ主任(マスター)!?」


 逃げ惑い悲鳴を上げながら、助けを乞うマティアス。

 マティアス自身の戦闘力はヘボ同然なので泣き付く気持ちは分かるが、俺に助けを求めてもどうにもならんぞ。

 今まではダンタリオン達が作り出した嵐によって、ドリュアーヌス島に向けられた監視の目や接敵を妨害し続けていた。

 そして今も一応嵐を起こしているのだが、最早それは役目を果たしていなかった。

 嵐による妨害をものともせず、地表を焼き、薙ぎ払う爆撃の嵐。

 多少目標が嵐でズレようが、島全体を余す所無く爆撃してしまえば、島の何処かに居るであろう目標――俺に当たるだろうという考えだろう。

 焦土作戦か、いやこれは意味が違うか。

 当てずっぽうで雑にも程があるが、物量で押し潰せるのであらばこれ程有効な戦法も無いだろう。


「建物の地下に避難しておけ。そう簡単には崩落しないだろうさ、何しろ大貴族様の別荘なんだからな。ヤワな作りな訳無いだろう」


 アルトリウスの指示で、残っている女性達は屋敷の地下に避難して貰った。

 こんな無差別爆撃に巻き込まれたら、一般人などひとたまりも無いからな、俺含めて。

 でも、何時までもこのまま耐え続ける事は出来ないだろう。

 爆撃に用いている兵器だって、タダじゃないんだ。

 金をばら撒き始めたって事は、勝算があってやってるって事だ。

 殺し切れもしないのに見切り発進するのは馬鹿の所業で、仮にも国の命運を預かる軍がそんなアホな真似はしないだろう。

 それに、造船所も地下にあるとはいえ、何度も何度も爆撃に晒されたら破壊され、崩落した瓦礫で折角作った船も壊れてしまう。

 それは今後の為にも避けねばならない。


 多分この無差別爆撃は、あわよくばラッキーパンチで相手が死んでくれないかなぁ、というのと……炙り出し目的もあるのだろう。

 焦れて目の前に目標が顔を出せば、相手の思う壺。

 わざわざ出向くのは下策なんだろうけど……行くしかないよなぁ。

 引きこもって、何時止むか分からない爆撃の雨に耐え続けた所で、俺やカード達にとっての勝利は無い。

 

 カード達が責任を取る場所を用意するのは、俺の責任だからな。


 ダンタリオンが嵐を維持し、目晦ましを持続しつつ、バエルが爆撃による衝撃や破片から防御を担当し、打倒すべき相手の眼前まで移動する。

 バエルは攻撃だけでなく防御でもその能力をしっかり転用出来るようで、俺自身に傷が付く事は無いのだが、白熱やら水蒸気やらで目の前が真っ白だ、眩しい事この上ない。


「さて、前に出るという事は勝算や考えがあるという事だな盟約主(マスター)?」

「まだ船が出来てないからこの島から離れる事は出来ない以上、こうなったら防衛戦をやるしか無い。今は無差別爆撃が続いてるけど、攻撃目標が目の前におめおめと出て来たなら、少なくともこの無差別爆撃状態は止むだろう。他を攻撃する意味が、あっちには無いからな」


 何処に隠れてるか分からないから島ごと潰そうって状況で、目標となる不審人物が目の前に現れれば、当然そうなる。

 それでも無差別爆撃を続けるのは、無意味所かコスト的な意味でマイナスだ。

 そんな事はしないだろう、そしてそれは屋敷の地下に居る人達や建造途中の船を守れるという事だ。


 まあ、カード達ではなく俺が前に出る理由あるのか? という問いに対しては、無い、としか言えないのだが。

 死んだら死んだでそれまでだが……それでも、良いさ。

 奴隷契約書とやらは、もう処分済み。

 大貴族を殺害した世紀の大悪党は打ち滅ぼされ、慰み者として扱われていた哀れな女性達は解放された。

 そして、女性達を監禁していた者とは他でもない。


 俺だ。


 そうなるように、ダンタリオンに記憶を改竄して貰った。

 島に上陸し、生き残りがいないかと探した所、兵士達が彼女等を見付ける訳だ。


 勇者様を名乗る男に、私達乱暴されて……!

 何と卑劣な! だがもう大丈夫だ、安心しなさい。


 ――みたいな感じになる、と。

 この国の重鎮が罪を捏造して、綺麗所の女性を奴隷の身分に落として飼っていたとか、そんな事が知られたらグランエクバークという国の恥だ。

 もしそうなったら、国は握り潰しに掛かるだろう。

 女性達も、口封じされるかもしれないな。

 だが、そう証言せずに全員が口を揃えて勇者が悪いとか言えば、悪いのは勇者とやらであって、この国の貴族が悪いという事にはならない。

 まあ実際にはこの島の内情を知ってる奴が外にも居るんだろうが、自国に火の粉が掛からないのであらば、無視を決め込むに留まるだろう。

 このまま穏便に終わりそうなのに、被害者達が不審死なんてしようものなら、逆に裏があるのではないかとか疑われかねない、悪いようにはされないだろう。

 そういう筋書きでも、まああの人達は救われるだろう。

 こういう保険を遺しておけば、仮に俺が敗れたとしても無問題。


 俺が無実の罪を被る事になるのは、別に問題にはならない。

 不用意に外に出ずに屋敷の中に居ろ、と軟禁しているのは事実だし。

 そもそも罪状が違うだけで俺が無実かと言われたら、普通に有罪だからな。


「本当に良いんだね? 主人(マスター)

「……デッキの準備も大丈夫だ、良いぞ」


 ダンタリオンが天候の操作を解除した。

 途端、映像を早回ししたかのように雷雲が散っていき、みるみる空が晴れ渡っていった。

 視界が開ける。

 目の前に広がるは、大海原。

 そしてその海面に等間隔で布陣を構えた、鋼鉄の軍船。

 天候操作をしていた魔法が解除された事で、一旦爆撃が止む。

 術者を殺したから天候が解除されたのか、それとも何らかの作為か。

 爆撃し続けていたら爆炎や巻き上げた土砂で相手からもこっちが見えないのだから、様子見の為にも手を休めざるを得ない。


 俺達にはまだ、時間が必要だ。

 だからその時間、稼がせて貰う。

 船さえ出来れば、この島から退去するつもりだが、言った所で相手が聞く耳を持つ訳が無い。

 お引き取り願いたいだけだから、相手が逃げるなら追わないが、向かってくるならば、全て排除するだけだ。



「――交戦(エンゲージ)



 さて……久々の最上級連打デッキだ。

 宜しく頼むぞ。



―――――――――――――――――――――――



 デッキがシャッフルされ、初手の7枚を確認。

 ぐ……7枚中5枚がカウンター呪文……論外過ぎて即座にマリガンだ。

 マリガン前で良かった、この不運がマリガン前に発動してたら即死してたぞ。


 カウンター呪文に分類されるカードは、全部が全部そうではないのだが、プレイコストが非常に重いというデメリットが付随しているのが大半だ。

 盾が破壊された時にプレイコストを踏み倒して発動出来るという、強力な特性を有しているのがカウンター呪文である為、バランス調整として避けられない部分なのだろう。

 盾が破壊されるだけという簡単な条件でノーコスト発動が出来、プレイコストも軽いので手札に来ても邪魔にならない。

 そんなカードだったら、通常の呪文なんか使わないで皆カウンター呪文ばっかり使うだろうな、だってそんなんだったら俺も使う。

 天罰の(パニッシュメント)(フレア)辺りとか、手札から使うなんてディスアドバンテージの極みだしな。

 盾として割られた時は非常に強力だが、手札に来ると邪魔。

 それがカウンター呪文というカードが総じて抱えている利点と欠点と言えよう。


 引き直し――よし、初手にカウンター呪文0。

 これならば、盾にカウンター呪文が紛れ込む可能性が高い。

 次いで、召喚コスト5以下のユニットが出るまでデッキトップをめくるが――


「お前がこのデッキの要だからな、頼んだぞ異次元ツアーガイド」


 めくる前から、出るユニットは分かってる。

 ファーストユニット、文字通り確定済みだ。


「御呼びですか御客様(マスター)? 今日はどんなご用件で?」


 要件は決まってるので、目の前の相手を指さす。

 敵は、この世界最強の軍事国家。


「ほぎゃああああぁぁぁぁ!?」


 アホっぽい悲鳴が、静止した空間の中で響いた。


「絶対おかしいですよ! 私ただのツアーガイドであって剣と魔法のファンタジー世界で生きてるんじゃないんですよ!?」


 純粋な力比べだけで言うならば、俺よりも弱いからな。

 でも好きに出たり消えたりして死んでも舞い戻るのはファンタジーじゃないんですか?


「今回はこのデッキで行くって決めたんで。それじゃあ、頑張って生き延びましょうか」


 盾を5枚セット、ターンは――俺が先攻か。

 先攻1ターン目は攻撃出来ないから、このデッキにとって先攻後攻の優劣はほぼ無いんだけどな。

 さて、相手の布陣は――


「――は?」


 見えて一瞬、思考がフリーズした。

 待て、お前、それは――ズルだろ。



―――――――――――――――――――――――



 昴の前に立ち塞がるは、世界最強の軍事国家、グランエクバークが誇る戦艦群。

 これらはかつての勇者が遺した遺産によって生み出された武力であり、言うなればここに在るは、先代勇者の力の象徴。

 勇者の力は、邪神の欠片すら容易く葬り去る。

 格下では勝負にならず、勇者という力に対抗出来る存在があるとしたら、それと同格以上の存在である必要があるだろう。


 つまり、勇者の力であらば、勇者を殺す事も可能――という事でもある。

 その力が、昴へと向けられる。



 名称:旗艦空母 ジルコニア

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:赤

 種族:機械

 性別:不明

 パワー:3000

 1:【起動】【条件】1ターンに1度、このユニットを疲弊させる

 【効果】戦闘機トークン(赤/不明/機械/3000)1体を召喚する

 2:【永続】【条件】このユニット以外の機械族ユニットが自分フィールドに存在する時

 【効果】このユニットは攻撃対象に選択出来ない

 3:【永続】【効果】自分フィールドに存在する全ての機械族ユニットのパワーは1000アップする

 4:【永続】【条件】このユニットがフィールドに存在する限り2度

 【効果】このユニットは破壊されない



 名称:シャーロット級巡洋艦(1)

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:赤

 種族:機械

 性別:不明

 パワー:4000

 1:【永続】【効果】攻撃回数+1

 2:【起動】【条件】1ターンに1度、このユニットを疲弊させる

 【効果】このユニットのパワー以下のユニット1体を選択し、破壊する

 3:【起動】【条件】1ターンに1度、このユニットを疲弊させる

 【効果】フィールドの呪文カード1枚を選択し、破壊する

 4:【永続】【条件】このユニットがフィールドに存在する限り1度

 【効果】このユニットは破壊されない



 名称:シャーロット級巡洋艦(2)

 同上



 名称:ガブリエル級砲撃艦

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:赤

 種族:機械

 性別:不明

 パワー:4000

 1:【永続】【効果】攻撃回数+1

 2:【永続】【条件】バトルステップ中

 【効果】このユニットのパワーは2000アップする

 3:【永続】【条件】このユニットがフィールドに存在する限り1度

 【効果】このユニットは破壊されない

 4:【永続】【効果】このユニットは相手のカード効果の対象にならない

 5:【起動】【条件】バトルステップ開始時

 【効果】フィールドの呪文カード1枚を選択する。エンドステップまで選択したカードの効果は無効になる

 6:【起動】【条件】1ターンに1度、このユニットを疲弊させる

 【効果】フィールドのカード1枚を選択し、破壊する



 名称:リゼット級護衛艦

 分類:ユニット

 プレイコスト:???

 文明:赤

 種族:機械

 性別:不明

 パワー:2000

 1:【永続】【効果】相手のバトルステップ中、相手は1体のユニットでしか攻撃出来ない

 2:【速攻】【条件】1ターンに1度、フィールドの機械族ユニットを破壊する効果が発動した時

 【効果】その発動を無効にし、破壊する

 3:【速攻】【条件】1ターンに1度、自分フィールドの機械族ユニットが破壊される時

 【効果】その破壊を無効にし、このユニットのパワーは1000ダウンする

 4:【永続】【条件】このユニットがフィールドに存在する限り3度

 【効果】このユニットは破壊されない



 昴がこの世界で出遭った中でも最大の脅威が、そこにあった。

※昴に限らず、この世界に現れた勇者と呼ばれる者は皆、何かしらのゲームを基にした力を持っている。

ただ一つだけ言えるのは、皆が皆、方向性の違うチート能力ばかりだという事だ。


今回立ちはだかる戦力は、軍事シミュレーションゲーの能力を持っていた勇者カザマの置き土産。

戦闘力とこの世界に及ぼした影響力の二点で言うならば、歴代勇者の中でもトップクラスにヤバい奴です。

原潜空母戦艦爆撃機御手軽製造。


「「「「「「「チートじゃん!!!!!!!」」」」」」」


カザマ「チートじゃねえよ! お前等と違って俺自身はただの一般人だからな!? そこらのナイフで刺されるだけでも簡単に死ぬレベルなんだぞ!?」

スバル(一緒だ)

カザマ「周りが強いだけで俺は雑魚だからな!?」

スバル(一緒だ)

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カザマis誰?
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