・そもそもトレーディングカードゲームって何?
※トレーディングカードゲームというジャンル自体を知らない人向けの解説回。
故に知ってる人からすれば「何を今更」感が半端ないです。
解説回だけど、別に読まなくても支障は無いです。
別に良いやという方は、そのまま一章へどうぞ。
「生粋のTCGユーザー、昴です」
「カードゲーム、というのが良く分からない。エルミアです」
机で互いに向き合うように座る、二人の男女。
一人は異世界へと流れ着いた日本人、昴。もう一人はこの世界に存在する大国の一つ、フィルヘイム王家のお姫様であるエルミアだ。
尚、この二人は既に互いを知っている仲だ。
なのに一体誰に対して名乗っているのか、謎である。
「丁度良い機会なので、エルミアにTCGというのが何なのか、というのを教えようと思います」
「宜しく頼む」
「TCGってのは、まぁ、テーブルトークRPGの派生だと思えば良いさ。ただあっちと違うのは、ゲームマスターが不在って事だな。役割を演じるを行うゲーム、それを机上会話を介して進めていくのがテーブルトークRPGだ。それから、トランプみたいなカードゲームという単語だけでなく、Tの単語が入っている通り、自分が入手したカードを他者と交換したりなんかも出来るのが特徴だ」
「げーむますたー……? テーブルトークRPG……? 一体何なのだそれは?」
「……え? この世界に無いの? テーブルトークRPG」
「すまない。もしかしたら私が無知なだけかもしれないが……そんなものは聞いた事が無い」
「異世界の勇者様とやらがこれだけ何人も来てるんだから、あっても良さそうなものだが……そうか……なら、テーブルゲームは知ってるか? 机の上でやる遊戯、玩具とかそういうの。これの有名所はトランプとかチェスなんだが」
「ああ、それならトランプやチェス、将棋なんかがあるな。私はトランプという物しかやった事は無いが、兄がチェスをやっているのを見た事はある」
「ああ良かった、テーブルゲームの概念はあるのか。それなら説明し易いな」
昴は、机に前もって準備されていたトランプを手に取る。
その箱を空け、中に入っていたトランプをテーブル上に広げる。
「カードって意味ならトランプからの派生とも言えなくもないが……まぁ、カードゲームの元祖、その発祥の地を考えればトランプよりもテーブルトークRPGの派生と考えた方が自然だな。だから、TCGはトランプの子孫じゃなくてテーブルトークRPGの子孫ってのが俺の見解だ」
昴が広げたトランプを整理し並べていく。
AからKまで、ジョーカーを含めた54枚。
それらが綺麗にテーブル上に並べられた。
「さて、取り敢えずカードゲームというの自体を大して知らないエルミアには、実際にEtrangerのカードを触れるよりも先に、軽くTCGの世界における根本的な概念を説明しようと思う。トランプも同じテーブルゲームの仲間に入るし、エルミアも過去に触った事があるゲームの方が理解し易いだろうしな」
昴は、先程テーブルに綺麗に分類し並べたトランプを指し示す。
「トランプは見ての通り、ジョーカーを含め計54枚。この組み合わせは常に固定だ。これは分かるよな?」
「確かにそうだな」
「だが、TCGは違う。トランプはジョーカー含め、マーク違いの計53種のカードが存在するが、TCGというジャンルはある程度歴史を積んでさえいれば、そのカードの種類は当然のように4桁に及ぶ。世界的なTCGともなれば5桁の種類にまで及ぶモノだってある」
「何と! 一万を超えるというのか!?」
「正に千差万別。プレイヤー、つまりカードゲーマーは、これらのカードの中から己が目的に沿ったカード達を拾い上げ、それ等を束ねて一つの山札を構築していく。それが、全てのTCGに共通する一項だ」
昴はテーブルに並べたトランプ、それとは別のトランプを一つ手に取る。
それを開けて中を確認し、Kのみを取り出して手元に置いた。
残りは、エルミアの方へと差し出す。
「トランプの組み合わせは一定だが、TCGはそうではない。例えば、そうだな。このトランプを好きなだけ使って、60枚のデッキを作ったとしよう。そして互いにデッキからカードを引き、それらを互いに手札から提示し、数字の大きい方が勝つ。それを繰り返し、一番勝ち星が多い方が最終的な勝者――」
――昴は、更にもう一つ、トランプを開ける。
Kのカードのみを取り出す。
またそれを、自らの手元に置き、残りをエルミアの方へ。
「そんなルールでこれからエルミアと俺がカードで戦うとして、エルミアはどんなデッキを作る? 今渡したトランプを好きなように使って良いぞ?」
「? そう、だな……」
エルミアは、考えつつも昴の動きを目で追う。
昴は、更に、新たなトランプを開け、Kのみを取り出す。
「……なあ、昴。その60枚のデッキというのは、同じ種類のカードを何枚も入れて良いのか?」
「ああ、今回は特に言及してないからそうなるな」
「それで、大きい数字を出した方が、勝つと」
「そういうルールだ」
昴は、更に別のトランプからKを取り出す。
それを手元に置き、残りをエルミアへ――
「待ってくれ昴! それじゃあさっきから昴がやっている事はそういう事か!? そういう事なのか!? それはいくら何でも卑怯だぞ!?」
「おお、やっと気付いてツッコミが入ったか。このルール、穴がありまくりの欠陥ルールだからな。何時ツッコミが来るかずっと待ってたぞ? それと、これは卑怯じゃない。俺は何一つルールを破ってないからな」
昴は、先程から自分の手元にキープし続けていた、複数のトランプから取り出したKを手に取り、エルミアへと提示する。
「トランプにおける最大の数字、それはこのKだ。このKだけで60枚のデッキを構築すれば、さっき言ったルールでの戦いにおける"絶対に負けない"デッキの完成って事だな。Kが最大数字である以上、こちらがKを出し続ける限り、発生するのは勝利か引き分けだけだ」
「……な、ならば。私も同じようにKだけでデッキというのを作ろう。それが許されるのだろう?」
「ああ、そうだな。そしてそうなると、互いに永遠に引き分けを繰り返す戦い。千日手同然の滅茶苦茶つまらない、やる意味の感じない戦いの完成だ」
昴は、エルミアの方へ渡していたトランプを手に取り、先程から抜き取っていたKを綺麗に片付ける。
「これじゃあそもそも勝負にならない。だから、さっき言ったルールにもう一つ追加ルールを加えよう」
「追加ルールか。どんな内容だ?」
「それは『ジョーカーは数字上0として扱うが、Kに対しては数字を無視して勝利する』というルールだ」
Kを片付けた昴は、ジョーカーを手に取りエルミアに見せる。
「このルールを追加したとしたら……エルミアはどう出る?」
「そう、だな……ジョーカーを使えば、さっきのKだけで作ったデッキに必ず勝利出来る、そういう事だな?」
「そういう事だ」
「ならば、ジョーカーを60枚使い、それだけでデッキを作ろう! これならば!」
「じゃあ、俺はQのカードで60枚のデッキを作るぞ」
「……あっ!?」
これならばどうだ!
と息巻いて提示したデッキ案が、即座に昴に切り返された事に気付くエルミア。
「さっき言った通り、ジョーカーはKに対してだけは勝てる。だが、それ以外に対しては数字上0として扱う以上、それ以外のカードに対して必敗のカードとなる」
「……となると、相手が何のデッキを組むかが分からねば、何を使うべきか分からないぞ?」
「そして、これが対戦ゲームにおいてほぼ必ず発生する所謂"メタゲーム"って奴の簡略構図なんだが……」
「めたげーむ?」
「いや、これは今回気にしなくて良い。ただの余談だからな」
昴は、トランプを全て片付ける。
「さて。このルールを追加すると、要は物凄く回りくどいじゃんけんになるんだ。KはQ以下に勝ち、ジョーカーはKに勝ち、Q以下はジョーカーに勝つ。だからこれでもやはり、カードゲームとしてはつまらない」
片付けたトランプを黒子――ではなく、メイド服の女性へと手渡す。
それを手にしたメイドの女性は、音も無く部屋から消えていった。
「だから、先程追加したルールに加えて更に面白みを出そう、もっと頭を使う内容にしよう。そうやって、次から次へと新たなルールを追加していき、最終的に辿り着く先が――TCGの世界だ。これが、Etrangerに限らない、ほぼ全てのTCGにおける基礎の基礎の部分、どのゲームでも変わらない骨子の部分だ」
先程のメイド姿の女性が、一つの巨大な段ボール箱を持ってくる。
その箱がドスリと音を立てて、昴のすぐ横に置かれた。
中には、大量のカードが納められている。
「よし、TCGってものの基礎部分がどんなモノか、これでエルミアも何となく理解しただろうし――こっからは、Etrangerの説明と行こうか」
大体どんなカードゲームも、勝利を求めて最終的に辿り着くのは、.確率論とメタゲームなんだよね……
次話、・プレイしながらルールを覚えよう!
に関しては、まぁ、追々。