隣人
不快になる表現が多く含まれます(グロテスクな表現など)。苦手な方は閲覧をお控えください。
Ⅱ、隣人
人を殺した。
後ろから椅子で思いっきり殴ったら、死んでくれた。
動かなくなったH谷川を、ズリズリと部屋へ運ぶ。
この部屋は特別だ。
裏側だけに防水加工がしてある大きな紙で壁全体を覆っている。
その上に、大判のえびせんがびっしり貼り付けてあるから、やや海老臭い。
壁を覆った紙は、専門店に「床にはってその上に絵を描きたいんです」といって特注した。
絵の具でかいても水を弾かず、かつ床に染みない仕組みだ。
もちろん、血も然りである。
私は大量のえびせんに囲まれて、H谷川の処理を始めた。
「まずは髪の毛かな。」
私はハサミを取り出して、美容師さんがカットするみたいにH谷川の髪の毛を切りだした。
髪の毛をゴミで出したときにあまりにも根っこからの髪の毛ばかりだと、もしかしたら怪しまれてしまうかもしれない。
最初こそ丁寧に切ってたけど、めんどくさくなってきたのでザクザク切った。
短い髪の毛ばかりの頭になったH谷川をみて、少し優しい気持ちになったので、「よしよし。」と頭を撫でてやった。
ざりざりだった。
手で抜きやすいようにちょっと長めに残しておいたので、残りの毛をスルスル抜いて、新聞紙でくるんでごみ袋に入れた。
アバターの初期設定時みたいになったH谷川は、突っ伏して寝転がっている。
私は傍らに置いていた大判のえびせんの袋を開けた。
一枚取り出すと、左手にもって、右手でH谷川の手首の血管を切った。
だらだらと流れ出す血。
まだ少し温かいけど、生きていないからかそんなに勢いよく出てこない。
もう少し深く切り込んだ。
すかさず出てくる血をえびせんに染み込ませる。
何枚も何枚もえびせんに染み込ませた。
真っ赤になったえびせんがたまっていく。
疲れてきたので、用意しておいたバーナーで傷口を焼いて血を止めて、休憩することにした。
「当分えびせんは食べたくないな……。」
そう言いながら、うに煎餅と牛乳を飲んで一息ついた。
部屋に戻るとH谷川はちゃんとそこにいた。
「さてやるか。」
体の何ヵ所かに切り込みを入れて、出来るだけ血を出した。
「しぼんだ?」
本当は次は肉の処理をするつもりだったけど、このままじゃえびせんが臭くてたまらなくなりそうだったので、先にそっちを片付けることにした。
えびせんをぐちょぐちょほぐす。
ほぐしたえびせんを黒いビニール袋に入れて、公園へ向かった。
「手伝ってくれる?」
試しにひとつまみ、池に落としてみた。
バシャバシャ!
愛しい共犯者たちは喜んで私のお願いを聞いてくれた。
餌付けを終えた私は、からになった黒のビニール袋を片手に部屋に帰ってきた。
壁や床にも少々飛び散った血の染み込んだえびせんがあったけど、それは後でやろう。
この行程に意味があるのか分からないけど、こんなに頑張っているんだからきっとバレにくくなるはずだ。
よく切れるナイフとスプーンをつかって、骨から肉をとった。
困ったのが内臓だ。
胃や大腸なんか中身見るの絶対に嫌だ。
内臓を欲しがっているひとにあげたかったけど、そんなことできないし。
試しにバーナーで少しあぶってみたらなんともふわふわ臭うので止めておいた。
「はーあ、困った。」
シンプルに埋めるか?
いや、無いな……。見つかる。
事は一刻を争う。
早くH谷川を片付けないと。
そんなに時間はかけられない。
「ん~……。」
えびせんに頼る、か。
私は切り開いたH谷川の胴の隙間という隙間にえびせんを敷き詰めて、少し内臓に傷をつけた。
内臓汁はとんでもなく臭くて、中には染み込むようなものじゃ無いものもあった。
「こいつ絶対昨日ミートソース食った……。」
マスクの上から鼻を押さえながら確信した。
えびせんと内臓の皮と剥ぎ取った肉をミンチにして混ぜた。
H谷川の残骸は、もう骨しか残っていない。
私は父親の遺骨が入った入れ物から、父の遺骨を出してすり鉢に入れた。
「死んだら海に捨てて欲しいって言ってたよね。」
私は丁寧に父をすりつぶして、小さなケースに入れた。
私はキッチンのコンロにレンガで炉をつくって、そこでH谷川の骨をよくよく熱した。
いつもはベランダの花瓶の下に置いているレンガだ。
使い終わったらもとに戻す。
もろくなった骨は処理がしやすくなった。
小さく砕くと、元は父の遺骨が入ってたところへ入れた。
部屋には、一面のえびせんと、その下の紙だけが残された。
私はえびせんを全てとると、砕いてミンチと一緒に混ぜた。
ミンチは黒のビニールに分けていれた。
あとは紙だけ。
えびせんを貼っていた分、紙にはたいして血はついていなかった。
全部剥がして適当な大きさに破ると、こんもり紙の山ができた。
私はそれをまとめてもって、庭へ出た。
外は枯れ葉が舞っていて、かなり寒い。
ヒューヒューと風が吹いて、耳がじんじんする。
「焼き芋日和だ。」
私は風避けを作ると箒で少し落ち葉を集めて、そこにさっき千切った紙を混ぜた。
石をひいて、その上にホイルで包んだ焼き芋をおいた。
少しすると、ホカホカな焼き芋ができた。
もう辺りは暗い。
火の始末をすると、部屋に帰って黒のビニールをひとつだけ持ってきた。
そしてまだ熱い焼き芋とビニールをもって公園へ向かった。
ホクホク、あっちち。
池のそばで焼き芋を食べていると、食べ物の気配を感じ取ったのか、水面が波立った。
「こんばんは。一緒にご飯食べよう。」
ぼとぼとビニールからミンチを落とすと、彼らは美味しく食べてくれた。
それはもうみんなで取り合って。
気に入ってくれた様なので、明日も持ってこよう。
私はまたからになった黒のビニール袋をもって帰ると、ためておいた使用済みの生理用品をそのなかに入れた。
そして入り口をぎゅっとしばると、燃えるごみに棄てた。
「燃えるごみの日大変だ。」
庭の燃えカスを見て、ため息混じりに呟いた。
物語は真に残念ながら全てフィクションであり、実在の人物、企業、その他すべてのものとは無関係です。
人を殺すことはどんな理由があっても絶対に許されません。