初犯
物語は真に残念ながら全てフィクションであり、実在の人物、企業、その他すべてのものとは無関係です。
人を殺すことはどんな理由があっても絶対に許されません。
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Ⅰ,初犯
ようやく4限目が終わった。
2限の途中から腹の虫が収まらなくて、それはもうお腹が空いていたんだ。
ガッツポーズをしたいのを必死に押さえながら弁当箱を広げる。
ああっ!今日は僕の大好きなカツ丼じゃないか!母さん分かってるなぁ。
大喜びでタッパーひとつの弁当をたいらげると、すっかりいい気分だった。
母さんありがとう……そう思いながら軽くなった弁当箱を包んでいると、隣から背筋も凍るような音が聞こえてきた。
「…グッゲェェ……ゲフ。」
隣の席のY田だった。
盛大な音量かつ悪魔のような、地鳴りのような音を放出したそいつを、衝撃のあまり凝視してしまった。
瞬間、何かが鼻をくすぐった。
少し暖かくて、ふわんふわんと漂ってきて
聡明な僕は反射的に口で呼吸を繋いだが、それでもその臭いは僕の嗅覚を刺激してきた。
っだ、ダメだ!!!
僕は硬直した体をたぐいまれなる意思の強さで翻すと、便所へ走った。
全てを吐き出した僕はすごく冷静になった。
「よし、殺そう。」
とりあえず僕はY田を殺るために、Y田と二人きりにならなければいけない。
教室に戻ると、地鳴りの悪魔はまだそこにいた。
やつは毒ガス攻撃を得意としているから、念のため前もって保健室によってマスクを頂戴してきていた。
デブは自分の腹に腕をのせて固定して、画面の中の彼女を愛でていた。
共学の学校の昼休みにギャルゲをやるなよ……
理解できないから、なおさら殺してやらなきゃと思った。
「Y田?」
「うん?…………あっ。」
Y田は今さら画面をふせると、少し焦った様子で振り向いてきた。
「な、なに?」
「今日の放課後残れる?先生がなんか用あるみたいなんだけど。」
「この教室?」
「そう。」
分かった。とも言わずに、Y田はまた平面の世界に戻っていった。
放課後、Y田はちゃんと教室に残った。
先生は用事なんてないから、待っても来ない。
教室には僕とY田の二人しか居なくなった。
「先生来ねぇじゃん。」
待つことに疲れたY田は、八つ当たりをするように僕に文句をいってきた。
こいつはこれが嘘だと知らないのに、よくも他人に八つ当たりできるな。
腐ってるのは胃の中だけじゃないらしい。
「Y田…」
「なんだよ。」
不機嫌全開な表情を向けるY田の両頬を、手で包み込んだ。
「は?」
一瞬動揺した表情を見せた隙に、頬を捏ねた。
こねこねこねこねこねこねこね
どんどんY田の顔の形が変わってくる。
こねこねこね
捏ねてる間、Y田は「ウブ…ウブ……」みたいな声を出した。
頭はもうすっかり噛み終わったガムみたいになったので、次は体にとりかかる。
こねこねこねこねこねこねこねこねこね
もうY田は声を上げない。
僕は二粒分の噛み終わったガムみたいなサイズになったY田を家にもって帰って、その日はずっと手の中でこねくりまわしていた。
次の朝、ホームルームで先生がいつものように出席をとる。
「Y田君?……Y田君は休みですか?……居ませんね。」
僕はこっそり、隣の机の裏にガムを貼り付けた。