「Good luck」
「Good luck」は、~がんばれよ~って意味らしいですぜ。
東都大学 機械工学部 教授 鈴木 昌彦(65歳)の場合
「上杉君。
この研究の内容は
ぜひ、論文にまとめたまえ」
この前の学会で、私は上杉にそう言った。
なんてったって
センスがいいんだよ。
あいつは。
私の恩師 日本工学会の重鎮 佐山先生が、注目しているだけはある。
確かに目の付け所が違う。
まあ、無鉄砲で、
人の言うことを聞かない頑固なところもあるがな。
この前なんか、
就職先は、中央に引っ張って
こようと画策していた
私や、佐山先生の言うことを聞かずに
勝手に、研究調査をしていた
波島町の役場試験を受けて
合格してしまうんだから。
まあ、まずもって上杉は、
わからない。
役場職員にひっこんでしまったが
ほんとうに惜しい人材だ。
上杉が、一から組織して
手掛けている、福島でのボランティア活動も
なかなかいい活動をしている。
えらぶってない。
地域集落での若年層と高齢者との交流事業も兼ね備えた
ボランティア活動。
やつの論文を地でいっている。
謙虚な活動だ。
役場もそりゃあ、合格させるわけだ。
ちょっとまてよ。
今、私が手掛けている
うちの内閣府の仕事とあわせてできないものだろうか。
いや、復興庁の仕事とでもいいかな。
それにしても、奴はえらぶらない。
それどころか、
まわりの人にかき乱されて
毎回、右往左往している。
でも、そこが彼のいいところ
きちんと周りの人間の話を
納得がいくまで聞いて、そして、判断する。
今日びの若手にはできない芸風だ。
そうそう、こんなこともあったか。
やつは、
私と入れ違いで
大学院を受けなおしたんだっけ。
入りなおした上杉は立派だ。
つまり、俺とあいつは
大学院の先輩、後輩にあたるわけで。
出身の大学は、違っても
大学院が一緒であれば
それは、同窓なわけだ。
同じく同窓生の佐山大先生も、
同窓のことをお喜びになられて
こう言っておられた
「上杉、あいつは、変わり者だよ。
でも、どこまで、化けるか、楽しみだ」
とも。
学会で先生に会うと、いつもその話だ。
笑いながらも、かわいいのだろう。
佐山先生の評価は高い。
上杉といえば、そうそう、
もう、4、5年前の話になるか
とあるホテルのエントランスで
あいつは、俺のことを待ち構えてやがった。
ここで講演すること知ってやがったんだな。
そして、私が
タクシーを降りたところに飛び出してきて。
開口一番
「昌彦先生、お待ちしておりました。
お会いできて光栄です」
とな。
満面の笑みで握手だよ。
あれには、まいったな。
そのだいぶ前に
佐山先生から
おもしろい奴がいるって
話は聞いていたが
初対面の時だわな。
まあ、いかんせん。
あいつは、えらくなるわ。
おっとすまんね。
これから、上杉に会いにいくんだわ。
あいかわらずのボランティアだよ。
しかし、流れはかわったかもしれないね。
ちょっと遠いが
佐山先生とおどかしに行くんだわ。
名刺はもらったわ。
じゃあ、またやつのことが
知りたければ電話してくれ。
なし