猫顔の女性ライダー
「えっ?」
思わずジロジロと眺めていしまったらしい。
澪は少し申し訳なく思いながら振り返り、少しだけ固まった。
モデルでもやっているのかな。そう思ってしまうほどに、スタイルがいい。
全体的にはスラットしながらも、引き締まっているのが分かる。
武術を嗜んでいたからこそ、分かるのかもしれないが。
顔を上げていくと、スラリと水滴が流れるような弧を描く輪郭。柔らかそうでありながらも、キュット引き締まった唇。
スット伸びた鼻に、恥じることなど何一つないというような、大きな眼差しが見えた。
ぱっと見た感じ、猫のようだ。キレイで、すらっとした可愛い猫、と思う。
「すみません。カッコイイバイクだなと思って。すごく綺麗に乗られてるみたいなので、コイツも嬉しそうだなと思ってたら、つい」
「変なこと言う人だね。でも、そうかな?」
「うん。まぁ、君みたいな人が乗ってるのにも驚いたんだけど」
「アハハ。よく言われる」
女性は、くったくのない笑顔を返した。
堂々とした人だなと澪は思うのだが、確かに人の物をジッと、許可もなく見つめられたのであればあまりいい感じはしないだろうと考え直し、
「気に障ったなら謝ります。すみませんでした」
素直に謝罪をする。
これで解決。何事もなかったかのように、平和で平穏な日常になるはず。不可侵条約などと考えてみた。
ところが、だ。
「えぇ。障りました。すごーく障りました」
相手の方が、一歩二歩上手だったらしい。
腕組をした女性は、冷たそうな雰囲気を醸し出す。
澪は困ってしまった。
この程度のことで気に触れるとは、普通だったら思わない。
あまり免疫もない澪にとっては、どう切り返せばいいのか迷う。
迷うところだった。
それを察したかのように、女性は口を開く。
「なので、ガン見料下さい」
「……ガン見料って、何?」
「お腹減っちゃって」
あぁ、そういうことか。澪は納得した。
要は、何かご馳走しろということなのだろう。
「分かりました。じゃあ、少し歩くけどそこそこ美味しいカフェがあります。そこで手を打ってくれないかな?」
「やったー! 行く行く!!」
「じゃ、向かおうか。えっとー」
「名前? 歩美だよ」
「じゃあ、歩美さん、行こうか。鍵貸して」
「ん? どうするの?」
「バイク、押していこうかと思って」
「やっさしい! はいっ」
スルリと伸びたしなやかな手は、痛んでいた。
歩美の手はかさつきもあり、普通の人から見れば綺麗な手をしてはいないその手から鍵を受け取った澪は、バイクの鍵を差し込んでハンドルのロックを解除する。
「バイク、慣れてるね? えっと」
「澪、だよ」
「女の子みたいな名前。可愛い」
「あはは。よく言われるよ」
「じゃあ、いこ! 澪」
「はは、いきなり呼び捨てなんだ」
太陽のように煌く歩美の笑顔に、しぶしぶながら頷くしかなかったのが澪という人間だった。




