ブレスレット
「んー、楽しかったー!」
「満足?」
「うん、すっごい満足!」
歩美は歯を見せて笑う。
それにつられるようにして、澪も微笑んでしまうのだった。
「ねぇねぇ、まだ時間あるよね? 次どこ行こうか?」
「そうだなー」
と、辺りを見回したところで澪は気づいた。
周囲の男の視線が、こちらにある。
より正確には、歩美に視線が注がれていることに。
確かに、不釣合いだもんな。と澪は思った。
モデルのようなルックス。それなりに服を着こなしている女性。
どこから見ても普通の、東京という、面構えの良い者が比較的多い場所からすれば人並み以下の男。
それでも、と思う。
大切にしたいって思って、何が悪いのだろう、とも。
「あ、露店やってる」
「え、あ、ちょっと」
歩美が唐突に手を引っ張った。
品川という場所では珍しいのではないだろうか。
一台の白いワゴンの前に、丁寧に並べられたシルバーアクセサリーの数々。
どれもこれも、それぞれが特徴や味を出している。
ゴツイもの。髑髏を象ったもの。剣。シンプルなものもあれば、捻ったようなものまで。
シンプルなものが多いと思ったのだが、この店では比較的違う趣向のものまで置いてあるらしい。
鏡のようにしっかりと風景を反射するネックレス。
唐草や植物をモチーフとしたブレスレットまでそろえているのだ。
澪は、その中から植物をモチーフとされるブレスレットを手に取ってみる。
蔓が絡み合うようにして、その中には花の模様が見えた。
「キレイ目だねー」
「あまり人が知らないとこが好きかな。多分知らないと思うけど、神衣ってブランドとかすごく好きなんだ」
「澪って、キレイ目の好きだよね。部屋もシンプルでキレイだし」
そんな話をしていると「ソレ、俺の自信作なんだわ」と男が声をかけてきた。
「これ、本当に3千円?」
「そうだよ? ちょっとしたプレゼントには丁度いいと思うけどね」
そんなことを言いながら、店主は歩美を見て
「おねーさんくらいキレイな人がつけてくれんだったら、コイツも喜ぶねー! 今だったら千円引きだ!!」
もう一声するのだった。
「商売上手ですね。買った」
「毎度あり!」
「植物の模様と、あとちょっとこれ、鏡みたいにする加工入ってますよね?」
「分かる? その方がいいかなーってね」
「すっごく気に入りました」
澪は躊躇わず、財布からお金を取り出しながら言うのだ。
「袋とかいらないですよ。その方が、広告料にもなりますよね?」
そんなことを告げられた店主は嬉しそうにして
「お兄さんわかってるー。たまーにこうしてやってるから、また見に来てくれよ!」
そう言いながら「広告分ね」といって、澪の手に500円玉を乗せた。
「というわけで、はい、腕出して」
「いいの?」
「いいよ。ブランドじゃなくて申し訳ないけど、記念みたいなもんだ。いやならいいけど?」
「ありがとっ! もらう!!」
澪は、歩美が上げた左手にブレスレットを付けた。
白くて細い腕に飾られたブレスレットは光を放っている。
それを見てアーサー王の伝説? などと思うのだが、それも酷くばかばかしい話だ。
単に、安い露店から買った安物のブレスレットでしかない。
現実はこんなもの。
だけど、何故かすごく似合っている。
そんな気もして、
「何でも似合いそうだもんな」
と口に出してしまった。
「そんなことないよ。今は――これが一番のお気に入り!」
季節外れのひまわりが咲いたかな。
歩美の笑顔を見ながら、澪はそんなことを考えてみたのだった。
「喜んでもらえて何よりだよ」