古新聞
空き缶をそこら辺にポーンと捨てるみたいに言われては同乗者としてはとても困る。
殺しちゃったかもという曖昧な表現も困る。またもや、頭がぐるぐる急回転する。これは殺人の幇助にあたるのか、「うん、助かる」って言っているんだからすくなくとも、逃走の手助けにはなっているはずだ。ドラマで『あんた逃げて』とか犯人の女が泣き叫び刑事が『逃げられんぞ』とかいって容疑者がボロ・アパートの窓から飛び出したのち、その女はどうなるんだろう?。そこまで気にしてドラマを見たことがない。そうか、同じタイプとか言っている内に犯罪者にまでなってしまったのか、僕は、、。こんな国道沿いにポツポツ存在する民家にも監視カメラがあるんだろうか 最近は監視カメラがどこにでもあるから。もう撮られちゃっているだろうな、、とか思うと急に怖くなってきた。引きこもりでも十分反社会的行為かも知れないが、本当の犯罪者にはなりたくない。
で、早苗がゴシゴシやっている血のついた手を見たらさらに恐怖が、、。僕は容疑者から殺人行為の告白を受けた唯一の存在なのだ。ということは、僕を殺せば、犯罪は完全に隠匿される、そう殺人はなかったことになる。それに気づいた瞬間。僕は人生で最も大量の汗と一生涯で一番早い速度で左の助手席の早苗を見た。
早苗は凶器はまだもっているのか、一対一のワンオンワン・コンバットで僕は早苗に勝てるのか!?。女性でも二本の指で男を殺せると言うじゃないか!?。自首を促すべきなのか、このまま二人で警察署まで行くべきなのか、。頭のなかだけがぐるぐる廻る。
「あっ、そこ右」
「えっ」
気が付くと前方には、ボロい平屋の民家があった。かなり貧しそうだ。民家に明かりはついていない。
「おじいちゃん寝てるから」
早苗は車からさっと降りると
「これ、お礼」お礼ということはこの僕に最小で最後の慈悲として死を賜るのか、
箱がくしゃくしゃになったそれは数本だけ残ったイチゴ味のポッキーだった。
「あのバイトのねコンビ二の店長サイテーでさぁ、乗っかかって来たからぶっ飛ばしちゃった。後、藤本っちさぁ髭剃ったほうがいいよ」
僕は、ワゴンR とともに国道において置かれた。
無精髭を触る余裕はなかった。Uターンをすると安心安全な引きこもりのネスト目指してワゴンRをぶっ飛ばした。民家の表札は意図的に見なかった。知らないほうがいいことが世の中にはたくさんある。深夜徘徊の副産物からの近所迷惑だけは避けなければならないエンジン音を静かに車庫に入れると。逃げるように我が家に入り鍵をかけた。家に帰りついてこんなにホッとしたことはない。父も母もまだ寝ているらしい、いや寝たふりか?。
僕は風呂に入り、布団をかぶり寝た。そう生きたままこの世からおさらばできるのは寝るしかない。
一日二日、経った、二三日経った。一週間経った。家の前の通りを車が通るたびドキドキしたが、警察から何のお咎めもない。どうやら僕は、重要参考人ではないらしい。
深夜のドライブは二三日で再開したが、(なにせ最大の日課なのので)ニノ山コースは絶対確実に避けた。
しかし、本当に怖い思いをしたのは、その数日後だった。
僕は、ニュースもあまりみないし新聞も読まない。洒落た表現をさせてもらえればひどいことしか書いてないしやっていないからだ。スポーツ欄以外は、人過ちばかり書かれている。やれ誰がいくらつかいこんだ、誰が誰を殺した。等々。
こんな瑣末なことから逃げたいからこそ、引きこもっているのかもしれない。
しかし、この実家に同居する両親はそうはいかない。一般的社会人として新聞をとっている。そして引きこもりの息子をすこしでも社会との接点をもたせようとするためなのか、なにかと用事を言いつける。
今回は古新聞の処理だ。当然作業をするのは、夜中、当人が読まないものを処理することほど面倒くさいことこの上ないし、第一古新聞ってのは、めちゃくちゃ重い。うーとか、あーとか、言いながら夜中に古新聞をまとめているとばさっと古新聞が一部落ちた。カッコつけてFU☆Kとか言って拾い上げたがもうその時、僕は運命に弄ばれてきっちりと選ばれていたのかもしれない。そうでもなかったらこの一部だけが足元に落ちるはずがない。
しかも地方欄が目の前に落ちてた。そこには、僕が住む小さな町で起きたよくある殺人事件が掲載されていた。
そして貪るように読んだ。当然早苗のことを思い出したからだ。
ニノ山の向こう側にある一件コンビニで事件は起きていた。読みながら僕の頭から血の気が引いていった。
驚いたのは、被害者の名前はフリーター森村早苗23歳。このコンビニでバイトをしていた森村早苗は、店長と口論になりモミ合いの喧嘩に発展。店長につき飛ばされた結果足を滑らし床で後頭部を強打、頭蓋骨骨折の大怪我と脳挫傷、多量の出血で死んだらしい。
そうか、あれからも、揉めながらバイトしてたのか、、、。僕だけが知っている事情で納得したのだが、、、、。
一番驚いたのは、新聞の日付だった。2月16日。
えっ・・・・・。
早苗を乗せたのは、確か、、一週間くらいしか経っていない。どんなに多く日にちを見積もっても3月ごろ2月ってことはない。僕はカレンダーのあるところに飛んでいき、指をおったりして必死に確認した。
まちがいない、早苗を乗せたのは3月だ。
僕は、ワゴンRのキーを取り出すと必死に車を走らせた、そんなはずはない。そんなはずはない。呪文のように唱えながらアクセルを踏み込んだ。もうタクシーもパトカーも何も気にならなかった、セダンがどうした。早苗を下ろした民家の場所は覚えていた。ハイビームが生い茂った木々を照らし、次のコーナー、もう一回曲がったところとどんどん思い出していく。そして吸い寄せられていくようにワゴンRは走っていく。
そして、到着してしまった。
民家があるはずのところには、なにもなかった。
この話は、最初は、ホラーじゃありませんでした。どっちかというと、軽めの女の子に振り回される話だったんですが、フックをつけるとめ、ああでもないこうでもないと考えているとこんな感じになりました。