王都の影
グランスタ王国 王都グラント グラン・タイムズ本社
資料で狭くなった床を一人の女性が急ぎ足で通り抜ける。
「編集長!これはなんです!この記事は!」
彼女が手に持つのは今日の朝刊。
その一面には〈トーラニア王国、正式に誕生! 〉と書かれている。
「何って君、大ニュースじゃないか。独立なんて建国以来初のことだよ?」
「そうですが、今回一面には私の記事が載るはずだったじゃないですか!一面にないどころかどこにも載ってませんよ!」
「あー、君は入社してまだ浅いから知らないかもしれないけどね。記者の記事は必ず一旦、王国の検閲が入る。つまり君の記事は引っ掛かったってことだね。」
「なっ!?そんな・・横暴ですよ!」
「しぃぃっ!こんなとこで国を批判してどうすんの。あまりにも記事がアレだったら君は連行されてたかもしれないよー。」
「そんなっ・・・はぁ、報道関係者が全員で立ち上がってもこれは変えられませんか?」
「無理に決まってるじゃないか。この話はねぇ、僕がまだペーペーのころに先輩に聞いた話だし、その先輩も先輩の先輩に聞いたというよ。これは根っこは深いだろうな。真実を確かめようにも確かめる前に消されそうだから調べるのはやめにしといたほうがいいよー。」
「うぅ、問題のない記事を作るよう努力しますぅ・・・。」
「僕だって君の記事は正しいことが書いてあったと思うよ。でもだいぶ盛られた噂を元に記事を作るのは無理があるだろうさ。」
「トーラニアの情報って少ないんですよぅ。討伐軍が全滅したとか戦艦が現れたとか、本当に?と思ってしまう噂しかなくて。」
「むむむ。グランスタ王国ナンバーワンのシェアを誇るグラン・タイムズが世界を知らぬことはあってはならないからねえ・・・決めた。トーラニア支部を作ろう。国にはスパイするとかなんやら言えば許可はおりると思うんだけどな。」
「許可がおりたら私をそこで働かせてください!今朝の記事のリベンジがしたいです。」
「いいよ。でもね、国を怒らすと恐いよ。先輩は王都の影を調べに行ったっきり帰ってこなかった。」
「影?」
「そう、君の記事も影に呑まれたんだ、とても深い闇に。気をつけなよ、ラニィ君。」
―――――――――――――――――――――――――――――
同じく王都 グラント 心考塾
ここは心考塾。15を越えたばかりの少年や三十路をすぎようとする男まで、様々な人たちが世のため人のため活躍する知識や技術を学ぶ場所である。
今日も彼等の口は休まない。
それもその筈、「トーラニア王国」というおいしいネタがあがったためであった。
その集まりの中、一人の青年が前に立つ。
手には今日の新聞を持っている。
「諸君、この朝刊を見てくれぃ!」
その一言で場は静まり、青年は注目の的となった。
「トーラニアっちゅう国が正式に認められたらしんや。噂ではグアニスの討伐軍を退けたって話もある。そこで、俺はトーラニア王国に行ってみようと思うんやけど、お前らはどう思う?」
静まった場はまた騒がしくなった。
全員が隣近所の者と話をしている中、一人の手が挙がった。
「先生。トーラニアにはまだ大規模な軍はグランスタから来ていません。つまり、これから来る可能性があります。わざわざ戦乱の起こる地に足を突っ込むことはないかと。」
先生とよばれた青年は返答する。
「確かにそうやな。・・・少し話がそれるけど、お前らはなんでここに集まったんや?世の中で活躍するためやろ?」
「そうです。人の役に立つ、尊敬されるような人物になりたくてここに集まりました。」
そうだ!その通りだ!と他の者が叫ぶ。
「けどな、そんなに甘くはないのがこの世なんや。この塾はおよそ70年続いとるのは知っとるな? 俺で三代目や。そんな歴史あるこの心考塾は何人もの政治家とかを輩出しとる。」
「知ってますよ、そんなこと。現在は全くといっていいほど王国に仕えるものがいませんが二代目のころは十数人ほどここから輩出されたのも。」
どや顔の男をよそに青年は残念な顔をして言う。
「しかしな、インチキやったんや。ほんまに有能やから輩出されたやつは一人もおらへん。歴代の先生は悪事に手を染めた。何がいいたいか、わかるな?」
この場にいたほぼ全員が、まさか!という顔をした。
「あ・・・あぁっ、そんな!わっ・・賄賂!?」
「そうや、知らんかったやろ?俺も三代目なったとき知った。俺の代からは一つもやってない。」
事実である。確かに青年の代からは一人も輩出していない。
「そんなことが許されるはずはない!そんなのが長年続いていたなんて!」
「今現在、グランスタの内部は腐っとる。外部の俺ら国民は中身が腐ってることに気づかないまま一日をゆったりと過ごしとるんや。そんな国で将来を望めるか!望めんのや!」
また一人が挙手する。
「しかし、先生。中央だけが腐っていることはないでしょうから辺境の地であったにしろトーラニアも・・・。」
「お前さんも、あほよなぁ。トーラニアは生まれ変わろうとしとる。こういうのは一度見直すと綻びがよーさんでてくんのよ。そんで悪代官は一網打尽となると俺は見とる。」
「そうなれば人手不足の問題は回避できなく・・・あ」
「気づいたか?つまり、俺らが登用される可能性がぐんと上がる。どうや?俺が出向く価値はあるやろ?」
もう、反論するものはいない。
むしろ、彼等の目には底知れぬ闘志が感じられた。
「満場一致やな。んー、でもここにおる全員が登用されるのはムズいな。そーやなぁ・・30人中20人、俺がここを出ている間に選抜しといてくれや。」
その後は青年は準備に取り掛かった。
お供はなしにして気ままに一人でゆくつもりであった。
「かっかっかっ。もし、トーラニアに変化がなかった場合どうしよっかねぇ。俺はとんでもないことをあいつらにゆうてもたかもしれなぁ。」
誰もいない部屋で一人呟いた。顔は笑っている。
「んじゃ、このソゥがトーラニアに出向いてやるか!」
―――――――――――――――――――――――――――――
(おまけ)
グラン・タイムズ本社
「くそ~、私の記事が引っ掛かったなんてー・・・。」
「おっ、ラニィじゃないか!ちょうど良かった。これを見てくれよ、この画。」
同期の男が新聞に載せるであろう画を持って、声をかけてきた。
「なにこれ?」
そこには一人の男が複数の人間を従えている画が書かれていた。
「なにって、今の王宮のまとめ役だよ。・・・じつはね、僕これを皮肉った記事をかこうとしてんのよ。仮の王誕生!ってね。」
そこで私はピーンときた。
「どうせあんたの記事は認められやしないとおもうわ!それよりその画、貰うわよ!」
「ちょっ!なんで・・!」
私は引ったくるように画を取ってからそこを去った。
「批判がダメなら逆を書けば・・・!」
翌日、あの画と共に「イケメン現る!その正体はまとめ役!」という記事が一面を飾った。
今回、ソゥという人物が新しくでましたけども、関西弁ですよね。でもね、これ実は大阪のやつではなくて僕の住んでる兵庫南部の方に合わせてるんで なにこの言い回し、みたいなものがあるかもしれません。何が通じないのかはわかりませんので知らない単語があった場合は是非聞いてください。