認められた王国
間に合わずー、ごめんなさーい。
戦いは終わったからといってそれが全てではない。
この戦いで荒れた所や犠牲者の確認、戦利品と捕虜の取り扱い等々、勝った方も楽ではなかった。
現に机の上は書類だらけ、たいへんなことに机の向こうのソファーにはギルスがいる。あいつの口は止まらない。
「それでさ、バンキン達河賊は捕虜200人全てを貰うだけで他の恩賞はいらないんだってさ。謙虚だねぇ。」
「しかも、こちらに異民族渡来の大砲をいくつかまわしてくれるそうだ。さすがに悪い気がしたから捕らえた輸送船はあっちの所属にしといた。こちらはまだちゃんとした水軍はないし、いいだろ?」
「いいよ。置き場に困ってたし。異民族の大砲ねぇ・・・、それって大丈夫なの?粗悪品だったりとか・・・!」
「お前も河賊たちの戦艦見ただろうに。グランスタのものよりも格段に性能は上だ。数は多くは用意できないそうだがな。」
「戦いは質より量って言ったじゃないか~!この戦いで証明されたよね!やっぱり王の言うことは正しいのさ!」
「へーへー、そういうことにしときますよ 王様。」
「異民族・・・一体何者なんだろうね。よく聞く話では野蛮な民族だーっていうけど技術力がやけに高い。」
「・・・今度、捕虜を山の麓にいる河賊のところに送り出すんだが、俺たちも視察ということで行ってみるか?」
「考えとく。」
コンコン
誰かがドアを叩いた。
「アラン王補佐殿、北部の運河の警備隊より伝令です。」
ここは政務室である。つまり、俺の仕事場。
ここにいるのはギルスは様子を見にきたのか邪魔をしにきたのか、しかし国の中心である二人が同じ部屋にいるのは今回は都合のよいことだった。
「入れ、何事だ。」
「失礼します・・・あっ、ギルス陛下もここに。」
伝令の彼はペコリとしてから使命を果たす。
「先ほどグランスタ王国から使者が現れ、こちらの書を陛下にと。」
そして伝令の彼は帰った。
数日がたった今も国境付近は警戒は解いていない、まぁ当たり前の話だが。
彼は用意していた鞄から書の入った筒をギルスに渡した。
ご丁寧に紐できつく結んである。
「なんで最初にアランの部屋に伝えに来たのさ、王の方が偉いってのに・・・。うんっ!?・・堅いな、この紐。」
「実はな、ギルスにいく書類や用件は全て俺を通ってからお前に届いてるんだ。」
「まじか。そこまで頼りな・・開いたぁ!」
開いた筒の中の書には文字がびっしりと書かれている。
「うえっ!なんじゃこりゃ。アラン、パス!」
「そういうところがあるからだ。どれどれ・・・」
数分読むと俺は書を閉じた。
たぶん、俺はどことなく嬉しそうな顔を隠しきれていないだろう。
「グランスタはトーラニアを・・・仮想敵国とする、だそうだ。」
「えっ!やばくない?今こられたらどうなるかわからないよ!」
「いや、そうじゃない。これは、遠回しにトーラニアを正式な国家としてグランスタが認めたってことなんだよ。」
「ドユコト?今の今まで正式な国家としてみられてなかったの?だとしたら今なんで?」
「勝ったからだろうな。」
「難しいこと言うね。アランのそうやって無駄にもったいぶるとこ、嫌いだなー。」
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2日前
グランスタ王国 王都グラント 宮殿 会議室
ここに今、グランスタを動かす重臣や高位の貴族が集まり今回の討伐軍の敗北についての議論がなされようとしていた。
近衛兵団長である俺も一応の出席は許可されている。
「今回ここに会議を開いた理由については各々が理解できているはず。グアニス皇子の討伐失敗はどうお考えか?」
「反逆者共が図にのり版図をひろげようと攻めこむでしょう。我輩の別荘が近くの領地にある。グアニス皇子には早急に対処していただきたいものですな。」
「その一点を集中してみるのではなく他の地域からも反逆者がでないように警戒を強めるべきでしょう!」
「いいや!一気にこちらから攻めこみ殲滅すれば訳はない!」
「兵はどうするのだ。この地には近衛兵団しかおらぬし、四人の皇子が結託して兵を出すこともあるまい。結局グアニス皇子に任せっきりになるぞ。」
「王都は広い!無理にで兵を徴収すれば1万人も楽に越すだろう。」
「民の信用を失う!そんなことさせんぞ!」
「なんだと!貴様は財務担当だから金がなくなるのが嫌なだけだろう!」
「なにぃ~!?よくいう!環境担当のくせに!」
(騒がしい。これが、これが高貴な者のする会議か?)
男はこの会議の必要性を理解できなかった。
このままの状態だとなにも決まらない。なにも進まない。
王というリーダーのいない臣というのはまるでまとまりがない。
いっそ自分が、と思ったとき
『諸君、喧嘩など馬鹿らしいぞ。』
机を挟んだ向かいに座った男が喋った途端、場は静まった。
『兵を出すかどうかなど、あとからどうにでもなる。しかし、国の面子としては反逆者の団体に負けたことが問題であろう。』
「では、どうしろと?」
『早急にやつらを国と認めるのだ。そうすれば少しばかり聞こえはよくなる。我々は民になめられてはいけないのだ。』
「なるほど、そうすればやつらも調子をよくして攻めてくる可能性も少くなり我々の考える時間も長くなるというわけですな。」
『軍事のことは君たちは専門外だろう。私もそうだ。だからこの場で担当を決めようではないか。私は近衛兵団長を推薦しよう。彼は5年前の一斉蜂起を戦場で体験している。有効な策を打てるはず。』
(俺を推薦するか。確かに体験したが今回は前とは一味違う気がする。有効な策を打てるかどうかはしらんぞ。)
「まてぇい!軍事担当ならわしがいるだろうが!」
『あなたでは無理だ。位やら肩書きに拘る人間に大局はみえやしない。』
「なっ、無礼な!皆はどうお考えか!?わしだろう!」
誰も喋らず目を合わさない。それが答えである。
「くっ、わしは認めんからなっ!」
このあと特に進展のないまま会議は終了した。
解散のあと、一人の男を追いかけた。
「マラル王宮管理長!」
『ん?あぁ、近衛兵団長殿。どうしたのだ?』
「気になることがあった。・・・なぜ俺を推薦したんだ?あなたとはなんの接点もないはずだ。」
『私は人間観察が好きでね。誰がどういう人間で何を考えているかよくわかる。私はこのくだらない王国を変えようと思っている。』
「一体何を言っている!?こんなところでそれをいうか!?」
『君の顔見ればわかる。君も私と同じ口だろう?変革を求めているだろう?』
(!・・・こいつ)
「手始めに権力を強めるのだ!そうすればことはなされる!」
『・・・俺がこのことを外に漏らしたら、とか考えなかったのか?』
『君はそういう男ではない。言ったはずだ。誰がどういう人間かわかると。まぁ、これはすぐにできることではない。しかし、心にいつも留めておいてほしい。変革の時までな。』
「俺はもう危ない船に乗っていたらしい。わかった、心に留めておこう!変革の時まで!」
その後、グランスタの使者はトーラニアにむけ走り出した。
僕の最初の小説ということで文章表現などを実験的に使っているときがあります。結果はどうなるかはわかりませんが、より良い作品になるよう進化していきたいです!