戦いは数だよ パート1
いただいた地図がついてます。
長くなってしまったのでパート1にしました。
この話はパート2で補完します。
ヤルタ運河 グランスタ王国とトーラニア王国の国境であり、大型船が4隻並ぶことのできるとても広く大きい川である。
普段は漁師や渡し舟(船)が賑わっているが、今日は舟(船)は1つもでていない。戦いに巻き込まれるのを恐れてのことだった。
「ここがかの有名なヤルタ運河。ソート!向こう岸まで渡るための輸送船の姿が見えないぞ、どこにある?」
「はっ、ジルター様が万が一に備えて増援1000の部隊を急遽用意されたとのことなので、その遅れかと。」
「うーん。親父の心配性には困ったもんだぜ。輸送船の到着までどうせ2日程度かかるしなぁ。どうしたもんか・・・。」
「ここは増援を待って万全の状態で攻めこんだ方が得策です。」
「えっ?あぁ、そうだな・・」
(こいつ・・・。)
ジルカバンは正直この副官であるソートをうざったらしく思っていた。今回の討伐に赴く際、自分が考えを出す前にあれこれと案を出してきたことはよくあった。しかもその案による行動はいつも正しかった。
司令官は自分、なのになぜ副官がでしゃばって自分を導こうとするのか。司令官に選ばれた以上、自分が導く側の人間であるはず!そんな思いがこの考えを生みだしたのかもしれない。
「・・いや、渡る!民間の船(舟)を徴収して今日中に向こう岸へ到着するのだ!数日後、増援がきたときには我々はもう決着をつけている、そのような気持ちで動け!」
命令を聞いた兵士たちは次々と準備をはじめた。
「ジルカバン様!?増援を待たなければ!ジルター様もなにか考えがあって増援をだしたのです!ここで我らが慌てて動き、失態でもすると今後に響きます!」
「ええい!いつもいつもうるさい!この案は俺様が考えて決めた!副官は黙って従えばいいんだ!」
ツカツカとジルカバンは去ってしまった。
ソートの心には、もやもやした感じが残って去らなかった。
「まさか、俺への当てつけではないよな・・・。ははっ・・そんな、まさか・・・。」
偵察隊の報告によるとやつらは民間の船(舟)を集めて運河を渡りはじめたようだ。つまり輸送船の手配が上手くいっていないということと、司令官はアホである可能性が高いことがわかる。
民間の船(舟)を徴収するということは後で元通りに返さなければ民衆の反感をかうし、運用能力が軍のものよりも劣るので効率が悪いからだ。
こちらの軍は素直に従ったのが千人組隊長のジュウとチースト、あと・・名前の知らない槍使いの隊長の計3000の兵だ。
あとの千人組隊長2人は留守は守るとかいって引きこもりやがった。千人組隊長の司令官は風邪だ、歳だからなのかここのところ病気がちだ。
「アラン。敵さん、きたね。どうすんの?なんか策あるんでしょ?こっちは準備がととのってるんだけどー。あっ、村の方に向かってるけどいいの?」
「待て、慌てて動かなくてもいい。大丈夫、計算の内だ。そうだな・・。村についてからなら攻撃してもいいぞ。俺の策はそこまでだから後は好きにしろ。」
「わかった。じゃ、後は任せて帰っていいよ。司令官は僕だけで十分だから。」
すねてやがる。なんだよ、俺が命令したら駄目なのか?
「あ やっぱりここにいたほうがいい。護衛もなしに帰るといきなり刺されちゃうかもしれないからね。」
確かに仕方なく残してきた隊長どもは信用できん。ここでおとなしくしているのが一番か。
運河を渡った部隊から順に近くにあるという川沿いの村に向かわせた。
ジルカバン様は正直、無能に限りなく近い。ここは俺が頑張らねばこの戦いは負ける。
その戦いで重要なのは拠点の確保だ。小さい村だろうが無いよりはまし。そのために俺たちは歩を進める。
しかし、
「こ・・これは!?」
我々が見たのは破壊された村だった。
家はまだ残っているが屋根はなし、畑は荒れて、簡易な塀もない。あるのは藁葺き屋根の残骸、崩れた土壁ぐらいだ。
はかられたか。
そう思ったのだが、違った。
まだ住んでいる人がいたのだ。
歳はどちらかというと老人、ぼろぼろの服を着て痩せこけている。
「一体、この村で何があったんだ?」
「おお、グランスタ王国の方・・ですかな?私はこの村の村長をしておったものです・・。実は・・・。」
その内容とは、支配者が変わって一時は生活が楽になったものの、すぐさま新しい税が追加され村人たちはまた苦しい生活を送ることとなった。そこで村人たちはグランスタ軍が討伐隊を出したとの噂を聞いて一揆を企てたが、トーラニア軍に察知され村は破壊され村人は連れ去られた。唯一情報収集のために運河の近くにいっていた村長だけが残ったらしい。
「そんなことが・・・トーラニアめ・・!」
奴らはやはり王国に逆らう反逆者だ。ここの村人たちのためにも奴らを叩き潰さねばならない。
「我々が村人たちを取り戻す。討伐軍の副官として誓う。そのためにここを仮拠点として使わせていただく。」
「おい、ソート。もっと綺麗な村はないのか、こんな汚ならしいところ。・・近くにはないのか。チッ、仕方ねぇ日も暮れてきたし、ここにするか。」
ジルカバン様・・いやジルカバン。お前のクズさには心底うんざりさせられる。この戦いで結果をだてし、お前を超えてやる。
お前は人の上にたつほどの品も器もない!
そして日は暮れる
「かがり火をみるに500程度は村の中、あとは外にいるんじゃない?警戒がきびしいな。今日は攻めないけどね。」
「敵はおよそ2000程度。夜にいかなくていいのか?兵を動かすにはちょうどいいと思うが。」
「たしかに兵を動かすにはちょうどいいね。けど攻めない、ただ動かすだけさ。まぁ見ててよ。」
練度も士気もやつらのほうが上、兵士ってのは量も大事だが質はもっと大事なのだ。俺はそう思う。
そして日は昇る
村の外れに建てられた背の高い物見のやぐらでは敵がこないかを徹夜で見張るため警戒を怠れず、非常にシビアな現場である。
「ふぁ~~。異常なし。」
「副官様も心配性だなぁ、警戒を怠るな!だってさ。」
「ほんと。徹夜で兵を動かすとやる気がなくなるよなー。」
「噂じゃあ、増援が明日くらいにくるらしいから、見張り番は変わってもらおうぜ。おかげで寝不足だ。」
「そりゃいいな。俺も寝不足だー・・・ん?なんだあれ。」
「馬だな。旗はグランスタ王国旗だ。伝令か?」
駆けてきた馬は見張り番の前でとまった。だいぶ急いでいる。
「私は輸送船隊の伝令係の者だ。こちらに到着したのだがジルカバン軍の姿が見えんので足跡を頼りに追ってきた。ここの司令官に会いたい。通してくれ。」
「ちょ、ちょっと待ってください!今、上の者に話を・・」
「馬鹿者!すぐそこまで増援はきておるのだ!敵襲と勘違いしてここの軍が騒いだら敵に隙を見せることになる!・・第一、敵が輸送船の増援のことを知っているはずがないだろう、私を早く通せ。」
「わっわかりました、今降りますんで。 ではこちらに。」
「増援がきたぁ!?ほんとか!?」
「思ったよりも早かったですね。ジルカバン様、兵たちに慌てないように注意してください。」
「増援はそこまできています。早めの対処をお願いしたい。」
「ソート、お前が兵たちに適当にいっとけ。使者の方はむこうの責任者に`合流ができしだい逆賊の討伐にでる。´と伝えてくれ。こちらも受け入れの準備はする。」
(けっ 朝っぱらに来やがって、いい迷惑だぜ。)
「わかりました、伝えておきます、では。」
伝令係はジルカバンたちがもとからきた方向へと戻った。
見張り番たちはどことなくうれしそうだ。
「やっと増援かぁー、これから楽になるなー。」
「うれしいよなー、やっと見張り番を終われるんだもの。」
5分後
「増援、どこくらいまできてんだろうな。」
「もうちょっとしたらみえるんじゃないか?」
5分後
「あれ、なかなかこないな。」
「確かに、あっ!あれじゃないか?まだ遠いが来てくれた!」
うっすらと見える王国軍の旗。およそ1000と思われるその集団はゆっくりと近づいてくる。
「ジルカバン様、増援の姿が見えたようです。これで逆賊を叩きましょう。」
「ほんとは来る前に全部を片付けたかったけどな、来てしまったものは仕方ねぇ。出迎えの準備を・・・」
急に兵たちが騒ぎはじめた。そして、
『敵襲ーーーーーーーっ!!』
「なっ・・・!今だとぉ!?」
「どこからだ!」『増援と反対側!』
「数は!」『およそ1500!』
「増援が完全に到着する前に俺様たちを逆に叩こってのか!兵たちを叩き起こして直ぐに隊列を組ませろ!あと、増援にも早く来いと伝えるんだ!」
ギルス達の眼前には横にびっしりと並んだ敵の姿がみえる。
突然の敵襲に若干の慌てはあるようだが、軍隊としては滞りなく機能はしているようだ。
「さすがグランスタ王国軍、兵の展開は早いね。でも、僕の軍を止められるかな!(すうっ)かかれーーーっ!!!」
おおおおおおおおーっ!!
ギルス軍の突撃にジルカバン軍も負けじと攻撃にでる。
そして、瞬く間に両軍の距離は詰まり、そしてぶつかりあう。
雄叫びと金属音が交差し、怒号と血が飛び交う。
斬っては斬られ、刺されては刺すものたち。
考えもなく突っ込んで槍に刺されるもの、激しい剣のぶつかり合いのあと第3者に斬られるもの。
どちらも押さず退かず激しい戦いがまだ続いている。
2000の装備に隊列をくんだ優秀な兵と1500の、相手より劣った装備に簡単な隊列の平凡な兵、差は確実にあるがそれでもトーラニア兵が押し込まれなかったのはギルスの巧みな指示のおかげであった。
『敵軍!右翼より包囲しようと猛攻!』
「右翼!弓隊で援護しながら兵を下げ、中央から突破をはかって! そろそろ始めるよ。」
「敵は右翼を下げました。恐らく中央・左翼に兵をまわし、包囲が完了する前に突破するつもりでしょう。」
「んなこたぁ、わかってる!右翼から敵を包みつつ、中央の守りを固めろ!増援は何をしているんだ!あれからなんの連絡もこねぇ!ソート、お前がさっさとつれてこい!」
「はっ。わかりました。」
(増援さえくればこっちも!)
「物見!増援の様子はどうなっているんだ!ジルカバン様はお怒りだ!」
「ええ、いや。見えるとこにはいるんですけどそれから動こうとしていません。どうしたんでしょう。」
「なに!?(一体どうした!向こうにも敵がでたのか?だとすればトーラニアには予想以上に兵を確保できていることになる。2000の兵では討伐など・・・。)」
「あっ!動き出しました。真っ直ぐこちらにむかっています。」
「おお、そうか!ジルカバン様にお伝えしてくる!増援には・・」
突然、`ぉぉぉぉぉーっ´と雄叫びが遠くから聞こえてきた。
「あれ・・・?ちっ、ちがう!増援じゃないっ!敵です!」
「なんだとっ!?馬鹿な・・!・・・我々はずっと敵を増援と思って近くでのんびりしていたのか・・。うっ」
ソートの顔はさぁっと青ざめていった。
「これは挟み撃ちになっているのではないか!?」
(この戦い、負ける!全滅だ!まずい、どうする!?)
「ぬぁーにぃ!増援と思っていたのは敵軍だったと!?何故きづかなかった馬鹿者どもが!2000の兵で1500と1000の挟み撃ちを破れるわけないだろう!ソート、今だけ案をだすことを許す!」
(こんなときだけ俺に!)
「現在、僅かな軍勢で1000の敵兵を食い止めています。幸い、あちらの方は機敏な動きはしていないので500あれば破れるかと。」
「馬鹿か!挟み撃ちのせいで我軍の士気は落ちて弱体化し、正面の敵を食い止めるだけで精一杯なんだぞ!兵を割けるか!」
(お前が案をだせといったから出してやったのにその態度か。)
「となれば敵がまだ展開していないトーラニアの内地の方へ撤退するしか・・・」
「撤退・・・そうだ、撤退だ!左の方は川のせいで逃げることができないが、右にはトーラニアの内地!そこから迂回ルートでもしていけば希望は無いわけではない。お前はここに残って殿をつとめてくれ。俺様はその隙に。」
「俺に残れというのですか・・・。」
「そうだ!何のための副官だ!死ねとはいわん、俺様が生きて帰ることができたら救出にきてやる。」
「・・・ろう。」
「ん?なんつった?」
「馬鹿野郎っ!!」 バキィッ
「うがっ! いてぇあ! なにふんだ!!」
「お前にはもう、うんざりだ!なにが残れだ、お前のために死ねるほど人の命は安くない!」
「くっ~!ソート!貴様ぁーっ!お前は俺様の撤退する供にには連れていかん!敵に刺されて死ねっ!」
「俺は川を泳いででも本国へ帰る。ジルカバン、生きて帰ったら救出にきてやるよ。」
「こんのぉーっ!覚えていろ!貴様が生きて帰るなら、俺様も必ず帰って貴様を軍事裁判にかけてでも殺してやる!」
「ギリギリまでここの指揮は俺がとる。ジルカバン、逃げたいならさっさといったらどうだ。お前には10の兵士をくれてやる」
「10だと!?そんなのでここから逃げ切れると思ってんのか!指揮権はくれてやるが、100の兵はよこせ!」
「お前に付いていく兵が100もいるとおもうか?」
「そっそんなことは・・・。」
周りをみるがジルカバンと眼を合わせるものはいない。
「貴様ら~っ、死にたければここにいやがれ!俺は勝手に逃げるぞ!」
およそ5名がやつについていった。
(恐らく右のほうにも兵をまわしているだろう。ジルカバン、達者でな。俺は俺の責任だけは果たさせてもらう。)
「正面の兵を後方へまわせ!撤退のルートを開く!全軍で当たればなんとかなるかもしれん。後方へ逃げればいつかは本物の増援にあえるはず。それと、200ほどは俺と共に正面の兵を抑え、時間を稼ぐ。志願するものだけでいい。」
正面の戦場は兵が後方の戦場へとまわったため、とても静かだ。向こうも態勢を立て直すため一時的に進軍を停止したようだ。しかし、あと数分すれば攻撃に出てくるだろう。
(俺もただでは死なん。できるだけ兵たちを逃がしてみせる。)
ソートは死を覚悟した。