従者の語らい
今回は土曜日に間に合いました。
クリスマスに書き上げた僕はその日に暇な時間があることに感謝すべきなのか。
トーラニア討伐が失敗して1週間がたった。
私は報告書を読み上げる。
生存者は、副官ソートと若い兵が一人。
(数日待ったが誰も帰ってこなかった)
話を聞けば、わが息子ジルカバンが焦って動いたこと、撤退中に謎の船(おそらく戦艦)を発見したこと、予想よりも多くの敵兵が現れたことが書かれてある。
「・・・以上です。」
恐る恐るグアニス様を見るが、憤怒ではなく後悔の念に満ちた顔をしている。
「報告ご苦労。・・・すまんな、ジルター。俺がもう少しお前の話を聞いていればよかったのだ。お前の息子も死んでしまっているだろう。・・・このグアニスの権威は地に落ちた。」
グアニス様が弱気ではいけません!
「何をおっしゃいますか!私がもう少し強く止めていれば良かったのです!どら息子がなんです!グアニス様がいれば、権威などはすぐに取り戻せましょう!」
そのために私が、今度こそ導きますぞ。
「・・・幼少期より世話をかけるな、ジルター。もうひと踏ん張り支えてくれるか?」
返事はひとつしかあり得なかった。
「では、早速なのだが聞きたい。王国がトーラニアを正式に国家と認めた件はどう思う?俺は怒りがこみ上げてくるんだが?」
グアニス様はいつもの調子に戻られたようだ。
「いえ、お怒りになる必要はありませんな。これはグアニス様のための処置でしょう。さすがに王族に恥をかかすことは避けたい、もしくはその恥を少なくしたいとのことだと。」
「なるほど。それなら怒りは収めよう。むぅ、トーラニアめ。しかし、時期が悪いな。他の弟たちの動きも気になる。下手に兵は出せん。かといって少なすぎると返り討ちに遭うかもしれんし・・・。」
「協定を結ばれてはどうでしょう?義理堅い三男、〈キョウジ〉様なら今までの恩ということで大丈夫かと思われます。」
「けっ、あの義弟とか?高貴な血を半分しか持たぬやつと協定なぞ!」
「・・・次男、〈ロム〉様にいたしますか?」
「ぬぬぬ。やつは信用にならん!キョウジは襲ってくることはほとんどないだろうがやつは隙を見せれば必ず来る。今だって兵の大部分は向こうの警戒に出している。難しいことになった・・・。」
私もどうすればいいか、考えて、考えたが浮かばない。
〈コンコン〉とドアから音がした。
「入れ!何用だ!」
屋敷の警備兵を名のる者が入って来た。
「失礼します! グアニス様、屋敷に王宮からこのような書状が。」
「ん?屋敷に届いたということは私用ではないのか?ならば、この城まで持ってくることもなかっただろう?」
「いえ、何でも急ぎであり重要なことである、と受けとる際に。」
王宮から・・・まさか討伐失敗の件か?
グアニス様が確認するまでは私も書状を見るわけにはいかない。
「ふむぅ、これは好都合。ほれ、ジルター。」
「・・・これは、なるぼど屋敷に届いた理由はそういうことでしたか。」
書状は王家四兄弟による会合が開かれるから王都まで来てくれ、という内容であった。
それぞれの領地のトップが4人とも一気に中央に集まることを他のものになるべく知られたくないためにわざわざ私用の書状と見せかけたわけだ。
「確かに好都合ですな。王都の今の家臣団まとめ役と繋がりを持つこともできましょう。そうすれば王都からの助力もあり得ます。」
「そうだな、それも、ないことはないだろう。日程は一週間後か。なるべく極秘にしたいので従者は少数、ジルターが選んでおいてくれ。」
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一週間前、俺はグアニス様からお呼びがかかった。
正直いって討伐失敗の責任を取ることになるだろうと思っていた。
「俺は近々、王都まで極秘で向かう。ソート、お前が従者としてついてこい。」
しかし、それは違った。
(俺が従者!?正気か!?)
「私が、ですか?とんでもありません。あのとき副官だったとはいえ、私の責任は重いでしょう。他の者の方が適任かと。」
「ジルターが選んだ。ならば、それは最善であり最高の判断というわけだ。任務を受けろ。これは命令だ。」
「うっ・・・そういうことならお受けいたします。」
こういう経緯で俺は今、王都グラントに到着している。
中心街だけあって他にないぐらいの賑わいと発展具合に驚きを隠せない。
中でも街のど真ん中にそびえ立つグラント城は、まさに難攻不落の城といっていい体をしている。
王都とは王家四兄弟の領地に含まれていない中央の地域をいう。だが、王都といえども全てがこの中心街のような発展をしている訳ではない。見渡す限り田畑が広がる田舎の地域も多数存在する。
ただ、広い王都の中心部では巨大な城壁が中心部を取り囲むように張り巡らされている。
その中に俺はいるのだ。
グアニス様の従者として城に入り、会議室まで見送ったあと、待合室にて帰りを待つ。
「お前がここで凛としているだけで意味がある」とグアニス様に言われているので椅子に腰掛けながら背筋を伸ばし目をつむって大人しく待っていたところ、他の兄弟の方の従者と思われる一人の大男が目の前に来て話しかけてきた。
「グアニス様んとこのやつだろうけども、見たことねぇ顔だな。おめぇは何て名だ?」
どうする?相手をするか?こういう輩は面倒くさい。
しかし、他の兄弟の方の従者である以上、無下にはできない。
「・・・ソートだ。」
「ほほーっ!んじゃあ、おめぇがあの例の討伐戦の生き残りか!噂と話は聞いてるぜ~。まっ、今回ここまで従者で来たってぇならなにか意図があんだろう?例えば、俺は討伐失敗ごときで部下を簡単に処罰なんかしないぜっていうグアニス様の意思表示とかよ。」
よく喋る。なるほど、罰もなくここまで来れたのはそういうことか。凛としていろ、という命令もそういうことと理解できる。
「なんだよ~!なんも喋らねぇのかよ~!あっ、俺の自己紹介がまだだった!いけねぇや、失礼失礼。俺は王家四兄弟の三男であるキョウジ様の従者としてここに来た〈チョウカ〉というもんだ。ほんとは従者という立場よりも偉いんだが・・・今回は従者ということにしといてくれ。よろしくな!」
どっかで聞いたことある名だな。
チョウカ・・・うるさいやつと覚えておこう。
「あぁ、よろしくな。」
あまり話にのらないほうがいいだろう。
他の従者2名も『うるせぇな』という目をこちらに向けている。
そちらは特に関わってこなかったので無視しておいた。
それからもチョウカはいろいろと話しかけてきた。
「なぁ、ソートよう。あっちの方には強いやついたのか?」
「あっち?トーラニアのことか?」
「そうそう、どうだった?」
「強いやつは・・・いたよ。俺が出会ったのは一人だったがそいつは強かった。俺は確実に殺されていた。でも、そいつはわざと俺を見逃した。強くなれって目で言われた気がするよ。フフッ」
思い出して笑ってしまった。
あの時、俺は殺されていた。なのに生きて今、従者として王都まできている。生きるってどうなることかは分からないな。
「そうかそうか、強いやつはいたか。俺もいつかは戦ってみてぇなぁ。ソート、おめぇは強そうだからそいつは本当に強いんだろうな。」
「戦いは好きなのか?お前もけっこう強そうだぞ?」
「強そう・・・か、くくく・・がっはっはっは!」
なんだ?いきなり笑いだして。
「くははーっ・・おめぇは知らねぇのかよぉ。ぷぷっ、キョウジ領最強の武将、通称鬼子の名を!」
「えっ・・・あっ!!お・・鬼子チョウカ・・・・!」
思い出した!
かつて全土に広がった反乱で、キョウジ領だけが一人の武将率いる軍によって大きな動きを起こす前に叩き潰された。
そのとき軍を率いていた者は戦いぶりから鬼子と呼ばれた。
(こっ、こいつか・・・。)
「知ってたか!よかったよかった。キョウジ領の英雄が忘れられてたらたまんなかったぜ。」
俺が驚いている間に、会議室での会合が終わったという報告がきたのでここで一旦、話を終える。
「じゃあ、またな!おめぇの朗報を楽しみにしてるぜ!」
彼は先にいってしまった。
(キョウジ様はあんなやつを連れてきて一体何をするつもりだったんだ?)
そんな疑問が残った。
今回で反乱の時期を特定しやすくなったかと思います。
①前王が現役。(現役の定義は読者基準で)
②そのとき、もうキョウジ領である。
③チョウカが活躍できる年齢(ちなみにチョウカは30前半)
物語が進むにつれて分かってくると思われます。
(正解は知らん!)
忙しいお正月ということで来週の投稿(1/2~3の土日)はお休みです。