プロローグ
シルヴェスタリア王国王城の研究室。現在そこである魔法の研究が進められていた。その魔法は天変地異を起こすものからどうでもいいものまでと、何でも出来る代わりに何が起こるかわからないという代物だった。
「術式の改変はまだなの!一刻も早く勇者召喚に確定しなさい!」
シルヴェスタリア王国第3王女ステラ=シルヴェスタリアはその魔法で勇者を召喚するべく躍起になっていた。
「術式の改変は終わったのですが、魔法陣を展開して発動するだけの魔力が我らだけでは足りんのです。」
「それなら私の魔力を使えばいいわ。その程度で私の悲願の達成を邪魔することなど、あってはならないのよ。」
老年の魔術師に魔法陣を展開している場所に案内させ、自らも魔法陣を完成させるべく魔力を込める。
(これでお兄様やお姉様達を見返すことができるわ。父上も少しは見直してくれるといいのだけれど。)
鳳裕也はいつもと同じ生活を送っていた。授業を受けている振りをしながら、どうやったら父に一撃を加えることができるかを考えている。幼少の頃から神童と呼ばれ、高校生となった今では、同年代はおろか大人ですら彼に勝てる人物はそうそういない。だが、そんな彼ですら父には勝つどころか一太刀も当てることができなかった。
(今日こそ当てる。それか2本目抜かせてやる。)
終業のチャイムが鳴る。裕也が身体が引き伸ばされるような感覚に襲われた次の瞬間、彼は意識を失っていた。その日、彼の通っていた学校から生徒の約2割と教員数名が姿を消した。
友人に呼ばれる声で塔堂正宗は目を覚ました。目を開けると小学校からの友人である鳳裕也が、いつもと同じだがどこか呆れた表情で正宗を見ていた。
「起きたか。随分寝てたな。」
「えーと、僕は何で寝てたのかな?授業中に寝落ちした憶えは無いんだけど。」
「知らん。だけどそこらへんのことも含めて説明してくれるはずだ。」
そう言って空中に浮いている壮年の男性の方を見た。
「全員起きたようだな。では、説明を始めるとしよう。」
(あれ、もしかして僕最後に起きた?)
「さて、単刀直入に言おう。お主らは異世界に召喚された。あちらの世界で何かしらの方法を見つけない限りはこちらの世界、地球に戻ることはできない。因みにここは〈時空の狭間〉という場所だ。どこにも当てはまらない世界と世界の間にある。儂がお主らをここに呼んだのは、お主らがあちらの世界で生きていけるよう力を授ける為だ。」
「ふざけたことを言っているようにしか思えないのですが、根拠はあるのでしょうか。」
すかさず生徒会長が言うと周りもそれに同調する。
「根拠と言われてもあちらに行けば分かるとしか言い様が無いな。」
「生徒はともかく私達教員には、生きる力はいらないと思うのですが。」
他の教員も同意したように頷くが、
「あちらの世界はこちらのように安全ではないのだ。魔物もいるし奴隷もいる。何らかの力や技能が無ければ、魔物に殺されるか、奴隷になってしまうのがオチなのだ。」
と言われると眉をひそめた。
「質問はいいな。もうあまり時間が無いのだ。」
裕也が口を開いた。
「一つだけ。あんたは何なんだ。」
「儂は管理者。お主らのいた世界の繁栄を見守る者。しかし、世界が滅びを望むならそれを良しとする者。」
そう答えると管理者と名乗る男性以外の身体が淡く輝き、手足の先から消え始めた。
「あれ、消滅してる。」
正宗は何気なくそう言ったが、
「な、何なんだ!」
「う、うわああああああ!」
周囲はかなり混乱していた。
「先程、儂のことを聞いた少年。お主、名は何という。」
裕也は驚いていたが、冷静に答える。
「鳳裕也だ。」
そう言って消えた。
「オオトリ?あの男の息子か?それなら簡単には死なんだろう。」
そう言って男も姿を消した。