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     ◇ ◆ ◇


 何千人もの受験者を蹴落としながらも、こんな講義をつまらないと思うのは罰当たりだろうか。

 教授の声は教室の中で一切反響せず、ぼくを含んでいるこの空間は、砂を噛んだような味気なさがする。なにがあったって、特別なにかが面白いわけではない。ほとんどの毎日はこの繰り返しだ。

 それにもかかわらずぼくが毎日を楽しいと感じられるのは、ささやかな友人と、大輔という名の恋人が彩りを与えてくれているからだと思う。それだけで、だいぶ救われているようなものなのだ。


 教授のつまらない講義が終わると、皆一様に席を立って動き出す。ぼくもまっさらなルーズリーフをまとめてファイルへとしまい、それから彼らと同じように席を立った。


「シオン」


 ふと、背後から声をかけられる。スキップでもしそうな、快活で明るい声だ。振り向くと、すぐに豊満な胸を持つ長い髪の女性が目に入る。

 ぼくのささやかな友達のうちの一人、山瀬やませはるかだった。彼女はぼくのことを男でもなく女でもなく、ただの「シオン」として理解してくれている。


「なんだ、どうかしたのか?」

「シオン、この後の時間は暇?」


 彼女は疑問に疑問で返す。少し思考を巡らせて、それから今日は大輔が合コンに行く日だということを思い出した。この後は大輔のために空けておいたようなものだから、特に大事な用という用はない。強いていうならば、買い物がしたいくらいだろうか。


「今日の講義はこれでおしまいだから、暇ではあるよ。でもちょっとだけ買い物に行こうかと考えている」


 そう答えると、みるみるうちに遥の顔が綻んでいくのか分かった。


「そう。それはよかった。それなら私と一緒に行かない? 恋人の誕生日プレゼントを選びに行きたいの」


 彼女は僕を真っ直ぐに見て笑う。午後の柔らかい光がす教室で、遥の明るい髪が照り返っていた。彼女の話に納得して、ああと頷く。


「構わないよ。この後図書館で本を借りてからになりそうだけど」

「うん、いいよ。じゃあ校門の前で待ってる」


 涼風のようにそう言って、彼女は清々しく去って行く。相変わらず颯爽としていながらもどこか艶のある仕草に、ぼくはその後ろ姿をしばらく見つめる。

 やがてガラクタばかりが詰まったデイパックを背負うと、装飾品のような空虚な明るさが差す教室を後にした。

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