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「本当にいいのか?」


 嬉しがるような気色が含まれている声に、間を置かずして首肯する。彼の様子を見るに、どうやら行きたかったらしい。ならば否定する理由はない。確かに大輔はここ最近はぼくと一緒にいて、同じ大学の友達の誘いを片っ端から断ってぼくのそばにいるという状況だ。たまには他の人との付き合いも大事だろう。

 ぼくは枕を手繰たぐり寄せて抱き締める。


「飲んで話して、それで終わりだろ?」


 ゆっくりと顔を上げて大輔を見た。そして明るい笑顔を作る。どういうわけか、少し息苦しかった。あえてそれを意識しないように大輔に目配せするが、彼は浮ついた目で視線を宙に彷徨さまよわせていた。


「まあ、メシ代は先輩が出してくれるっていうし……。そこにいるだけでいいって言ってたから、特になにもないと思うけど」

「うん。じゃあ行って来なよ。息抜きみたいな感じでさ」


 ぼくはさらに笑ってみせる。彼は枕を抱えるぼくを見て、しばらく考えてから納得したように頷いた。


「そっか。なら、行ってくるよ。気分転換か。どうせならシオンと行きたかったな」

「ぼくが行ったら余計気まずいだろ。合コンにカップル二人なんて、見せつけでしかない」

「いいじゃん。見せつけてやれよ」


 大輔がからかうように笑う。けれどぼくは困り果てた笑顔を返すことしかできなかった。


「無理だよ」


 言葉が寂しく零れる。言ってから、放ってしまった声の断片をどうやったら回収できるだろうかと思った。しかし幸い、大輔はその声が聞こえなかったらしい。


「明日はシオンはどうすんだ?」


 少し隙間ができてしまったような思考に、大輔の声が染み込んでいく。無理やり出した声は少しだけ掠れていた。


「ああ、そっか。合コンは明日だよな? 終わったら連絡してよ。ぼくは……そうだな、久々に買い物にでも行こうと思う」


 ふうん、と大輔が相槌を打つ。ぼくは微笑んで、それから大輔に向かって口を開く。


「それよりもさ、今日は泊まっていくの?」


 一応の確認だった。もうこんな時間だが、今なら終電に間に合うかもしれない。ぼくは規則的な音を立てる、面白みのない掛け時計を見やる。細い針は先ほど見た時よりも少し傾いていた。

 大輔は携帯で時刻を確認する。彼の顔が暗い中に浮かび上がる。ぼくはしばらくそれを眺めようとしたけれど、彼は突然サイドテーブルの上に置いてあるグラスを手に取り、半分以上あった中身を飲み干した。思わず呆気に取られた。


「泊まっていくよ。まだ飲み足りない」


 これ以上飲んだら心労に負担があるのではと思ったが、彼の赤くなった笑顔に「仕方ないな」と笑い返すしかなった。ぼくはスコッチのボトルを手に取ると、彼のグラスの上で傾けてやる。


「ほら、飲めよ」


 いつもなら大輔が飲むことにあまりいい顔をしないぼくだが、今は別だった。ぼく自身持てるすべての心を彼に預けたい気持ちだったのだ。

 なぜだか分からない。

 けれど、たぶん彼が朝までそばにいてくれることが嬉しいのだと、その時のぼくはそう思っていた。

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