5
「森本先輩、なんだって?」
彼から目を逸らし、社交辞令みたいなことを呟く。ぼくの言葉を拾った大輔は唸り声を上げる。要点をまとめようとして考えているようだった。
「明日の合コンに来ないかって」
「合コン?」
繰り返した言葉を疑問符にしながら、大輔の方を見る。夜に電話してきておいて内容がそれかと呆れたのだが、大輔はぼくの驚きの意味を間違えたようだ。
彼は無言で頷いた。
「ああ。なんか男子で一人、どうしても来れないって人が出たから代わりに来ないかって。予定が入っていたら今のうちに断っておくって先輩が言ってたから、とりあえず明日はなにもないと答えといた」
つまりは数合わせの依頼らしい。
「行くの?」
大輔はそうたずねたぼくの隣に腰を下ろす。距離を詰めてくるように座った彼の温もりに、思わず肩が跳ねた。大輔が口を開く。
「どうしようかな。シオンが嫌っていうなら行かない」
その言い草はまるで、「行かないで」と言わせたい欲求のように思えた。彼がぼくを試したいのだと分かる。
どう答えようか考えていると、大輔はぼくの肩に顎を載せてきた。犬がじゃれ合うような動作だった。ふんふんと無遠慮に髪の匂いを嗅いでいるのを見ると、どうやらまだ酔いは醒めていないらしい。
ぼくは大輔を引き剥がしながら答えた。
「別に、行ってもいいよ。行きたくなければ行かないでいいけど」
少し距離を置いた大輔が、弾かれたように顔をあげた。その眼差しは多少なりとも驚いているようだった。
ぼくは自分の匂いがする枕を抱きしめながら付け足す。
「ほら、最近ぼくに付き合ってばかりだろ。だからたまにはさ、気分転換に他の人たちと飲むのもいいと思うんだ。今日だって一緒に遊園地に行ったばかりだし、それに、先輩からの誘いじゃんか。断ったら失礼だぞ」
淡々と言ってみたつもりだが、それが何故か言い訳じみたように聞こえた。大輔が目を見開く気配がする。顔をまともに見ないままで零す言葉は、なんだか自分に向けて言っているようだった。