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 遊園地が視界の端に遠ざかっていくことがほんの少し寂しかったけれど、大輔といろいろな話をするうちにそんな気は失せてしまった。

 帰りの電車に揺られながら、ぼくと大輔はドアの出入り口付近で距離を詰めてひそひそ話をする。お互いの大学のこと、高校時代の懐かしい友達のことや、レポートの提出の面倒くささ、もちろん今日の出来事も含めて、いろいろなことを話した。


 電車がまってドアが開き、人の波が不意に崩れる。会話は一旦そこで途切れてしまうが、さらわれそうになるぼくを大輔が抱き寄せた。しばらくすると、人ごみは改札へと階段を登っていく。


「席、空いたよ。座らないの?」


 大輔はぼくの耳元でさらりとささやいた。吐息のくすぐったさに思わず首をすくめてしまう。ふと見ると、連なった座席は中央がぽっかりと一つだけ空いている。二つならまだしも一つだけなんて、不平等だ。大輔を差し置いて一人で座るなんてことは出来ないと思ったぼくは、とっさに「いい」と答えた。


「そっか」


 席は間もなく中年の女性が埋めてしまった。電車が動き出す。振動が足元から響いて、心地いいと感じた。時々カーブに差しかかる度、大輔の体が揺れてぼくに接近する。ぼくはしばし無言のまま、彼に心音を悟られまいと必死だった。




 大輔と付き合い出したのは、三年ほど前。

 高校で知り合って、互いに一目惚れだった。恋に落ちてしまったんだとようやく気付いたときは、ぼくが持つ事情なんか理由にならないくらいに二人とも惹かれあっていたんだと思う。


 ぼくはれっきとした女の子だ。


 けれど、その体に宿る心は男の子で。


 それでもぼくが惚れてしまったのは、椎名大輔という年上の男だったのだ。


 つくづく、おかしなやつだと自分でもそう思う。女の体なのに自我が男だということは昔から理解していたし、本当は彼じゃなくても普通に女の子と恋愛できるのかもしれない。しかしぼくは、彼のことがどうしようもなく好きになってしまったのだ。

 そんなぼくを受け入れて、好いてくれる彼もそれなりにおかしなやつだと思うのだが。


 とはいえそれは、はたから見ればなんもおかしなことはない。「シオン」という女、大輔という男がひっついて歩いているという光景は、普通のカップルとして目に映るから。

 ぼくの中身が男だという事実は、「シオン」という女の外見がカバーしてくれているのだ。だから彼に想いを打ち明けることができた。少しばかり、ためらいはあったのだけれど。


 目的の駅に着いて、ぼくと大輔は電車を降りた。空は憂鬱なネイビーに染まっていて、照り返すような街の光はつめたくて重い。改札を目指す人の波は大して多くはなく、二人して手をつなぎながら階段を登った。

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