※25
ぼろぼろになった体に朝陽が降り注ぎ、ぼくの意識は覚醒した。史上最悪の目覚めだった。
昨晩のことは夢かと思ったけれど、冷たいコンクリートの感触は現実で、ついでにぼくが穢されたということも現実のようだった。
男たちはもういない。散々ぼくを嬲って満足したのだろう。
体を起こすと、どろりと粘ついた体液が中から溢れた。気味が悪くて、受け入れるための器官が備わっているこの体に、悔しさや諦めといった感情が込み上げてくる。思わず顔をしかめた。
自分は男だという認識を、一気にかき消されたような気がした。
唇を噛んで、今までに何度も否定した事実をようやく知る。
中身をどれだけ偽ったって、所詮ぼくはただの女の子だった。非力で、弱くて、あるはずのものがなくて、ただただ惨めで、いざと言う時に為す術なんてなかった。辱めを受けてからそんなことにやっと気付くなど、滑稽にもほどがある。
ぼくは周りを見渡した。
手首についた縛り痕が、腕や太ももについた痣が、頬に掛けられた濁りが、裂けた服の残骸が、落ちている下着が、行為の後を生々しく物語っている。
張り詰めた息を吐き出そうとした瞬間、ふと笑いが零れた。
嗚呼、なんて穢らわしい。
乾いた笑い声は朝日に弾けて溶けていく。連なる声は一人路地裏に反響して、破れたシャツの間から覗く肌は太陽の下で汚らしく光っていた。コンビニの袋を手繰り寄せて、ぼくはふらふらと立ち上がる。
とにかく、誰かに見つかる前に帰ろう。いや、もう、見られたかもしれない。
……まあいいや。
男たちの臭いを閉じ込めた体を今すぐ解体して、壊したい気分だった。
持ち帰ったアイスは既に溶けていた。
部屋に戻って、ぼくは玄関に倒れ込んだ。五分で戻って来るつもりが、五時間もかかってしまった。たまらず今度は精神的な涙がこみ上げてくるが、無意味なので我慢した。
こびりついた不浄を洗い流したくて、ぼくはどうにか立ち上がるとバスルームへと向かう。
でも、体は限界だった。
がくがくと今になって全身が震える。破れた服を剥いだぼくの体には、気味の悪い痣がいくつも這っていた。胃がむかむかとする。慌てて口を抑えようとしたが、一歩遅かった。ぼくの中心を駆け上り、貫いた吐き気が体内から溢れ出す。汗がにじむ。限界を超えたぼくは立て続けに嘔吐した。
「あっ……ぐっ、うぇっ、はッ」
ぼく一人の小さな呻きは、聞く者もいない静かなバスルームに延々と響いた。
シャワーを浴びて、ようやく部屋に戻った。
汚れや精液は水で洗えばすぐに落ちて行ったが、穢されたという感情や生々しい感触は、何度洗っても綺麗になることはなかった。
救いようのない世界に首を括りたくなって紐を探してみる。しかしなかなか見つからず、見つけたとしても短かすぎて話にならなかった。その代わりに荷造り用の紐を見つけたが、これでは天井から吊り下げた時の耐久性に不安がある。
仕方なくぼくはそれらの紐を手放して、自分の手を呆然と見つめる。ほっそりとしたぼくの嫌いな手は、可哀想なほど震えていた。
――大輔以外に、辱められた。
締め付けられ、焼かれ、貫かれ、切り刻まれ、屠られたような痛みに胸を掻き毟りたくなる。心臓が破裂しそうで、呼吸が苦しくなった。
どうすればこの穢れは消えていくのだろうか。
出口のない思考は頭の中でぐるぐると回転して、無駄なエネルギーをひたすらに貪る。
もし大輔がこんなぼくを見たら、一体なんて言うのだろう。
「大丈夫?」と言うだろうか。「怖くなかった?」と抱き締めてくれるだろうか。「ごめんね」と囁いてくれるだろうか。それともなにも言わずにぼくの手を取って、優しくキスをしてくれるだろうか。
解のない問いに、思案の奥底にずぶずぶと溺れていく。諦めて目を閉じ、ぼくは現れた闇に意識を委ねるしかなかった。
呆然と、ベッドに横になる。
現れた夢の中の大輔は、ぼくのことなんか知らないまま、相変わらず幸せそうだった。




