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 夕日が斜めに射す遊園地で、ぼくと大輔は並んで歩いていた。園内にいる何組かの親子連れやカップルたちも、出口に向かって歩き始めている。もう閉園の時間らしい。手にしたアイスクリームをめとると、溶けかかったバニラアイスが綺麗なオレンジ色に光っていた。


「シオン」


 横にいる大輔がぼくの名前を呼ぶ。なに、と横を向けば彼と目が合った。不覚にも心臓が音を立ててしまう。優しい瞳が細められて、口元は笑っていた。朝の光みたいに眩しくて目を背けそうになるが、彼の唇が言葉を紡ぎだしたのでできなかった。ぼくの視線は、温かい声を零す唇に釘付けになる。


「今日は、誘ってくれてありがと」


 首を傾げてそう言う彼が、なんとなく可愛らしかった。それでも素っ気なく「別に」と言ってむりやりに前を向くと、隣でふふっと大輔が笑う。少しウェーブがかった黒髪が、風でふわりと揺れた。


「相変わらずクールだな。でも、珍しくこんなとこに行きたいって誘ったのはちょっと可愛かった」


 無意識に頬がかっと熱くなる。

 さほどこういったことに積極的ではないぼくは、彼と一緒に遊園地に行きたいって言うまでどれだけの勇気をついやしたことか。思い出して、そう言ってやろうと思ったけどやめた。ぼくはアイスを食べることに専念しようとコーンにかじりつく。


「ねぇシオン」


 大輔が急に立ち止まった。ふにゃふにゃになったコーンを咀嚼そしゃくしながら彼を振り向くと、不意に視界が暗くなり、頬が温かい両手に包まれた。慌てて目を見開くと、まぶたを閉じた顔がものすごく近いのが分かる。まだ噛み切れてなかったコーンが喉を滑り落ち、苦しそうな息が鼻から抜ける。

 ようやく呼吸ができたのは、ぼくがうめき声で彼に苦しいと訴えてからだった。


「馬鹿。なにもこんな、公衆の面前ですること」

「うん、甘い」


 せわしなく呼吸を繰り返すぼくの台詞をさえぎって、唇を遠ざけた大輔は笑う。ぼくに関することなのか、それとも唇の味についてなのか。どぎまぎしながら彼を見上げると、視界に飛び込んできた笑顔は屈託なんてまるでなく、午後に群がるゆるやかな雲のように柔らかかった。不意打ちには慣れていないので、心臓の音がどくどくとうるさかった。


「ごめんね。ちょっとからかってみただけなんだ。……帰ろっか」


 彼の言葉で、こんなことで脈を乱している自分が恥ずかしくなってわざと鼻を鳴らす。ついでに大輔から目を逸らせば、こちらを注視する女子高生のグループと目が合った。気まずさにうつむくが、大輔は気付かないまま歩き出す。


「ちょ、待ってよ」


 ぼくは大輔に置いていかれないように、アイスのコーンを最後まで飲み込んでから小走りで追いつく。持ち手の紙はくしゃくしゃに握り潰してからジーンズのポケットに入れた。そしてじっと見つめる視線を意識しながら、彼の腕にしがみついた。大輔が驚いたように声を上げて、ぼくは鬱陶しいと思われない程度にぴったりと寄り添う。


「今日は、付き合ってくれてありがと」

「ん? なに、どうしたの?」

「なにって、わがままだよ。聞いてくれたのに、大輔にお礼、言えてなかったから」


 途切れ途切れにそう告げる。やがて彼のぬくもりに満足して、ぼくは大輔に絡みついていた自分の腕をゆっくりと離そうとする。けれどもすぐに、その腕は彼の手によって捕まってしまった。はっと顔を上げると、大輔はゆるゆると笑いながらぼくの右手に指を絡めてくる。


 無邪気な笑みが、楽しかったよって告げている気がした。


「また一緒に行こっか」


 静かに頷いて、ぼくと大輔はゲートをくぐる。

 遊園地を出てから数歩歩いたところでほんの少し、後ろを振り返った。彼と今日一日を過ごした場所を記憶する。うさぎとくまをかけあわせたようなマスコットが気だるそうに風船を握っていて、巨大な時計の針みたいな観覧車は、もう動きを止めていた。

 空の端に沈むオレンジは、急速に光を失い始めている。鋭くぼくを突き刺す秋の残光は長く、やがては失速する鳥みたいに見えないところに沈んで行った。


 頬に感じる風は生温く、ぼくと彼の隙間を埋めるようにして吹き抜けた。

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