プロローグ
ここラストラック市は、周りを広大な砂漠に覆われた中にある、オアシスを中心として栄えているギャンブルの街。
中心市街には大小様々なカジノが存在し、常に観光客が無限とも思えるほどに金の無駄遣いをしてくれる。
そして街の中心には消毒する必要がないほどに綺麗に透き通った水が湧きだしており、街中に蜘蛛の巣のように張り巡らせた水路を通って、街中に行きわたっている。
ラストラック市は、そんな街だ。そして大陸ガヴァリアの中心に存在する、広大な砂漠を領土とする王国イガリアの首都でもある。
「がっはっはっはっはっ!」
そのラストラック市の繁華街の一角にあるホテルの一室に、筋骨隆々の上半身が裸の頭の禿げた大柄な男がいた。理由はよくわからないが、腰に手を当てて大笑いしている。年齢のほどは三十をこえているだろうか。十人が見たら、十人が暑苦しいと感想をもらすこと間違いない。
だから大柄な男の前にいるスーツをビシッと着こなした初老の男性は、額に汗を滲ませて苦笑いを浮かべていた。
「見ろ! この俺の剣を! この雄姿! この光! まさに俺様の為に存在する剣だといっても過言ではあるまい!」
そういって、男は背中に背負っていた大剣を抜くと初老の男性の前でグワッとかざした。が、
「はぁ……その、確かに立派な剣でございます。ですが、そのここでは武器を収めて頂けませんで……」
「どぉうだ! この剣の厚み! 切っ先の輝き! この振るった時のぉ!」
と、男は初老の男性の言葉などまるで耳に届いていないようで、目の前に人がいるにも関わらず、大剣を両手で握ると頭上高く上げて、
「ふぬんっ!」
なんと初老の男性めがけて振り下ろす。
だが、その大剣は初老の男性を真っ二つに――するわけなく、男性の頭すれすれでピタリと止まる。ただ大剣から繰り出された風圧だけが、初老の男性の七三分けの髪を撫でて乱していった。
「どうだい! 俺のこの技量も大したものだろう! あんたズバッと切られて死ぬと思っただろう? そんな事するわけなかろうが! ぐわっはっはっはっはっはっ!」
なにか悦に入っているようで、満足した大柄な男は上機嫌に笑っている。
それを初老の男性は、しょうがない人だと思いつつも乱れた髪を軽く手櫛で撫でつけて、仕事の為と思いとくに嫌な顔も――苦笑いはしているが――せず、普段通りに対応する事にする。
ちなみに、初老の男性は剣を振り下ろされてもピクリともしなかった。それは、恐怖からではなく男が本気で自分に対して剣を振り下ろすことなどしないと分かりきっていたし、自分が本気になれば剣を避けることも受け止めることも、容易いと分かっていたためである。
まぁ、それはまた別の話なのでここでは置いておいて……初老の男性は、
「お客様。当ホテルで大会のエントリーを行うという事でよろしいでしょうか」
「おおっ! そうだった、そうだった! 肝心の用事を忘れていた。いやー、ついついこの俺様の筋肉に裏打ちされた力を見せつける事に夢中になって、我を忘れてしまっていたぞ! がははははっ」
「了解致しました。お連れ様がいないようですので、お一人さまでのエントリーでよろしいでしょうか」
「うむ! この完璧である俺様に足手まといなど不要! 自分の力のみで頂点を取るのが漢というものよのう!」
「では、こちらの用紙にお名前と御職業とエントリー料金の五万ジェニーを……」
「そうだ、もう一つ忘れていた。俺はこのホテルにも部屋を貰おう。もちろん、部屋は最高級を頼むぞ」
大柄な男はやはり、どうにも人の話を聞かない性格のようで初老の男性はやれやれと心の中で頭を振った。
「ありがとうございます。では、お部屋の方も用意させて頂きます。当ホテルの最高級ですね」
初老の男性は深々と頭を下げて礼をいう。
いくら大柄な男が礼儀知らずとはいえ、自分の勤めるホテルの客になるのだ。よほど理不尽でなければ無下にする事はできないに決まっている。
大柄な男は、大会のエントリー用紙に名前、職業を書き参加費用の五万ジェニーを支払うと、いつの間に現れたのか、こちらもスーツを着た美人な若い女性が初老の男性の横に立っていた。
「では、お客さま。お部屋へ案内させて頂きます。どうぞこちらに」
女性の従業員は、大柄な男を部屋に案内するための人のようだ。先だって歩きはじめるのを、大柄な男は鼻を伸ばして後ろからついていく。その視線は女性従業員のお尻に釘付けだったのを、ここにいる全員は飽きれた顔で見送った。
と、そう、この部屋の中には大柄な男と初老の男性しかいないかのようだったが、実際にはこの部屋には他に数人いる。
一人は、グラマーな体型をした女性。身体に張り付くような真っ赤なパーティードレスを着ている。そして真っ赤な髪に同じく真っ赤な唇と、赤ずくめの女性だ。いかにも挑発的で蠱惑的な雰囲気を醸し出して、周りにいる男達に色目を使っている。
何人かは、それを気にしてチラチラと視線を送っては視線を外すなんて、いったいいつの思春期を生きているんだと問い詰めたいような態度をとっている。
もう一人は、全身を包帯でグルグル巻きにされたミイラみたいなやつだ。全身が包帯で覆われているせいで性別は分からない。まぁ、べつに分からないから何だっていうだけの話なので、とくに何もないのだが。
壁の隅にまるでオブジェクトのように立ち留まっている。少しだけ漏れ出している殺気がなければ、その存在は部屋のなかの飾りの一つとして誰の目にも留まらなかっただろう。
そして他に三人がおり、先の二人と、黒いローブに全身を覆われた二人組を合わせた七人が部屋の中にいた。
大柄な男は、このほかの奴らに舐められないようにするため、そして自分の絶対的な力量を見せつけるために、パフォーマンスをしていたようだ。
もっとも、その効果はあまりなかったらしい。他のだれも大柄な男が出て行っても話題に上がることもなく、まるで最初からそこにいなかったかのような空気が部屋の中を漂っている。唯一、漂っているとすれば、それは大柄な男の暑苦しい汗臭い匂いってところだろう。
「えー、おほん」
初老の男性がコホンと一息つけて、場の空気を切り替えた。
「皆様、大変お待たせいたしました。ここにお集まりの方は大会エントリーを希望していると思います。エントリーを受け付けますので該当するかたは、どうぞ前までお越しください」
大柄な男に遠慮していた訳でもないのだろうけど、それを合図にしたように、残りの者たちが行儀よく列を作って、男性の前に並ぶ。
ミイラ男のエントリーが終わり、グラマーなお姉ちゃんのエントリーも終わり、その他三人のもエントリーを済ます。
そして残ったのは、全身を漆黒のローブで覆った二人組。
ここまで極力存在感をなくし、ただ静かに佇んでいた二人は音もなく初老の男性の元へと向かう。
「大会のエントリーでよろしいでしょうか」
初老の男性は、二人を見たときピクリと眉が上がる。二人の容姿について思う所があるのではない。長い経験からくる、独特の空気を纏った者、それは修羅場をくぐってきた者だけが発する事のできる空気だ。
「ああ」
二人組のうち、一人が答える。
「お二人で一組のエントリーでしょうか?」
「そうなる。三人一組までなら、エントリー条件を満たしていると伺っているが」
「はい。その通りでございます。実際先ほどのお三名方で一組のエントリーでしたので、問題はございません。では、お二人のお名前とエントリー料金の五万ジェニーを二人分、計十万ジェニーお願い致します」
ローブの一人が前にでる。エントリー表に名前を書く。
―― オオヌキ リュウゾウジ ――
―― シバタ トモエ ――
職業は、ハンター。
ここ王国イガリアだけでなく、大陸ガヴァリアでも見たことのないような珍しい名前だ。ここらへんではまず見られない名前である。どこか遠くの国からか、それともどこかの少数部族のしきたりか何かで付けれた名前なのだろうと、初老の男性は思った。
どちらにしても、とても遠くからやってきたことに変わりはない。
「ありがとうございます。エントリー料金の十万ジェニーも確かに頂きました。では、大会開始まで、とう街でお寛ぎください。大会開催は、一週間後となります」
「ああ、ありがとう」
それで要件をすました二人は、まるで影に溶け込むようにスゥーっといなくなる。
それを見た初老の男性は、
「ただ者ではないですねぇ。けど、不思議な感じのする人達だった。とても熟達したハンターには見えませんでしたが……不思議ととても敵う気がしませんでしたな」
初老の男性は思った。
今年の大会は、きっとひと波乱もふた波瀾も起こる、今までにない面白い大会になると。
どうも【砂糖 水】です。
なんとなく、書き始めてみた異世界ファンタジー物です。
行き当たりばったりで、書き始めたので、このさきどれだけ続くのか? そもそも面白いのか? っていうか次はいつになるのか?
その全てが未定です。
が、なんとか書き続けていきたいと思います。
では、最後にここまで読んでくださった方々にご挨拶を。
お忙しいなか、まことにご愛読ありがとうございます。




