焦燥する少女の心配と疾走
はるか昔、字数制限付きで書いたもの
『しにたい』
萌からきたメールはそれだけだった。
親友の命が危機。深夜にも関わらず私は家を飛び出した。
走る。走る。小さいころ遊んだ萌の家へ、全速力で夜道を駆け抜ける。
死にたい……何が萌をそう思わせたのか。頭の中で考えを巡らす。
そもそも萌は自殺するような性格ではない。小・中学校でずっと見てきた私には分かる。萌は優しくて明るい子だ。いじめられていたサトシ君に手を差し伸べたこともあったし、捨てられていた子犬を家に連れ帰って怒られたこともあった。
……ひょっとして、その優しさが萌を追い込んだんじゃないか? 私はハッと息をのむ。
優しさ故に痛感する無力感。それは子犬の件のとき知ったことだった。
私も萌も、子犬は飼えないと親に言われた。雨が降りしきる中、子犬を元の場所に置いてきたことをよく覚えている。
私は泣いていた。ワンワンと泣いていた。犬じゃない私がワンワン泣いてどうするんだ、ってぐらい泣いていた。そのとき、萌が私に言ったんだ。
「悲しいね咲ちゃん」
その目は潤んでいたけど、涙は零れていなかった。ただそう言って萌は私を抱きしめた。
その後もクラスで飼い主を探したけど、結局ダメだった。子犬は保健所に引き取られていった。
今思い返せば、萌は私よりずっと悲しかったんだと思う。だって子犬を一番可愛がってたのは萌だったから。……でも私の前じゃ絶対泣かなかった。きっと心の奥底で溜め込んでたんだ。
スピードを上げる。右手に持ったままの携帯が震えたけど、今は見てる場合じゃない。萌の家はもう少しなんだ!
「ハー、ハー、ハー……」
……やっと着いた。ピンポンを押して萌のお母さんと話す。少ししてからドアが開かれた。萌がいた。
「咲ちゃん、どうしたの?」
「萌こそどうしたの? 急にあんなメール送ってきて……辛いことがあるなら私に言」
「ああアレか。ごめん! ミスったまま送っちゃったんだ!」
ミス?
私は携帯を確認する。
『身体測定明日だね~。体重計るの怖いよ~咲。助けて~』
「…………」
萌は「テヘペロ☆」と言っている。もう流行ってないでしょソレ。
「……でもその様子だと咲、明日の測定は大丈夫そうだね! 減量万歳!」
私は現状に呆れた。こんな間違いメールで汗をかくなんて、本当にくだらないなぁ。……だけど。
「萌」
「……いや、ホントごめんね?」
「いいって。それに……私たちの友情も大丈夫そうだしね」