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たい育  作者: 鈴神楽
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活人剣と殺人剣

 ジーパ島のマルサトは、剣技が盛んな国だった。

 そんな国を二分にする話題がある。

 活人剣と殺人剣、どちらが優れているのか?

 今日も町の酒場では、言い争いが過激になって、今にも剣が抜かれ様としていた。

「所詮、剣は、人殺しの道具、活人剣等絵空事だ!」

「相手を殺す事しか出来ない殺人剣で、高みを目指せるものか!」

 両者の主張は、相容れる事なく、喧嘩が始まる。

 その様子にマスターは、肩をすくめる。

「どっちもどっちだ。剣なんて物に何を求めているんだか?」

 そんな呟きを騒乱の中でも、普通に仕事をする新人ウエイトレスが言う。

「剣に限った話しじゃないよ。何かに本気になったら引けなくなるもんだよ」

「そんなもんかね?」

 マスターが溜め息を吐く。



「師範、もう我慢の限界です!」

 活人剣の若い門下生が血気にはやる。

「これ以上、邪悪な殺人剣の奴等に好き勝手な事を言わせては、おけません! 我ら活人剣の力を見せ付けてやりましょう!」

 同意の声が上がるなか、女性でありながら師範のマルセは、首を横に振る。

「活人剣に攻めは、ありません。活人剣とは、人を生かす剣。非情な暴力や、不当な圧政と戦う為に振るわれる剣なのです」

 マルセは、正論を告げるが、門下生達は、納得しない。

 そんな状況に大きなため息を吐くマルセであった。



「師範、目障りな活人剣の奴等に目にもの言わせてはやりましょうぜ!」

 殺人剣の門下生が剣を抜いて言う。

「アマちょろい活人剣の奴等に殺人剣との違いを刻み込んでやりましょう!」

 同意の声が上がるなか、入門して僅か三年で師範になったワキハは、面倒そうに言う。

「馬鹿言え、いまやっても中途半端で止められちまう。やるんだったら皆殺しにするんだよ。それが殺人剣だろ?」

 ワキハの言葉に門下生達は、ビビるが納得いかない顔をしていた。

 その様子を見て、舌打ちをするワキハであった。



 裏路地にある屋台にマルセが居た。

「これは、珍しい、お偉い活人剣の師範様がこんな屋台でお食事ですか?」

 馬鹿にした様子で声をかけたのは、ワキハであった。

 マルセは、不機嫌そうに眉を寄せながらも、律儀に答える。

「門下生の連日の騒ぎ、そんな状況で師範の私が大きな顔をして食べに行けるわけないでしょう」

 笑いながらワキハが椅子に座る。

「親父、一杯くれ。活人剣の師範様は、世間体なんて気にしてるんだな」

 苛立ちながらもマルセが言う。

「剣は、生きていき為の道具、生きていく上で人とのつながりは、無視できません」

 ワキハは、剣の柄を軽く叩く。

「違うね、こいつは、所詮人殺しの道具それ以外の何者でも無いぜ」

 マルセが立ち上がる。

「貴方とは、一生意見が合うことは、無さそうです」

 ワキハは、出された酒を煽る。

「奇遇だな、俺も同じ事を考えてたぜ」

 マルセが立ち去ろうとした時、騒ぎが起こる。

「まさか、また門下生が?」

 駆け出すマルセ。

「旦那は、行かなくて良いんですか?」

 店主の問いにワキハは、白けた顔をして告げる。

「どうせ小競り合いだろ、俺がいくまでも無いさ」

 しかしワキハの予測は、外れた。



 マルセが現場に到着した時には、人が死んでいた。

 死んでいたのは、殺人剣の門下生、そして殺したのは、活人剣の門下生だった。

「なんて事をしたのですか!」

 マルセの叱責に門下生は、蒼白な顔で言う。

「そいつが悪いんです。そいつらが店の店主に剣を突きつけて、殺すぞと脅していたんです。だから……」

 握りしめる拳から血が滴らせながらマルセが絞り出す様に諭す。

「それでも、殺してしまったら何にもならないのよ」

「皆殺しにしてやる!」

 仲間を殺された殺人剣の門下生が斬りかかって来るが、マルセは、舞うような剣で、打ち払う。

「師範!」

 活人剣の門下生が状況を読めず受かれようとしたが、マルセが剣を地面に突き立て、殺人剣の門下生に謝罪する。

「すまないことをした、許してくれとは言わない。しかし門下生の罪は、私の罪、代わりに私をすきにしてくれ」

「師範……」

 活人剣の門下生が動揺する中、殺人剣の門下生がマルセに剣を降り下ろそうとする。

「上等だ、死にやがれ!」

 マルセは、死を覚悟し、微動だにしない。

 しかし、地面に倒れたのは、殺人剣の門下生だった。

「師範、どうして!」

 殺人剣の門下生が困惑の表情で仲間を切り捨てたワキハを見る。

「ふざけるな! 何度も言った筈だ、剣を振るう以上、どちらかが死ぬのは、必然。殺してなんぼの殺人剣の人間が、殺されたから許せないだ? 貴様等に剣を振るう資格は、ねえ!」

 激怒するワキハ。



 活人剣故に、相手を殺した事が許せず、門下生の代わりに死を覚悟したマルセ。

 殺人剣故に、相手に殺される覚悟すら持たない門下生を許せず、殺しを止めたワキハ。

 師範の己の剣をあくまでも貫く態度に戸惑い、何も出来なくなる両門下生達。

 そんな状況に酒場の出前の少女が通りかかった。

「はいはい、活人剣と殺人剣、どっちが本当の剣かの答えを、あちきが教えてあげるから、そこの二人、相手をしなさい」

 少女は、殺された殺人剣の門下生の剣を拾い上げ、無造作に近付いていく。

「いい根性だ、相手をしてやる!」

 ワキハは、相手を殺すのを躊躇しない剣を振るうが、少女は、その全てを防いだ上でワキハの剣を叩き折る。

「殺せ!」

 殺人剣のプライドで死を求めるワキハを無視して、マルセの前を歩みながら少女が言う。

「貴女があちきを止めないと、門下生が死ぬよ」

 少女の腕前と声に、本気を感じたマルセが剣を手に取り、その行く手を防ごうとした。

 しかしマルセの門下生を護ろうとする強き剣も少女には、通じず、剣を砕かれ、何も出来なくなる。

「門下生を殺さないで下さい!」

 活人剣のプライドを捨てて懇願するマルセ。

 そして少女が剣を叩き両者に告げる。

「これが答え、剣で人の生き死を決める事なんて出来ない。人の生死を決めるのは、人の意思のみだよ」

 反論出来ない二人に少女が続ける。

「何かに拘る事は、間違いじゃない。問題は、拘りに囚われて大切な事を忘れる事。剣を極めようとするなら、相手や自分の生死への拘りは、愚な事。命を大切にするなら、剣に拘るのは、愚かな事。詰まりは、あなた達は、肉料理と魚料理とでどちらが優れた料理か競い合おうとした、それがこの国での争いの正体だよ」

 そういい残し少女が剣を捨てて立ち去ろうとする。

「貴女様は、何者なのでしょうか?」

「貴様は、何者だ!」

 マルセとワキハの問いに少女が歩きながら答える。

「通りすがりの神名者だよ」

 マルセは、剣に拘らない、命を救う道を模索し、ワキハは、破れた事を切っ掛けに修行の旅にでた。

 こうして、両者の争いは、激減した。



 酒場で賄い食べる新人ウエイトレス、ヤオに酒場のマスターがあの事件の話の中で質問する。

「お前だったら、どっちだ?」

 ヤオは、即答する。

「あちきは、卵料理か好き!」

「そう言う話じゃないんだがな」

 マスターが苦笑しながらオムレツを追加する。

「マスター、太っ腹!」

 笑顔で食べるヤオであった。

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