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たい育  作者: 鈴神楽
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野心家と偽者達

 ワーレル大陸の北東部の王国、マレシッテの王宮。


「私が八百刃である」

 常人の二倍は、有りそうな身の丈の大男が国王の前で宣言する。

 しかし、周りの反応は、冷めていた。

 そんな中、国王だけは、興奮した顔で言う。

「よくおいで下さった」

 近付こうとした時、横から声が掛けられる。

「お待ちくださいお父様!」

「なんだい、アンリ?」

 国王が声をかけてきたその娘、アンリに問い返す。

「なんだいではありません! その者で何名目の八百刃なのですか!」

 国王が眉をひそめる。

「アンリよ、八百刃様を呼び捨てにしては、ならんぞ!」

 苛立ちを我慢しながら、アンリが訴える。

「お父様が八百刃を求める、厚遇するとおふれをだしてから毎日の様に八百刃が現れては、真偽が確かめられぬまま、王宮に滞在させています。国民も国王が夢現をさ迷っていると噂をしています。真偽をはっきりさせるか、おふれを取り消すか、どちらかにしてください!」

 国王は、腕を組んで悩む。

「そこが悩むどころなのじゃ、人の身の朕には、真偽を確認出来ない。何かいい方法がないかのう?」

 アンリの堪忍袋の尾が切れた。

「だったら今すぐに全員を偽物として王宮から出ていって貰って下さい!」

「そんな事をしたら本当の八百刃様に失礼だろう」

 国王の言葉にアンリが叫ぶ。

「本物が居たらこの様な状況を黙ってみているわけないです!」



 あの後、アンリが必死に抵抗したが、糠に釘の様な感じで国王が受け流してしまった。

「お父様は、何を考えているのかしら?」

 アンリの呟きに新人侍女が答える。

「色々だと思いますよ」

 アンリがため息を吐いて告げる。

「その色々が知りたいのよ」

 侍女もため息を吐いて告げる。

「このままだとろくな事になりませんから、絶対に止めさせた方が良いですよ」

 アンリは、頷く。

「そうよね。八百刃なんて夢物語を追いかけて居たら国民からそっぽ向かれるわ……」

 悩むアンリを残し部屋を出る侍女、ヤオに白牙が告げる。

『あの偽物軍団を皆殺しにしていいか?』

「駄目だよ。あちきは、別件で来てるんだからね」

 ヤオの不認可に白牙が不満をもらす。

『奴ら、八百刃の意味も解っていない!』

 ヤオが苦笑する。

「それでも、多少の戦闘力があるよ」

 白牙が眉を寄せる。

『お前は、国王が何を考えているのか気付いて居たのか?』

「あちきが何だか忘れた?」

 侍女の仕事に戻るヤオを見ながら白牙がぼやく。

『忘れてないが、自信が持てなくなる』



 翌日、やはり八百刃と名乗る者が現れた。

 しかし、今までと違い、強そうに思えなかった。

「お主、本当に八百刃様なのか?」

 流石に国王も疑問符を浮かべると少年は、足を震わせながらも、胸をはって答える。

「僕が八百刃です!」

 その姿に信用度が全くなかった。

 周りが呆れた、国王が命ずる。

「お主が八百刃様の筈がない。処刑される前に朕の前から消えろ」

 それでも、少年は、ひかない。

「僕が八百刃です!」

 遂に国王が立ち上がる。

「しつこい! 誰か、八百刃様の名を騙る愚か者を処刑せよ!」

 アンリが慌てる。

「お父様、いきなりどうなされたのですか? 今まで私がどれ程に言っても偽物を御認めに為さらなかったでは、無いですか!」

 国王が不機嫌そうに告げる。

「この者は、明らかな偽物だろうが!」

 アンリが反抗する。

「私に言わせれば、今までの者も等しく愚かな偽物です!」

 にらみ会う二人。

「彼は、本物の八百刃だよ」

 ヤオが現れて宣言する。

 苛立ちを込めて国王が問い質す。

「何を根拠に本物とする?」

 ヤオが即答する。

「八百刃とは、正しい戦いをするものや、それを助ける者の事を指す言葉。この少年、カイルの様に、命の危険を省みず、この国を間違った争いから護ろうとする者も充分に八百刃だよ。カイル、なんの為にここに来たか伝えたら?」

 少年、カイルは、視線が集まる中、告白する。

「今の徴兵は、異常です! このままだと僕達は、農業を続けられない! どうか、村に働き手を返して下さい!」

 ざわめきが起き、国王が苦々しい顔をするのを見てアンリが追求する。

「お父様、今の話は、本当なのですか?」

 国王は、吐き捨てる様に告げた。

「農業等、女子供がいれば充分だろうが! 一人でも多くの兵を集め、領土を拡げるのが優先事項だ!」

「お父様……」

 愕然とするアンリ。

「お願いします! 男手が無ければとてもまともな収穫は、見込めません!」

 カイルは、必死に訴えた。

「朕の判断に反意を示すとは、不遜である。直ぐにも処刑せよ!」

 衛兵達が動き出した時、ヤオが両手を拡げ、右掌に『八』、左掌に『百』を浮かべる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、炎翼鳥』

 ヤオの召喚に応え、炎の翼を持つ鳥、炎翼鳥が現れ、衛兵を近付けさせない。

「本物の八百刃様だと……」

 驚愕する国王。

「あちきは、正しき戦いの護り手、カイルの戦いを正しいと認め、その戦いを助けに来た」

 圧倒的な存在感の前に誰もが逆らえない。

「徴兵は、私が責任をもって中止させます!」

 震えながらも告げてきたアンリ。

 カイルが安堵の息を吐く。

「良かった……」

「無事解決だね」

 ヤオの言葉に場の緊張が解かれた。

 しかし、ヤオは、ゆっくりと国王に近付く。

 アンリは、直感に動かされ、父親の前に立つ。

「八百刃様、何か問題がありますか?」

 ヤオが淡々と告げる。

「今回みたいな真似をしてあちきを呼び出せると思われたら困るから、国王のやり方が間違っていた事をはっきり示さないといけないの」

 国王は、床に膝着き許しを乞う。

「申し訳ございません! 全ては、八百刃様への信仰から出たものなのです!」

 ヤオは、頬をかく。

「まさかと思うけど、そんな嘘が一瞬でもあちきに通じると思ったの?」

 国王が冷や汗を流す。

「どういう意味ですか?」

 アンリの問いにヤオが説明する。

「最初から本物が来るなんて考えてなかったんだよ。集めたかったのは、八百刃を名乗るのに必要な戦闘力を持った人間。このやり方なら内外に戦力増加を知られることが無いと考えたんだろうね」

『愚かすぎる。戦いを司る八百刃様に気付かれないなど、盗品を抱えて衛兵の前を通り抜けられると思う以上に馬鹿げた発想だな。やはり、灰すら残らないように燃やし尽くさなければいけないな』

 炎翼鳥の言葉に絶望し国王がへたりこむとアンリがそんな父親に抱きつく。

「ならば私も一緒に罰して下さい。八百刃がお父様の行為の危険性を指摘してくださっていたのにかかわらず、止めさせる事ができませんでした。私にも罪があります!」

 炎翼鳥が見るとヤオは、左腕をつつく。

 炎翼鳥は、頷き一枚の羽根を放った。

 その羽根は、国王の左腕に触れると極炎と化した。

 のたうち舞う国王。

「お父様!」

 アンリがその身をもって消そうとした時、炎が消えた。

 しかし、国王は、左腕を失っていた。

「国王は、その姿が今回の愚行の証明。アンリさんは、先程の誓い、一命をかけやり遂げる事を贖罪として」

 アンリが頭を下げる。

「深き御慈悲、ありがとうございます」



 数日後のカイルの村にアンリが来ていた。

「農作業の方は、順調ですか?」

 カイルが頭を下げる。

「アンリ王女のおかげです」

 苦笑するアンリ。

「贖罪ですから、お礼をされることでは、ありません」

 カイルがもう一度頭を下げる。

「それでもお礼を言わせてください」

 誠実な性格にアンリが好感を覚えていると、カイルが質問する。

「王宮は、今どうなっていますか?」

 複雑な顔をする。

「お父様は、あれ以来、余計に八百刃様を崇めています。それで、領土の拡大は、自重していますから、良いですけど。問題は、自称八百刃達で、八百刃の事を知って、全員雲隠れしてしまいました」

 苦笑するカイル。

 アンリは、決意を込めて告げる。

「次に八百刃様に会った時には、胸をはれるような生き方をしたい」

「アンリ王女、視察に来たんですか?」

 農作業から帰ってきたヤオが声をかけると固まるアンリとカイル。

「どうして八百刃様がここにいるのですか?」

 カイルの質問にお気楽に答えるヤオ。

「旅費稼ぎ。神名者だからってお金が作れる訳じゃないからね」

 突然かつ微妙な再会に釈然としないアンリであった。

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