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たい育  作者: 鈴神楽
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ドラッグとギャンブルの町

金海波と一緒にあたった、魔獣絡みのドラッグ事件。そこに関っていたのは?

 ガーリナ大陸にある快楽の町、エルベステ



 ホテルのベッドで寝息を立てるヤオ。

 そこに忍び寄る影。

「最高の快楽を教えてあげる」

 その影から聞こえたのは、女性の美声であった。

 掛け布団の隙間からその声の主が布団の中に入ろうとした瞬間、掛け布団が反転して、その影の主を動けなくする。

 もがく掛け布団にヤオが冷たい視線を向ける。

「覚悟はいいよね?」

 全身で否定の意味を放つ掛け布団だったが、ヤオの必殺の回し蹴りで中の者ごと窓の外に吹き飛ばされた。

 ベッドの脇で寝ていた白牙が言う。

『またか?』

 肩で息をしながらヤオが頷く。

「いつもすいません」

 頭を下げる金髪の男性。

金鱗人キンリンジンは、別に謝る必要は無いよ。それより、このごろ元の姿に戻ってないけど大丈夫?」

 ヤオの言葉に、その男性、実は、金の鱗を持つ半魚人で、海神の候補の使徒、金鱗人が申し訳なさそうな顔をして答える。

「ご心配おかけしてすいません。しかし、金海波キンカイハ様の傍に居る限り大丈夫です」

 白牙が、窓から外を見て言う。

『その金海波様が虫の息だぞ』

 溜息を吐いて金鱗人が外に回収に向かう。

「本当に懲りないのですから」



「酷い、ヤオちゃん! あたしは、ただ、ヤオちゃんが寒がってるといけないから暖めてあげようとしただけなのに」

 さめざめ泣くふりをする金髪ナイスボディーの美少女、海神の候補である神名者、金海波に生卵をかき混ぜるヤオが言う。

「そういう言い訳は、最高の快楽うんぬんと言った時点で不可能だよ」

 ご飯に卵をかけて食べ始めるヤオに悔しそうに金海波が言う。

「ヤオちゃんのいけず」

 金海波が、ご飯を再開するなか、ヤオは、金鱗人の方を向く。

「それで問題のドラックの製造場所は解ったの?」

 肩を竦める金鱗人。

「それが、まだ判明しません。販売経路を辿ってこの町に来ましたがここに来て情報が途切れています」

 足元にいる白牙が言う。

『しかし、ドラックの調査など神名者の仕事とは思えないがな?』

 ヤオが問題のドラックを懐から出して言う。

「本来ならばね。今回は特別、このドラッグの材料に魔獣の角の欠片が使われてる恐れがあるの」

 金鱗人が続ける。

「魔獣の関連の事は神名者仕事なのだよ、白牙」

 先輩風吹かせる金鱗人に白牙が面白くなさそうにそっぽを向く。

 ヤオは、ドラックを手で弄びながら言う。

「神名者仲間の地覆葉チフクヨウに調べて貰ったけど、これって強力な回復効果があり。その効果から、人の頭の血流を増やして、高揚させてるみたい。性質が悪い事に、回復能力の所為で傷を負っても直ぐ回復して痛みなんて無いから思いっきり暴れだす人が多いって話しだよ」

「ヤオちゃん、実験の為に一度飲んでみない? ヤオちゃんが嫌だったらあたしが飲んでも良いけど?」

 ようやく話に参加してきた金海波にヤオが大きく溜息を吐く。

「あちきの八百刃獣の一刃、天道龍テンドウリュウが持ってきた報告書を一緒にみたよね? そこに神名者には効果が無いって明記されてたよ」

 舌打ちする金海波。

「それにしても製造場所が見つからないというのが釈然としないね」

 ヤオが真面目な話を続けると金鱗人が続ける。

「販売場所が特殊な場所なのです」

「特殊な場所?」

 ヤオが眉を顰めると金鱗人が答える。

「高級カジノです。入れる人間に制限がある為、なかなか調査が進みません」

 高級って言葉に拒絶反応を起こして一歩後退するヤオに金海波が言う。

「仕方ない。あたしが動きますか」



 その夜、金鱗人にボディーガード見たいな服装をさせて、自分は高級な服を着た金海波が普通のカジノに入る。

「ここの最高レートは幾ら?」

 金海波が、店の店員に質問すると即答される。

「銀貨二枚です」

 少し不満げな顔をした後、溜息を吐いてブレスレッドを店員に渡す。

「これを一番高いチップに変えて、そのレートのテーブルに連れてって」

 店員が駆け足で去っていくと、店長らしき人間が現れて、頭を下げる。

「ありがとうございます。こちらでございます」

 そう言って、ブラックジャックのテーブルに案内する。

「こちらが、最低で銀貨二枚からのテーブルです」

 金海波は、不満げな顔をして店員が運んできたチップを受け取る。

「正直、安すぎるけど仕方が無いわね」

 そして、ディーラーがカードを配ると、金貨一枚に相当するチップを一気に五枚かける金海波。

 周りからざわめきが起こる。

 そしてディーラーが息を呑んで言う。

「本気でよろしいのですか?」

 金海波は呆れた顔をして言う。

「こんなはした金で一々そんな事聞かれるの?」

 店長が視線で促すとディーラーが勝負を続ける。



「いまいちね」

 一通り遊び終えた金海波の感想に戸惑う店長。

「今回はお負けになりましたが、次回はきっと勝てますよ」

 いい加減な台詞に金海波が苦笑した後言う。

「そうじゃないわ、こんなはした金で買った負けたをやってるのがいまいちだって言うの。明日からは別のカジノにいくわ。もっとレートが高いカジノにね」

 立ち去ろうとした金海波に慌てて店長が近付き耳打ちする。

「お客様、ここだけの話なのですが、ここより数段レートが高いテーブルも実はあるのです」

 金海波が嬉しそうな顔をして言う。

「だったら最初からそっちに案内しなさいよ」

「それがそこは、VIP専用でして、一見様にはちょっとご遠慮いただいておりまして」

 眉間に皺を寄せる金海波。

「まさかあたしが下品な成金とでも言いたいわけ?」

 店長は慌てて首をふる。

「とんでもございません。あくまでルールと言う事で。お客様でしたら、明日からでもVIP専用ルームにお連れいたします」

「そう楽しみにしているわ」

 金海波は、鷹揚に答え、カジノを後にする。



「結局幾ら負けたの?」

 宿屋で待機していたヤオの質問に金海波が平然と答える。

「たった金貨五十枚くらいよ」

 倒れるヤオ。

『しっかりしろ!』

 白牙が励ます中、金海波が言う。

「とにかく、高級カジノへの道は作ったわよ。明日は一緒に行くわよ」

 怯えるようにヤオが言う。

「でもあちきは、そんな大金持ってないよ?」

「その位貸すわよ」

 金海波の言葉に戸惑うヤオ。

「大丈夫、もし返せなかったら体で返してくれればいいから」

 涙目になるヤオであった。



「今日は妹を連れてきたは、これで適当に遊ばせてやって」

 そう言って金海波が、店長に金貨二十枚相当のアクセサリーを渡す。

「了解しました」

 店長が頷き、ヤオはなれない場所に激しく緊張しながら、入っていく。

 そして金海波は、最低レート金貨十枚のルーレットの前に座る。

「今日は稼がせて貰うわよ」

 妖しく微笑む金海波にディーラーが、冷や汗を流すのであった。



 金貨五枚相当のチップを片手に動けないで居るヤオ。

 相手役をやらされている店員が苦笑する。

『どうせ、必要経費なんだ、おもいっきり使ってしまえ』

 ひとごとの白牙を睨んでから、ルーレットの赤にチップを張るヤオ。

「確立は二分の一」

『情けないな』

 ぼやく白牙を他所に、ルーレットの玉は無常にも黒に落ちる。

 この世の終わりの様な顔をするヤオ。

 その時、後ろで大きなどよめきが起こる。

「嘘だろ、金貨百枚の一点賭けで、当てやがった」

『動いたぞ』

 白牙の言葉に頷くヤオは、席を立って、スタッフルームに忍び込み、問題のドラッグに関する資料を探す。

「帳簿発見と、取敢えずに原材料関する情報は、これだね」

 必要な情報を暗記して、周囲の視線を集める金海波の視界に入る場所に移動して、サインを出す。

「次は今の勝ちを全て3にかけるわ」

 そして、周囲が息を呑む中、ルーレットの玉は、3の隣のマスに止まった。

 周囲がどよめく中、楽しそうに言う。

「なかなか楽しませて貰ったわ」

 そう言って、平然と席を立つ金海波であった。



 宿屋に戻ってヤオが自分の負け金額を思い浮かべて暗くなっていると金海波が言う。

「あれは、さすがに冗談よ。それより、調べた結果教えてよ」

 ヤオが軽く金海波を睨んでから言う。

「問題の薬の製造場所だけど、この町の近くの森の中だよ。そこにある施設で作られているみたい」

「町の中を幾ら探しても駄目だった訳ですね」

 金鱗人の言葉にヤオが頷く。

「それじゃあ明日の昼間でも襲撃しますか?」

 金海波の言葉に頷く一同。



 森の中の施設、そこそこの警備があったが戦神候補のヤオの前では無力だった。

「あらかた倒したよ」

 ヤオがのんきに宣言するが、金海波の応答が無い。

 ヤオは不審に思い、金海波の気配を探って近付く。

「安心して、直ぐに天国に連れてってあげる」

 金海波は、欲情した瞳でまだ幼い少女とその子を必死に庇う女性を見ていた。

「お母さん怖いよ!」

「どうか娘だけには、手を出さないで下さい。私はどんな目にあってもいいですから!」

 金海波は、詰寄り言う。

「馬鹿言わないで、純粋な幼い子が快楽に溺れていく姿が最高なんじゃない」

 目を瞑る母娘。

「誰か助けて!」

「外道退散!」

 ヤオの必殺の踵落しが金海波の脳天に決まり、金海波を血の海に沈める。

「大丈夫ですか?」

 ヤオの言葉に、ようやく安堵の息を吐く母親。

「危ないところをすいませんでした」

「気にしないで下さい。これは一応仲間ですから」

 その一言に、半歩引く母親にヤオが溜息を吐いて事情を説明すると、何か知っている様子で母親が答える。

「その魔獣でしたら心当たりがあります」

 そう言ってヤオを奥に案内する。

 そこには、一本角を持った二体の馬が居た。

『奥さん、平気ですか?』

 本気に心配そうに言う、銀の鬣を持った方の馬の言葉に頷く母親。

「はい、癒角馬ユカクバさんがあの人達を脅してくれたので、今さっきまでは危ない目にはあいませんでした」

 娘の方が、金の鬣の馬に抱きついて言う。

魂角馬コンカクバさんありがとう」

 嬉しそうにする金の鬣の馬、魂角馬。

『本当に良かった』

 そして二体の一角獣は、ヤオを見る。

『神名者様ですね?』

 銀の鬣の馬、癒角馬の言葉に頷くヤオ。

「そう、戦神候補の八百刃だよ」

 その言葉に母娘も驚く中、魂角馬が言う。

『私達の角を使ったドラッグの件で動いていたのですね?』

 再び頷くヤオ。

「解っていると思うけど、魔獣の体を材料にしたドラッグなんてとても容認出来る物じゃないよ。当然貴方達も処分しろって事になるだろうね」

 魂角馬にしがみ付く娘。

「駄目、魂角馬さんは、あたし達の為に無理やり協力させられていたの!」

 首を振る魂角馬。

『仕方ないのだよ。覚悟は出来ている』

 癒角馬も頷く。

 母親がヤオに土下座する。

「お願いします。どうにかお慈悲を下さい。私達の出来ることでしたら何でもします!」

 頬を掻くヤオの後ろから金海波が現れて言う。

「だったら娘さんをあたしに頂戴!」

 ヤオの裏拳が金海波の顔面に命中する。

「貴方達の気持ちは解った。一つだけ助ける方法があるよ」

「本当ですか?」

 嬉しそうな母親の言葉にヤオが頷く。

「あちき達が彼等を使徒にすれば、監督されてると判断されて大丈夫だよ」

『よろしいのでしょうか?』

 癒角馬の言葉にヤオは頷く。

「自分の身を犠牲にしてでも、人間を護れ、自分のやった事に責任を感じ、とろうとする貴方達だったら問題ないよ」

「取敢えず、こちらの元も叩かないとね」

 いつの間にかに復活した金海波の言葉にヤオが言う。

「あちきは戦ってる人間が居ないから管轄外だよ」

 金海波が微笑み言う。

「安心して、ギャンブルはあたしの管轄だから」



「今日も遊ばしてもらうわ」

 ドラッグの秘密施設が壊されて少し慌しいカジノに金海波が入る。

 店員の一人が小声で問いかける。

「良いんですか? ドラッグの施設が壊されて色々と物入りで、カジノの資金が足りなく、入場制限かけているんですよ?」

 店長が軽く睨んで言う。

「良いんだ! いざとなったら昨日と同じ手を使えば良いんだからな」

 そして、昨日と同じルーレットに案内される金海波。

 玉が転がりどんどん客がかけていく中、金海波が再び3に全額を賭ける。

 そして玉は再び、隣のマスに落ちた。

 店長が作り笑顔で近付いて来て言う。

「残念でしたね。次こそは、勝てますよ」

 その時、金海波がその店長をルーレットに向かって投げ飛ばす。

 一斉に力自慢の用心棒達が金海波を囲む。

「負けた腹いせだと言っても許されませんよ!」

 店長の言葉に店長の直ぐ下を指差す金海波。

 客の視線がそこに集中するなか、恐る恐る視線を下げる店長の下には、隠れてルーレットを操作した店員がのびていた。

「イカサマも一回目ならば見逃しましょう。でも二回連続で、大金を賭けた時にイカサマで外す。それをやっては胴元だけが儲かるだけで、夢も希望も無いつまらない物になります。ギャンブルの夢を汚した貴方達には、この海とギャンブルの女神、金海波が罰します」

 いきなりの展開に言葉を無くす店長達を他所に金海波が指を鳴らすと金鱗人は、人の姿から元の半魚人の姿に変化し、手を突き上げる。

『ゴールデンサンダー』

 金鱗人から放たれた雷は、カジノを中の人間を残して根本的に粉砕した。



「魂角馬は、あたしの使徒にするわ」

 金海波の言葉に少し驚いた顔をするヤオ。

「どうして、特例の金鱗人以外は、ロリコンしか使徒にしないと思ってたけど」

 天を見て、金海波が言う。

「あいつもなかなか趣味が良いのよ」

 呆れた顔をするヤオに人の姿をした金鱗人が頭を抑えて言う。

「思いっきり同じ趣味の魔獣だったんですよ」

 ヤオは、大きく溜息を吐いて言う。

「早くお金貯めて、一人で旅できるようにしないとなー」



 金銭が物を言う、ガーリナ大陸をヤオが一人旅できるようになるのは、まだまだ先の話であった。

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