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たい育  作者: 鈴神楽
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豪腕将軍と控えめな殿下

 ローランス大陸のマクルーン王国。


 この国には、一騎当千、百戦錬磨の将軍、ドッマが居た。

 彼の名声は、遠い異国にも届き、国王をしのぐ発言力を持つとさえされた。

 そんな中での祝勝パーティー、勿論主役は、ドッマであった。

 戦の高揚もあってかドッマは、国王の祝辞が終る前に酒を飲み始めて居た。

 決して臣下としては、許されない行為であったが、誰も忠告出来なかった。

 しかし、第一王子が前にいき告げる。

「ドッマ将軍、貴方は、陛下の臣下、臣下が仕えし国王の祝辞を聞かずに酒を飲む事が許されると思ったか?」

 それに対しドッマが酒の酔った真っ赤な顔でヘラヘラと答える。

「これはこれは、今回も本陣に閉じ籠っていた、ウルク殿下では、ないですか。臣下の前にしか顔を出さない貴方にとっては、こんな場所でないと話せませんな」

 馬鹿にしきった言葉には、流石に周りの人間が文句ありげな顔をするが、ドッマが睨むと視線をそらす。

 しかし、ウルクの後ろに居たポニーテールの侍女が前に出る。

「不遜です。陛下に対しも、ウルク殿下に対しても。臣下としては、話にもならない最低の態度です」

「何だと! 貴様、自分の立場が判っているのか!」

 怒るドッマに周囲がざわめくがポニーテールの侍女は、平然と答える。

「礼儀を求めるのでしたら、貴方自身がそれをなすべきでしょう」

 完全な正論だが、傲った人間には、通じない。

「我慢ならん! たたっ斬る!」

 剣を抜くドッマ。

「止めるんだ!」

 ウルクが止めようとしたが周りの人間が慌てて押し止める。

「あの侍女は、自業自得です、諦めて下さい!」

 降り下ろされる剣。

 ポニーテールの侍女は、体を半身にし、避けるとドッマの腕に飛び乗ると、顎の先に回し蹴りを決める。

 膝が崩れるドッマ。

 頭の位置が一緒になったドッマにポニーテールの侍女が告げる。

「剣を抜いた以上、命を失う覚悟は、あるよね」

 ドッマの酔いが一気に覚めた。

 ポニーテールの侍女が本気なのは、戦場にたった事があるものだったら判った。

 ドッマは、反射的に先ほどとは異なる必殺の一撃を放つ。

 それでも、ポニーテールの侍女は、避け、肘が腹に決まる。

 一撃でドッマが倒れた。

 意識を失ったドッマにポニーテールの侍女が脚をあげた。

 目標は、ドッマの後頭部、決まれば死ぬ可能もあった。

 しかし、呆然とする周囲人間を抜けてウルクが間に入った。

「命を奪われかけたお前の怒りも判る。しかし、ドッマ将軍は、我が国に必要な人間。私が代わりに謝罪する、許して貰えないか?」

 ポニーテールの侍女が脚を下ろす。

「ウルク殿下に言われたら仕方ありません」

 こうして、ドッマ将軍は、自身が主役の筈の祝勝パーティーで人生最大の恥を作ってしまった。



 その日からドッマ将軍は、侍女にも勝てないと陰口をたたかれる事になる。

 当然、リベンジをしようとしたがポニーテールの侍女は、一言告げる。

「やっても良いですけど、勝っても負けても、単なる恥の上塗りだよ」

 ドッマにも、それが判った。

 勝ったとしても、侍女を相手に将軍が真剣勝負をしたのかと情けない話でしかない。

 万が一にでも負けた場合、今度こそ将軍などやってられない。

 結局、勝負もできず、噂だけが広まっていった。

 そしてドッマを更に苛立たせる事実があった。

 ウルクに命を救われたと言う事だ。

 あの状況、ドッマに非があり、殺されても、見捨てられてもおかしくなかった。

 逆にウルクを、王子を侮辱した事を考えれば無礼討ちされても当然だった。

 そうされない根拠、強さが根本から崩れて居たのだから。

 荒れるドッマからは、誰もが離れていった。

 そんな中、ウルクが地酒を片手にやって来た。

「なぶりに来たのですか?」

 にらみ殺さんばかりのドッマにウルクが頷く。

「そうだ、だからヤオも連れて来た」

 ポニーテールの侍女、ヤオがお摘まみを見せる。

「お酌は、必要ですか?」

「要らん!」

 ドッマは、ウルクの手から酒瓶を奪い、あおった。

「良い飲みっぷりだ」

 ウルクも酒瓶から直接、あおる。

 その態度にドッマが驚いた。

 彼の知るウルクは、品性公正で、控えめな王子だった。

「陛下、父親を立てなければ国がなりたたないだろうが」

 その一言で、ドッマにもウルクの苛立ちが判った。

 今の国王は、失敗をしないだけの男である。

 そんな国王を立てる為には、王子がでしゃばる事が出来ないのだと。

「正直、お前には、必要以上の苦労をかけている。それでも、国王を立てなければいけない、それは、理解してくれ」

 ウルクの言葉にドッマが膝をつき、頭を下げる。

「あの時の暴言、許されるとは、思いません。しかし、この命、ウルク殿下に捧げます」

「その命は、国王、しいては、王国の為に使って下さい」

 ウルクの答えにドッマが誓う。

「ウルク殿下の命とあらば、この命に代えましても」

 この日よりドッマは、忠義を第一にするように変わっていった。



 そして事件は、建国祭で起こった。

 一部の貴族が結託し、内乱を起こしたのだ。

 多くの兵士が民の安全の為に動く中、城内は、貴族の兵士によって制圧されようとしていた。

 ウルクの場所にも多くの兵士が囲んでいた。

 しかし、その前には、ドッマが立ち塞がった。

「殿下には、指一本触れさせはしない」

 ドッマ自身は、既にあちこちから血を流し、長く続くわけは、無かった。

 それでも鬼気迫るドッマに兵士達は、手を出せないで居た。

 そこに一人の貴族が現れた。

「ドッマ将軍、貴殿の実力は、我々も高く評価している。今こちらにつけば、貴殿の地位を保証しよう」

 高笑いをあげるドッマ。

「冗談は、休み休み言え! お前ら程度の人間に俺の主が務まると思ったのか!」

 歯軋りをして怒鳴る貴族。

「侍女に負けた恥知らずの分際で!」

「それが本音だろうが! ウルク殿下は、違う。あの事件の直後でも俺を必要としてくれた。俺は、そんな殿下に全てを捧げる!」

 ドッマの宣言に貴族が怒鳴る。

「ならばここで死ね!」

 一斉に襲い掛かる兵士にドッマが自分の死を覚悟し、前に出る。

「血路を開きます。どうかお逃げ下さい!」

 血がでるほど手を握りしめながらもウルクが応える。

「ドッマ将軍、貴方の忠義、決して無駄にしない!」

 その時、ヤオが現れる。

「あちきの出番だね」

 両手を前にだす。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、闘威狼』

 右掌に、『八』、左掌に、『百』が浮かび、狼が現れると周囲の闘志を食らい、大きくなる。

「闘威狼、私欲で反乱を起こす、輩を排除して」

 大きくなった狼、闘威狼は、あっという間に反乱を沈めてしまった。



 数日後のウルクの執務室。

「あれは、偉大な神名者の試練だったのです」

 ドッマが感動した顔をするなかお茶を持ってきたヤオが言う。

「そんなわけないでしょうが、ウルク殿下が庇わなかったら、本気で殺してた」

「本気で、何をしてるんですか!」

 ドッマが怒鳴るとウルクが諦めた顔をする。

「侍女の仕事をしないと給金貰えないそうです」

「旅にはお金がかかるんだよ」

 ヤオの言葉にさっきまで信望が薄れていくのを感じた。

『これだから仕事が終わったら直ぐ旅に出るべきだったんだ』

 白牙の呟きがヤオ以外の全員の本音であった。

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