戦後と孤児
ローランス大陸の南部の小国が乱立する平原。
傭兵や軍人崩れがたむろするなか、ヤオがゆっくり歩いていた。
『もうすぐ戦争が起こりそうな雰囲気だな?』
白牙の言葉にヤオが複雑な顔をする。
「祭りが一番楽しいのは、準備している最中って説を知っている?」
『人間の細かい心理まで気にした事がない』
白牙が平然と答えるとヤオが説明する。
「簡単に言うと実際の祭りより、祭りで何するかって準備しながら考えている時の方が都合のいいことだけを考えているから楽しいって事なんだけど、戦争でも同じ事があって、負ける事や死ぬ事を考えず、気楽に集まってくる」
『この中の大半の奴が戦争に参加した事を後悔する破目になるって事だな』
白牙の言葉にヤオが頷く。
「個人の場合は、自業自得だけど、国がそれをした場合、泥沼に嵌まる」
ヤオの予測は、見事に的中した。
優勢の時は、味方の傭兵や軍人崩れ達も劣勢になれば敵に回り、軍が敗退した町や村を略奪する。
最終的には、戦争の敗けを認め、多額の賠償金を支払う事になった。
『荒むのは、あっという間だな』
白牙がそう言うのは、誰でも理解出来た。
傭兵や軍人崩れ相手商売していた店は姿を消し、代わりにものごいがたむろしていた。
「待ちやがれ!」
包丁を持った男が鶏を抱えた少年を追いかける。
少年は、ヤオの横を通りすぎざまに親しげ声をかける。
「足止めは、任せたぜ」
それを聞いた男はヤオにも包丁を向けた。
「お前も仲間だな!」
ヤオは、白牙に目配せしてから男に弁明する。
「あちきは、あの子とは、関係ありません」
しかし男には、通じない。
それどころか少年を追うのを止め、ヤオの腕を掴む。
「盗んだ物の代金は、その体で払って貰おうか」
いやらしい顔をする男にため息を吐くヤオ。
「行くぞ!」
ヤオの腕を引っ張る男だったが、次の瞬間地面に叩きつけられていた。
「商品が盗まれたのは、同情するけど、それが女の子を犯していい理由には、ならないよ」
ヤオの軽い口調に、男は、反論しようとした。
「盗人がなま……」
言葉が途切れる。
口調と裏腹に醸し出される雰囲気が剣呑だったのだ。
それは、男が最近毎日の様に見ている傭兵や軍人崩れの殺気に勝るとも劣らない物だった。
「鶏は、諦めます! だから命だけは助けて下さい!」
ヤオが頭をかきながら解放すると飛んで逃げていく男。
ヤオを囮にする事で無事に逃げ出した少年は、鶏を掲げてアジトに入る。
「今日は、ご馳走だぞ!」
喜ぶ子供達の一人が少年の後ろを指差す。
「そのお姉ちゃんだれ?」
少年が振り返るとヤオがいた。
「仕返しに来たよ」
少年が逆に掴みかかるがヤオは、その手を掴み捻りあげる。
「放しやがれ!」
「駄目だよ、あなたは、他人を犠牲にしようとした罰を受けない。白牙、好きな子供を食べていいよ」
ヤオの声に応え、白牙が大きな虎の姿に変化し、子供に迫る。
「止めろ! そいつらには、関係ないだろう!」
ヤオが頷く。
「あちきも関係無いのに犠牲にされそうになった。その罰で罪の無い子供が犠牲になる。あなたにとって妥当な罰でしょ?」
「悪かった! 謝る。俺が代わりになるからあいつらには、手を出さないでくれ!」
必死に子供達を庇う少年にヤオが怖い笑みを浮かべ確認する。
「簡単には、殺さないよ。子供を庇った事を絶対に後悔することになるよ。それでもいいの? 一人の子供を見捨て、その分、他の子供を助けた方が良くない?」
少年は、怒鳴る。
「馬鹿を言うな! 子供を犠牲にする様な屑と一緒にするな!」
ヤオが朗らかに笑う。
「ギリギリ合格。どうせエッチされるだけで解放されると思ってやったんだろうけど、相手によっては死ぬより辛い時も有るんだよ」
解放されると舌打ちする少年。
「たかがセックスぐらいなんだっていうんだ?」
「偉い人だったら子供の命一つ位って切り捨てる。価値観は、人それぞれ、相手の価値観を認めない人間は、自分の価値観を否定されても文句が言えないよ」
ヤオの小難しい理屈に納得出来ない少年であった。
「とりあえず鶏を食べよう。店のおじさんも諦めるって言ってたしね」
ヤオは、鶏を料理しはじめるのであった。
「ルースンがこの子達を食べさせてるんだ」
少年、ルースンが頷く。
「戦争の時に親を無くしたり、口べらしに捨てられた奴等だからな」
『だからと言って盗みが許される訳じゃない』
何故か子供になつかれ、まとわり付かれる白牙が言うがルースンには通じない。
「他にどんな方法があるって言うんだ?」
『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、影走鬼』
ヤオの右掌に、『八』左掌に『百』が浮かび、影から鬼、影走鬼が現れる。
「任せた」
ヤオの一言に影走鬼が頷く。
数日後、ルースン達は、決して儲からないが暮らして行けるだけの稼ぎがでる仕事をしていた。
汗水垂らして働くルースン達を見ながら白牙が言う。
『これで満足だろう。次の戦いに向かうべきだ』
その言葉にヤオが苦笑する。
「こっちは、単なるついでだよ。本命は、これから。甘い気持ちで戦争したやつらに徹底的に思い知らせる」
白牙が冷や汗を垂らす。
平成を装っていたヤオが実は、怒っていたのに気付いたからだ。
『何をするつもりだ?』
「そろそろ来るよ、下らない勝利に浮かれた愚か者が」
ヤオの視線に戦勝国の高官が我が物顔で歩く姿が入ってくる。
ルースンは、汗を拭う。
「俺達でも働く方法が有るんだな」
影走鬼は、とにかく細かい仕事をはした金でやれといって来た。
最初は、反発したが、細かい金額でも集まれば生活費になる。
真面目に働けば信用になり、次に繋がる。
子供達の中には、親方に気に入られ弟子入りした者までいた。
実際は、騙そうとした者や犯罪に利用しようとした者も居たが、それは、ルースン達が気付く前に影走鬼が罰を与えた。
ルースンは心地のよい疲れを感じながら仕事をしていると、戦勝国の高官がルースンの運んでいた商品を踏み潰した。
「てめえ、何しやがる!」
戦勝国の高官は、鼻で笑う。
「戦争に負けた国の住人が私に文句をつけようと言うのか? 馬鹿馬鹿しい、お前らにそんな権利は、ないのだ」
「戦争の勝ち負けなんて俺には関係ねえ! お前が俺の仕事を駄目にした、それを謝罪しろって言ってんだ!」
戦勝国の高官は、面倒そうに金をルースンの前に投げ捨てる。
「政治も解らないガキの相手をするだけ無駄だったな」
そのまま立ち去ろうとする戦勝国の高官にルースンが怒鳴る。
「俺は、謝れって言ったんだ! こんな金要らねえよ!」
ルースンの態度に戦勝国の高官は、怒りを覚えた。
「何故、戦勝国の高官である私が、敗戦国の住人に謝らなければいけないのだ! この者を処刑しろ!」
兵士達が剣を抜き近付くがルースンは、信念を曲げなかった。
「俺は、俺の仕事に誇りを持っている。それを否定する奴等に俺は、負けねえ!」
「敗戦国の住人に誇りなど必要ない!」
戦勝国の高官が言い捨てた時、ヤオが現れる。
『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』
ヤオの右掌に『八』が浮かび、白牙が刀に変化する。
ヤオは、そのまま兵士を排除し戦勝国の高官に告げる。
「お前は、この少年より偉いのか?」
「当然だ、私の国は、勝ったのだ。負けた国より偉い」
戦勝国の高官は、当然とばかり告げるとヤオがルースンに尋ねる。
「ルースン、この男は、戦勝国だから貴方の仕事を台無しにしてもいいと思っている。貴方は、それと戦う?」
ルースンが強く頷くとヤオが告げる。
「それをあちきは、正しい戦いと認め力を貸すわ」
ヤオの存在感に怯える戦勝国の高官。
「何をするつもりなのだ?」
ヤオが淡々と告げた。
「戦争が始まるだけだよ。この子と貴方達の国のね」
誰も事態が呑み込めなかったが、結果は、直ぐにでた。
ヤオの力で戦勝国の軍隊は、壊滅し、国王がルースンに土下座をして謝罪する事になった。
後の歴史書には、この事件を戦争の勝ち負けを全てとし、驕れる者を戒める為にした事となるのであった。
『結局、何がお前の逆鱗に触れたんだ?』
白牙がルースンの戦勝の賠償金で作った孤児院で賄いを食べているヤオに質問する。
ヤオは外で元気に遊ぶ子供を指差す。
「戦いを司る者として戦争を止めろとは、言えない。でもね、やる前に実際に戦ったらどうなるか? 戦後どうするべきなのか考える必要がある。ルースンが作った孤児院に両方から沢山の子供が集まってしまう様な戦争をあちきは認めないよ」
『なるほどな』
白牙も納得した時、呼ばれる。
「ヤオ、休み時間は、終わりだよ!」
「はい、今戻ります!」
食事を慌て口に詰め込み、喉を詰まらせるヤオであった。




