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たい育  作者: 鈴神楽
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黄道針と神名者に逆らう者達

神名者と戦う人々

 ワーレル大陸の貿易都市、マクレール。

 そこには、一人の神名者が居た。

 その者の名は、黄道針オウドウシン、貿易を司る神である。

 しかし、その黄道針は、民を虐げていた。

 その正体は、厳しい奴隷制度だ。

 一度、奴隷に身を落した人間は、一生奴隷として生きていく事を定めたのだ。

 これには、明確な理由があった。

 安定した労働力確保と安易な奴隷の増加への歯止めである。

 それにより、マクレールは、更なる発展を向かえる事になるのであった。

 しかし、その制度に反対する者達が居た。



 奴隷が集まる酒場。

 普通の酒が出ることが無い。

 ここに出されている酒は、常に他人の飲み残しである。

 そこに一人の青年が入ってきた。

「皆、集まったか?」

 それを聞いて、青年に同調する者達が頷くと、青年、マクガエルが宣言する。

「これから、我々は、神名者、黄道針と戦おうとしている。決して勝ち目が低い戦いであろう。しかし、我々には、奴隷の自由を認めさせるためにやらねばならないのだ!」

「奴隷の解放!」

「我らに自由を!」

 声を上げる奴隷や奴隷を大切にする者達。

 そんな中、髪を不自然な長さにしている美少女が現れる。

「マクガエル様、止めてください。黄道針様に逆らって無事だったものが居ません。どうか、お願いします」

 それに対してマクガエルが美少女を抱きしめ、その髪を見ながら言う。

「エルナ、この髪も無理やり、切らされたのだろう?」

 美少女、エルナは、寂しげな表情を浮かべて言う。

「それは、あたしが奴隷だから……」

 マクガエルが強い決意を籠めて言う。

「それが納得いかないのだ。確かにエルナは、親に売られて奴隷になったかもしれない。しかし、エルナは、何も悪いことをしていない。そして俺は、エルナと結婚したいと思っている。その為にも奴隷制度を改善しなければいけないのだ」

 エルナは、涙目でいう。

「あたしは、マクガエル様と結ばれるのに相応しい女では、ありません。マクガエル様以外の男性とも幾度となく寝屋を共にしたふしだらな女なのです。ですから、そんなあたしの為にこんな事をしないで下さい!」

 マクガエルは、更に強くエルナを抱きしめて言う。

「無理やりだった事くらいわかっている。お前は、決して淫らな女では、無い!」

 理解される嬉しさと大切な人を失うかもしれない悲しさに涙が止まらないエルナ。

「本気なの?」

 そういったのは、ポニーテールの一人の少女だった。

「見ない顔だが、誰だ?」

 マクガエルの質問にエルナが答える。

「この店の前で飢えて倒れていたの。食事をご馳走したら、お金がないから労働で返すと言って、ここで働いているヤオちゃん」

 マクガエルが言う。

「俺は、本気だ。例え、相手が神に準ずる存在だとしても、戦う」

 それを聞いて、ヤオが言う。

「そう、だったら、面白い話を聞かせてあげる。ずっと昔の話だけど、横暴な神様が居て、人々は、困っていたそうだよ。その際に神に反省してもらうために、人々は、神様の力を封じる魔方陣を作った。そして力を封じた神様に反省させる事に成功したんだって」

 それを聞いてマクガエルが驚く。

「本当なのか!」

 ヤオが頷く。

「本当、詳しくは、この本に書いてあるよ」

 何処からともかく取り出した本を手渡す。

 マクガエルは、それを何度も読み返して言う。

「これは、使えるかもしれない」

 こうして、マクガエル達の作戦は、大幅に変更される事になった。



 そして、暫くの時が経ち、マクガエルが、大物の雰囲気を持った金髪の男性の姿をした黄道針の前に立っていた。

「黄道針様、残念ですが、貴方の力は、町を巡るように立てた九の石柱で封印させてもらいました」

 黄道針がつまらなそうに言う。

「その様だな。それでお前達は、何をするつもりだ?」

 マクガエルが答える。

「奴隷制度の改正をお願いします」

 それを聞いて黄道針が問う。

「奴隷制度を変えれば、今までの様な発展は、望めなくなるぞ? それで本当に良いのか?」

 マクガエルが代表して頷く。

「あの石柱は、個人で建てられません。それが答えだと思ってください」

 それを聞いて黄道針が小さく溜め息を吐く。

「そこまで言うなら、その条件を飲もう。奴隷制度は、お前達の好きにしろ。その代わり、石柱は、壊すのだ。そうしないと、私の力が発揮できず、お前達も困る事になるぞ」

「ありがとうございます」

 頭を下げるマクガエルの後ろでは、勝ち名乗りを上げる人々が居た。



 エルナの居る酒場。

「全て上手くいったのね?」

 エルナの言葉にマクガエルが頷き言う。

「ああ、これでエルナと結婚できる」

「マクガエル様、本当にあたしで良いのですか?」

 強く頷くマクガエル。

「エルナじゃなければいけないんだ」

 キスをする二人に周りが祝福を上げる中、ヤオがやってきたのでマクガエルが言う。

「君の助言、助かった」

 ヤオは、笑顔で言う。

「行動したのは、貴方達だよ。そうそう、これは、あちきからの結婚祝いね。九尾鳥、やって」

 そういってヤオが指を鳴らした時、物凄い轟音が響き渡る。

「何が起こった!」

 マクガエルが慌てる。

 そして、数人の同士が来て告げる。

「黄道針様の力を封じていた石柱が全て根元から打ち砕かれた!」

「本当か?」

 困惑するマクガエルであった。



 その夜、マクガエルは、黄道針の御所に来ていた。

「あれは、貴方がやったのですね?」

 黄道針が苦笑する。

「お前達がはった魔方陣の所為でそんな事は、出来ない」

 マクガエルが困惑する。

「しかし、他にこんな事が出来る者が居るわけがありません!」

 黄道針が言う。

「居ただろう、正しい戦いの護り手、八百刃が」

 それを聞いてマクガエルが驚く。

「あの有名な神名者がこの町に居るのですか!」

 黄道針が答える。

「あれは、無謀な戦いをしようとしたお前たちを導き、そして、さもお前達だけの力で神名者に勝った様に見せかけた。あから様に作っていた石柱を完成前に破壊できなかったのは、全て八百刃の監視があったからだ」

 信じられない顔をするマクガエルが去っていった後、ヤオが現れる。

「今回は、大変でしたね」

 それを聞いて不満そうな顔をして黄道針が言う。

「全部、貴女の掌の上でしょうが。相手が神名者でも勝てる事を示させた後、神名者の圧倒的な力を見せて牽制もする。本当に貴女が神でないことが今でも信じられない」

 ヤオの足元に居た白牙が言う。

『この馬鹿が、もう少し、やる気があれば、とっくの昔に神になっていたわ』

 苦笑するヤオと黄道針であった。



「本当にありがとうございます」

 旅に出るヤオは、マクガエル達から餞別として大量の食料を貰った。

「気にしないで」

 奴隷から開放されマクガエルと結婚して幸せそうなエルナ。

 マクガエルが近くの砕けた石柱を見て言う。

「結局、八百刃が何処にいたのかは、解らなかったな」

 ヤオは、瓦礫を見て言う。

「瓦礫も結構邪魔でしたね。片付けておきますか?」

「出来るのかい?」

 マクガエルが言うとヤオが両手を地に向けて言う。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、大地蛇』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび、大地が盛り上がると、大きな蛇、大地蛇が呼び出される。

「そこの瓦礫を片付けておいて」

『了解しました』

 そして、次々と消えていく石柱の瓦礫。

「綺麗になったでしょ。食料、本当にありがとうね!」

 硬直する人々を尻目に去っていくヤオであった。

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