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たい育  作者: 鈴神楽
38/67

半島と魔獣の友達

狙われた半島とそれを救う魔獣

 マーロス大陸の西部のタネガン半島の先端にある小国、ウオン王国。

 そこにヤオがやって来ていた。

『平和そうに見えるな』

 白牙の言葉にヤオが町の名物の焼き魚を食べながら言う。

「陸地は、険しい山岳があり、攻めるには、費用が高い、海路が望ましい。そして海路で無理やり攻め入るだけの実入りも想定されなかったから安全な国だった」

 白牙が魚のアラを食べながら言う。

『過去形だって事は、何かがあるって事か?』

 ヤオがあっさり頷く。

「宝石の鉱山が見つかっちゃったんだよ。海路で攻め立てても十分に採算が取れる程の物がね」

 白牙が頷く。

『本業で来たって事か』

 ヤオが答える。

「そうだよ。まあ、あちきの予想じゃ、出番には、まだ時間があるけどね」

『そうか? あれは、多分、こんな小国では、勝てないぞ』

 白牙が指す方向から大量の軍艦がやってくる。



 ウオンの将軍は、絶望していた。

「あんな大軍とどうやって戦えば良いのだ!」

 参謀達も圧倒的な戦力差に何もいえなかった時、一人の少年兵が手を上げた。

「僕の友達なら、もしかしてどうにかなるかもしれません」

 それを聞いて、その兵士の上官が怒鳴る。

「お前の友達の一人や二人で、どうにかなると思っているのか!」

 少年兵、カポンが答える。

「僕の友達は、数十匹です」

 その答えに、首を傾げる軍人達。



 ウオンを攻め立てる敵国の将軍は、勝利を確信していた。

「所詮は、小国、今までは、見逃してやっていたが、鉱山があるなら別だ! 一気に攻め落とし、我々の手柄にするまでよ!」

 そして、軍艦を進めていく中、監視の兵士が叫ぶ。

「将軍、大変です、右舷で大量の水しぶきが上がっています!」

 それを聞いて、将軍が視線を送ると、そこには、兵士の言うとおり、大量の水しぶきがあがっていた。

「なんだ、あれは?」

 困惑する兵士達を尻目に、将軍は、望遠鏡で、それを見る。

「魚か?」

 次の瞬間、水しぶきの中から、水が弾丸の様に撃ち出されて、軍艦に直撃していく。

「なんだ!」

 驚く兵士達に将軍が慌てて叫ぶ。

「水しぶきの中からの攻撃だ! 反撃しろ!」

 その言葉に答え、砲撃の準備を進めるが、砲撃の準備が終わった頃には、水しぶきは、別の場所に移動し、そこで攻撃を再開していた。

 兵士達が混乱している間に、軍艦は、次々と撃沈されていった。

「撤退だ!」

 将軍の命令で、ウオンの軍隊と戦わずして撤退していく軍艦。



 その様子を高台から確認していたウオン王国の将軍が高笑いを上げた。

「愚か者が! 我らウオンを攻め立てようとするからその様な事になるのだ!」

 他の兵士達も歓喜の声を上げる。

 そんな中、カポンが言う。

「ありがとう、水撃太刀魚スイゲキタチウオ

 敵国の軍艦を攻撃した魚こそ、カポンの友達、収束した水を打ち出す太刀魚の魔獣、水撃太刀魚だったのだ。

「よくやった、褒美を取らせよう」

 将軍の言葉にカポンが首を横に振る。

「いいえ、全ては、水撃太刀魚のおかげで、僕は、何もしていません。ただ、水撃太刀魚の功績だけは、国民に知らせてください」

 頷く将軍。

「良かろう」



 いきなりの襲撃とそれを蹴散らした水撃太刀魚の活躍に国は、お祭り騒ぎになっていた。

 格安で手に入れた料理を食べながら白牙が言う。

『同種の魔獣が大量にいるとは、珍しい例だな』

 ヤオは、上機嫌に食事をしながら答える。

「そうでもないよ。風乱蝶フウランチョウもそうだけど、卵の時に神の欠片の影響を受ければ一斉に魔獣になる可能性があるんだからね」

『しかし、これでは、そうそう海から攻め入る事は、出来ない。お前の仕事があるのか?』

 白牙の言葉にヤオが苦笑する。

「どうして海から攻めてるか忘れた?」

 白牙が首を傾げる。

『確か、山が険しいからだったはずだな?』

 ヤオが頷く。

「そう。さて、おかしな魔獣が出る海と自然の驚異で難しいだけの山路。どっちをとると思う?」

 白牙が納得する。

『地獄を見る事になるな』

 ヤオが呑気に祭りをする人々を見ながら頷く。

「慣れた海からの攻撃じゃない分、脆いよ」

 当然の如く、ヤオの予想は、的中する。



 山路より攻められたウオン王国の軍隊は、あっさり陥落した。

 そして水撃太刀魚に痛い目を見せられた将軍は、告げた。

「降伏の証としてあの魚を皆殺しにしろ」

 ウオン王国の将軍は、躊躇しながらも頷いた。

 それを知らされたカポンは、当然反論した。

「彼らは、僕達の国の為に戦ってくれたのですよ!」

 しかし、将軍は、取り合わない。

「国民の命が掛かっているのだ。命令したとおりに、集めよ、あの将軍の前で一匹残らず、殺すところを確認してもらう」

「嫌です! 僕は、友達に死ねとは、言えません!」

 カポンの言葉に将軍は、新たな命令を出すのであった。



 水撃太刀魚達は、入り江に集まっていた。

 彼らの下には、大きな網が張られている。

 それを引き上げられれば、魔獣といえ、魚の属性を持つ水撃太刀魚に生き残る術は、無い。

 水撃太刀魚の能力を使えば、脱出も可能だが、彼らは、それをしなかった。

 偏に、友達であるカポンが捕らえられていたからだ。

 カポンは、必死に言う。

「逃げろ! 逃げてくれ!」

 必死に叫ぶカポンだが、水撃太刀魚達は、カポンに兵士達の槍が突きつけられて居た為、何も出来ずにそこに居た。

 そして引き上げられる網、水から引き上げられた水撃太刀魚達がどんどん弱っていく。

 そんな時、一人の子供が兵士に石を投げた。

「カポンを放せ! 水撃太刀魚を放せ!」

 それを切掛けに国民達が声をあげる。

「軍は、何で俺達を救ってくれた水撃太刀魚達を殺すんだ!」

「少年を人質にするなんて最低だぞ!」

 ウオン王国の将軍が叫ぶ。

「うるさい! こうするしか我々が生き残る道が無いのだ!」

 兵士に剣を向けられ怯む国民。

 そんな中、カポンが懇願する。

「僕は、良い。僕の友達、水撃太刀魚達を救ってくれ!」

 国民が動き出す。

 水撃太刀魚を捕らえる網を斬ろうと近づいたのだ。

「邪魔をするな! 殺されたいのか!」

 必死にウオン王国の将軍が叫ぶが、絶対数が違う為、止めきれない。

 そして一匹の水撃太刀魚が海に戻った。

 しかし、それが限界だった。

 敵国の将軍が大砲を使って網に残っていた水撃太刀魚を滅ぼす。

「これで、もはや我々に逆らう力は、無いだろう」

 カポンが涙を流す。

「どうして! どうして、彼らが殺されなければいけないんだ!」

 囚われた少年の前にヤオが降り立つ。

「大きな力は、どんな理由であろうと使えば人に恐怖を与える。それが理由だよ」

「貴様、何をするつもりだ!」

 ウオン王国の将軍の言葉を無視して、白牙が変化した刀でカポンを開放するヤオ。

「これからどうするの?」

 それに対してカポンが行動で答える。

 最後の水撃太刀魚に向かって駆け出したのだ。

「例え一匹だけでも助ける!」

「させるか!」

 敵国の将軍が大砲をカポンと水撃太刀魚の方に向けた。

「水撃太刀魚、貴方が選択する番。貴方は、その少年を助ける力が欲しい。その代償として、あちきの使徒になる事になっても?」

 水撃太刀魚が答える。

『私は、カポンを救いたい!』

 その言葉に頷き、ヤオが胸を開き、両手を並べる。

『八百刃の神名の元に、我が使徒と化さん、水撃太刀魚』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』、胸に『刃』が浮かび、ヤオの手の中に水撃太刀魚が握られていた。

「その力をみせつけなさい!」

 ヤオが水撃太刀魚を一振りする。

 その先から放たれた強烈な水流がウォーターカッターの様に全ての敵戦力を切り裂いた。

 愕然とする将軍達。

 そして、ヤオが告げる。

「水撃太刀魚は、あちき、八百刃の使徒、八百刃獣と化した。その願いの元、あちきは、宣言する。この国に侵略しようとするものは、水撃太刀魚の力で排除されると」

 神名者の宣言を聞いて、抗うことが出来る者は、居なかった。



 その夜、水撃太刀魚の居る入り江にカポンが来た。

「もう行くんだね?」

『はい。八百刃獣としての役目がありますから』

 水撃太刀魚の答えにカポンが言う。

「ありがとう。君におかげでこの国は、救われた」

 水撃太刀魚が答える。

『この国の人達は、私を助けようとしてくれた。その思いに答えただけです。それでは、さようなら』

 海に消えていく水撃太刀魚を見送るカポンであった。



 翌日、騒乱の後始末を国民達とやっていたカポン。

「少し休憩しよう」

 近くの人に言われて、休憩所に行くと、そこには、ヤオが居た。

「はい、そっちの机を使ってください」

 カポンが近づいて行き尋ねる。

「何をしているのですか?」

 ヤオは、少し恥ずかしそうに言う。

「ちょっと、山越えするには、食料が足らなくて、ここって意外と食料が高いんだよ」

『祭りの間に食料を買いだめし忘れたお前が悪い』

 白牙の容赦の無い突っ込みに視線をそらすヤオであった。

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