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たい育  作者: 鈴神楽
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魔獣研究者とナンパで誠実な冒険者

魔獣を研究少女とナンパな冒険者の出会い

 ブースト大陸に一人の天才が居た。

 その天才の名前は、メリッサ=マリスン。

 魔獣を研究し、その謎に一番近づいた女性として、後世に名を残す事になるのだが、当時は、単なる変わり者として周囲を囁かれていた。

「また、あの娘は、おかしな者に興味を持ってるよ」

「本当よね、親の遺産で悠々自適な生活を送ってるからってね」

 周囲の大人が陰口を叩くのを聞きながら、メリッサは、気にする事無く、魔獣と思われる昆虫を調べていた。

「通常の生物とは、確かに性質が異なるわね」

 そこに一人の槍と盾を持った戦士風の男性が現れた。

「そこの姉さん、俺とお茶しない?」

 ナンパである。

 メリッサは、まだ十代の後半で美少女である。

 その為、変わり者と知らない旅の人間がナンパをする事は、よくあるので、メリッサも慣れた様子で答える。

「残念ながら、私は、貴君と生殖活動を行う時間は、ありません。魔獣の実態を調査する予定で一杯なのです」

「だったら、ワイも手伝うわ」

 のん気な男は、メリッサの隣に座る。

 メリッサは、変な奴と思いながらも、昆虫、それもカブト虫の魔獣の実態調査を続ける。



 実態調査を終え、問題のカブト虫の魔獣を、大金を払って作らせた専用ケースに入れて家に帰るメリッサの隣には、あの男が居た。

「なあ、もう調査がしまいやろ? だったらワイとお茶せんか?」

 メリッサは、小さく溜息を吐いて言う。

「この後は、調査資料をまとめる作業がありますので、残念ながらそんな時間は、ありません」

 その時、メリッサのお腹がなる。

 流石に顔を赤くするメリッサ。

 すると男は、自分のお腹を擦りながら言う。

「ワイ、お腹空いたみたいや、すまへんが、食事が出来る所に案内してくれへんか?」

 お腹が鳴った事を気付かなかったふりをする男の態度にメリッサは、好感を持った。

「私が通っている食事屋がありますからそこを案内します」

「おおきに。そうやまだ名乗ってなかったやな、ワイの名前は、ナイス=カマッヘンや」

 男、ナイスの言葉にメリッサも名前を教えた。



 それから、ナイスは、よく魔獣を研究するメリッサの所にやってくるようになった。

 そして、一緒に食事をとる事も多い。

 メリッサがトイレに離れた時、店のマスターが来て言う。

「メリッサと仲良くしてくれてるんだって?」

 ナイスは、陽気に答える。

「いやー、ガードが固くて困るわー」

 苦笑するマスター。

「すまんな、早くに両親を亡くした上、多くの遺産の事で人を信じられなくなってるんだ。君みたいな打算がない人間が傍に居て、楽しませてくれていると助かるよ」

「マスター、随分と事情に詳しい見たいやな?」

 ナイスの言葉にマスターが頷く。

「あの子の父親、マルッスとは、親友でな。活動的な考古学者だったマルッスには、この店を建てるお金など、色々協力してもらった。こうやって世話をしてるのもその時の恩返しだな」

「良い人が傍におってよかったのー」

 ナイスも嬉しそうに言う。

「マスター、次の料理まだ!」

 客に呼ばれて慌てて厨房に戻るマスター。

 そして、代わりにポニーテールのウェイトレスが来て言う。

「お待たせしました、南海風、お好み焼きです」

「これやこれ、しかし、嬢ちゃんも、よく別の大陸の料理なんて解るな?」

 ナイスがお好み焼きを食べながら質問するとウェイトレスが答える。

「旅してますから。旅の途中では、色んな出会いもあります。でも、偶然じゃないんでしょ?」

 ウェイトレスの言葉にナイスが驚く。

「なんのことや?」

 ウェイトレスは、苦笑する。

「正体を隠すつもりがあるんだったら、ブースト大陸では、目立つナニーワ弁を隠しておいた方がいいですよ、前人未到の遺跡をいくつも制覇した槍使いのナイスさん」

 頬をかくナイス。

「別に大した事じゃあらへん。その多くはある人から貰ったノートがあったからや」

 そこにメリッサが帰ってくる。

「食事中にすいませんでした」

「かまへんかまへん、それよりコレ食うてみん」

 ナイスがその場の空気を誤魔化す為にお好み焼きを勧める。

 メリッサが一口食べて驚く。

「……美味しい」

「そうやろ、嬢ちゃん、おかわりや」

 ナイスの言葉にウェイトレス、何時もの様に旅費稼ぎをしているヤオが頷く。

「はい、直ぐに」



 その夜、屋根上部屋に戻ったヤオを白牙が迎える。

『おい、何時まで様子を見るつもりだ? 今回は、あの魔獣の確保が仕事の筈だ』

 ヤオは、頬をかいて言う。

「ナイスさんが見張っているんだよ。あちきとは、気付いていないけど、メリッサを監視している人間が居るって」

『邪魔をするなら排除すれば良いだろう』

 白牙があっさり切り捨てるが、ヤオが困った顔をする。

「だって、ナイスって正しい戦いやってるんだもん。あちきとしては、強引には、したくないの」

『だからって放置出来ないんだろう?』

 白牙が呆れた顔をして言うとヤオが頷く。

「まーね、あの昆虫型の魔獣は、主体性が無い。何かの切掛けでどんな能力を持つかも解らないから処分する予定なんだけど、どうしたものか?」

 腕組をするヤオであった。



 昆虫の魔獣の調査をしていたメリッサにナイスが言う。

「しかし、何で魔獣の研究なんてしているんや? 両親が死んだのは、魔獣が原因だって話やと聞いた」

 メリッサが頷く。

「魔獣の生態を調べれば、正しい対応が出来る筈だから」

「恨まず、後の事を考えるか。メリッサは、優しいな」

 ナイスの言葉に顔を赤くして、そむけるメリッサ。

 しかし、そんな中、いきなり昆虫の魔獣の動きが激しくなる。

「おい、大丈夫なのか!」

 大声を出すナイスにメリッサが答える。

「大丈夫な筈です。この装置は、高名な魔法使いによって作られた物です」

 だが、装置には、あっさり皹が入る。

「嘘!」

 次の瞬間、装置が砕け散り、そして昆虫の魔獣は、いままでの恨みとばかりにメリッサに襲い掛かっていく。

 メリッサは、思わず目を瞑ってしまった。

 死を覚悟していたメリッサだったが、その瞬間が来ることは、無かった。

 メリッサが目を開けた時、視界に移ったのは、ナイスの逞しい胸だった。

「……平気か?」

 状況を飲み込めないメリッサを自分の背後にやり、ナイスが言う。

「また襲ってくる、ワイの後で大人しくしててや」

 槍と盾を構えるナイスの背中からは、大量の血が流れ落ちていた。

「まさか、私を庇って……」

 その間にも再び昆虫の魔獣が襲い掛かってきた。

 ナイスが盾でそれを弾くがその一撃で盾が砕かれた。

 舌打ちして槍を構えるナイス。

「もう止めて下さい。あれの狙いは、私です。早く逃げて下さい!」

 メリッサの言葉にナイスは、真剣な顔で答える。

「それは、できへんのや。ワイの命は、この為にあるんやからな」

「どういう事ですか?」

 メリッサの質問にナイスが答える。

「ワイがまだひよっこだった時、メリッサのオヤジさんに助けられた。その時、オヤジさん片手を失った。あの人だったら、両手があったら魔獣やったからって遅れを取る事が無かった筈や。これは、オヤジさんに対する償いなんや!」

 驚くメリッサ。

 昆虫の魔獣が特攻を仕掛けてくるのに槍を合わせてナイスは、そのまま地面に縫い付ける。

「ナイスさん!」

 駆け寄るメリッサ。

「あかん! 早く逃げるんや、そして人を呼ぶんや!」

「でも……」

 メリッサが戸惑う理由、それは、最初の一撃での傷から大量の血が流れ落ちているからだ。

 ナイスは、無理やり笑顔を作り言う。

「だからこそや、急いで人を、治療できる人を呼んでや。そうすればワイも助かる可能性があるんやから」

「直ぐに戻ります!」

 駆け出すメリッサ。

 それを見送った後、地面に突き刺さった槍にもたれかかるようになるナイス。

「あかん、もう駄目みたいや」

「嘘つきだね」

 いつの間にかに現れたヤオ。

「嬢ちゃん、ここは、危険だから、逃げるんや」

『八百刃の神名の元に、その力を原始に戻せ』

 それに対して、ヤオは両手の神名、『八』と『百』を光らせて、昆虫の魔獣を幼虫状態に戻してしまう。

 驚いた顔をするナイス。

『お前が邪魔しなければ、とっくの昔にこうしていたんだ』

 ヤオの足元に居た白牙の愚痴に苦笑するナイス。

「結局、ワイの骨折り損って奴やな」

「あちきの使徒の中には、傷を癒す事が出来る奴もいるから、治してあげても良いんだけど、どうする?」

 ヤオの言葉に、ナイスが複雑な顔をする。

「そうやな、正直、もう良いかもって気もするんや。オヤジさんの遣り残した事をやろうと必死にやって来た。代わりにやってくれといわれた遺跡の踏破も全部すませたし、唯一の心残りは、メリッサかな?」

「だったら、傷を治してゆっくり付き合って答えをだしたら?」

 ヤオの提案にナイスが首を横に振る。

「無茶言わんと居てや、あんな綺麗な子と汚れきったワイとが釣合う訳ないやろ。そうやな、別れを言って去るまで持つ様に表面の傷だけ癒してもらうのがベストやな」

 ヤオは、少し考えて、幼虫を見る。

「物凄い、突拍子も無い案があるけどどうする?」

 結局、ナイスは、その突拍子もない案を受け入れる事になる。



 メリッサが町で人を集めている所に、ナイスが現れた。

「ナイスさん、大丈夫なのですか?」

 心配そうなメリッサの言葉に胸を叩き、ナイスが答える。

「当然や、それより、あの魔獣やけど、凄いことに通りがかりの神名者、八百刃様の八百刃獣になったわ。それも事情を話したら、メリッサの研究の対象として貸し出してくれるそうや」

 意外な展開に戸惑うメリッサをナイスが言う。

「ワイは、メリッサとのオヤジさんへの借りも返せたさかい、また旅に出るわ」

 その答えに、寂しそうにするメリッサ。

「……そうですか。お元気で」

 ナイスは、笑顔で答える。

「当然や。メリッサも研究を頑張りや」

 頷くメリッサを見てからナイスが手を振って去っていく。

 メリッサは、その後姿に終ってしまった淡い恋心に気付き、完全に消えるまで見続けた。



 メリッサが調査をして居た所に戻ると、そこには、少しだけ形が変わった昆虫の魔獣が居た。

 その横の地面には、八百刃からのメッセージが書かれていた。

『貴女の寿命が尽きる時まで、それは、傍に居るでしょうから、大切にして下さい』

 姿も知らない八百刃の存在に頭を下げるメリッサ。

 こうして、メリッサは、この昆虫の魔獣、闘甲虫トウコウチュウを研究して、魔獣の真実に近づくことになる。

 メリッサの死後、闘甲虫は、その姿を消した。



 戻ってきた闘甲虫にヤオが言う。

「滅びを求めるなら、叶えるよ」

 闘甲虫は、人の姿、ナイスの姿に戻り言う。

「そんな恩知らずな真似出来ますかいな。八百刃様には、感謝しとるんや。ワイをあの魔獣と一つにして、メリッサが満足いく人生を送れる手助けができるようにしてくれたんやからな」

 肩を竦めるヤオ。

「貴方と過す幸せもあったかもしれないのに、貧乏くじを選んだだけだと思うけどね」

 ナイスが苦笑する。

「八百刃様も人の恋路は、得意やないみたいやな。少なくともワイは、これで満足や。これからは、八百刃獣の一刃、闘甲虫として、八百刃様におつかえさせていただきますわ」

 魔獣の姿に戻るナイス、闘甲虫。



 この後、何の因果か、遺跡探索中のローダに使われる事になり、ローダが新名の使徒となった後は、お互いに元人間同士という事で、意気投合する事に成るのであった。

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