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たい育  作者: 鈴神楽
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桃暖風と桃暖風

最強の邪神、桃暖風とのファーストコンタクト

『決着の時だな』

 白牙の言葉にヤオが頷く。

 ヤオと白牙が見下ろす先には、二つの勢力が決着をつける為の激しい戦争が繰り広げられて居た。

 一方は、侵攻軍だが、実は、隣国の精鋭が集まった起死回生の決死隊である。

 攻め込まれている大国は、周囲の国々をどんどん征服して、暴虐の限りを尽くす暴君の国。

 それに反抗するため、残った国や滅ぼされた国の精鋭が終結して、暴君を倒す連合軍を生み出した。

 ヤオは、それをバックアップする為にここに居た。

『このまま行けば、お前が本格的に力を貸す必要もないな』

 白牙の言葉にヤオは、真剣な顔をして言う。

「そう簡単にいかない。この侵攻も、大国が周囲に出兵している隙を突いたから勝ってるだけ、このまま押し切れなければ、兵が戻ってきて、巻き返される」

 そんな緊張が高まり、必死に刃をまじえる兵士達だったが、突然、動きが止まった。

「何で、こんな事に一生懸命になってるんだろう」

「俺は、もう疲れた」

「ねむてえ!」

 次々と戦いを止めていく兵士達。

 流石のヤオもハニワ顔になる。

『どうなってる!』

 白牙の叫びで正気に戻ったヤオは、慌てて気配を探ると、それを発見する。

 ヤオが嫌そうな顔をして言う。

「一番嫌なタイミングで表れたよ」

 ヤオの集中する先を見て白牙は、冷や汗を流す。

『あれは、邪神?』

 ヤオが頷く。

「そう、それも最強の邪神、桃暖風トウダンフウだよ」

『強いのか?』

 白牙の質問にヤオは、桃暖風の元に向かいながら答える。

「間違いなくね。でも、ここで余計な干渉をされたら、折角の戦いが無駄になる」

 そして、ヤオは、そのゆるげな雰囲気を纏う休息を意味する堕落を司る邪な女神、桃暖風の前に立つ。

「邪魔をしないで下さい。この戦いには、多くの人たちの思いがかかっているのです」

 それに対して桃暖風は、お気楽に言う。

「はーい、八百刃ちゃん、初めまして!」

 勢いを殺されて、戸惑って居ると白牙が言う。

『何、飲まれてやがる、早くこいつを排除しないいと……。どうでもいいか』

 そういって白牙が欠伸をして眠り始める。

 ヤオは、慌てて白牙の頬を引っ張り起こす。

「正気に戻って!」

『おい、どうなってた……』

 愕然とする白牙。

 ヤオは、油断無く桃暖風を見て言う。

「魔獣まで侵食する桃暖風の安息の空気。人間が食らったら餓死するまで休み続ける。それが、桃暖風が邪神と呼ばれる所以だよ」

 桃暖風は、平然と言う。

「まあ良いじゃない。それより、あたしは、久しぶりにお菓子が食べたいから作って」

『馬鹿にしているのか! ヤオ、やるぞ!』

 ヤオも頷き、白牙に右手を向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒に力を我が力与えん、白牙』

 しかし、ヤオの右手の印が輝くが、白牙が変化しない。

『どうした?』

 ヤオは、舌打ちする。

「少しも戦う意思が存在しないから、力が生み出せない」

 白牙が周りを見回すと確かに、誰も戦おうとする意思を持っていない。

「お菓子が食べたい!」

 駄々をこねる桃暖風。

『ならば直接この爪を向けるだけ!』

 白牙が本来の姿に戻ってその爪を桃暖風に向けた。

 しかし、あたる直前に動きが鈍くなった。

『やっぱり面倒だな』

 そのまま、丸くなってしまう。

「白牙!」

 ヤオが頬を何度も叩くが今度は、正気に戻らない。

 そして桃暖風が言う。

「お菓子!」

 ヤオは、接近して手刀を振り下ろす。

「まだ?」

 桃暖風は、目前で止まるヤオの手刀が見えない様に普通に聞いてくる。

 ヤオは、頭をかいて近くの民家に入り、お菓子を作り始めた。



『どうする?』

 桃暖風がお菓子に心を奪われている間に復活した白牙の言葉にヤオが困った顔をしていう。

「正直、手が無い」

 それに驚く白牙。

『お前が戦って勝てない相手が居るなんてな』

 ヤオは、複雑な顔をして言う。

「戦えば勝てるかもしれない。でも、戦えない。あっちに戦う意思がない限りあちきは、戦う事は、出来ない」

 ヤオの戦神候補者としての縛りが、ヤオの行動を封じているのだ。

『本来なら、こういう時こそ、八百刃獣の出番だが』

 白牙が見た先には、ヤオに呼び出されて桃暖風に攻撃を仕掛けたが、あっさり休息モードに入ってしまっている八百刃獣達が居た。

「力を削る覚悟で強い奴を呼んでも同じだろうね」

 大きなため息を吐くヤオ。

 そんな時、桃暖風が後ろからヤオを抱きしめてくる。

「八百刃ちゃん。良い事しましょ!」

 ヤオが顔を引きつらせて言う。

「良い事ってまさか……」

 桃暖風が笑顔で答える。

「あたし両刀使いだから」

 ヤオが逃げ出そうとした時、桃暖風が力を発動させる。

 ヤオは、その場にしゃがみこんで、自分の体を強く抱く。

「あらあら、凄い精神力ね。でも、そんなに怖がらなくても良いのよ。直ぐに気持ち良くなるから」

 両手をニギニギしながらやってくる桃暖風。

「白牙!」

 ヤオが叫ぶが、白牙まで、周囲で起こっている乱交に混じっている。

「嫌!」

 ヤオが力の限り叫んだ。



「可愛かったわ」

 満足そうにする桃暖風と服を着ながら落ち込むヤオ。

 桃暖風は、そんなヤオに手を振りながら消えていく。

「また今度、良い事しましょうね!」

 そして、暫くして正気に戻った白牙が珍しく歯切れの悪い口調で言う。

『……大丈夫か?』

 ヤオは、涙を拭い、立ち上がる。

「とにかく桃暖風が居なくなったんだから仕事の再開! 摂り合えず力の限り暴れて、正気に戻させろ!」

 ヤオの命令に答えて、呼び出されていた八百刃獣達が戦場だった場所で暴れまくり、兵士達を正気に戻していく。

 そんな中、ヤオが不機嫌そうな顔をする。

「あれの所為で、出兵した兵士が戻ってくる」

『八百刃獣に時間稼ぎをさせるか?』

 白牙の質問にヤオが凄みのある笑みを浮かべて言う。

「仕方ないから、あちきが戦うよ」

『……存分に戦え』

 白牙にもそれを止める度胸は、無かった。



 後世に語られる話では、この戦いに邪神が関わり、堕落させられた兵士達を救ったのは、八百刃で、そんな隙を突こうとした大国の兵士は、八百刃の天罰にあって全滅したとされている。

 しかし、白牙が後に語る。

『あれは、絶対に八つ当たりだ。丁度良い理由があったからって、容赦なく力を発動していたぞ』

 その言葉が正しいかどうかは、ヤオの心を覗かないと解らない。



 ホープワールドの中心部。

「桃暖風、今度こそ、私が望んだ戦神が生まれるかもしれない」

 桃暖風と名乗って居た、ホープワールドを生み出して、支えていた神、実名ミナの言葉に、ホープワールドの始まりの神の一柱、今は、動けない本当の桃暖風が答える。

「そうか、もう少しなんだね」

 実名が頷く。

「貴方の苦しみももう直ぐ終る」

 寂しそうにする実名に桃暖風が優しく言う。

「終わる時も一緒だ」

 実名が今にも泣きそうな顔で問いかける。

「貴方には、本当の神になる輝かしい未来があるのよ?」

 桃暖風は、首を横に振る。

「実名が居ない、未来なんていらない」

「桃暖風」

 嬉し涙を流す実名。

 そして実名は、エッチと誤魔化して行った八百刃の最深部への干渉を思い出す。

「あの強い意思、理念こそが私達が求めていた物。そしてそれ故に大きな悩みと戦い続ける。でも私は、信じる、貴方なら全ての世界の希望になれる事を」



 実名の予想が当たっていたのかは、また別の物語で語ろう。

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