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たい育  作者: 鈴神楽
30/67

貧困と王子

貧困にあえぐ国とそれに心を痛める王子。真面目にお仕事をするヤオのお話

 王子は、悩んでいた。

「どうすれば父を止められるのだ」

「そんな事を無力な侍女の前で漏らしている内は、駄目でしょ」

 容赦ない突っ込みをいれるのは、毎度お馴染みのヤオである。

「ヤオ、もう少し言い方ってあるでしょ」

 先輩侍女パニッタの言葉に王子ゴロックが苦笑しながら答える。

「良いのだよ、本当の事なのだから」

「因みに、本気でどうにかしたいと思うんだったら行動すれば良い。それが正しい戦いならば、絶対に勝てる。この世界は、そういう世界なんだから」

 ヤオの言葉に首を横に振るゴロック。

「駄目だ、父に逆らうのは、間違った行為だ。だから加護は、無い」

 ヤオは、頭を下げて部屋を出るのを見て、パニッタが不満げに言う。

「人手が無いからってあんな子を王子の傍の仕事を任せる事になるなんて……」

「気にしなくっても良い」

 ゴロックが窓から城下町を見る。

 そこには、一目で解る貧困があった。

 強引な軍備強化を続ける国王シッゴの政策に国民は、疲労していた。

「何故、護らなければいけない国民に辛い思いをさせなければいけないのだ……」

 辛そうに呟くゴロックであった。



 廊下を歩くヤオの足元に白牙がやってくる。

『あんな王子では、お前の仕事は、無いな』

 それに対してヤオが苦笑する。

「そういえば、あちきがここに居る理由って言って無かったっけ」

『あの王子が独裁を行う父親を倒す為に動く手伝いをする為じゃないのか?』

 白牙の言葉にヤオが肩を竦める。

「あちきは、正しい戦いの護り手だよ。自分が正しいと思えない奴の為に動くと思ってたの?」

『影走鬼が密かに動いてるが、何で俺にまで内緒にしているんだ?』

 白牙の言葉にヤオが複雑な顔をして言う。

「別に秘密にしてる訳じゃないけど、相手の気持ちを考えると、結果が出るまで無闇に口に出来ないんだよ」

 そして、その横を普通とは、少し違った感じの男が通り過ぎていく。

『今のは、ほっておいていいのか?』

 白牙の言葉にヤオが頷く。

「まだ、動かない、まだね」



 ゴロックは、お忍びで町に来ていた。

 少しでも助けになろうと自分の物を売った金で施しもしていた。

「段々酷くなっている」

 ゴロックの言葉にパニッタが言う。

「近頃、近隣の国からの難民も増えて、更に生活が苦しくなっているのです」

 大きなため息を吐くゴロック。

「貴方は、もしかして、ゴロック殿下では?」

 その言葉に振り返ると、そこには、一人の貧乏そうな身なりをした男が居た。

「勘違いです」

 パニッタが否定するが、男がすがりつく。

「間違いない。貴方のお顔は、何度も拝見しました。今我々には、貴方の力が必要なのです!」

 懇願する男が言う。

「国民は、重税で苦しんでいます。このままでは、国民は、死ぬしかありません! 貴方が新たな王として、独裁を行う現国王を排除して下さい!」

「そんな事を言っても、私には、何の力も……」

 戸惑うゴロックだったが、ゴロックの事を知ると次々と国民が集まってくる。

「王子様、私達を救って下さい!」

 悲痛な叫びにゴロックは、決心する。

「パニッタ、私は、起たないといけないらしい」

「私は、何が有っても殿下についていきます」

 パニッタは、追随する。



 貧民達が集団決起し、王城に迫って居た。

 その中心にいるのは、ゴロックであった。

「そこを退くのだ」

 ゴロックの言葉に兵士達が動揺する中、城を守護する親衛隊長が答える。

「残念ですが、退けません。この命が尽きようとも陛下を御守りします」

「どうしてだ? どうして、父にそこまで尽くす!」

 ゴロックが辛そうに言うと貧民達が騒ぐ。

「そうだそうだ、俺達が苦しい生活をしているのは、全て国王が、無理な軍備増強を行っているからだ!」

「貧しさの中で死んだ子供の命を返して!」

「治療費が払えず病死した母を返せ!」

 そんな声に後押しされてゴロックが言う。

「これ以上、国民に被害を出すわけには、行かないのだ、退いてくれ」

 真摯なゴロックの言葉でも親衛隊長は、揺るがない。

「何と言われ様とも退けませぬ」

 パニッタが怒鳴る。

「そんなに命令が大切なの!」

 答えない親衛隊長。

 その後ろから白牙を連れたヤオが現れて言う。

「命令を守らないと国王にしかられるよ」

「言うな!」

 親衛隊長の言葉を無視してヤオが続ける。

「国王からは、こういう事態になったら、国民を押しとめる事が出来ないから、適当な所で降伏しろって言われている筈だよ。国民や貴方達に被害が出る前にって」

 親衛隊長が怒鳴る。

「陛下は、まだまだこの国に必要なお方。その為なら我等の命等、喜んで捧げよう」

 兵士達も同意する中、ヤオが呆れた顔をする。

「国王は、今後の隣国からの戦いの為に少しでも兵力を残す必要性があって言っているの。実際問題、本当の戦いになったら年をとった国王より、若い王子の方が、向いている。常に最善を考え、行動しつづけた国王の思いを踏み躙るつもり?」

 親衛隊長が拳を握り締めながら答える。

「あの人だから、戦える。国外の事も知らずに綺麗事を並べる王子など命を預けられるか!」

 苦笑しながら、ヤオは、ゴロックの方を向く。

「王子は、知らなかっただろうけど、隣国が次々と大国に攻められているの。半ば無理やりの軍備増強は、それに対抗するための物。そして、この決起がここまで順調に進んだのは、隣国との大戦の為に軍が国境に集められた為だよ」

 愕然とするゴロック。

「父は、どうして何も教えてくれなかったのだ?」

 ヤオは、当然のように言う。

「それは、未熟で内外の事を同時に相手できるだけの能力が無かったからに決まってるじゃない。今後の国民との関係を考えれば、無理させるより、内部に事に全力で当たらせたってことだよ」

「そうだったのか……」

 落ち込むゴロックを見て、パニッタが怒鳴る。

「あんたは、もう少し言い方が無い訳!」

「単なる事実だしね」

 ヤオは、飄々と答える中、ゴロックを誘い込んだ男が叫ぶ。

「そんな小娘の戯言に騙されては、いけません! 国民が貧しさに苦しんでいるのは、真実なのです!」

 同意する群集にヤオが告げる。

「どうして難民が多いか知ってる? 大国に占領され、国民を人と思わない対応で、国民の二割が死んだからだよ。そんな大国に占領されるのとどっちが幸せかな?」

 怯む国民達を見て慌てて男が叫ぶ。

「信じるな!」

 ヤオは、その男の近くに行き笑顔で言う。

「頑張るね、確かに、ここで城に流れ込んでくれないと、国王の暗殺計画が失敗するからね、大国の工作員さん」

 男の顔が引きつる。

「何を根拠にそんな事を!」

 ヤオがゴロックの方を向いて言う。

「監視してたから知ってるんだけど、確認。この人は、貴方の顔を何度も拝見した事があるって言ってたんだよね?」

 ゴロックが頷く。

「国民だったら当然な事だ」

 苦笑して回りの貧民にヤオが言う。

「皆さん、今日初めて王子の顔を知った人は、手をあげてください。正直に言わないと、罰せられますよ」

 その言葉に多くの貧民が手をあげた。

「嘘、殿下は、式典には、何時も出ていらっしゃって、国民には、人気が高い筈です!」

 驚くパニッタにヤオが言う。

「今日明日の生活に困ってる人達が、そんなもんに興味を持つわけ無いでしょうが。それなのに何度もその顔を見たことがあるって不自然なんだよ」

 男が馬脚を現す。

「もう遅い、隠蔽工作こそ失敗かもしれないが、国王は、我々の手のものによって死んでもらった」

 その言葉にゴロックも親衛隊長も驚く中、ヤオは、悠然と告げる。

「貴方達の手のものってあれ?」

 ヤオが指差す先には、影に吊り下げられた忍者が居た。

 その一人は、ヤオとすれ違った普通の姿で潜入していた男である。

「馬鹿な、皆、幾度も暗殺を成功させた兵だぞ!」

 次の瞬間、影が消え、忍者と共にヤオの前に現れる影走鬼。

『愚か者め、ここにいらっしゃるお方を誰だと思っている。正しき戦いの護り手、神名者八百刃様だぞ。お前等の姑息な手段など全てお見通し、事前に侵入者の調査を私に命じられていたのだ』

 驚く一同。

「国民の為に戦う国王の戦いが正しいからね、助けたの」

 淡々と語るヤオを見てパニッタが言う。

「花瓶を割って、侍女長に怒られていたのも、侵入者を油断させる為の演技だったのですね!」

 視線を逸らすヤオ。

『あれば地でしたとは、言えないな』

 白牙の突っ込みは、ヤオと影走鬼にしか聞こえない。

 こうして、大国の暗殺計画は、無事失敗に終った。

 その後、ヤオの助力を得た軍は、大国に完勝し、それが切掛けとなり周囲の国が大国を打ち倒し、元の状態に戻っていった。



「お給料も入ったし、あちきは、そろそろ旅に出ますか」

 ヤオは、そういって荷物をまとめて居るとパニッタが言う。

「あれだけの力があるのでしたら、貴方があの国を滅ぼせば国民が貧しさに苦しむことは、無かったのでは?」

 パニッタの発言にゴロックが苦笑する。

「それは、違う。八百刃様は、戦うものを助けるお方。戦わなければその助けも無い」

 頷くヤオ。

「まだまだ未熟な王子様。この次は、貴方が国民を護る番ですよ」

 ゴロックが頷く。

「解っております」

 その時、侍女長がやって来た。

「ヤオは、居ますか?」

「はい、ここに居ます!」

 あの場に居た人間以外には、正体を隠したままのヤオが答えると侍女長が言う。

「食料庫から食料を盗んでいたって本当ですか?」

 顔を引きつらせるヤオ。

「それは、その……」

 涙目になるヤオを困った表情でみるゴロックに白牙が説明する。

『城の外に出たお前達の監視を子供に頼むのに盗んだ食料を渡してたんだ。すまないが、正体を隠したまま、弁護してくれ』

 ゴロックのとりなしで、罪は、問われなかったが給金は、取り上げられて、泣いて国を出て行くヤオであった。

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