開発と現状維持
鉄道が通る。それは、町に発展をもたらすのか?
ワーレル大陸のシーサイド線のナマモ半島
「かなり遠回りな道ですね?」
ワーレル大陸を走るトウヨコ鉄道で移動中のヤオが何気ない質問を車掌にした。
「すいません。しかし、あの半島を通る線路が計画しています。それば完成すれば、こんな遠回りする必要はなくなります」
頭を下げてくる車掌に頷くヤオ。
車掌が行った後、白牙が声をかけてくる。
『何かいやな感じがしたぞ』
頷くヤオ。
「たぶん反対運動があるよ。あちきの感覚に触れてるもん」
その言葉に白牙が言う。
『なるほどな、それだったら納得だ。一部の土地持ちが周りの人間の事を考えないで線路を通そうとしてるんだろう? それに反対する住民。完全にお前の仕事だな?』
苦笑するヤオ。
「自然を護る者が常に正しいとは限らないよ」
白牙が首を傾げる。
『しかし、自分の信念を貫く戦いは正しき戦いだろう?』
ヤオが頷き答える。
「そうだけど、相手に信念が無いって言い切れないよ。とにかく次の駅で降りて確認に行くつもり」
そう言いながらも、『世界の車窓から』の記事を書くヤオであった。
ナマモ半島にある町にヤオがやって来た。
その町全体では、大掛かりな反対運動が展開されていた。
「我々の生活を打ち砕く新線計画。それに手を貸す、金の亡者を許して良いのでしょうか? いけない、我々はこの自然と歴史を護る義務があるのです!」
偉そうな男性の演説に町民が同意している。
その時一人の少年が石を投げつけた。
偉そうな男性の周りには、護衛の人間が居て、その石を弾き、少年を捕まえる。
「離せよ! 折角この町に線路が通るのに邪魔をするな!」
偉そうな男性は笑顔で言う。
「君は騙されているんだよ。線路なんて通っても良いことなんて、何もないんだよ」
男性の目配せで、少年が連れて行かれそうになった。
そこにヤオが来て言う。
「離しなよ。子供の言葉を力でねじ伏せる人間に、ろくな人間は居ないよ」
護衛の人間がヤオに詰め寄る。
「余計な事を言うな」
ヤオは、掴みかかってきた護衛の男の手を逆に掴み、捻り反転させて地面に叩きつける。
「喧嘩を売るつもりだったら受けるけど、どうするの?」
ヤオの挑発に偉そうな男性が笑顔で答える。
「そんなつもりはありません。君、直ぐにその少年を離しなさい」
その言葉に答えて、少年は解放される。
「絶対、線路は通って、鉄道がこの町に来るんだからな!」
少年は捨て台詞を残して走って逃げていく。
肩を竦めて偉そうな男性が言う。
「純真な少年をこの様に騙す、極悪人。それが線路を通そうとする、バルバッドです。彼は、この町に住む人間だったら誰もが知っている悪人です。外の世界で、悪事を働き、金を儲けて、そして今度はナマモ半島すら自分の金儲けの道具にしようとしているのです!」
その言葉に同意の言葉があちらこちらから上がる。
「どうかこの、ボルットにお力をお貸し下さい!」
住民の拍手の中、その男、ボルットはその場を離れる。
『答えは出たと思うが?』
白牙の言葉にヤオは首を横に振る。
「まだだよ、さっきの少年に話しを聞かないとね」
一人、海岸に居た少年にヤオは近付く。
「どうしてこんな所に一人で居るの?」
その少年がしゃがみこんだまま言う。
「うちは、貧乏でおもちゃが買えないから、仲間に入れてもらえないんだ」
その言葉にヤオは、リュックの中から魔動車の模型を出して渡す。
「これあげるからちょっと話を聞かせてくれる」
嬉しそうに頷く少年。
「まず名前は? あちきの名前はヤオ。ヤオ=バー」
少年は模型を弄りながら言う。
「僕は、ガッソだよ」
「苗字は?」
その言葉に少年、ガッソは首を傾げる。
「それってなんだ?」
その言葉にヤオは頬を掻いて言う。
「もしかしてこの町って言うか、このナマモ半島って外部からの繋がり薄い?」
ガッソがつまらなそうな顔をして言う。
「そうなんだ。このナマモ半島って、海岸が港に適してないし、特徴もないんだ。その上、山が邪魔して、歩いて移動するのも難しいんだ。だから折角の特産物のナマモ茸も殆ど売りにいけないから、その日を暮らしていくので精一杯なんだよ。だから鉄道さえ通ればきっと幸せになれる筈なんだ!」
希望いっぱいの言葉に白牙が言う。
『甘い考えだな。例え鉄道が通って出入りが楽になっても、そんな大きな変化がない。逆に外の商人に食い物にされるのが落ちだ』
ヤオは立ち上がり言う。
「ありがとうね」
そして町に向かうヤオ。
『どうしたんだ? 今更町に行っても、バルバッドの悪口しか聞けないぞ』
ヤオは首を横に振る。
「違うよ、ちょっと町の事で調べたいの。それ次第では、なんであんなに強固に反対してたか解る筈だよ」
『町を護る為だろう?』
白牙の言葉にヤオが言う。
「この貧乏な町の護ろうとしてる人間に護衛居るなんておかしいと思わない?」
白牙が不思議そうな顔をする。
『確かに。あの少年の言うとおりだったら、護衛の人間を雇える人間がこのナマモ半島を護ろうとしてるのは少しおかしいな』
「答えはそこなんだよ」
町に戻るヤオであった。
「あなたまだ続けるつもり?」
妻の言葉に、顔に傷まである男性、バルバッドが言う。
「この半島には、線路が必要なんだ。何も知らずにただ過ごすだけの生活からは、抜け出せないといけない」
その時、二人の家に石が投げ込まれる。
バルバッドが妻を庇いながら外を見ると町の人間が集まってきていた。
「あそこに居る男こそ、皆さんの平和な生活を終わらせようとしているのです。正義は我々にあります!」
ボルットが扇動すると、町民達がバルバッドの家に襲いかかろうとした。
「みんな聞いてくれ! 確かに線路が通れば今までの生活と変わるかもしれない。でも外の世界を知らないと解らない事もある。俺はこの半島を追い出されて、外の世界に出て知った。外の世界ではナマモ茸の値段は天井知らずだ。その売買で独占的な利益を得ている人間が居る。それがそこにいるボルットなんだ!」
その言葉に町民が動揺するが、ボルットが言う。
「騙されてはいけません! 彼がこの町でどんな悪党だったか忘れたのですか!」
その一言にバルバッドが怯み、町民達も勢いを取り戻そうとした時、バルバッドの家の屋根の上に居たヤオが言う。
「ナマモ茸の外での時価は、金貨一枚。ちなみにこれって普通サイズの一本の値段ね」
いきなりの登場と発言に町民が混乱する中、ヤオが地面に降りて言う。
「ついでに言うと、線路が通って生活が変わるって、困る人居るの?」
その言葉に町民が怒る。
「君は何を言ってるんだ! 皆さんは、今の生活を護るのに必死なのだ!」
ボルットの言葉にヤオは肩を竦めて言う。
「今の生活ねー。苦しい生活をどうして護るの? 苦しい生活を我慢するのが正しいなんて思ってたら間違いだよ。苦しいんだったら改善しないといけない。時には間違った道を通る事もあるかもしれない。でも前に進む事を忘れた時、人は腐って行くんだよ。そこのナマモ茸の売り上げで、一人良い生活してる奴みたいにね」
町民の視線がボルットに集まる。
「いきなり何を言うのだ!」
ヤオは余裕たっぷりな態度で聞き返す。
「それじゃあ聞くけど、そんな護衛を雇うお金をどうやって稼いでるの? この産業もろくにない町で。もしそんな方法があるんだったら町の人に教えてあげたら?」
ボルットが言葉に詰まって居たが切れた。
「もう良い、こうなったら全員死にやがれ! やれ、爆走猪」
ボルットの言葉に答えるように巨大な猪の魔獣が周囲の建物を粉砕しながら突っ込んでくる。
「みんな逃げるんだ!」
バルバッドの声で一斉に町民が逃げ出す中、ヤオは一人納得した顔をして言う。
「なるほど、あれで大量のナマモ茸を運んで儲けを出してたんだ。納得」
「そんな事を言ってる場合じゃない! 急いで逃げるんだ!」
バルバッドの言葉にヤオは笑顔で答える。
「貴方は、町民に襲われながらも最後まで諦めず、この町、このナマモ半島の事を思って戦った。それは正しい戦いだよ。だからあちきが助けるよ」
ヤオは両手を前に向ける。
『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、空把猿』
ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび上がり、一匹の猿の魔獣が現れる。
空把猿が手を振るい、空間干渉能力を発動すると、勢いを殺されて爆走猪の動きが止まる。
「さて、それじゃあ、こんなに大騒ぎしたおじさんはどうしますか?」
ヤオの言葉に町民達、特に家を壊された人達は、怒りの視線をボルットに向けた。
「ま、待ってくれ!」
残念だが、それを止める人間は居なかった。
「ありがとうございました」
バルバッドがヤオに頭を下げる。
ヤオは、その額を軽くつつき言う。
「今回の一件は貴方が昔、悪さしていたのが原因で複雑になったんだから、反省しなよ」
バルバッドが苦笑する。
「本当です。まさに自業自得って奴ですね」
ヤオは笑顔で告げる。
「でも、悪さをしたから町を追い出されて、真実を知る事が出来た。そして、それを伝える為に、自分を追い出した町に戻る決意は、誇りに持っていいよ」
良い笑顔を見せるバルバッド。
「はい。これからは、昔の悪さした分、町の為に働くつもりです」
「がんばって」
ヤオはそういい残してナマモ半島を後にした。
『今回の報酬は、本当にそれで良かったのか?』
白牙が、ヤオの足元にあるナマモ茸の山を見て言う。
ヤオは含み笑いをしながら言う。
「ふふふ、ナマモ茸が正規に流通するまでは時間が掛かるから、今だったら高値で売れる筈だよ」
その時、弁当の車内販売が来る。
「ナマモ茸の炊き込みご飯弁当、銅貨三枚。いりませんか?」
ヤオは、冷や汗を流しながら、車内販売のお姉さんに言う。
「やけに安くないですか?」
車内販売のお姉さんは笑顔で答える。
「何でも、バルバッドって人が、航路で大量輸送する方法を見つけたみたいで、業者の間では、少し前から格安で売られ始めたんですよ」
固まるヤオ。
『茸の輸送くらいだったら、正式な港が無くても十分可能だな。あの半島の人間は価値を知らなかっただけだったからな』
こうして何故か、ヤオの金儲け計画も脆くも打ち砕かれたのであった。