白爪と百爪
今回は、百爪誕生編です
『一つ聞いて良いか?』
足元の白牙の言葉に皿洗いをしていたヤオが頷くと、白牙が前足で隣に居る青い子猫の姿をした者を指す。
『なんで蒼牙がここに居るのだ?』
ヤオは、皿洗いを続けながら答える。
「仕方ないでしょ、紅雷の息子さんに自分を探す修行を与えてるんだから」
『探査のジャミングくらい自力で出来ないのか?』
白牙の突っ込みに青い子猫姿の蒼牙が睨み返す。
『魔獣には、得手不得手がある。自分の不得手で、奴の修行を緩くするつもりが無いだけだ』
「あちきが本気で隠蔽すれば、人間には、魔術的には、見つけられない。まあ、基本能力が高い人間には、こういった地道な調査作業をやらせた方が良いね」
ヤオが偉そうに言った時、ヤオの手の中から皿が落ちる。
「こら! またやったか!」
「すいません!」
亭主の言葉に必死に頭を下げるヤオであった。
『取敢えず、時間だけは、売るだけある、少し戦うか?』
外にでた蒼牙の言葉に白牙が答える。
『構わないが、お互い主の力なしで戦って、意味があるのか?』
蒼牙が苦笑する。
『確かにな、昔ならともかく、今の私達に主なき戦いの意味は、無いな』
二匹が呑気な会話をしていると、周囲に子供が集まる。
「猫さんだ!」
「白い猫に、青い猫さんだ!」
子供達に触られても、二匹とも大人な為、相手をする。
そんな中、傭兵達が町に入ってくる。
『危険な匂いがするな?』
白牙の言葉に蒼牙が頷く。
そんな中、傭兵が武器を抜く。
「俺達は、白き爪だ! 大人しくしろ! 逆らう奴は、殺す!」
一斉に流れ込んでくる傭兵に蒼牙が呆れた顔をする。
『どうする? 八百刃様に伝えるか?』
白牙が詰まらなそうに言う。
『あの程度の人数、この町の護衛団で十分に対応が出来る』
白牙の言葉に答えるように護衛団が出て、傭兵達と交戦する。
日頃の鍛錬の差、それが、傭兵を追い詰める。
「大人しく町を出て行け!」
傭兵団のリーダーの言葉に、押されている筈の傭兵から卑しい笑みを浮かべる。
そして、傭兵団のリーダーが縦に切り裂かれる。
それは、巨大な白いライオンであった。
そのライオンが振り下ろした爪が、傭兵団のリーダーを切り裂いたのだ。
『あれは、魔獣だぞ!』
蒼牙の言葉に白牙が頷き、白いライオンの前に出る。
『貴様は、何者だ! その力を悪用するのだったら俺が相手になろう!』
巨大な白いライオンが微笑む。
『まさかこんな所で、我と同じ欠片と会うことになるとは、わが名は、白爪。お前と同じ白裂刀の欠片から生まれた魔獣だ』
少し驚いた顔をする白牙だったが、鋭い目をして言う。
『俺は、白牙。大人しく消えろ。さもなければ消すぞ』
白爪が睨み返す。
『最強と名高い白牙か。しかし、それも全ては、主の力を借りての事だな。個人の力ならば、我が上だな』
『大口を叩くな。証明して見せるか?』
白牙がその姿を巨大な虎に変化させる。
周囲が驚き、続いて蒼牙が巨大な虎の姿になる。
『白牙を越すのは、私が先だ、白牙と勝負すると言うなら、私を倒してからにしてもらおう』
『下らない、生まれて百年も経たないガキが、我等と対等のつもりか!』
白爪が腕を振り上げると、蒼牙が吹き飛ぶ。
『馬鹿な、間合いに入ってなかったぞ?』
全身に傷を負った蒼牙を庇うように白牙が前に出る。
『なるほど、面白い能力だ。しかし、それで俺に勝てるつもりか?』
白爪は余裕たっぷりの顔で答える。
『当然だ、我が爪は、全ての物を捉える!』
白爪の爪が光り、白牙の体に無数の傷が生まれる。
高笑いをあげる白爪。
『どうだ、これが、我が爪の力なり!』
白牙は、ゆっくりと前進する。
『どんな事をしても無駄だ! 我が爪からは、誰も逃れられない!』
白爪の宣言と同時に傷がどんどん増えていく白牙だったが、歩みは、止まらない。
次第に焦りだす白爪。
『馬鹿な、何故平気なのだ?』
白牙が淡々と答える。
『少しは、頭を使え。俺とお前の力は、同質。ならば、蒼牙の時と違い、力が勝っていれば、ダメージが軽減される』
白爪が怒鳴る。
『そうか、お前は、八百刃の力を使って、己の力を増幅しているな!』
白牙が溜息を吐く。
『馬鹿か、そんな必要が何処にあるのだ?』
白爪が更に爪に力を込めて、次々と攻撃するが、どれも致命傷には、遠かった。
白牙がその牙を白爪の首に食い込ませる。
『お前と俺との違いを教えてやろう。お前は、己より弱いものの相手しかしてこなかった。俺は、自分より強いものと共に、己より強いものとも戦い続けた。自分の力に溺れ、力の使い方にしか頭が回らないお前に、自分の牙を研ぎ澄ませた俺が負けるわけがなかろう』
『滅びたくない!』
それが白爪の最後の言葉であった。
砕け散った白爪を見た、傭兵達は、白牙に近寄り言う。
「新しい親分になって下さい」
白牙が一言。
『さっさと消えろ』
一睨みで退散する傭兵達。
「それで、こいつの後始末どうするつもりなの?」
いつの間にかに現れたヤオに驚く蒼牙。
『いつの間に?』
白牙が子猫の姿に戻りながら言う。
『最初からだ。争いのある場所にこいつが居ないわけ無い。それより、後始末とは、どういうことだ?』
ヤオは、白爪の死骸を指差して言う。
「同質の力で強引に砕かれただけだから、数十年単位で再生する。いっその事、取り込んだ方が良いよ」
少し思案した後、白牙が答える。
『要らない。完全に消滅させてしまえ』
それに対して、ヤオが左掌に『百』を浮かびあがらせて唱える。
『八百刃の名の下に、力を集め、新たな姿を与えん』
すると、白爪の死骸が周囲に散らばった白牙と蒼牙の血を吸収しながら、新たな姿。
白い子猫の姿を形成する。
「勿体無いから、新しい魔獣にしてみました。名前は、百爪。根源の力は、白爪をベースにしているけど、基本素体には、貴方達の血を使ったから、別の魔獣と思って」
『そうか、八百刃獣が一匹増えたようなものだな』
クールに対応する白牙だったが、百爪がその前に行き一言。
『パパ』
石化する白牙の隣に行き、蒼牙が馬鹿笑いする。
『子供が出来てよかったな』
そんな蒼牙を見て百爪が言う。
『ママ』
凍りつく蒼牙。
「あちき、バイトの続きがあるから」
退散しようとするヤオの方を二匹が一斉に向く。
『『どうなってる!』』
ヤオが駆け出しながら答える。
「百爪は、貴方達の血を分けた子供みたいな者なんだから、可愛がるのよ!」
消えていくヤオに憎悪の視線を向ける白牙。
『止めなさい』
百爪にくっつかれて戸惑う蒼牙を見て白牙が一言。
『絶対に確信犯だな。この借りは、いつか返す!』
暗い情熱を燃やす白牙であった。




