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たい育  作者: 鈴神楽
22/67

四つ子と狼の魔獣達

久しぶりの四つ子登場編です

 そこは、地獄とも思えた場所。

 人の死体が一面を多い尽くす風景。

 その中央にヤオが立っていた。

『無駄足だったな』

 足元の白牙の言葉に頷くしかないヤオ。

 そして、地面を覆いつくすような死体を見て呟く。

「この人達もどうして、呪いを使ってしまったんだろう?」

 白牙が呆れた顔をして言う。

『自分に無い力を持つ者に対する反応は、崇拝か拒絶。それが人間だ。そして、常人より強力な術を使えたこの者達は、人から拒絶され、迫害の中に絶望した。その結果、人類を恨み、伝染する呪いを発動させた』

 顔に複雑な刺青を施した一族、彼等は、強力な術を使う才能を秘めていた。

 その為、呪われた一族として、迫害を受け、まともな生活が出来なった。

 その迫害の中、一人の子供が死に、そして彼等は、決断したのだ、自分達の力を使い、本当に呪われた一族になる事を。

『皆殺しにするしか、この呪いを確実に解く方法は、無かった』

 白牙が淡々と答えるがヤオは、首を横に振る。

「もっと簡単な方法があるよ」

 白牙が首をひねる。

『そんな方法があるのか?』

 ヤオが頷く。

「謝って、友達になれば良い。そうすれば、あんな極悪な呪いなんて使い続けられないよ。誰かがそれに気付いて、止める為に戦ったら、手伝えたんだけどね」

『追い込まれた人間に冷静な判断を求める方が、間違ってるんだ』

 白牙の容赦の無い言葉に苦笑し、ヤオは、遠くを見る。

「もう時間が無い。あちきが神名者で居られるのは、一年も無いかも。それなのに、あちきは、透連鏡トウレンキョウの遺産の使い道すら思いつけて居ない」

『この世界の住人は、切り捨てろ。お前には、それだけの意味があるのだ』

 笑みを浮かべてヤオが答える。

「悪役をやらなくても良いの。どんな結果が出ても、それは、あちきの責任だよ。心配してくれて、ありがとう」

 白牙が舌打ちして黙った時、小さな音が聞こえた。

 それは、ヤオで無ければ気付けない小さな音。

「泣き声が聞こえる! まだ誰か死んでない!」

 白牙が首を横に振る。

『時間の問題だ! お前なら延命できるかもしれないが、それは、越権行為だ!』

 ヤオは、白牙の言葉に答えず、泣き声の元を探す。

 そして、死体に埋もれた衰弱しきった四つ子の赤子を見つける。

 その中の一人が、目に重傷を負い、かすれた声で泣いていた。

 他の赤子に至っては、衰弱で、声すら上げられない状態であった。

『手遅れだ。癒角馬の力で、傷を癒せても体力が保たない』

 白牙の冷静に判断を下す。

 ヤオは、拳を握り締めた時、四つ子は、最後の力で、手を僅かに動かす。

 それが、東西南北を示していたのは、間違いなく偶然だった。

 しかし、赤子を助ける方法を必死に考えていたヤオの脳裏にある考えが浮かぶ。

「この子達を代行者ダイコウシャにするよ。そうすれば、体力が保つ。その間に、癒角馬で治療する」

『馬鹿な、神名者に代行者が生み出せる訳が無い!』

 驚く白牙の言葉にヤオが首を横に振る。

「出来ないわけじゃないよ、少なくとも神に成れるほど力を溜めたあちきだったら、その力を引き換えにすれば生み出せる」

 服の胸の部分を開き、『刃』の文字を浮かび上がらせた。

『駄目だ! これ以上、お前の神に成るのを遅らせるわけには、行かない!』

 本来の姿に戻り、ヤオの前に立ちふさがる白牙。

 ヤオは、真摯な目で告げる。

「これは、運命だと思うの。四つの界連鏡カイレンキョウと同じ数の赤子。この子達は、界連鏡を使い、世界を繋ぐ事が出来る筈。あちきは、その可能性に懸けたい」

 白牙が悩むが、横にずれる。

『好きにしろ!』

 そして、ここに正しき戦いの護り手、八百刃の代行者、北刃ホクバ東刃トウバ南刃ナンバ西刃セイバが生まれたのであった。



「ママは、仕事に行ってくるからね」

 そう言ってヤオは、代行者にした四つ子達に手を振り、魔獣を動力として動く車、魔動車、八進ヤシンを出て行く。

『大人しくしていろよ』

 白牙も注意を入れて、ヤオの後をついて行く。

 そんなヤオ達に一生懸命に手を振る、ショートポニーの銀眼の少女、西刃こと、セーイ。

 隣に立っていたツインテールの碧眼の少女、東刃こと、トーウが言う。

「ママ、大丈夫かな? またドジをやって借金を増やさないといいけどー」

 八進から欠伸にしながら出て来たストレートヘアーの金眼の少女、北刃こと、ホークが笑いながら言う。

「ありえるね。お客様の銀のアクセサリーを踏んで弁償させられるなんて事もあったしね」

 トーウが睨む。

「笑い事じゃないよ!」

 それに頷く、八進の中で機械を弄っていた、髪をお団子にした黒眼の少女、南刃こと、ナーンが言う。

「そうだよね、八進にも色々修理したい所あるしね」

 トーウが拳をつきあげて言う。

「こうなったら、あちき達でお金を稼ごう!」

 それを聞いた、トーウのお守り役にヤオが天道龍から生み出した八百刃獣、小さな竜の姿をした空道竜クウドウリュウのクウが必死に首を横に振る。

 それに同意するように、セーイの肩に乗っていた白い猫の姿をした八百刃獣、百爪ビャクソウのソウが言う。

『駄目! もしもの事があったら八百刃様に申し訳が立たないからね』

「その八百刃様がお金を稼ぐ才能が無いのが致命的な原因だと解ってる?」

 ホークの突っ込みに、ソウが言葉に詰まる。

「それじゃあ、レッツゴー!」

 トーウの号令で、四つ子の小さな冒険が始まる。



「お仕事、ありませんか!」

 町を歩く、トーウ達。

 周りの大人は、まだ十二歳のトーウ達の行動を遊びの一種と判断して、暖かな目で見る。

 中には、人のよい老人が簡単な仕事をくれるが、当然、トーウ達が目的とする、八進の修理費には、程遠い金額であった。

「あまり良い仕事無いね」

 疲れて座りこむトーウにホークが言う。

「目立たないからじゃない? ここは、一発、あたしが派手な輝石魔法を使って目立てば……」

 ホークが胸に蛇の姿をした八百刃獣、輝石蛇キセキジャのキキを収めたペンダントに手をやるが、ソウがその手を引っかきテレパシーで言う。

『馬鹿な事をしない! そんな事をしたら、大事になるよ』

「だからって、引っ掻く事無いじゃん」

 傷を舐めて消毒しながら恨めしそうにソウを見るホーク。

 そんな中、一人の老人が声をかけて来た。

「お嬢ちゃん達、仕事を探してるんだって?」

 それを聞いて、強く頷き、必死に何かを訴えようとするセーイを見て慌ててトーウが言う。

「セーイは、言葉を喋れないんです。でも、仕事は、ちゃんと出来ますよ。あたし達、魔動車の修理のお金欲しいから、お金になる仕事を探しているんですけど」

 縋るような視線に、その老人が好々爺的笑顔で言う。

「ぴったりの仕事があるよ。何、私の代わりに置物を取ってくる」

 ホークが溜息を吐く。

「また、安い仕事。止めとこうよ」

 トーウが軽く睨んでから、老人の方を向く。

「がんばってやらせて頂きます。それで、お金の方は?」

 老人は、皮の小銭入れから、金貨を取り出して言う。

「前金として、金貨一枚ずつ、無事、置物を取ってこれたら、この中身の全部を渡そう」

 ナーンが目を輝かせる。

「それだけあれば、八進の修理が出来るよ!」

 はしゃぐ四つ子達を見ながら、老人が口の端を吊り上げ、呟く。

「置物を取ってこれたらね」



「暗い! 面倒、あたし外で待ってて良い?」

 ホークのクレームを無視してトーウが老人に教えられた場所に向かって、洞窟を進む。

「あれだけあれば、タイヤも取り替えられるよ」

 夢見がちなナーン。

 そんな中、セーイが前にでる。

『やっぱりな』

 諦めた顔をしてソウが呟きと同時に、巨大な狼の姿をした魔獣が、四つ子の前に立ち塞がる。

『今度は、四匹か、小さいが、そこは、我慢だな』

 セーイが心の声で呪文を唱える。

『西刃の名の下に、我が刀に化せ、百爪』

 ソウが、刀に変化し、セーイの手に握られる。

『なんだと? 何で魔獣がこんな小娘に!』

 セーイの一撃が困惑する狼の魔獣を滅ぼす。

 トーウが周囲を見回して言う。

「これは、ほっておけないね」



「それで、例のものは、順調に成長しているのか?」

 軍人風の男が、四つ子に仕事を頼んだ老人に言うと、老人が腰を低くして言う。

「はい、今も馬鹿な旅人の子供を餌にして、軍事用魔獣、戦牙狼センガロウは、順調に成長しています」

 満足そうに頷く軍人。

「戦牙狼は、あの伝説の八百刃様の使徒、闘威狼トウイロウをモデルに開発された魔獣だ。これで領土を増やす事が出来るぞ!」

「やっぱり、そんな所だろうと思った」

 いきなりに声に、驚き声の方に振り返ると、トーウ達が立っていた。

「お前達、途中で帰ってきたのか?」

 トーウの隣に立っていたホークが、一つの置物を投げ渡す。

「ちゃんと用事を済ませたんだから、お金は、払ってよね」

 トーウが老人と軍人を睨む。

「問題の洞窟に、大量の人の装飾品が転がっていたよ。ただで済むと思ってる?」

 軍人が怒鳴る。

「五月蝿い、試作品が残っているだろう! それでこいつ等を死の恐怖を味合わせてやれ!」

 老人が複数の狼型の魔獣を解き放つ。

 トーウが右手をクウに向けて呪文を唱える。

『東刃の名の下に、その力を解放せよ、空道竜』

 トーウの右手に『東刃』の文字が浮かび上がり、空道竜、クウが巨大化して空中で円を作る。

 トーウはその円の中心に手を向けたまま呪文を続ける。

『八百刃の神名の元に、代行者、東刃が求めん、空道竜が造りし道を通り、八百刃獣よ、御力を示し給え、闘威狼』

 クウが作った円より、一体の狼の魔獣が現れる。

『八百刃様がお探しになっていましたよ』

 言葉を喋るその魔獣に老人が驚く。

「その魔獣は、まるで、伝説の八百刃獣、闘威狼では、ないか?」

 狼の魔獣が老人たちを見て言う。

『まさかと思うが、東刃様達に危害を加えようとしていたわけでは、ないだろうな?』

「あんな魔獣の一匹にびびるな! いけ!」

 軍人の指示に老人が魔獣達に攻撃指示を出す。

 後から来た狼の魔獣、八百刃獣、闘威狼の爪の一振り、それだけで迫ってきていた魔獣が全滅する。

『もしそれならば、お前等は、偉大なる八百刃様の名の下に、この闘威狼が天罰を降す』

 老人が腰を抜かし、軍人が逃げていく。

「流石に、魔獣を軍用利用するのに、人を犠牲にしてるのは、見逃せないね」

 ヤオが軍人の前に立つ。

「邪魔だ、退け! 私の後ろには、数万の兵が……」

 軍人の言葉が途中で止まる。

 ヤオの後ろでは、天を覆う龍を始めとする、無数の魔獣、八百刃獣が蠢いていた。

 それを見たトーウが頬を掻いて闘威狼に言う。

「もしかして、あれ全部、あちき達を探し出す為に召喚したの?」

 頷く闘威狼であった。



 その後、その国の軍部は、裏で行っていた魔獣の軍事利用を全面廃棄した。

 老人からの報酬の大半は、ナーンに因る八進の改修費用として使われた。

 残りは、どうなったかというと……。



「それにしても、どうして毎度毎度、何で失敗するの?」

 トーウの言葉に、八進を運転するヤオが遠くを見る。

「仕事は、色々有るのよ」

 ホークが、人の良い老人達からの仕事の報酬で買ったアクセサリーをつけながら言う。

「仕事ってお金稼げてこそでしょ? お金を払うのを仕事って言うの?」

 セーイが自分達で稼いだお金で買った食材でご飯を作る。

『子供に食わせてもらって嬉しいか?』

 白牙の言葉に涙するヤオであった。

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