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たい育  作者: 鈴神楽
19/67

偽者と本物

お約束の偽者の登場です

「お腹が空いたよ」

 ヤオは、毎度の如く、空腹で倒れていた。

『何時も思うんだが、倒れる前に何とかしようと思わないのか?』

 白牙の突っ込みに、ヤオが力の入らない手を振って言う。

「ついつい卵料理をたのんじゃうの」

『完全な自業自得だな』

 切り捨てる白牙であったが、このまま飢えて動けなくなるのは、面倒と考え、周囲の気配を探る。

『人が来る。人数は、少ないが食料は、持ってるぞ』

 ヤオは、最後の力を振り絞り、人の気配の方に歩いた。



「おい、ヤオヤ、本当に八百刃の名前を騙るつもりか?」

 武骨と言う言葉が相応しい、傷がついた鎧が似合いすぎる程、似合う男に、苦労知らずそうな、ヤオヤと呼ばれた青年が頷く。

「はい、ブッコ。しかし、勘違いしてもらっては、困ります。僕が八百刃と名乗るのは、戦士が戦士と名乗るように、正しい戦いを護る者として、八百刃と名乗るだけです」

 ブッコと呼ばれた男は、呆れた顔をして言う。

「そんなローカルな話が通じるかよ。八百刃って言えば、戦神神話に騙られる神名者の事だって、誰だって思うぜ」

 苦笑するヤオヤ。

「一番有名な神名者ですからね。でも、必要な事だって理解してるでしょう?」

 ブッコが大きく溜息を吐いて言う。

「まーな、幾らなんでもあの税率は、無い。レジスタンスが出来ても当然だが、残念だが結束力が無い以上、勝てないな」

 戦場経験が豊富なブッコの言葉にヤオヤが頷く。

「だから、僕達が八百刃様の名前をお借りするのです」

 畏怖に震えるブッコ。

「お前も度胸があるな。俺は、もしなんかあったら直ぐ逃げるぞ。まさに神に等しき存在を敵にしたくないからな」

 ヤオヤが羨ましそうにブッコを見た。

「八百刃様の活躍を見たことあるんですよねー」

 ブッコが頷く。

「直接、八百刃様が降臨された訳では、無いが、その使徒、八百刃獣がその力を振るい、暴虐を行った王国軍を一掃するところを見た」

 思い出して、震えるブッコを見てヤオヤが気楽な口調で言う。

「安心して下さい。八百刃様は、正しき戦いの護り手。間違った戦いをしない限り、天罰を降しません」

 ブッコが呆れた顔をする。

「自分の名前を騙られて、気にしない人間は、居ないと思うがな」

 ヤオヤは、笑顔で返す。

「八百刃様は、人間では、ありませんから」

 反論が通じない事に諦めて、ブッコがあるいていると、一人の少女を見つける。

「すいません、食べ物を少し分けて下さい。お金は、ありませんが、働いて返します」

 今にも倒れそうなその少女を見て、ヤオヤは慌てて駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

 そんなヤオヤを見て、ブッコが再び溜息を吐く。

「また厄介ごとを抱え込みやがって。どうして俺は、こんな奴をパートナーにしたんだろうな?」



「ありがとうございます」

 食事をして落ち着いた所で、少女、ヤオが頭を下げる。

「気にしないで下さい。これも八百刃としての役目の一つだと考えます」

 ヤオヤの言葉に、白牙がテレパシーで突っ込む。

『ヤオ、お前の役目に何時から遭難者救助が増えたんだ?』

 ヤオは、無言で白牙を踏み潰してから言う。

「貴方様は、八百刃様なのですか?」

 ヤオヤは、自信たっぷり答える。

「僕は、八百刃です」

『また、偽者か? 戦神神話が広がってから一段と増えたな』

 白牙の呟きを無視してヤオが言う。

「あの八百刃なのですね?」

 ヤオヤが再び頷く。

「はい、あの八百刃です」

 ヤオが頷く、質問を続ける。

「だとしたら、戦いに行くのですね?」

 ブッコが頷き答える。

「ああ、だから食料はくれてやるから、とっとと逃げろ」

 ヤオは平然と答える。

「ただで食料を貰い訳に行きませんから、ついて行きます。これでも家事全般は、得意です」

 ブッコが必死に反対をしたが、ヤオヤは、あっさりと答える。

「男所帯で、華が無かったので丁度良かったです。よろしくお願いします」

 そうして、ヤオは、ヤオヤ達に同行した。



 ヤオヤは、町に着くと直ぐに近くの祠に篭り、ブッコが八百刃到来を告げて回る。

 天の助けと、町民がすがる。

「どうか我々をお救い下さい」

 必死に頭を下げる町民達にヤオヤは、告げる。

「それは、出来ません。八百刃様が出来るのは、正しい戦いの護る事のみ。貴方達が戦わない限り、動けません」

 絶望する町民にヤオヤが告げる。

「しかし、その意思があるなら、この八百刃が知恵をお貸ししましょう」

 再度、喜ぶ町民。



 ヤオヤの様々な指示を行った。

 町民達に食料、財産を隠させて、同時に戦闘能力が無い、女子供を避難させる施設を作らせた。

 炊き出しの手伝いをしながら、ヤオが言う。

「白牙、あの人が、八百刃と八百刃様を使い分けてるのに気付いた?」

 足元に居た白牙が頷く。

『ああ、自分の事を指す時は、八百刃。お前の事を言う時は、八百刃様。周りの人間は、気付いてないが、正しく使い分けているな』

「そうなると、やっぱりそうだね」

 一人納得するヤオだったが、背中から他の人に押されて、巨大鍋の中に落ちる。



「国王軍が攻めて来ました!」

 偵察の報告に、ヤオヤは、頷き祠を出、国王軍の前に堂々と立ちふさがる。

「我は、八百刃。正しき戦いを護る者。この戦い、この町の人間に正がある。大人しく、自分の間違いを認め、町民の要求を受け入れなさい」

 その言葉に、兵士達が怯むが、将軍は、平然と言う。

「冗談も休み休み言え! そんな物語の登場人物を出してきて、我々が怯むと思ったか! 行け!」

 将軍の一声で侵攻が開始される。

 抵抗など出来なかった。

 熟練された兵士の前に、普段は、商売をしている町民が勝てるわけもなく、次々に敗退していく。

 しかし、町民側に、死者は、いなかった。

 けが人も周りの人間が連れて、早めに後退していた。

 そして、町の大半が国王軍に制圧された時、火が放たれた。

 町の中心部まで攻め込んでいた国王軍は、必死の思いで、火から逃れる。

 そして、火の海から出た所を町民達に倒されていった。



「作戦通りだな」

 ブッコの言葉に、ヤオヤが言う。

「町民の決断があったからです。幾ら財産や食料を護られたからと言って、自分の町に火をつける事には、強い抵抗があったでしょう」

 ヤオは拍手をしながらヤオヤの隣に現れる。

「お見事。町民側から考えた作戦としては、満点だよ」

 ブッコがヤオの頭を小突き言う。

「何、偉そうに言ってるんだ?」

 ヤオヤが真剣な顔をして言う。

「今、町民側から考えた作戦としては、と言いましたか?」

 ヤオが頷くとブッコが呆れた顔で言う。

「敵の立場なんて考えてられるかよ」

 ヤオヤの顔が引き攣る。

「まさか、あれが全軍では、ないのですか?」

 ヤオは、遠くを指差す。

「残念だけど、あそこの将軍って人気が無いみたい。一部の兵士が命令違反して侵攻に参加してなかった。無傷な兵士相手を、町民に任せるのは、難しいね」

 ヤオヤが慌てて、前線に出る。

 そこは、人数比こそ勝っているが、熟練された技術の前に、町民達が虐殺されていた。

 ブッコが慌てて前線に出て、戦線を維持するが、戦いの勢いを押し戻すには、不十分だった。

 ヤオヤは、必死に頭をめぐらせ、一つの手を思いつく。

「お前達の仲間をやった計略を考えた八百刃は、ここに居るぞ!」

 ヤオヤは、猛威を振るう兵士達の前に出る。

「おい、お前が出ても何にもならないぞ!」

 ヤオヤが小声で謝罪する。

「すまない、その命、貸してくれ」

 ブッコが舌打ちし、ヤオヤを護るように立つ。

「八百刃の首が欲しければついて来い」

 そう言って、ヤオヤは、ブッコと共に火の舞う中に入っていく。

 これが、まともに動いていた兵士達だったら、深追いをする事は、無かった。

 元々、町民を懲罰するのが今回の任務なのだから。

 しかし、いま戦っている兵士達は、将軍に逆らう反発心が強く、今戦っているのも、仲間をやられた復讐だった。

 その一番のターゲットを見つけ、兵士達は、ヤオヤを追いかけていった。



 町民に感謝されながら、町を出て行くヤオヤとブッコ、そしてヤオ。

 町が見えなくなった所で、ブッコが体にあちこちにある火傷を見ながら言う。

「幸運だった、あんな火の海に入ってこの程度で済んだんだからな」

 ヤオヤが苦笑する。

「まさか、八百刃様の御加護ですよ」

 ブッコも苦笑する。

「そうか、八百刃様の御加護か」

 ヤオヤがヤオの方を向いて言う。

「そうですよね? 正しき戦いの護り手、八百刃様」

 ブッコが固まる。

「ヤイネから、あちきの事を聞いていたんだね」

 ヤオの言葉にヤオヤが頷く。

「ヤイネは、僕の祖母です。腕の傷を見る度に、自分の信仰心の浅さを懺悔していました」

 ヤオは、両手を天に向ける。

『八百刃の神名の元に、我が使徒を召喚せん、炎翼鳥』

 ヤオの右掌に『八』、左掌に『百』が浮かび上がり、炎翼鳥が呼び出される。

「炎翼鳥の力で、炎を操って助けたの。ちなみにヤオヤに火傷がないのは、最後まで戦い続けようとしたからで、ブッコの火傷は、途中に逃げ出そうとした時に出来た物だよ」

 ブッコは、炎翼鳥に圧倒されながら、改めて火傷が無いヤオヤを見て言う。

「何時気付いたんだ?」

 ヤオヤが白牙を見て言う。

「これでも祖母から魔術を習いましたから、心での会話している事くらいは、察知出来たのですよ」

『なるほどな、最初から気づいていたのだな。それで、八百刃を名乗るのだから良い度胸だ』

 白牙がブッコにも解るようにテレパシーを放つと、ブッコが全身から冷や汗を垂らし、逃げようとする。

 その先に炎翼鳥の炎が吹き付けられる。

 ブッコが恨めしげにヤオヤを見るが、ヤオヤが少し緊張した顔で言う。

「八百刃様、僕の行動は、八百刃を名乗るのに相応しいものでしたか?」

 ヤオが頷く。

「問題ないよ。これからも頑張りなさい」

 そしてヤオは、炎翼鳥に乗って去っていく。

 緊張の糸が切れてしゃがみこむブッコ。

「お前の心臓は、何で出来てるんだよ?」

 ヤオヤもしゃがみこみ言う。

「取り替えますよ。多分、寿命の八割方を使い切ってますから」

「絶対嫌だ」

 ブッコが倒れながら断言する。



「お腹が空いた」

 炎翼鳥の上で倒れるヤオ。

『戦いの監視を優先して、食料の買出しを忘れたお前ミスだ。諦めろ』

「戻って、あの人達に食料分けてもらったらどうだろう?」

 ヤオが情けない顔して言うと、炎翼鳥が疲れたように言う。

『その時は、降りて下さい。さすがに戻っていけるほど、神経は、太くありません』

「駄目?」

 ヤオの言葉に白牙が睨み答える。

『却下だ。人目の無い所で降りろ、狩りくらいしてきてやる』

「ありがとう」

 感謝するヤオに深い溜息を吐く白牙と、同情の視線を送る炎翼鳥であった。

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