金海波と蛍桃瞳
白海鯨の誕生秘話、金海波と蛍桃瞳の絡みです
「もう少し、仲良く出来ない?」
ヤオの言葉に、海とギャンブルの女神候補、金海波と純愛の女神候補、蛍桃瞳が同時に応える。
「「なんでこんな腐れ神名者と!」」
肩を竦めるヤオ。
『最初から、この組み合わせに無理があったんだ』
白牙が深い溜息を吐く。
三日前、ガーリナ大陸を金海波と一緒に旅をしているヤオ。
「とにかく、今度、寝室に忍び込んだら、宿も別にしてもらうよ!」
お金を払ってもらっているのに、偉そうなヤオを思いっきり抱きしめる、金髪の美女、金海波が言う。
「そんなつれない事を言わないでー」
容赦ないヤオの拳が顎に決まり、ふっとぶ金海波。
「相変わらず、非生産的な事をしているわね」
ヤオがあえてその声から視線を外す。
「もう少し、若ければあたしの守備範囲なんだけどな」
残念そうに言う金海波の視線の先には、ピンクの髪をした女性、蛍桃瞳が居た。
「貴女の守備範囲なんて、変態の極地じゃない」
怒鳴る蛍桃瞳に金海波が余裕の笑みで応える。
「片思いしか出来ない貴女には、解らない事よね」
二人の視線の間で火花が散る。
ヤオが諦めた顔をして、二人の間に入る。
「喧嘩は、止め。ところで蛍桃瞳がどうして、あちき達の前に来たの? 近くに居るのは、解って居たけど、態々そっちから近付いて来た様に見えたけど」
蛍桃瞳が気を取り直して言う。
「近くに強力な魔獣が生まれそうなのよ。無秩序にその力を解放したら、大変な事になるから、その制御に力を貸しなさい」
「それが協力を求める態度?」
金海波の返しに蛍桃瞳は、不遜な態度を変えず答える。
「これは、神名者の義務よ。協力するも、しないもないわ」
再び激しい火花が散るが、ヤオが手を叩き言う。
「はいはい、お互いやめる。魔獣への対処は、神名者の義務。やらない訳には、いかないんだから」
蛍桃瞳が勝ち誇った顔をするが、ヤオが、そっぽを向いて呟く。
「他の神名者に協力を求めないといけないなんて、自分の実力不足を意味してるけどね」
パンチがある意外な言葉に蛍桃瞳が引く。
「とにかく、問題の魔獣の元に向かうよ」
ヤオの言葉に、行動を開始する、三名であった。
「この海の周囲に、魔獣の気配が大量に残留しているのよ」
海岸で宣言する蛍桃瞳に言葉に、周囲の気配を探っていたヤオが大きく溜息を吐く。
「神の欠片、それも複数の欠片がある。最悪な展開だね」
頷く金海波。
「これって、前の前の神々の対戦で、旧神に負けて、世界を支える力に変換された神々の欠片。力が高いのに、方向性が明確になってないから混じりあったのね」
「解ったでしょ、こんな大量の力、神名者一人で、どうにか出来る訳がないわ」
渋々頷く金海波。
「ここまで大きな力だと、分散して、改めて、別個の魔獣になる様にした方が良いね」
ヤオの意見に他の二人も同意したので、力を散らそうとした時、一人の可愛い幼女が目の前を通り過ぎる。
「もろに好み!」
金海波がそっちに注目する。
「馬鹿な事を言ってないで、散らすよ!」
ヤオの言葉に渋々作業を再開した時、海から白いイルカが現れ、苦しみだす。
『力が分散される!』
その声を聞き、蛍桃瞳が呟く。
「危なかったわね、完全じゃないけど、形を持ち始めていたみたいよ」
その時、先程の幼女が大声をあげる。
「シロちゃん! しっかりして!」
しかし、白いイルカには、少女の言葉が届かない。
それどころか、少女に向かって暴れ始める。
「金隣人!」
金海波の言葉に、その使徒、金の鱗を持つ魚人、金隣人が動き、幼女を助け、ヤオ達の所に連れ戻す。
「大丈夫?」
金海波の言葉に、幼女が懇願する。
「シロちゃんを助けて!」
ヤオが問い返す。
「シロちゃんって、あの白いイルカの事?」
頷く幼女。
「あたしの友達なの。なのに、いきなり苦しみだしたの。シロちゃんを助けてくれたら何でもするよ!」
「任せて!」
即答し、力の拡散を妨害する金海波。
「何してるのよ、ロリコン!」
蛍桃瞳がクレームをあげるが、金海波は、気にしない。
「幼女を自由に出来る。あんな事や、こんな事を……」
妄想に入っている金海波の腹に、拳を入れて意識を失わせるヤオ。
「ごめんなさい。あの子を助けるとなると、凄い被害がでるの」
美形の青年が現れた。
「それは、どういう事ですか?」
回答しようとしたヤオを押し倒し、蛍桃瞳が青年の前に出る。
「それは、ですね。あれは、魔獣のなりかけで、あのまま成長すると、周囲に被害を与える可能性があるのです」
それを聞くと青年は、困った顔をして言う。
「しかし、あのイルカは、この海岸の名物。観光客が来るほどなのに、それが居なくなったら……」
青年に連れて来られたみたいな観光客が、ざわめきながらも、白いイルカを見て居る。
すると、蛍桃瞳が胸を叩きいう。
「任せて下さい。あの白いイルカは、あたしがそのままでも、大丈夫にします」
「本当ですか?」
嬉しそうに言う青年に、熱い視線を送る蛍桃瞳。
「はい。おまかせ下さい」
「結局、拡散させるのは、駄目になったけど、どうするの?」
ヤオの質問は、幼女との約束に妄想を繰返す金海波と、青年との恋愛を夢見る蛍桃瞳の耳には、入らない。
大きく溜息を吐いた後、ヤオが二人の使徒を呼ぶ。
「二名程、役立たずになってるけど、話し合いを始めましょ」
最初に、元人間の殺し屋で、蛍桃瞳の使徒の男、好繋矢が手をあげる。
「あの白いイルカだけ残して、他の力だけ分散させると言うわけには、行かないのですか?」
「難しいな、さっき接近した時の感じでは、強いリンクがある。散らすとしたら、あのイルカごとで無いと駄目だろう」
金隣人が回答する。
『俺の力を使えば、切り離すのも不可能では、ないぞ』
白牙の言葉にヤオが首を横に振る。
「そうすると、切り離された白いイルカが自然消滅するよ。元々、魔獣化プロセスの途中で発生した形態だからね」
好繋矢がすまなそうに言う。
「不勉強なのですが、そこがよく解らないのです。魔獣化プロセスというのは、どういうものなのですか?」
「確かに不勉強だな。そのくらいは、使徒として常識だろう」
金隣人の叱責にヤオがフォローを入れる。
「仕方ないよ、どうせ、蛍桃瞳が本来やるべき、使徒教育をやってないんだから」
金隣人が夢の世界の住人の蛍桃瞳を見て頷く。
「そうかもしれませんね」
『因みに俺は、他の神名者がしてくれたがな』
白牙がヤオを見るが、ヤオは、平然と言う。
「使徒教育って義務ないし、あちきは、別に使徒に使徒らしい事を求めたりしないしね」
金隣人が溜息を吐く。
「神名者と言うのは、問題ある性格でないとなれないのか?」
そんな呟きを無視して、ヤオが説明を開始する。
「神や神名者の永続性がある肉体が分解されて、再度形を作ろうとした時に、動物の胎児をコアにするの。その為、大半がこの世界に存在する生き物の形態を基本になっているの。そうやって、母体から特殊能力を持って生まれたのが、魔獣なの」
好繋矢が頷くと金隣人が続ける。
「問題のイルカは、実は、母体を持っていない。あまりにも高い力の為に、近くに居た生物の形態を模造してしまったのが、今回の魔獣モドキだ」
「本来なら、母体を持てるくらいに分散してやるのが簡単なんだけど……」
ヤオが別世界に居る金海波と蛍桃瞳を見る。
『あいつらを無視して、一人でやれないのか?』
白牙の言葉にヤオが首を横に振る。
「力が大きすぎて無理。こうなると、あの白いイルカをベースに力を収束した方が早いかも」
「力が大きすぎますか、上手く行きますか?」
金隣人が質問に、ヤオが真面目な顔で答える。
「収束率しだいかな。外見なんてそれこそ、後でどうにでも出来るから、馬鹿でかい形にするのがベストかも」
「その線で行きましょう」
「早くやって、あの姿に戻さないと」
金海波と蛍桃瞳がいきなり割り込み、そのまま行動を開始する。
『金海波の名の下に、流れに形を』
金海波がその力で、混在した力をコントロールし、清流に変化させる。
『八百刃の名の下に、力を断ち切れ』
ヤオが、無節操に繋がる力を断ち切り、コントロール可能にする。
『蛍桃瞳の名の下に、力を収束しろ』
蛍桃瞳の収束能力が、整理された力を正しく白いイルカに収束していく。
そして、白いイルカがどんどん大きくなっていった。
「上手くいきそうですね」
周囲を警戒していた好繋矢の言葉に、金隣人も頷いた。
そしてもう直ぐ、収束も終ろうとした時、昼間の青年が来た。
「凄い、白いイルカが大きくなってる」
驚いた顔をする青年に、隣の女性が返事をする。
「そうよね、あなた」
その一言に、蛍桃瞳が振り返る。
「どういうこと!」
力の収束が切れ、暴走が始まる。
「馬鹿な事してないで、力の収束を再開して!」
ヤオが叫ぶが、蛍桃瞳は、青年に近付く。
「この女と、どんな関係なの!」
青年は、戸惑いながらも答える。
「妻ですが、問題でも……」
「大問題! なんてことなの、折角いい男と思ったのに! もう、いっそ不倫でも。肉体関係さえ結んでしまえば、後は、子供でも作って」
その時、昼間の幼女が来る。
「お父さん、シロは、大丈夫?」
その瞬間、蛍桃瞳の力が完全にゼロになった。
「蛍桃瞳の馬鹿!」
ヤオの叫びに答えるように、海面が荒れ、暴走が本格化する。
『苦しい、力が……力が制御出来ない!』
白いイルカが悲鳴をあげる。
すると幼女が涙目になる。
「シロ、がんばって!」
その言葉に、金海波が力を高める。
「予定変更よ。あたしの力で、この力を海に偏在させる。その力を貴女の力で、一つの形にして」
金海波が力を籠めて呪文を唱える。
『金海波の名の下に、力よ海と共に』
暴走する力が、無限とも思える容量の海に吸い込まれていく。
ヤオが右掌の『八』と左掌の『百』の輝きを強める。
『八百刃の名の下に、全ての力に繋がりを』
海面が激しく輝き、それが現れる。
白いイルカは、巨大な白い鯨、白海鯨となっていた。
力の使いすぎで、倒れるヤオ。
ヤオと同じくらい力を使った筈なのに元気な金海波が、幼女に近づく。
「約束覚えてる?」
笑顔の金海波を睨む幼女。
「あんなの、あたしのシロじゃない! シロを返して!」
金海波が慌てて白海鯨を小さくしようとするが、上手く行かない。
「どうしてよ!」
砂浜に倒れたままのヤオが答える。
「無理だって、こいつの本当の姿は、海に偏在する力の粒子。あの姿だって最大限に縮小化した姿だよ」
大泣きする幼女に戸惑う金海波を説得する金隣人に、白けて脱力している蛍桃瞳を必死に励ます好繋矢を見て、ヤオの傍に来た白牙が言う。
『やはり、問題がある性格でないと神名者には、なれないのだな』
反論したいが、疲れていたのでヤオはそのまま眠ってしまうのであった。
そして最初に戻る。
「全て、あんたがいけないのよ!」
金海波がクレームをつけると、蛍桃瞳が言い返す。
「あんな子供と、約束しようとするあんたが悪いのよ。これは、元々神名者としての義務なんだから」
「人の事をいえた義理!」
金海波の反論に蛍桃瞳が澄まし顔で答える。
「あたしは、別に交換条件をだした訳では、ありません。ただ、白いイルカを残すと約束しただけです」
金海波が睨む。
「そうやって恩を売って、付き合おうとしてたんでしょうが!」
そんな口喧嘩を続ける二名を見ながら、白牙が言う。
『ほっておいて、一人で旅に出たらどうだ?』
金海波のお金で頼んだ食事を取りながら、ヤオが溜息を吐く。
「もう少しお金ないと、宿も取れないから我慢だよ」
白牙が溜息を吐いた。
二名の喧嘩は、新しい獲物を見つけるまで続いた。




