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たい育  作者: 鈴神楽
18/67

金海波と蛍桃瞳

白海鯨の誕生秘話、金海波と蛍桃瞳の絡みです

「もう少し、仲良く出来ない?」

 ヤオの言葉に、海とギャンブルの女神候補、金海波と純愛の女神候補、蛍桃瞳が同時に応える。

「「なんでこんな腐れ神名者と!」」

 肩を竦めるヤオ。

『最初から、この組み合わせに無理があったんだ』

 白牙が深い溜息を吐く。



 三日前、ガーリナ大陸を金海波と一緒に旅をしているヤオ。

「とにかく、今度、寝室に忍び込んだら、宿も別にしてもらうよ!」

 お金を払ってもらっているのに、偉そうなヤオを思いっきり抱きしめる、金髪の美女、金海波が言う。

「そんなつれない事を言わないでー」

 容赦ないヤオの拳が顎に決まり、ふっとぶ金海波。

「相変わらず、非生産的な事をしているわね」

 ヤオがあえてその声から視線を外す。

「もう少し、若ければあたしの守備範囲なんだけどな」

 残念そうに言う金海波の視線の先には、ピンクの髪をした女性、蛍桃瞳が居た。

「貴女の守備範囲なんて、変態の極地じゃない」

 怒鳴る蛍桃瞳に金海波が余裕の笑みで応える。

「片思いしか出来ない貴女には、解らない事よね」

 二人の視線の間で火花が散る。

 ヤオが諦めた顔をして、二人の間に入る。

「喧嘩は、止め。ところで蛍桃瞳がどうして、あちき達の前に来たの? 近くに居るのは、解って居たけど、態々そっちから近付いて来た様に見えたけど」

 蛍桃瞳が気を取り直して言う。

「近くに強力な魔獣が生まれそうなのよ。無秩序にその力を解放したら、大変な事になるから、その制御に力を貸しなさい」

「それが協力を求める態度?」

 金海波の返しに蛍桃瞳は、不遜な態度を変えず答える。

「これは、神名者の義務よ。協力するも、しないもないわ」

 再び激しい火花が散るが、ヤオが手を叩き言う。

「はいはい、お互いやめる。魔獣への対処は、神名者の義務。やらない訳には、いかないんだから」

 蛍桃瞳が勝ち誇った顔をするが、ヤオが、そっぽを向いて呟く。

「他の神名者に協力を求めないといけないなんて、自分の実力不足を意味してるけどね」

 パンチがある意外な言葉に蛍桃瞳が引く。

「とにかく、問題の魔獣の元に向かうよ」

 ヤオの言葉に、行動を開始する、三名であった。



「この海の周囲に、魔獣の気配が大量に残留しているのよ」

 海岸で宣言する蛍桃瞳に言葉に、周囲の気配を探っていたヤオが大きく溜息を吐く。

「神の欠片、それも複数の欠片がある。最悪な展開だね」

 頷く金海波。

「これって、前の前の神々の対戦で、旧神に負けて、世界を支える力に変換された神々の欠片。力が高いのに、方向性が明確になってないから混じりあったのね」

「解ったでしょ、こんな大量の力、神名者一人で、どうにか出来る訳がないわ」

 渋々頷く金海波。

「ここまで大きな力だと、分散して、改めて、別個の魔獣になる様にした方が良いね」

 ヤオの意見に他の二人も同意したので、力を散らそうとした時、一人の可愛い幼女が目の前を通り過ぎる。

「もろに好み!」

 金海波がそっちに注目する。

「馬鹿な事を言ってないで、散らすよ!」

 ヤオの言葉に渋々作業を再開した時、海から白いイルカが現れ、苦しみだす。

『力が分散される!』

 その声を聞き、蛍桃瞳が呟く。

「危なかったわね、完全じゃないけど、形を持ち始めていたみたいよ」

 その時、先程の幼女が大声をあげる。

「シロちゃん! しっかりして!」

 しかし、白いイルカには、少女の言葉が届かない。

 それどころか、少女に向かって暴れ始める。

「金隣人!」

 金海波の言葉に、その使徒、金の鱗を持つ魚人、金隣人が動き、幼女を助け、ヤオ達の所に連れ戻す。

「大丈夫?」

 金海波の言葉に、幼女が懇願する。

「シロちゃんを助けて!」

 ヤオが問い返す。

「シロちゃんって、あの白いイルカの事?」

 頷く幼女。

「あたしの友達なの。なのに、いきなり苦しみだしたの。シロちゃんを助けてくれたら何でもするよ!」

「任せて!」

 即答し、力の拡散を妨害する金海波。

「何してるのよ、ロリコン!」

 蛍桃瞳がクレームをあげるが、金海波は、気にしない。

「幼女を自由に出来る。あんな事や、こんな事を……」

 妄想に入っている金海波の腹に、拳を入れて意識を失わせるヤオ。

「ごめんなさい。あの子を助けるとなると、凄い被害がでるの」

 美形の青年が現れた。

「それは、どういう事ですか?」

 回答しようとしたヤオを押し倒し、蛍桃瞳が青年の前に出る。

「それは、ですね。あれは、魔獣のなりかけで、あのまま成長すると、周囲に被害を与える可能性があるのです」

 それを聞くと青年は、困った顔をして言う。

「しかし、あのイルカは、この海岸の名物。観光客が来るほどなのに、それが居なくなったら……」

 青年に連れて来られたみたいな観光客が、ざわめきながらも、白いイルカを見て居る。

 すると、蛍桃瞳が胸を叩きいう。

「任せて下さい。あの白いイルカは、あたしがそのままでも、大丈夫にします」

「本当ですか?」

 嬉しそうに言う青年に、熱い視線を送る蛍桃瞳。

「はい。おまかせ下さい」



「結局、拡散させるのは、駄目になったけど、どうするの?」

 ヤオの質問は、幼女との約束に妄想を繰返す金海波と、青年との恋愛を夢見る蛍桃瞳の耳には、入らない。

 大きく溜息を吐いた後、ヤオが二人の使徒を呼ぶ。

「二名程、役立たずになってるけど、話し合いを始めましょ」

 最初に、元人間の殺し屋で、蛍桃瞳の使徒の男、好繋矢コウケイヤが手をあげる。

「あの白いイルカだけ残して、他の力だけ分散させると言うわけには、行かないのですか?」

「難しいな、さっき接近した時の感じでは、強いリンクがある。散らすとしたら、あのイルカごとで無いと駄目だろう」

 金隣人が回答する。

『俺の力を使えば、切り離すのも不可能では、ないぞ』

 白牙の言葉にヤオが首を横に振る。

「そうすると、切り離された白いイルカが自然消滅するよ。元々、魔獣化プロセスの途中で発生した形態だからね」

 好繋矢がすまなそうに言う。

「不勉強なのですが、そこがよく解らないのです。魔獣化プロセスというのは、どういうものなのですか?」

「確かに不勉強だな。そのくらいは、使徒として常識だろう」

 金隣人の叱責にヤオがフォローを入れる。

「仕方ないよ、どうせ、蛍桃瞳が本来やるべき、使徒教育をやってないんだから」

 金隣人が夢の世界の住人の蛍桃瞳を見て頷く。

「そうかもしれませんね」

『因みに俺は、他の神名者がしてくれたがな』

 白牙がヤオを見るが、ヤオは、平然と言う。

「使徒教育って義務ないし、あちきは、別に使徒に使徒らしい事を求めたりしないしね」

 金隣人が溜息を吐く。

「神名者と言うのは、問題ある性格でないとなれないのか?」

 そんな呟きを無視して、ヤオが説明を開始する。

「神や神名者の永続性がある肉体が分解されて、再度形を作ろうとした時に、動物の胎児をコアにするの。その為、大半がこの世界に存在する生き物の形態を基本になっているの。そうやって、母体から特殊能力を持って生まれたのが、魔獣なの」

 好繋矢が頷くと金隣人が続ける。

「問題のイルカは、実は、母体を持っていない。あまりにも高い力の為に、近くに居た生物の形態を模造してしまったのが、今回の魔獣モドキだ」

「本来なら、母体を持てるくらいに分散してやるのが簡単なんだけど……」

 ヤオが別世界に居る金海波と蛍桃瞳を見る。

『あいつらを無視して、一人でやれないのか?』

 白牙の言葉にヤオが首を横に振る。

「力が大きすぎて無理。こうなると、あの白いイルカをベースに力を収束した方が早いかも」

「力が大きすぎますか、上手く行きますか?」

 金隣人が質問に、ヤオが真面目な顔で答える。

「収束率しだいかな。外見なんてそれこそ、後でどうにでも出来るから、馬鹿でかい形にするのがベストかも」

「その線で行きましょう」

「早くやって、あの姿に戻さないと」

 金海波と蛍桃瞳がいきなり割り込み、そのまま行動を開始する。



『金海波の名の下に、流れに形を』

 金海波がその力で、混在した力をコントロールし、清流に変化させる。

『八百刃の名の下に、力を断ち切れ』

 ヤオが、無節操に繋がる力を断ち切り、コントロール可能にする。

『蛍桃瞳の名の下に、力を収束しろ』

 蛍桃瞳の収束能力が、整理された力を正しく白いイルカに収束していく。

 そして、白いイルカがどんどん大きくなっていった。

「上手くいきそうですね」

 周囲を警戒していた好繋矢の言葉に、金隣人も頷いた。

 そしてもう直ぐ、収束も終ろうとした時、昼間の青年が来た。

「凄い、白いイルカが大きくなってる」

 驚いた顔をする青年に、隣の女性が返事をする。

「そうよね、あなた」

 その一言に、蛍桃瞳が振り返る。

「どういうこと!」

 力の収束が切れ、暴走が始まる。

「馬鹿な事してないで、力の収束を再開して!」

 ヤオが叫ぶが、蛍桃瞳は、青年に近付く。

「この女と、どんな関係なの!」

 青年は、戸惑いながらも答える。

「妻ですが、問題でも……」

「大問題! なんてことなの、折角いい男と思ったのに! もう、いっそ不倫でも。肉体関係さえ結んでしまえば、後は、子供でも作って」

 その時、昼間の幼女が来る。

「お父さん、シロは、大丈夫?」

 その瞬間、蛍桃瞳の力が完全にゼロになった。

「蛍桃瞳の馬鹿!」

 ヤオの叫びに答えるように、海面が荒れ、暴走が本格化する。

『苦しい、力が……力が制御出来ない!』

 白いイルカが悲鳴をあげる。

 すると幼女が涙目になる。

「シロ、がんばって!」

 その言葉に、金海波が力を高める。

「予定変更よ。あたしの力で、この力を海に偏在させる。その力を貴女の力で、一つの形にして」

 金海波が力を籠めて呪文を唱える。

『金海波の名の下に、力よ海と共に』

 暴走する力が、無限とも思える容量の海に吸い込まれていく。

 ヤオが右掌の『八』と左掌の『百』の輝きを強める。

『八百刃の名の下に、全ての力に繋がりを』

 海面が激しく輝き、それが現れる。

 白いイルカは、巨大な白い鯨、白海鯨ハクカイゲイとなっていた。

 力の使いすぎで、倒れるヤオ。

 ヤオと同じくらい力を使った筈なのに元気な金海波が、幼女に近づく。

「約束覚えてる?」

 笑顔の金海波を睨む幼女。

「あんなの、あたしのシロじゃない! シロを返して!」

 金海波が慌てて白海鯨を小さくしようとするが、上手く行かない。

「どうしてよ!」

 砂浜に倒れたままのヤオが答える。

「無理だって、こいつの本当の姿は、海に偏在する力の粒子。あの姿だって最大限に縮小化した姿だよ」

 大泣きする幼女に戸惑う金海波を説得する金隣人に、白けて脱力している蛍桃瞳を必死に励ます好繋矢を見て、ヤオの傍に来た白牙が言う。

『やはり、問題がある性格でないと神名者には、なれないのだな』

 反論したいが、疲れていたのでヤオはそのまま眠ってしまうのであった。



 そして最初に戻る。




「全て、あんたがいけないのよ!」

 金海波がクレームをつけると、蛍桃瞳が言い返す。

「あんな子供と、約束しようとするあんたが悪いのよ。これは、元々神名者としての義務なんだから」

「人の事をいえた義理!」

 金海波の反論に蛍桃瞳が澄まし顔で答える。

「あたしは、別に交換条件をだした訳では、ありません。ただ、白いイルカを残すと約束しただけです」

 金海波が睨む。

「そうやって恩を売って、付き合おうとしてたんでしょうが!」

 そんな口喧嘩を続ける二名を見ながら、白牙が言う。

『ほっておいて、一人で旅に出たらどうだ?』

 金海波のお金で頼んだ食事を取りながら、ヤオが溜息を吐く。

「もう少しお金ないと、宿も取れないから我慢だよ」

 白牙が溜息を吐いた。

 二名の喧嘩は、新しい獲物を見つけるまで続いた。

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